うまくて素敵な宇宙じゃないか!



6.1  【枕草子】

春は毛ガニ。
やうやう安定してくる価格、濃厚な蟹味噌はいうにおよばず、
水々しく滴る蟹肉のうまみなど、はた言うべきにあらず。

夏はウニ。
初夏の頃からお盆まではさらなり。
ムラサキ(ウニ)は言うにおよばずバフン(ウニ)など口に入れると
頬、舌など歓喜歓喜と喜ぶのもをかし。

秋はイクラ。
夕日のさして山の端いと近うなりたるやうな色など輝くまかりなり。また、ただ三つ四つ、二つ三つなど白き飯や海苔と共に食すも味わいがある。 またどんぶり飯に豪快にかけて食すもいとおかし。

冬は鮭。
焼きよし、鍋よし、ほぐして白米に混ぜるも言ふべきにもあらず。
朝食にも昼食夕食、夜食にもいとつきづきし。
なほ甘エビ、ボタンエビなどエビ系は季節選ばず価格安定でこれらを選ばぬなどいとわろし。


12.25  【クリスマスの過ごし方】

毎年の私のクリスマスの過ごし方。

請求書を作って郵送する。
雪かきをする。
年末注文をまとめる。
雪かきをする。
銀行と郵便局に入金を確認しにいく。
雪かきをする。
急な注文に慌てる。
雪かきをする。
お店に連絡したり、お店に支払いに行ったりする。
雪かきをする。
発送した商品が無事届いているか、ネットで商品追跡をする。
雪かきをする。
「まだ届かないんですけど!(怒り)」という連絡が来ないようにお祈りする。
雪かきをする。



12.24  【ホンコン焼きそば】

2014年、年末。
今までロシアからの密漁に頼っていた北海道に流通していたタラバ蟹は、
この12月に規制を厳しくしたらほとんどタラバが流通しなくなってしまった。
北海道の水産業や観光に大打撃を与えつつ、その大波は山猫屋にも及んだ。

それでも山猫屋は、タラバの注文に対しては、毛ガニやボタンエビや紅鮭に誘導しなんとか善戦をしていた。
そんな時、古いお客さんから「ホンコン焼きそばを蟹と一緒に送って」と注文が来た。



↑これが「ホンコン焼きそば」
画像をクリックすると、「ホンコン焼きそば」とはどういうものか判るサイトに行けます。


12月24日。
クリスマスソング流れるスーパーで、ホンコン焼きそばだけを買う女あり。
(いや、違う、これは注文であって私がイブの夜にこれを食べる訳では…)という謎のオーラを放ちつつ。


12.10  【干しもの】

山猫屋にメールで、ある人に北海道の水産物を送って欲しいという注文が来た。
お届け先は、ちょっとした有名人の師匠に当たる方だ。
私が、直接電話して都合の良い日と好みを聞け!という注文だったので、ちょっと緊張して電話した。
でもまさかの留守電だったので、かなり挙動不審な痕跡を残してしまった…。

すると数分の内に折り返し電話がある。気さくな方だった。
それは良かったんだけど好みが「干物」。 好きなものは、シシャモ、貝柱、タラ、カレイの干したの…。
これでは、金額指定してきた依頼主の金額に達しない…。

干し物でどうやって送料別で2万円にするんだぁ?と、ただいま考え中。
しかも「ふたり暮らしだから多くはいらない」と言われた。

しかたがないので依頼主に「頑張っても10000円がせいぜい。無理」と連絡したら
「毛蟹でも混ぜちゃえ。もうお金振り込んだし」と言われた。
いや、毛蟹入れたら嫌われるし。

干物だけで2万円には届かないよ…。
困っていたら、探せばあるんだね。超高級干物を詰め合わせて送った。
先ほど、お届け先さまからもご依頼主さまからもお礼の電話が来た。
ふぅ。乗り切ったぜ。

山猫屋では高級干物用意できます。


6.8  【連絡方法】

山猫屋のお客様は、ほぼ100%、メールで注文をくださる。

でも私の携帯に、注文をくれるお客様がひとりいる。
で、結構頻繁に注文をくださるので、Hさんからの電話だとすぐ分かるように携帯に登録しておく。

でも、なんか変なんだ。
携帯が鳴る。未登録の番号だ。出るとHさんだ。いつも登録名が出てこない。
そのたびに、番号変えたのかな?と思い、今来た番号で登録し直す。ってことを何度か繰り返していた。

先日、携帯がなった。未登録番号だ。出る。「Hです〜。また頼みたいのぉ」
まただ。
それで、注文を聞き用件を話し終えた後に、聞いてみた。
「あの。電話があった時、すぐHさんだってわかっていたいので、登録しているんですけど、
 いつも登録名が出てこないんですよね。もしかして2つ番号があって、交互にかけているのですか?」
「あぁ。あははは。3つです。3つあります」
「3つ……!今のこの番号は050ですよね。これって何?」
「IP電話ですよ。050はね。それと自宅固定電話と携帯電話と3つからかけているんです」
「あぁ、どうりで」

これで謎が解けた。
ここまでがきのうの朝の話。

昨日の夜、謎なメールがパソコンに入ってきた。
「こんばんは。今日は郵便局に行けませんでしたので明日行って来ます。
いつも良いものをお安くしてくださり、とても助かっています。有難うございます」
名前なし。アドレスをみると***********@ezweb.ne.jpで携帯メールからだ。

山猫屋のお客様だという事は分かる。
でもこれじゃぁ誰だか全然わからない。
携帯メールからの注文かぁ。最近、そういう人が増えてきたなぁ。
現在、振り込み待ちの山猫屋のお客様は複数いる。

誰だこれ?

しばらく考えてもわからないので返信してみた。

「すみません。
山猫屋のお客様という事はわかるのですが、
お名前が書かれていないんで、どなたかわかりません。
すみません、名乗って〜」

するとすぐ返事が返ってきた。
「ごめんねm(_ _)m。Hでした」

な・なんと!
3つの電話番号を使い分けて私を混乱させたHさんは、4つ目の連絡方法を使って連絡してきた……!
その後、5つめの連絡方法、私の個人の家の電話のFAXでの注文。

う〜む。手ごわい。

この方は、素でやっているんです。ふざけている人ではありません。
お医者さまの奥さまなのです。私の小学校の時の同級生だった人です。
この話は面白かったので、いつか紹介したかったんですけど
マネする人がいたら困るなぁと思ってなかなか紹介できなかったのです。

よい子はマネしないで下さいね。

11.28  【スパムメールに間違えられる】

私は、このようにネットで蟹を販売しているので、 私のメールアドレスはネット上のあちこちに書かれている。

だからゴミメールは大げさでなく一日数百通だ。
毎回ネットに繋ぐたびにまずスパムメール、エッチメール、ゴミメールの削除からはじまる。
ちょんちょんちょんとリズミカルなもんだ。

それでも油断はできない。
「お久しぶりです」という同じ件名のメールが2通続けて受信して、
ひとつは注文メール、ひとつはエッチメールだった事がある。油断できない。

ある日。Kさんという方から注文メールが届いた。はじめましてのお客様だった。
その注文メールを読んで、ご注文内容に相談や提案があったので、
「お返事待っています」と書いて返信した。

けれど返事が来ない。
なので2通目を書いた。
まだ来ない。3通目も書いた。
4通目を書いて、返事が来なかったら電話をしようと思っていた時に、店長から連絡が来た。

「『注文したけど、何も言ってこない。どうなっているんだ?』と電話が来てるよ。山猫屋のお客さんだろ?」

あれ? 私の方も返事待ちだったのに。
で、4通目を書いていて送信する前だったので直接、私がお客様に電話をしてみた。

みかりん「3通送っているんです」
お客さま「えええええ? ずっと待っていたんですけど来ていないです」
みかりん「変ですねぇ」
お客さま「メールアドレスは?」
みかりん「daichi-m@phoenix-c.or.jpです」
お客さま「来てないです」
みかりん「Kさんのアドレスは、*****@***ne.jpですよね」
お客さま「そうです」
みかりん「それでは4通目を今から送信します」
お客さま「はい」
みかりん「あ。」 (もしかして!と、このときは私はすべて分かった)
お客さま「?」
みかりん「蟹屋山猫屋ですけど、送信者名は『みかりん』です」
お客さま「みかりん…。それなら朝から何通も来てます!」
みかりん「それですそれ」
お客さま「最近、エッチメール多いでしょう? そういうメールかと思っていました」
みかりん「あははは…。」

