砂漠の雨




泣き声がする
泣き声が響き渡る
五、六歳の少年の鳴き声が響き渡る

雨の中 響き渡る
母親を呼び続けながら 寂しげに
響き渡る

助けもなく  孤独な中で
雨は降り続け 道は川となった
でも泣く

雨水は服の中にも入り  泣き声は
凍えさせる       響き渡る
    砂漠の真ん中で

何年も雨が降っていない砂漠の中で
雨は降る 涙と共に

少年を自身への怒りが彼を泣かせる
   自身への嘲笑が彼を泣かせる
   自身への嫌悪が彼を泣かせる

雨音の声と少年の泣き声が 大きな大きな泣くような音を形成する
少年の泣き声に反応するように雨足は強まる

雨は止まない
性根円を慰めるつもりなのだろうか
止む気配は全くない
少年はまだ泣いている
泣き止まない
少年が雨乞いしているかのように



いいかげん涙は枯れはて
泣き止んだ
雨も止んでしまった


心地好い湿った空気が少年の肺を潤した
乾燥地帯に住む彼初めて感じる空気の味だった
柔らかな味だった

目を移すと 緑色があった
砂漠の中に植物の種があったのだろうか
小さな柴の様な植物が生えている
おそらくすぐに枯れてしまう 雨の時だけ発生する植物だろう

少年が初めて目にする美しい緑だった

太陽は今までにないような優しい日光を彼に浴びせた
いつもと違う女性的な日差しだった

一本だけある赤い花にも日が照り
少年はそれに見入った
すぐ枯れる花に見入った

少年はようやく少し笑った


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