「これで、最後だっ!!」

バキッ!!

「ぐぁっ……!!」

優太の胴回し蹴り……この一撃を以って、自称勇者ご一行は完全に沈黙した。
50対6の戦闘ではあったものの、優太たちの敵にはなり得なかったようだ。

「っと……それじゃ、行くか」
『お〜!』
「頑張ってくださいね」

アターシャは見送りつつも、不安げな顔をしていた。

(胸騒ぎがする……なにか、とんでもないことが起こる……そんな予感が……)

そして、6人が入っていった後……

「ごめんなさい……試練の細かな内容や、洞窟内のことは、言えない決まりなんです」

顔を伏せ、アターシャは自分の城に戻っていった……。



SUNNY-MOON

第13話 Challenge



 「中、暗いですね……」

真っ暗……その言葉がぴったりなほど。
中は何も見えなかった。

「えっと、これを使うんだったか?」

夜光石を取り出し……かざす。

「? なんで掲げてるんですの?」
「いや、勇者がアイテムを使うっていったら、こうかな、と」

……見てて間抜けな気がするのは気のせいだろうか。
しかし、優太の使い方は間違っていなかったようだ。

カッ!!

夜光石が光を放つ。
その光はあっという間にフロア中を照らした。
その全貌が明らかになる。

「凄いわね……って、きゃあっ!?」

水羽が驚くのも無理はない。
そこにいたのは数十体の、牛程度の大きさの巨大な蜘蛛。
女の子でなくとも驚くに値する。

「なるほど……各階にモンスターがいる、と言うことですか」
「わ、私、ちょっと、触りたくないんだけど……」

直接打撃がメインの攻撃方法である水羽にとって、この外見はある意味反則だ。
巨大な虫を殴りつけるのは、正直誰もやりたくない。

「なら、能力を使うしかないでしょうね……っ!?」

ザシュッ!!

蜘蛛を斬りつけたのはルミナス。
しかし、いつもと感覚が違う。

「……まさか……」
「わかったわよ…… “[水]水柱(ウォーターポール)”!!」

水羽は手を突き出し、叫ぶ。

……
しかし、何も起こらない。

「……えっ? “[水]水柱(ウォーターポール)”!」

……
もう一度叫ぶが、やはり何も起こらない。

「っく……そう言うことですか!」

ザンッ!!

ルミナスが吐き捨てるように言う。

「え、え?」
「ここは、能力が使えない空間のようです。 恐らく……能力無しで空間を照らすための夜光石なのでしょう」

その通りだった。
この空間は、能力……というよりも、精神力を消費して使用するもの全てが使用できない空間なのだ。
この世界の科学は、精神力や能力と融合して作られているものが殆ど。
ライトや電灯など、我々の世界のものはある程度存在するが、その構造は我々が知るものと全く異なる。
そのため、それらの物はここでは全く使えない。
ここは自らの身体と武器を以って進むしかないのだ。

「殴りたくないよ〜!」
「あ、あ、あっち行ってください!」

ヒュパシィ!!

どうやら、由依子も蜘蛛は好きではないらしい。

「っく!」

シュルルル……ザシュッ!!

恭平は鋼糸で蜘蛛を縛り上げ、そのまま轢断する。

「……“飛水(ひすい)”」

ヒュッ!

飛炎とは異なり、今度は刀で敵を真一文字になぎ払う。
激しく力強い一撃ではなく、水を打ったように静まり返る……そんな一撃。
放った一撃は蜘蛛を3体、まとめて切り払う。

「凄い……」
「……とりあえず水羽さんは攻撃しないでください。 ……こいつ、毒持ってるみたいです」
「げっ……やっぱり遠慮する〜!」

水羽は結局恭平の後ろに隠れてしまった。
……珍しい一面?

「ふふ……」

そんな中、彩音は長い袖のすそを掴み、敵集団に向ける。

「せ〜のっ!!」

バシュッ!! ドガドガドガッ!!

そこから放たれたの6本のアンカー。
アンカーは全て、別々の大蜘蛛に突き刺さる。

「あははははは!!」

ドォォォォン!!