エッチスパムメールに間違えられた…。

「ご注文ありがとうございました」
「6日のパーティーの蟹について」
「佐川便で送ると」
「ご提案」
以上が、私がお客様に送った4通のメールの件名。

送信者「みかりん」で「ご提案」なんて。スパムそのものだ。(笑)
私が悪い。深く反省、反省。

それ以来、「蟹屋山猫屋です。ご注文ありがとうございます」などというふうに、
山猫屋の文字を件名の頭につけるようにしている。

これでスパムメールに間違われることは防げるかな。

10.3  【日本ハムファイターズ】

小さなお店です。
近所に有名店もあります。芸能人などはそちらの方へ流れていきます。

まぁ、モノは絶対こっちの方がいいんだけどね。へへっ。

ずいぶん前の話ですけれど、こんな方が。
買うものが決まり、発送するのに住所を書いて貰っている最中、お客様と雑談する。

「観光で来られたんですか?」
「いえいえ、妹の子どもの仕事を見に」
「甥っ子さんは、札幌で働いていらっしゃる?」
「えぇ、まぁそう。だから時々札幌には来るんだけど、今度退団することになるので」
「退団?」(何かの団体? 働いているのを見に来る? 叔母が?……謎だ)

で、注意深く慎重に探りを入れてみる。(笑)

この方の妹の子どもが、あの日ハムのスター「新庄」だという!
新庄の伯母さんも、御買上の当店をどうぞよろしく〜。(にこっ)

そうそう、相撲部屋の「安治川部屋」からも時々注文が来ます。
この間は、ジンギスカンの肉20kg(生肉10kg、味付け肉10kg)のご注文でした。
「安治川部屋」の御用達の当店をどうぞよろしく〜。

8.27  【高校野球】

<2006年8月17日 準々決勝 東洋大姫路戦>

この年は野球の年であった。 道民は、この年の3年ばかりこの時期、きゃーきゃーだったのである。
そう高校野球だ。駒大苫小牧だ。「こまだいとまこまい」実に言いにくい。
気を抜くと「とまだいこまこまい」になる。気を抜けない。

決勝戦ともなれば、あちこちの縁もゆかりもない会社までもテレビ観戦テレビ応援のため休み同然になり、
またはテレビ応援するべく仕事をさっさと切り上げる所も少なくない。

今日、駒大苫小牧戦の時間、店にでていた私は、出入りの業者に結果を聞く。

1日数回、集荷のために来るゆうパックの兄ちゃんに
「試合経過を逐一、報告するようにちゃんと最新情報を仕入れてから来るように」と朝一で命令しておく。

「まだ始まってないよね」
「はい、まだです。今は他チャンネルで、名探偵コナンをやっています。コナンが推理している所です」
「コナンなどいい!」
「はい。でもあのニュースキャスターが怪しいと」
「コナンの推理はいいから、次来るときは駒大苫小牧戦最新情報を仕入れてくるように」
「はい」

それからお客さんを乗せてタクシーがくる。
タクシーの運転手に経過を聞く。
「4-0で」
「勝ってるの!?」
「いや、負けている」
「4−0……。ダメかも」
「そうだな」

それから青果屋さんが請求書を持ってくる。
「今どう?」
「4−2だな」
「おおおお。追いつきそう?」
「わからんな」

それからまたゆうパックの兄ちゃんがくる。
「どうどう?どうなった?」
「やっぱり最初に怪しいと睨んだニュースキャスターですね。追いつめられています」
「コナンじゃなくて!」
「4−3です」
「よしっ!」

それから資材屋の兄ちゃんが蓄冷材と発泡スチロールのBOXを持ってきた。
「どうどう?高校野球」
「毎年ラジオ付けているんスけどね。今日はついてなくて、わからんス」
「ちっ!」

それからゴミ収集車のおじちゃんがくる。
「駒大苫小牧は?」
「同点だよ!」
「おおお!やった!やった!」

3たび、ゆうパック集荷の兄ちゃん。
「同点だってね。それから?」
「ニュースキャスター…」
「ニュースキャスターが犯人だったんでしょっ。それはいいから!」
「僕も同点までしか分からないです。コナンの方は解決です!」

それからお客さんを乗せたタクシー。
「いらっしゃいませ〜。今時期の蟹は安いですよー。身入り良いのを集めています」とお客さんに言いながら、
タクシーの運転手に
「どうどう?」
「勝ったよ!4−5で」
「やったやった!お客さん。良いときに来た。これ安くしておくよ。今日は良い日だ。おめでとう。ありがとう」

ってな感じだった日。(笑)


<8月19日 準決勝 智弁和歌山戦>

この試合は、前回や前々回と違い、逆転からの反撃戦ではなかったため、
店に出入りする業者の報告も安心して聞いていられた。
そして車で帰る途中、カーラジオでその動向を聞きながら運転。

途中、どうもカーラジオの調子が悪い。がーがーぴーぴー言う。雑音がひどく聞くに堪えない。
で、プチっとラジオを消してしまう……が、聞こえるのだ。何が?って、中継が。

テレパシーか?私はテレパスだったのか?
いや、私がテレパスだったのではなく、街中のラジオが付いていて聞こえてくるのだ。
ガソリンスタンド、商店街、ありとあらゆるラジオというラジオが大音響なのだ。

だからカーラジオなんかつけなくても聞こえてくるのだ。(私は冷房が苦手なので窓を開けて走っている)
そして、昼間なのになんだか妙に車が少なく、すいすい進む。

あぁ。札幌市民全員がテレビ観戦しているんだ。ラジオの前に正座しているんだ。

しばらく車を走らせていると、試合終了〜。
駒大苫小牧決勝進出を決めましたぁ!
 そして監督インタビューが終わる頃、 道路は少しずついつもの混み合いを見せ始め、
やがて活気のあるいつもの街並みになりました。

ホント一時は、暑いけど今は正月?ってくらいに道がすいていたよ。(笑)


<8月20日 決勝 早稲田実業戦>

延長15回を1回戦からテレビ観戦。
そんなたくさん観たのに勝負付かず。
白熱の試合内容の投手戦で、テレビ桟敷なのに非常に疲れた。
明日、引き分け再試合。

どうか明日も駒苫らしい試合をして下さい。
今日はゆっくり休んでください。

もう勝ち負けじゃないです。

6.30  【雷同】

数人の中高年のお客様は、しばしば誰かが例えば「しまほっけを3枚欲しい」というと、
その仲間は皆「私も」「俺も」とその日は、しまほっけばかりが妙に売れてしまう。

その最初の言葉が「2.0kgの本タラバ3匹」だったら、「私も」「俺は4匹」と
水槽の中の2.0kgのタラバばかりがいなくなってしまう。

だからとても水槽の中の蟹の大きさのバランスが悪く、
数日間は2.0kg以外のタラバを売らなければならない事になる。

そういう日に限って、他にも2.0kgのタラバを欲しがるお客さんが来店して

水槽をかき回して、私は2.0kgのタラバを探す。
お前は大きすぎるよ。お前は小さすぎるな。
おおおお、お前だお前。あ、ちょっと小さいか。

私は水槽の前でぶつぶつ言いながら、蟹と話していることになる。

6.10  【数字を押す】

レジの横に電話がある。
お客様からお金をお預かりしてレジで金額を打ち込む。
打ち込んでいて「あれ?なんか変」と思うことがある。

電話機のプッシュホンの数字を押している私。
しかも受話器を持って「21500円……と。あれ?」ってな感じ。

ああぁぁああぁ。
何やってるんだ!私!
頑張れ、みかりんの脳!

