紅美の手から放たれた光は、そのまま1枚の鏡のような物を形成していく。
 ブン、という、テレビの電源を入れたときと同様の音が鳴り、その鏡状のものに映像が現れる。
 そこに映っているのは……。
「戦ってる、男の人が2人……でしょうか?」
 刀と剣を振るい、2人の男が戦っている。
 が、突風が吹くたび、片方の男は傷を負い、弾き飛ばされる。
 その側にいるのは、1人の少女。
 近づこうとするのを劣勢な方の少年が制しているせいで、その少女は身動きがとれずにいる。
 全力で刀を振るう相手を、剣で薙ぎ、弾き、風で追い討ちをかける青年。
 刀を振るいながらも、あと一歩が届かない少年。
 そして、目に涙を浮かべ、必死に耐えている少女。
「……リストにあるわ。今不利なのが周防優太、その側にいる少女が美月彩音。間違いないわね」
『えっ!?』
 冷静な紅魅の言葉が、3人の心に刺さる。
 警察がどんなに捜しても見つからなかった少女。
 そして、最近同様に消えてしまった少年。
 その2人が、このちっぽけなゲームソフトの中にいる。
 どうしてこんなことが起きているのか……3人にはどうしても理解が出来ない。
「私たちの力でようやく介入出来たことから考えて、2人が自分の意志でこの中に入っていったのは考えづらいわね」
「そうだね……となると……」
 呆然とする3人をよそに、紅魅と雄也は2人が中にいる理由を考える。
「どうして、こんなことが……?」
 思わずもれた水羽の言葉。
 それに答えるように、2人が考えを口にする。
「内部に何かいるようね」
「中にあるのは、エルネリアやモービットのような、一つの“世界”……それを構築している何者かが、2人を呼び込んだ……」
「“何者か”が“呼び込んだ”、ですか? この2人には、その“何者か”が求めるものがある、ということですか?」
 順応した、と言うよりは、話の意図を理解した、と言えばいいだろうか。
 流石に頭の回転が速い恭平が言う。
「ええ。でも……察するに、美月さんと周防くんが呼ばれた相手や理由は、それぞれ別な気がするわ」
「少なくとも美月さんは、中にある“何者か”に呼ばれたのは間違いないな」「
 中にいる何者かが、彩音を必要とし、呼び寄せた。
 それは間違いないだろう。
「でも周防君は……呼ばれた理由はきっと、“特効薬ウィルスバスター”の役割のため、じゃないか?」
「“特効薬ウィルスバスター”……きっと、紅美が呼ばれたときと同じ感じね」
 3人にはわからない会話を続ける2人。
 が、なんとなく意味は読み取れる。
「でも、それって……この状況はかなりまずい、って言うことじゃないですか?」
「そうよね……今の話だと、この男の子が、彼女、更にはゲームの中がこんな風になっている現状を救う鍵なんでしょ?」
「だとするなら……確かに、まずい状況ですわね」
 結局3人に理解できたのは、“このままでは2人が危ない”ということ、ただそれだけだった――。