そして、アンカーに仕掛けられた爆薬が起爆。
一瞬で飛び散る大蜘蛛。

「うぐ……気色悪い……」
「流石、ですわね……」
「ふふ……はああっ!!」

ブンッ!! ザシュゥゥッ!!

今度はすそに手を入れ、巨大な、糸にくくりつけられたチャクラムを取り出し、投げる。
見る見るうちに蜘蛛は切り捨てられ、その場で四散する。
……だが、流石にこの状況はおかしい、と優太もルミナスも気づいていた。

(彩音……どうしたんだ?)

「一体……何を……?」
「!? へ……?」

動きを止め、彩音はゆっくり辺りを見渡す。
そして、起こった惨状を見る。
……辺り一面血まみれ。
蜘蛛は無残に飛び散っており、余計にグロテスクな感を受ける。

「彩音……大丈夫か?」
「え……あ、は、はい」

そうは言うものの、流石に彩音自身もおかしいと気づいたらしく、言葉を濁す。

「……行くぞ。 この洞窟から出たら、少し休もう」
「ぁ……はいっ♪」

優太なりの優しさを受け、彩音は満面の笑みで返した。





「邪魔よっ!!」

ドガッ! バキッ!

「……水羽さんって、凄いですね」
「……僕もびっくりしてるよ」

地下14階……相手は泥人形。
先ほどの蜘蛛で闘えなかったことに腹を立てているのか、あの後から破竹の勢いで戦い続けているのは水羽。
“[龍]龍撃化(ドラゴンインストール)”は使えないのに、一撃で敵を砕く様は圧巻だ。

「これで終わりっ!」

ドガッ!!

言葉通り、モンスターは全滅。
数十体いたモンスターの、半分以上を水羽が片付けていた。

「い、いくか」
「もちろんよっ!」
『は、はぁ……』

水羽以外はすでにぐったりな状態。
改めて、水羽の凄さを思い知ったのだった。





 地下15階……ここが最下層だと言う話は聞いていた。

「ここが……“覚醒の水晶(アウェイク・クリスタル)”がある部屋か……」

ゆっくりと奥へ進んでいく。
……敵の気配は、ない。

ドクン!

『!?』

力の気配。
それを感じて、優太と彩音は思わず振りかえる。

「……!!」

優太たちのちょうど真上……“覚醒の水晶(アウェイク・クリスタル)”はそこにあった。
みんなの視線に触れてか、ようやくその淡い緑色の輝きを放ち始める。

「これに……触れば……」

ゆっくりと手を伸ばす。
この宝石に触れさえすれば、その者に眠る力の全てが目覚める。
……そう、全てが。





 城の中、ベッドの上で横になり、まるで祈りを捧げているかのように眠っている少女。

「!?」

ガバッ!

しかし、その眠りがいきなり覚醒する。
予知夢……それも、とてつもない未来。

「あ……ぁ……ユータ様!!」

ダッ……バッ!

少女、アターシャは突然部屋の窓から飛び出した。

「“[羽]羽化(ウィングバースト)”!」

シュバッ!

半透明の翼が現れる……アターシャはそのまま飛行し、一直線に洞窟を目指す。

「ユータ様……! どうか、逃げてください……っ!!」

アターシャの声は、優太に届かない……。






彩音「更新が早いですね……」

優太「彩音……お前、どうしたんだ?」

彩音「私……本当にどうしたんだろう……」

SoU「ついに話が進むよ……本格的にね」


次回予告

 “覚醒の水晶(アウェイク・クリスタル)”……その効果は絶大なものであった。
眠っている力を揺り起こす……それは確かに勇者には必要なことなのかもしれない。

優太「これで、力が目覚めれば……俺が勇者という証……」

だが、この水晶は“勇者の力”を起こすものではなく、“眠っている力”を起こすもの。
その違いが……世界を、変える。


第14話 Fallin' Down


???「おめでとう、勇者一行……君たちが最初の犠牲者だ」