5.24  【お出迎え】

水槽にウヨウヨいた蟹たちが少なくなってくると、また新しい蟹たちが入ってくる。
蟹は蟹カゴいっぱい詰められてやってくる。
それをよいしょっと持ち上げて(ひとりじゃ無理)、水槽にざざざぁぁぁと入れる。
または一匹一匹入れていく。

入れたばっかりの蟹たちは大暴れ。
でも10分くらいで落ち着いてくる。
蟹を入れたばかりの時は、数も多いこともあって、
元気の良すぎる蟹は水槽から落ちてしまうこともよくある。
人がいる時はすぐ水槽に戻せるけれど
夜に水槽から落ちてしまった蟹はそうはいかない。

朝早くお店のシャッターを勢いよく開けると、
私の足下に「いらっしゃませ〜」とばかりに蟹がお出迎え
(そういうことになるのは、たいていは本タラバ)
っていう事があるのは蟹を入れた翌日の朝だ。

「はいはい。水槽に戻ろうね」
むんずとつかんで水槽に戻し、いつものように慌ただしい朝がはじまる。

ただいつもと違うのは、蟹にお出迎えされた日だということ。
ごくたまにそんな日がある。

4.29  【調子が良いとき】

蟹の大鍋にお湯を入れる。点火して熱湯にする。
そして塩を投入。 目指すは3%。
蟹の状態にもよるんだけどね。ズワイガニだともっと低いパーセンテージでも良いし。
でもまぁ、通常は3%。
パーセンテージは、塩分濃度計で測る。
これがだいたいは一発で決まる。ちょっと嬉しいし、当然さって気持ちもある。

蟹を水槽から選ぶ。
1.2kgのタラバとか、2.3kgのタラバとか。水槽の脇にハカリがある。
調子の良いときはどんどん1発で当たる。気持ちが良い。

毛ガニなどは50g単位で判る。(調子の良いときはね)
これは450gだね。ほらね。これは500gでね、そっちのは550gだよ。ね?
ってな具合。

蟹なら持たなくても、目で見て判る時が、もっとも調子が良い。

でも時々ダメダメな日もあって、水槽からは全然目当ての蟹が取り出せないし、
塩分も濃すぎて薄めたり、薄すぎて足したり。
そういう日はおとなしくしている。

3.24  【蟹屋なのに】

お店では、蟹を中心に北海道の海産物を扱う。
でもお客様のご注文であれば何でも揃える。
ジャガイモ、カボチャ、トウモロコシ、メロン。

で、あまり得意分野ではないけれど北海道のものという事でジンギスカンもご要望があれば扱う。
先日、店のFAXで注文が届いた。

・ジンギスカン  
・鍋 
鍋? ええええと。ジンギスカンで鍋をするので見合った野菜を見繕って欲しいって事?
それとも、あのぅ。鍋? 鉄製の? あの鍋のこと?
わからないので電話で直接確認。

お客さまは、鉄製の鍋をご所望でした…。
蟹屋なのに、北海道野菜扱います。
蟹屋なのに、これから金物屋に走ります!

2.17  【小ネタ3話】

<1話> 店長の独り言

「俺さぁ、蟹屋をやってるって親戚に言ってないんだよね。
お正月にさ、網走の叔父さんから大きな本タラバが送られてきてしまった……。」




<2話> ドナドナ

雪だるまの入れ物のセット数体の注文を受ける。
運送屋さんが来てトラックに積まれる雪だるま君たち。
「絶対に倒れないように運んでください」とくれぐれも頼む。
私は雪だるま君たちを載せたトラックが見えなくなるまで見送る。
丹精込めて育てた子牛が売られていくのを見送る様子を歌にしたドナドナを口ずさんでいた私。




現在はゆきだるまのサービスはしておりません。





<3話> タマゴを持っているオスを

お客さまに、ししゃもの説明をしている私。

みかりん「という訳で、メスの方がタマゴを持っていて少し高いです」
お客さま「オスの方が安いのね。それじゃオスのタマゴを持ってるのをちょうだい」
みかりん「それはないです……。オスはタマゴを持たないです」
お客さま「あら、オスでもタマゴを持っているのくらいいるでしょう?」
みかりん「タマゴを持っていたらそれはメスです」
お客さま「あら。そうなの。残念ねぇ」


12.4  【ピンからキリまで】

あのノーベル賞を受賞した会社員を抱えるS製作所。
大会社である。
その大会社の代表取締役会長というお方がお店で買い物をしていってくださった……! この小さな小さなお店に。
他に有名店もあれば、大きな店も、そこそこのお店も、さまざまあるだろうに、 よりによってこの小さな小さなお店に。

ことの起こりは、その前日。
S製作所札幌支店長って人が、タクシーに乗ってお店にやってきた。
タラバの価格やウニの話など、私はその人にひとしきり話しをした。
その人は「明日、偉い人を連れてここに来る」と言い残し、他店がたくさんある大きな通りの方へ行った。
大きな通りの方に行ったお客さんは、おおむね戻ってこない。明日も来ないだろうと、まったく思い出しもしなかった。

翌日、なんだかとても忙しく働いて、閉店時間をずっと過ぎ、やっと帰れるとシャッターを半分閉めて、
明日の仕入れのチェックをしていると……黒塗りの車がお店の前に止まった。
中からお付きの人の囲まれたなんというか、すごいっぽい人が現れた。
お付きの人の中に、昨日私と話した人がいた。

「いらっしゃいませ!あ、昨日の」
「わかります?私。昨日来た」
「はい! 危なかったです。今店を閉めるところでした」
「連れてきました。 うちの一番偉い人です」
「はい」
「会長、この人良いでしょ。この人が良いからここに連れてきたんです」(と、私を指す)

で、名刺をもらった。
おおおおお。これは、ノーベル賞で世界的に有名になってしまった会社じゃないか。

そこの札幌支社長と代表取締役会長とお付きの人2名様だ。

会長様は、最高級毛ガニと最高級ウニと最高級アワビをご注文され、
明日、持って帰るので昼頃までに荷物を作っておいて欲しい、そして付き人Aが 取りに来るとおっしゃった。

娘とふたりで食べるのでたくさんはいらないという事など話された。

そうして黒塗りの車で帰られた。

っと、このようにお店にはさまざまな人が来ます。
ピンからキリまで。
今日のこのお話は、ピンの方だったけれど
キリの方では、本州の方のヤクザ屋さんが、
「これから兄貴分を月形刑務所まで迎えに行くので蟹を」という人など。
ピンからキリまで、色々な人と話ができて面白いです。


11.4  【心を清浄にする機械】

梱包資材である発泡スチロールを、資材屋さんから買っている。
毎日発送するので、あらゆる大きさの発泡スチロールを注文する。
お店では、すぐ近くのT商事さんから買っている。
T商事は、発泡スチロールだけじゃなく、さまざまな物も取り扱っているらしい。
そこのお兄ちゃんとは、もう顔なじみだ。

T商事兄ちゃん 「ウチで、空気清浄機も扱っていたの知っていた?」
み か り ん   「知らない〜。そんなものも扱っているんだ」
T商事兄ちゃん 「いつも発泡をたくさん買ってくれるけど、空気清浄機は?」
み か り ん   「それって、部屋の空気をきれいにするだけでしょ。蟹臭さは取れるの?」
T商事兄ちゃん 「もちろんお店の蟹臭さもどんどん取れて、空気がきれいになる」
み か り ん   「蟹屋だからな。またすぐに蟹臭くなってそんなものは意味はないな」
T商事兄ちゃん 「空気清浄機、入れようよ。空気がきれいになって売り上げ倍増!」
み か り ん  「きれいになるのは空気だけなの?」
T商事兄ちゃん 「というと?」
み か り ん   「人の心は?」
T商事兄ちゃん 「は?」
み か り ん   「その機械で人の心がきれいになるのなら、導入を検討しよう」
T商事兄ちゃん 「なるなる。この空気清浄機は人の心もきれいにするっ!」
み か り ん  「ほう。本当だな?」(笑)
T商事兄ちゃん 「……。うんうん。空気清浄機買おうよ」
み か り ん    「まぁ、今日の所はいつもの発泡を」(笑)