SUNNY-MOON

第06話 突入Dive


「……ふぅ……」
 溜息とともに、電源を落としたようにパネルは閉じられる。
 もう一度目を閉じゆっくりと目を開いたとき、紅美の目は先程までの穏やかなものに戻っていた。
 柔らかい空気が、場を包む。
「……それで、どうしますか?」
「?」
 紅美の言葉の意味がよくわからない。
「えと……このゲームの中に周防さんと美月さんがいたのは事実です。どうやらリンクが張ってあるみたいで、どの[SUNNY-MOON]からも中に入ることは出来そうです……私もかなりの魔力を使いますけどね」
 と、一呼吸。
「初めは私が中に入って助ける予定でいたんですが……どうやら“完全遮魔結界アブソリュート・プロテクト”が張ってあるみたいで、私に出来るのはこちら側からの入り口を開けることだけです。正確には門を開くのではなく、歪んだ次元の壁に押し込む形になりますから……私が外部から引き寄せたり、内部からこじ開けたりということは出来そうにありません。つまり、私はこのゲームの中への片道切符しか持っていないんです」
「“完全遮魔結界アブソリュート・プロテクト”?」
 そう聞いたのは雄也。
 どうやら紅美の力について、何でも知っているわけではないらしい。
「言葉通りの対魔法用の絶対防護結界で、あらゆる魔法を遮断、妨害します。魔力を帯びない攻撃には弱いんですけどね。ですから、これを次元の壁付近に置かれると、正直お手上げなんですよ」
 つまり、文字通り次元の歪みに“押し込む”のが精一杯なわけだ。
 この世界に存在する魔法使いは数名。
 紅美の魔力はその中でもトップクラスだ。
 恐らくこの壁を破るには、人ならざる者の力が必要だろう。
 生憎、現在その力を頼る方法はない。
「つまり……僕たちにこの世界に行けと、言うことですか?」
 恭平の言葉に雄也はうなづく。
「ゲームをクラックして、多少のサポートはします。パソコンでのサポートも、魔力でのサポートも、僕と紅美にしか出来ません。だから……3人に頑張って欲しいというのが本音なんです」
「それに……先程も言いましたけど、このゲーム、どのゲームからも入れるんですけど、なぜかここしか探知できなかったんです。それも昨日になって突然反応が出て……」
 昨日……水羽がこのゲームを引き取った日。
「つまり……このゲームと水羽ちゃんが出会ったのにも、何か意味がある、そういう事ですか?」
「……私はそう思っています」
 その言葉を聞いて、恭平は悩んでしまう。
 上手くいって2人を助け出せたら、これ程いいことはない。
 しかし、下手をすれば死んでしまうかも知れない。
 外からのサポートも多分には期待できない。
 全ては自分たちの実力がものを言う世界。
(そんなところに、由依子と水羽ちゃんを連れて……なんて出来ないよな……)
 由依子もまた、同様に悩んでいた。
 恐らく雄也に出来るのは、多少の変化。
 この中に潜む“何か”はそれをも妨害するかもしれない。
 やはり、期待できるのは自分の腕だけ。
 由依子は外見、実力ともに普通の女の子だ。
(兄様にも、水羽ちゃんにも、迷惑をかけてしまいますわ……)
 が……そんな中、水羽だけは違っていた。
「私……決めたわ」
『えっ?』
 4人が水羽を見る。
 水羽の決意、それは……
「私、中に入る。 ……知っちゃったんだもん、どうしようもないじゃない」
 意外に熱い水羽の一面を、由依子も恭平もよく知っていた。
 そして、考えが行き詰まっていた2人の返事は、もう決まっていた。
「……そうですわね。行きましょう、水羽ちゃん」
「僕も行くよ。3人寄ればなんとやら、頑張れるはずだしね」
 3人の決意に、紅美も雄也も嬉しそうに微笑む。
「! 本当ですか!? ……ありがとうございます。本当は、私も行くべきなんですけど、今はまだすることがあって……」
「それじゃあ、皆さんには能力を選んでもらいます。その後、周防君の助けに……いきなり戦闘になりますが、大丈夫ですか?」
 雄也の言葉に、3人は迷わなかった。
 大きく首を縦に振る。
「能力は慎重に選んでくださいね」
 そして、15分後――。



「……準備はいい?」
 再び変化、紅魅が言う。
 3人は動きやすい服に身を包み、準備は万全だ。
「いつでもいいわよ」
「大丈夫ですわ」
「本当は武器が欲しかったところだけど……無理は出来ないね」
 服装の準備はいいが、肝心の装備はない。
 そもそもこの世界には、簡単に用意できる装備などない。
「能力のデータは登録済、突入次第すぐに使えるはずです」
 それぞれ4つずつの神紋術エンブレメリーの登録は完了している、
 つまり彼らの武器はこの神紋術エンブレメリーということになる。
「でも……あの男の人が使っている特殊な力……あれが使えるなら、私たちだって戦えるよ!」
「そうですわね、しかも、そういう能力者が3人、ですから……」
「卑怯だ、なんていってられる状況じゃないしね」
 そう言っている間に、紅美の魔法の詠唱は終了したらしい。
 組んだ両手に、光が集まっているのが見える。
「頑張ってくださいね……こちらも、できる限りの事はします」
「……それでは……あなた方にも、朱い翼の天使の加護が、あらんことを……次元門プラナーポータル!」
 紅美の放った呪文により、3人が光に包まれる。
 激しい白と黒の光……それが消えたとき、既に3人の姿はそこにはなかった。
 そして、舞台は戦いの最中へ――。




SoU「はい、第5話改定文です」
紅美「私の唱えた呪文に名前が付きましたね」
SoU「本家における紅美の魔法がソレ系だったので、合わせてみました」
雄也「確かにね。ところで、この先紅美は活躍するの?」
SoU「紅美も雄也も活躍する予定……いつになるかはないしょだけどね」
次回予告
 能力の存在は、俺にとって厄介なものだった。
 攻撃が届かない。
 相手の攻撃は見えない。
 どんどん追い詰められていく自分。

優太「くそっ……せめて、一瞬でも隙があれば……」

 あきらめかけた時、再び奇跡は起こる。
 救世主は、意外にも外からやってきた。
 王に会い、話をつける……その思いが道を作り出す。

第07話 仲間Company




由依子「チェックメイト、ですわ」







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