人の心をもきれいにする空気清浄機を売っているっぽいT商事の兄ちゃん。
まず、自分でその機械を使って嘘のつかないきれいな心になってみてくれ。(笑)


9.29  【筆談で】

ある時、手話でコミュニケーションをとる3人のおばさん達のお客様が、お店にいらした。
私は手話ができないので、筆談となる。
ひとりのお客様と筆談していると、残りったふたりがせわしなく手話で話をしている。
私と筆談している人も、時々加わる。そして3人で爆笑。

その間も、私のメモの字が走る。
タラバと毛ガニのそれぞれの価格、珍味の特徴、昆布の説明、届け日の確認。
お客様が質問する。私が答える。

いつもは言葉でやっていたコミュニケーションを、メモの字でする。
そういう事を3人のお客様とする内に、それがとても楽しくなってきた。

3人のお客様たちは、とても陽気でおしゃべりだ。
彼女たちは、手話でずっと話していて、そして良く笑い、時に爆笑。

私はメモを介して彼女たちとおしゃべりをした。
そうして彼女たちは、買い物を済ませ帰って行った。

後に残ったたくさんのメモの字。
いつもは、消えてなくなってしまうお客様との会話が、テーブルの上に残っていた。



9.23  【マリモの育て方つき、蟹】

ご来店いただき、今まで買っていただいた伝票を見ながら、こちらから電話をかけて注文を貰う事がある。

「もしもし、以前にたくさんお買い物をしてくださってありがとうございました」
「あぁ、あの時の蟹屋さん」
「はい。お久しぶりです。今日電話したのは、また蟹の注文はどうですか?というお誘いのお電話だったのです。
 いかがですか? 今時期の蟹は安くて身入りも良いですよ」
「うん。買ってもいいよ。おいしかったし。ただし条件がある」
「何でしょう?」
「そっちに行った北海道旅行の時に、孫へのおみやげにマリモを買ったんだけど、さっぱり大きくならない」
「はい」
「マリモの餌を見つけてきてくれたら、蟹を買おう」
「マリモの……。」

マリモは藻だ。
藻がこんがらがって丸くなったものだ。
藻に餌は必要か?
たとえば金魚藻。あれに餌がいると思うか?

グーグルで「マリモ 育て方」で検索した。
するとやはり餌は不必要ということ。
ガラス2枚ごしに日光を当てれば良しということ。
大きいものは150年〜200年経っているらしい。

「養殖マリモの育て方」という所を抜粋しプリントアウトして蟹と一緒に送りました。



8.27  【鼻血】

うだるように暑いある日のこと。
居酒屋さんに蟹を配達しながら帰るよう指令される。
蟹は、白い発泡スチロールに入っている。
居酒屋さんに着く。
あれ? ドアが開かない。
そういう時は、車庫に入れるように指示されている。
見ると、車庫のシャッターが30cmくらい開いてある。
私は箱を持って、かがんで車庫の隙間に押し込んだ。
この日、北国にしては蒸していた。
車の中も暑くて、私は少しのぼせていたのだろう。
身をかがめた途端、鼻血が出た。
白い発泡スチロールの箱に、赤い鮮血の模様がピシッと飛び散った。
一瞬、「綺麗な模様だ」と見とれた。
もちろんそれは私の主観だ。
客観的に見れば、血しぶきの飛び散っている白いBOXに入っている蟹。(笑)



7.21  【半年後の注文】

先月のお話。
だから6月のある日。

「もしもし。注文をしたいのですが? 電話でもいいですか?」
「はい。ご住所とお名前と電話番号とお品物を教えてください」
「ええと。昆布が欲しいんです」

そうして一通り住所などを教えて貰い。メモを取る私。

「それでは、ご都合の良い着日を教えてください。いつ届くように送りましょう?」
「1月の6日。時間指定は、特にないです」
「え? しちがつ ですか?」
「いいえ、 いちがつ です」
「来年の? お正月?」
「はい」
「……はい。承りました。ありがとうございました」

半年先のご注文も承っております…はい。(苦笑)



6.29  【領収書の】

お店には大きな水槽がある。
時々、水槽掃除をしなければならない。それはとても大変な仕事なんだ。
でもまぁこの暖かい時期にやってしまおうっていう事で先日どろどろになりながら水槽掃除をした。

まず、水槽に入っている蟹を全部避難させる。
蟹をゆでる大鍋や、大きなプラスチックの入れ物などを、あちこちから集めて
または借りてきて、水槽に入っている海水と一緒に蟹たちを移動させる。

それから水槽の水を全部抜く。
じゃーーーーーーーっ。
どんどん流れる水。
さぁそれからが大変。

敷き詰めた珊瑚を水槽から引き揚げる作業。
タマネギを入れるような赤いネットに珊瑚がびっしり入っている。
そのネットが数十袋。1袋がやたら重い。
そうして丁寧に一袋一袋水で流して洗っていく。
水槽の中のこぼれた珊瑚は全部拾う。

それから板を外してその下のヘドロ状の泥を全部すくい取って洗う。

そういう作業は、営業時間が終わってから。
通常ならもうお店は閉まっている。私は帰っている時間。
お店の電話が鳴る。

「もしもし? 今、近くまで来てるんだけど、去年来たんだけど場所分からなくなっちゃった。 迎えに来て」

え? あ。あの。
ひぃぃぃぃ〜。お客様だぁ〜。
たまたま水槽掃除なんかしていたから、電話を受ける事ができた。
1年に一度の北海道旅行を楽しみにしていて、
そのたびに必ずお店に寄って くださるお客様がたくさんいる。

でもでも、なんでこんな時に〜。
どろどろな私は、たくさんの言い訳と共に迎えに行く。

1年ぶりのお客様は、お店が大変な様子なのにも一向に構わず、
再会を喜んでくれて、お買い物されて帰って行った。

さてさて、水槽掃除の続き。
水槽と珊瑚を綺麗にして、板をはめて珊瑚を敷き詰める。
それから大量の水を入れ、マリンエッセンスを入れて、塩分濃度計で塩分を調節し、海水を作る。

本物の海水を入れる時もあるし、このように人工海水を作る時もある。
それから蟹たちを水槽に移動させる。

この間をすばやくしなければならない。
蟹に適した水温が5度〜6度。結構冷たい。サーモスタッドで調節している。

綺麗になった水槽でゆらゆらしている蟹たち。
表情がないヤツらだけど嬉しそうだ。



5.25  【領収書の】

お客さま 「領収書をください」
みかりん 「はい。(領収書の名前を)なんとお書きしましょう」
お客さま 「岩のりクラゲって書いて」
みかりん 「!」
お客さま 「?」
みかりん 「あの。領収書のお名前のところなんですけど……。」
お客さま 「あーはっはっは!そこは会社名で」
みかりん 「ですよね。岩のりクラゲって書くのかと思ってびっくりしました」(大笑)



4.24  【私のせいです】

昨日の23日。札幌では季節外れの積雪。
朝、起きると10cm以上積もっていた。
しまった! これではお店に行けない……。

なぜなら私は前日に冬タイヤを夏タイヤに取り替えたからだ。

やっと雪が溶けて道路には、雪がない状態がしばらく続いたし。
先日、札幌積雪ゼロ宣言が出たし。
日当たりの悪いところや、雪を積み上げていた所などには まだまだ雪はあったけど。
まぁ、雪が降っても積もらなければ良いんだし。

ということで、もう夏タイヤに履き替えても良いかな。
そう思って夏タイヤにしたから…だから雪が降ったんだ。

例えば、「雨が降りそうだな、でも降らないだろう」と判断して 傘を持っていかないと、雨が降るという、あの現象。
その時は、傘を持っていくと雨は降らない。

もうすでにタイヤを取り替えてしまった札幌市民のみなさん。
23日朝の積雪は私のせいです。すみません。

今の時期の雪は、日が高くなればすぐにぐずぐずに溶けて夏タイヤでも 怖くはない。
ただ蟹屋などの水産系の仕事は朝が早いので、やはり怖い。

私は、雪が積もっているのを確認して、店長に電話をした。
「今、雪積もっているのは私のせいです」
「?」
「昨日、タイヤ交換したんです。で、今、夏タイヤなんです。だからすぐに出勤できません」
「また余計なことを!」

と、いう訳で、その日2時間遅れで出勤した私。
途中、前面が潰れてレッカー車がかけてつけていた車に遭遇。
札幌の桜開花はまだ。
待ち遠しいです。



4.6  【みかりん、外国語をあやつる】

私は英語は大の苦手だ。私の英語力はそれはそれは無残なものだ。
5段階評価の2をずっと維持してきた実績がある。
3に近い2か、限りなく1に近い2かは聞かないで欲しい。

そしてお店には、さまざまな方が来る。
もちろん英語圏のお客様も来る。
でも数ヶ国語をあやつる店長がいるから私はそういうお客様は店長に任せる。

ある日、香港から若いカップルのお客様がいらっしゃった。
母国語は広東語…?らしい、そうして怪しげな英語を操って話しかけてきた。
その英語力といえば、私とどうも同程度?のレベルっぽい。

英語の堪能な店長の英語では通じない。
相手の英語力も1に近い2と見た私は、話しかけてみた。
「でぃすいず けがに。べりー でりしゃす」
香港と日本を代表する英語2の実力同士の会話は、
ボディランゲージを加えながらかなり変ながらも コミュニケーションがなんとか成り立った。

残念なのはあまりに低レベルでここに再現すらできないこと。(笑)



2.14  【極寒の中での南国情緒】

雪祭りの真っ最中の時の話。
観光客の増減に左右される蟹屋は、雪祭り開催中は年末の次に忙しい時期だ。
この真冬のイベントの真っ最中に、お店に南国台湾からパイナップルのお菓子が 届いた。

以前にお店に来た台湾に出張中のお客さんが、年末年始に日本に向けて蟹を送りたい という。
でも台湾まで年末用のパンフレットを送っるってのもなかなか歯がゆい話なので、
電話口で山猫屋のURLを教えて、注文にこぎ着けたというお客様から届いたお菓子。

ご存じのように、山猫屋のサイトのアドレスは、ハイフン( - )はある、 チルダー( ~ )はあるというとても伝えづらいものだ。

何故ドメインを取らなかったのか! ホントはとても後悔している。
あぁ、その話はまた別の機会に。

電話口で伝えても、うまく行くはずもなく、グーグルで検索してくれだの何だのと 結構面倒な事を国際電話で話し、
何度かの失敗を経て、やっと注文にこぎつけた。

で、そのお客さんは、年末年始に時間差で送るという不思議な方法を取った。
そのお客さんは年末年始に国内に戻る。そしてあちこちの知人宅を泊まり歩く。
その行く先々に山猫屋から蟹が届くというフウにしたのだ。
何て素敵な!(嬉しいっ)

その時のお礼と言って、パイナップルのお菓子が送られてきて、
真冬の北海道で南国 異国情緒を皆で味わったという事なのだ。
極寒の中での南国情緒。良い話だなぁ。



1.17  【年末の蟹屋】

12/16
今、山猫屋のメルマガを書いているんだけど、大量疥癬……ってびっくりしたんです けど。
大漁海鮮ですってば!
疥癬森遭わせって何!海鮮盛り合わせですってば!
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12/20
ここ2・3日、めちゃめちゃ忙し過ぎてハイになってしまって、
バカバカしい単純ミスがおかしくてひとりで大受けして笑っていた。

タラバの脚をゴムで縛り、包丁で腹を裂いてはらわたを取り出し、
はらわたはゴミバケツに、タラバは沸騰した大鍋に。
という行程をリズミカルにしていて、お?と思ったら、
はらわたを大鍋に投げ入れ、 タラバをゴミバケツ…?
という所で、たった今したミスに気付き、ひとりで大笑いをしていた。
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12/23
たった今、メールで確認。
非常に難しい注文だ。現在の技術ではまだ不可能の領域だ。

  すみませんが、初めてなので、教えてください。
  横浜の友達の宴会に 「毛蟹」 をプレゼントしたいのですが、
  到着指定日が 12月21日の午前中としたいのですが、
  今からの申し込みで、配送可能でしょうか? 
  可能であれば、申込み方法をE-mailで教えてください。

現在は12月23日。世に言うイブイブである。
現在の技術では過去に送るのは無理。(笑)
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12/28
超繁忙期である。
それもあと数日で終わりである。
ゴールまでもう少し!
頑張れみかりん。31日はもうすぐそこ。
殺到する注文!迫り来る集荷時間!足りなくなる蟹!
休みなく火にかけられる大鍋!茹で上がる蟹!
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12/29
いやー、今、発送の忙しさのピークです。
もう売る蟹がないってなくらいです。
仕入れても仕入れても出ていってしまいます。

店長からは「もう電話注文は断れ」という異例の指令が下りました。

疲れてるよー。眠いよー。たぶん明日で大忙しのピークは終わりだと思う〜。
ゴール間近。っていうかゴールまで持つのか?
頑張れみかりん!
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12/30
もう蟹がない。
水槽に入っている蟹はもうわずか。
冷蔵庫に入っている蟹は、もう行き先が決まっている。
明日早朝発送分の今日炊いた蟹。

今日は、市場(しじょう)の御用納め。
で、蟹の仲買いは、もう売る蟹もなくなって状態での御用納めだったので、
正月用の自宅用の蟹の確保に奔走。(笑)

私の勤める蟹屋も蟹はなくなったけれど、営業はする。(苦笑)
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12/31
やっと今年の仕事が終わりました。
今日も蟹を大鍋で炊きました。炊き納めです。
取りあえず自分ち用に、メスタラバとか毛がにの小さいのとか適当に持ってきまし た。


8.1  【暑い話−2題】

最近、札幌では珍しく30度を越す日が続いている。
でも本州の方では40度前後を記録したとニュースが言っている。

その40度の地から観光客の方が訪れる。
私は水槽の活タラバについて説明する。
「活タラバはですね、足の部分をグリルやまたはホットプレートで焼いて焼きガニ に。
甲羅の部分は鍋にするとおいしいですよ」

鍋に?
40度の土地で鍋に?
灼熱の40度の土地で、足は火を使って焼き、そうして鍋をしろと?

お店には冷凍ケースや巨大冷蔵庫や製氷器など廃熱を発する機械がいくつもある。
店内は暖かい…んですよ。
札幌は昨日も今日も30度を越えた。煮えてる。
で、それでも蟹をボイルする事もある訳だ。
業務用の巨大な鍋に巨大なガス台。火力は強い。
そばに置いた長靴など溶ける。

あまりの暑さに冷凍ケースのひとつが不安定になり、水槽の水温も上がって蟹が危な い。
(水温は5度〜5.5度に設定しているが暑さのために利かなくなる)

店の外の景色を見れば、道路には逃げ水が見え、遠くの景色は陽炎でゆらぐ。
そんな中。私は40度の土地に帰るお客様に鍋を勧めていたのだ!
きゃぁ〜。(笑)

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ある時。
お店の巨大冷蔵庫のモーターが、ぶぅんと鳴って急に働きはじめた。
表示を見ると庫内の温度が上がっている。
私は「もしや」と思い、冷蔵庫の戸を開けた。
「何やってるんですか! 社長! またこんな所で涼んでいたんですか!」
「あんまり暑いんで。ここって暗いからなんだか眠っちゃいそうだ」

やめて下さい。
そんな所で寝ているのをみつけたら、腐乱を防ぐため冷蔵庫に保管し、
死亡推定時刻を撹乱した死体だと思うじゃないですか!



3.14  【オレオレ注文】

オレオレ詐欺ってのが流行っていたりします。
時々あるのがオレオレ注文。(笑)
これは以前、お店に来て蟹を買って、良かったからまた電話で注文っていう時に、 時々起きる現象です。
今日もありました。

「もしもし、オレ、オレだよ」
「は? どちら様ですか?」
「えぇ? 判らないのかな。A県のEだよ」
「以前、お買い物されたお客様ですね?」
「そう。オレ。でね、また注文したいんだけど」
「ありがとうございます」
「毛蟹5匹と、かんかい3コと鮭トバ2コ」
「はい。それでは住所をお願いします」
「だからこの間買ったオレだってば。伝票見ればわかるだろ?」
「はい。それではもう一度お名前を聞かせて貰えないでしょうか」
「オレ。」
「お願いします」
「しょうがないなぁ。Eだよ」
「A県のE様ですね。念のためお電話番号を教えて下さい」
「ooo-ooooo」

住所は教えて貰えない。
名前はやっと聞き出した。
でも電話番号を聞けたから最悪の場合は電話して住所を聞こう。

で、「この間」っていうからこの3月分の伝票を全部調べてみたけれど該当者がいな い。
で2月の伝票を探す。すると2月中旬に来店して買っているのを発見!
まったく。客はオレひとりだと思い込んでいるらしい。(笑)

みかりん「って事があったんだよ」

店  長「オレオレ注文だな」

みかりん「でね、電話で名前を聞き出している最中にね、壊れた椅子あるでしょ、
      あれに体重をかけたからバランスを崩して、凄い勢いでひっくり返って
      しまったの。私。それなのに、『みかりんは最後まで受話器を放しませんでした』」

店  長「感動的な話ではないな」


12.2  【地獄の役人のような私】

小さな会社なので私は何でもする。
何でもする中でも重要な仕事のひとつに、「蟹のボイル」という仕事がある。

毛ガニはゴムで縛ってボイルすれば良いだけなんだけど、
タラバは内臓を出して ボイルしなければならない。
そのままボイルすると身に内臓が回って身が茶色になるから…って言われてるけれど
そういうフウになった事はない。
たぶん内臓から傷むので売りものとして用心のために、
内臓を出してボイルするという習慣になっているんじゃないかなと、 最近思うようになっている。

ボイルしたタラバの内臓は食べられるんだよ。
先日TV番組で、料理人の鉄人、道場六三郎先生が「タラバの蟹味噌の鍋」っていう のを紹介していた。
だから私が取り除いたつもりで少しこびりついている味噌は舐めてもOKだよ。

お店に来るお客さんの相手をしながら合間に、蟹をボイルする。
ある日。とてもたくさんのタラバをひとりでボイルしなくちゃならない時があった。
2日間で100匹以上? ひぇぇぇ〜。私は他にもやることがあるのにぃ〜。

タラバはボイル前に腹をかっさばいて内臓を取り出す。
だから私は100匹分のはらわたをえぐり取り、ゴムでしばって沸々と煮えたぎる大釜に
生きたまま投げ込むという地獄の役人のような日々だったのさ。
私は大鍋の前やら流しの所で奮闘していると、同僚の声が聞こえてきた。
「みかりんの内臓出しが終わってから、イクラ詰めするわ」

ちょっと待て!
「みかりんの内臓出し」
すごい言葉だ。
たぶん今年一番の「忘れられない一言大賞」に該当する言葉だな。
私は地獄の役人か? と思ったよ。

全国あちこちに「蟹供養」をする神社仏閣があるという。
一度行かなければならないと思っているよ。


9.16  【人の目をした鮭】

仕事場の近くを走る小型トラックに、鮭の絵が描いてあるのがある。
鮭の絵はリアルで、海から飛び跳ねていて躍動感いっぱいで、
それはそれは活き活きと描かれているんだけれど。

ただ問題なのは、その鮭の目。
魚の目じゃないんだ。目だけリアルなどう見ても人間の目。
全体に写実の絵なんで、その怖さはいっそう引き立つ。
描いた人も描きながら怖かったと思う。
そしてその怖い原因が分からなかったんだろう。
札幌中央卸売市場の近くにはそんなトラックも走っているんだ。

で、ある日の出勤途中、
お店に近づくとたまに見かける例の「人の目を持つ鮭」の絵のついた軽トラックと
信号待ちで並んだ。
私は、絶好のチャンス!とばかりにデジカメで撮った。
パシャリ。
で、ここに公開だぁっ。
ここをクリック『人の目をした鮭』

8.27  【日本語の達者な】

お店には、いろいろなお客さんが来る。
家族旅行、社内旅行、新婚旅行、仲良し観光旅行、訳あり不倫旅行、
外国人旅行、者暴力団系の方、大会社の社長様、スポーツ選手、地元の人 etc…。

ある日、いつものようにお店に来たお客さんと話をしていた。
コーカソイド系の顔。白い肌はちょっと日に焼けてピンクになっていて、
ハンティング帽から少し見えている髪と、ヒゲは白と金髪が入り交じりっている。
ジョン・レノンがかけていたような丸いレンズのメガネがよく似合う。
東洋系の顔は、この手のメガネはこんなに似合わない。顔の彫りが違うからね。

私は、まったく外国語はダメだ。
その人は、まるで母国語のように日本語を操る。
送り状の住所の字も、汚く乱暴ながら漢字で書いた。
自身の名を日本名で書いた。どうも日本人名を拾得したらしい。

別れ際、私は言った。
「ずいぶん達者な日本語ですね。何年日本に住んでいるのですか?」
「!」
「?」
「あんたは、ずっと僕を外国人と思っていたの?!僕は日本人だよ!(大笑)」
「えっ?ホントに?」
「わはははは! 前にね、オウムの事件があった頃、自転車に乗ってると何度も警官 に職務質問されたよ。
パスポートを見せろっていうんだよ。そんなもの持っていないし。
持っていないというと怪しむし。そういう事が何度もあったよ」

なんて紛らわしい日本人だ……。(苦笑)

お店には、いろいろなお客さんが来る。
家族旅行、社内旅行、新婚旅行、仲良し観光旅行、訳あり不倫旅行、
外国人旅行者、暴力団系の方、大会社の社長様、スポーツ選手、地元の人。
外国人そっくりの日本人 etc…。


8.6  【冷蔵庫の中には】

今日は暑かった。北海道の短い夏。
巨大水槽があるお店の中は、水族館のようで結構涼しい。にも関わらず暑かった。
大鍋で蟹を炊くと、なおさら暑いしね。

で、お店に巨大冷蔵庫がある。
今日、冷蔵庫を開けると……そこには社長がいた。
「涼んでいたのにぃ〜」

冷蔵庫の中の電球の球が切れてるから、中は真っ暗なのに。
いつからそこに……。


6.19  【か・い・か・ん】

「姫タラと、かいかんは、どっちがおいしいの?」
お客様は、確かにそうおっしゃった。
私は冷静に
「姫タラと、かんかいですね。似てますよ。そう違いはないです」
と答えた。
私は、お客様に恥をかかせないように、つとめて何事もなかったように対応した。

でもここで冷静に対応できなかった人がいた。社長だ。
突然、店の外へ出て行ってしまった。ガラス越しにみると肩を震わして笑っている。
どうやら堪えられなかったようだ。

お客様が帰られた後の社長と私の会話。
「さっき飛び出して笑ってたでしょ」
「姫タラと“かいかん”って言うんだもの。かいかんだよ、快感。でへでへへへへ」
「姫タラと“かいかん”なら、『かいかんの方が気持ちよいです』と言えば良かった かい?」

どうも社長のツボに入ったようだ。
社長は今でも“かんかい”の前を素通りできない。
かんかいを見るとにやにやにやと口元がゆるんでいる。

かんかい:氷下魚(コマイ)ともいう。
     かちかちに干したものを、ちぎって食べるタイプと
     一夜干しの生っぽいタイプがある。
     一般には、干したものを指す。
     干したタイプも生っぽいものも、マヨネーズに七味唐辛子をかけて
     お醤油を垂らしたものに、引っかけて食べるととてもおいしい。

かんかい と かいかん は 似てる?

「かんかい」と「姫タラ」の商品の説明、購入は → ここ


7.1  【怪しい蟹は】

今日、蟹屋になんとも言えないとても安価で怪しい毛ガニがたくさん入荷した。
もの凄い量だったけど、とりあえず全部ボイルしなきゃと作業していた。

あしたからこの蟹を売るのか?
う〜ん。あんまり嬉しくないなぁ。
そう思って作業していたら……ふと振り向くと、そこには怪しい男が立っていた。

お客さんか? どうもお客さんらしい……でもなんか怪しさ100万倍。
身なりは最低。紺の作業ズボンに水色のポロシャツは汚れきっている。
髪や顔は最後に洗ったのはいつ?って感じで、白髪まじりの短い無精ひげは生え放題。
話す内容は矛盾だらけ。
その怪しい60歳前後?のおじちゃんは、その怪しい蟹をほとんど全部買い付けてしまった!

怪しい蟹が入荷したら、怪しい人がどこからともなく湧いてきて買っていく。
そういえば、先週もそういうことがあった。

タイプは違うけど、安価な毛ガニが大量入荷。
ボイル準備の作業に追われていると、 どこからともなく言語明瞭な背の低い冴えないおじちゃんが現れて、
「ボイルなど待っていられない」とそのまま買っていった。

その怪しい蟹の半分はおじちゃんが買ってしまって、その時点で元は十分に取れていた。

怪しい蟹は、怪しい人が買っていく。

今日、一部上場の代表取締役って人が突然お店にやってきて、たくさん買っていって くれた。
昨日、どう、ひいき目に見ても堅気には見えない、黒づくめのふたり組がたくさん蟹 を買ってくれた。
財布の中には70万は入っていたのを私は見てしまった……!
だって一万円札を10枚一束にしているのが7束あったんだもん。
別に他人様の財布をのぞき見してた訳じゃないけど、みえちゃったんだもの。

でもね、先週と今週で得た教訓。
怪しい蟹が入荷した時は、怪しい人が湧いてくる。



6.6  【T商事の話】



お店から蟹を発送するとき、発泡スチロールの箱に保冷剤を入れて商品を冷やして送る。

そういう発泡や保冷剤などの資材を、T商事という所に電話して頼んでいる。
今日は、C-25という特殊な大きさの発泡が数個、急に必要となった。

「C-25を大至急お願いします」
「あの。在庫がないかもしれません。調べてから折り返し電話をかけます」
けれど待っても来ない。
もう一度電話をする。
こんな事を2回繰り返し、3回目で、

「え?まだ電話してませんか?ちょっと聞いてみますね……あっ、在庫はあるそうです」
「急いでいるんでいつ配達してくれますか?」
「さぁ、それはちょっと……配達の部署の管轄のことは」
と一向にラチがあかない。
私は
「もう、いいですっ」
と電話を切ってしまった。
いいですって言っても、すぐ使うんだよなぁ。困ったなぁ。

「店長、在庫はあるみたいなんだけど、いつ配達になるか分からないなんて、
ぬるい事言ってるんだよぉ。どうしよ」
「それじゃ、直接買ってきたらいい」
「え?」
「お金持って」
「どこに?」
「T商事」
「どこにあるの? 私知らないもん」
「……。?????」
「どこ?」
「隣り」
「え? 嘘っ」

私はお店を飛び出して見てみた。
そこにはでっかい会社があって、看板を見ると……。
『T商事株式会社』とあった。

「知らなかった…。」
「もう1年になるよね。ここに勤めだして」
「私は、もっと遠くから運ばれてくると思っていた。そしてT商事はもっと小さい 会社だと思っていた」

1年かかって隣りの会社を知る。(笑)




3.10  【夢みるタラバ】

最初はちょっと不思議な注文メールだった。
「人を驚かすのが目的なので、出来るだけ大きなタラバを送って下さい」

不思議というのは、依頼主の住所。
私は目を疑った。あり得ない住所だからだ。それは「網走市」。
札幌に集結するタラバは、網走方面の海から、送料をかけ仲買を通し入ってくる。
直接地元で買った方がいいんじゃないか?

でもまぁ、注文主は真剣だ。私も売って欲しいと言われ断る筋合いもない。
だから巨大タラバを探すことになる。

網走方面の海で生まれ、札幌に運ばれ、ボイルされて巨大タラバは故郷へ帰るという
図式になるのだろうか。
依頼主の驚かしたい人というのが、もし網走に遊びに行った札幌の人だったら、
タラバは札幌人の胃袋に収まって再び札幌入りするのだろうか。

それって、メード イン チャイナ の100円ショップの品を中国人旅行者がおみやげ
に買って帰るのとそっくりな構図なんだろうか。

もう一度、送り主のメールを見る。
「送られた相手が蟹に襲われる夢を一生見続けるような大きい蟹を期待します」
送る私も夢にうなされそうだ。

送り先は大阪。
巨大タラバは故郷へ帰らず、札幌人の胃袋に収まるのでもなく、海を越えて大阪人の悪夢となるそうだ。

5〜6kg級の大きなタラバはお店にも時々入ってくる。
でもそれらはまず売れないんだ。
蟹の値段はおいしさの値段ではなく、重さの値段なんだよ。
大きすぎるタラバは重く値ばかり張る。

だいたいは限界まで水槽で飼って、あとは原価すれすれか原価割れで売ってしまう事になりやすい。

で、それから私は大きなタラバがあったら声かけてと、あちこちに言って回った。
でも、今タラバは脱皮の時期で大きいものは出回っていないし、
あっても身入りがよくない。探したけど見つからないんだ。

で私は注文主にメールを書いた。

 「送られた相手が蟹に襲われる夢を一生見続けるような大きいタラバ」という注文
 を受け、私の方が夢に出てきそうな状態です。
 今、タラバは脱皮の時期を迎え、「大きいものがあるよ」という情報で見に行って
 も、身入りの良くないものが多く、なかなかこれっというものに巡り会えません。
 それでも、なんとか見つけます。 もう少し時間を下さい。

すると返事が来た。

 いそぐ話しではありませんので、どうか納得のいくものを捜してください。
 「空腹は最高の調味料」といいます。
 相手には「海の幸」が届くとだけ話してあります。
 待てば待つほど、手に入れたときの感激は大きいものになるでしょう。
 ついでにゴルゴ13に依頼したので安心しろと伝えました。
 で、いま彼が海に潜って捜していることになっています。


ゴルゴって私のことか?
彼って私のことか?
私は海に潜って、巨大タラバを探していたのか?(笑)

そんなやりとりをしていたら、今日とうとうタラバの夢を見てしまった。
夢の中のタラバは、南米のヤドクガエルのように真っ赤と真っ黒の見るも毒々しい模様が入っていた。

「これもタラバなの?」
「そうだよ。水槽に入れて、明日の発送に使うんだよ、水槽に入れておいて」
夢の中の私は、赤と黒のハデハデ模様のタラバをむんずと掴み、水槽へどんどん入れていった。
という地味な夢。(笑)

タイトルの「夢みるタラバ」は正確には「夢にみるタラバ」でした。(笑)


12.7  【ペット】

ある日の、お店でのお客さんとのやりとり。
蟹の巨大水槽の前で。

お客さん「あっ、すごい。活きている蟹がいるんだね」
みかりん「はい。活きたまま送ることもできます」
お客さん「へぇ、届いたとき活きてるの?」
みかりん「はい。そうです。その場合の食べ方は、足をハサミで、ちょんちょんと
     切ってホットプレートで焼きガニに。またはお刺身に。甲羅は鍋物に…」
お客さん「いやいや、そういう事ではなくて」
みかりん「は?」
お客さん「飼えないかな」
みかりん「へ? 飼う? ペットとして?」
お客さん「そう」(目を細めて蟹を見つめて、にこにこしている)
みかりん「えっとぉ……。水槽の水は、これって海水なんです。海水を持ってきて入れているんです」
お客さん「そうかぁ、無理かぁ」
みかりん「たぶん」
お客さん「それじゃぁ、ボイルしてある蟹を貰おうかな。自分で茹でるのは可哀想だし」
みかりん「ありがとうございます」

「蟹、おいしいですよ!」と力いっぱいに言えないやりとりになってしまった。
「蟹、可愛いでしょっ」て言えば良かったのか?(笑) 



11.20  【妄想:蟹SM】

-蟹SM-

「何?蟹を食べたい? 私の食べた蟹の殻でもしゃぶってな!」
「はい。女王様の蟹殻なら喜んで」
「タラバの足で背中をたたいて欲しいか?それとも毛蟹の毛で脇腹をこすって欲しいか?」
「あぁぁ。」
「蟹殻を舐めたい?お前なんぞ、はさみの先っちょでも舐めていなさいっ!」
「はぁはぁ。」
「ほぉら、蟹味噌だよ。私が味噌を舐め尽くすところをお前はじっくりみるんだよ。  ほぉら。ほぉら。」

  ひざまずいて殻をお舐め
  味噌の旨味に顔をゆがめ
  殻の突起に舌先を傷つけ
  紅い滴で白い肉を濡らしながら――

蟹の足は鞭のようにしなやかな柔肌に食い込んだ。
ピシッ!ピシッ!もっと、もっと蟹をおおおおおおおお

「ご趣味は?」
「蟹SMのメルマガを発行しておりますの。」
「あぁ、世界初蟹SMの発行者だったんですか? ボ、ボク取ってるんですよ!」
「あら、まぁ。」



10.28  【ザリガニ】

ある日の、お店でのお客さんとのやりとり。

みかりん「試食をどうぞ」
お客さん「あら、おいしい」
店 長 「毛ガニとタラバは、種類が違うのですよ。足の数が違うでしょう?」
お客さん「ほんとだぁ。」
店 長 「毛ガニは、蟹の仲間。タラバはザリガニの仲間なんです」
みかりん「??? ヤドカリ」
店 長 「はっはっは! そうそうヤドカリヤドカリ、お客様はどちらがお好みで?」
お客さん「毛ガニにしようかな。蟹味噌がおいしいし。タラバは味噌がないんですよね、ザリガニの仲間だから」
みかりん「ヤドカリ」
店 長 「あぁぁ、俺のせいで変な覚え方をしてしまった…。」(どこかへ消え去る)

みかりん「大丈夫ですよね」(にこっ)
お客さん「もちろんですよ。毛ガニは蟹の仲間で、タラバはザリガニの仲間なんですよね」
みかりん「ヤドカリ」
お客さん「そうそう、ヤドカリヤドカリ、大丈夫ですってば。はっはっは!」 


10.03  【そのスジの方】

お店にはいろいろなお客さんが来る。
先日。ついにそのスジの方がいらした。
黒塗りのピカピカの大きな車が、店の前に止まり、黒の上下で身をかためた男が ふたり店にやって来た。

ひとりは、妙にかしこまっている。
もうひとりは、鷹揚な物言いだ。
う〜ん。小指がぁ……ない。その小指のない腕に高級時計が光っている。
そのスジの人だ。
話のノリは良い。目が笑福亭鶴瓶に似ていて笑うと優しい。
お。私はこの人、そんなに苦手じゃないぞ。

その人は、大雑把に物を選んで行った。翌日、慎重に商品を詰め、送る。

その後、電話が来た。私が電話を受けた。
名乗らずにどんどん話をする。私はなんとなくそんな気がしたので
「あの。もしかしたら○○様ですか?」
当たった。相手は、それで機嫌が良くなった。
用件は、ぬかニシンがおいしかったので追加注文だ。それといくつかの品物を指示。
承って、慎重に電話を切る。

さぁ、それからが大変だった。
ぬかニシンは、あれから仕入れるメーカーが変わって、あの時と同じぬかニシンがなかった。
でも指示してきたのは、カズノコ入りぬかニシンだ。
今、店にあるぬかニシンは、カズノコが入っていない。
きゃぁ〜。どうしたらいいの?

前回送った送り状の控えをみても、電話番号が書いていない。
こちらから連絡が取れない。う〜ん。ピンチかも。

それでも八方手を尽くし、やっとカズノコ入りぬかニシンをゲット。
ふぅ。前回とメーカーは違うけれどこのメーカーのぬかニシンもおいしいんだ。
よしよし。

で、改めて、送ることになったぬかニシンのパッケージを見て、驚いた。
なんと丸の中に「や」の字が。それがこのぬかニシンを作っているメーカーの屋号ら しい。
う〜ん、う〜ん、ワザとじゃないんだよ、皮肉でもなんでもないんだよ。
怒らないでぇ。

9.14  【たこまんま】

世の中には「たこまんま」というものがあるらしい。

タコのタマゴがどうだかしたものらしい。私はそのようなものは知らない。
だから、お客さんに「たこまんまってある?」と聞かれて、店長に聞こうと思いメモを取った。
私は、メモ用紙に「たこまんま」と書いたつもりだった。
お客さんも私の書くメモをのぞき込んでいる。
私は平仮名で「たこまんま」と書いたつもりだったんだよ。
それがねぇ。私が書いた平仮名は「たこまんこ」。

「!」と私とお客は同時に思って、私は慌てて書き足して「こ」を「ま」にしたんだ。(笑)

7.17  【ゴジラ級の巨大毛ガニ】

私は粗忽者である。

蟹のネット販売をすることになってさっそくホームページ(以下HPと略)を作った。
すると嬉しいことにまもなく注文が来た。

「ボイル毛蟹の500kgの2500円を2つお願いします」

何! 500kgの毛ガニ2つだと! ってことは2つで1トン!それを2500円で!
いったい私はHPで何を書いたんだ! 驚いて山猫屋のページを見る。

そこには
400g \2000
500kg \2500
650g \6000
と表記されていた。そんなバカでかい毛ガニなんて……ない。

あまりの事にしばし茫然とし、慌てて注文主にメールを書いた。

 ここは500gの毛ガニの間違いです。
 500gの毛ガニでよろしいでしょうか?
 いや、欲しかったのは500kgの毛ガニだと、おっしゃるのなら、
 山猫屋の意地にかけても7つの海を駆け巡って巨大毛ガニを探しに出かけます。
 しかも2500円の送料全国一律の\1300で。(涙)
 どうかここは500gの毛ガニで勘弁して下さい。

すると返事が来た。


 そうでしょ、そうでしょ、「なんかおかしいなぁ。」と思いながら、
 でも画面に書いてあるし、もし写真と違うのが届くと嫌なのでひとまず
 書いたのですが、そうですよね。 ほとんどゴジラとかガメラの世界ですよね。

もう少しでガメラゴジラ級の毛ガニを売る所だった。
こうして開店早々のピンチを脱した山猫屋だった。


5.3  【うまくて素敵な宇宙じゃないか!】

蟹味噌のうまさと生ウニのうまさはは絶品だよね。
取れたてのウニをね、こう、痛い痛いと言いながら包丁でパカッって割ってね、
スプーンですくってへろろんと口に含む。

蟹味噌ってのは、蟹全体からするとちょっとしかない。
そこがまたいとおしさをそそられる所でもある。
蟹味噌もウニも、口の中でわぁっととろけて広がるのを全身の感覚器官全部をその一点に込めて味わう。
この閉じられた世界も。またひとつの宇宙だなと。

しばらく余韻に浸り、ふたくちめを味わう。
全身の感覚器官が、ぎゅっと味覚に集中するのを感じながら。

うまくて素敵な宇宙じゃないか!

そうやって蟹味噌とウニに宇宙を感じながら、めくるめく至福の時を過ごす。すると……。
残り少なくなっていく驚愕の事実!
この現実を直視する事が出来ない!
宇宙がぁ!私の唯一絶対の宇宙の終焉が近づいているというのか!

蟹味噌と生ウニの織りなす生臭い小宇宙の終焉。

あっ……!牡蠣(カキ)。
その牡蠣、私の! 他の人食べちゃダメ。
生牡蠣にレモン汁をかけ、るるるんと口に入れる……。
わぁお。

生ウニと蟹味噌の恍惚の世界と繋がるあの感覚が再び私の元に……!
そうして、生臭く堕落した背徳の世界に身をまかすのであった。