老婆の墓場



夜の墓場に
人がいる

一人の老婆が 穴を掘っている
再び下にいる人の体を 外気に当てるために
細い
弱々しい 体に気遣うように
柔らかい土は 不思議な速さでどけてゆく
歯の無い口は 何かを呟き
女の墓を暴く

違う 暴いていない




土はどけられ
棺の中
女はいる
死んだ女
大きな腹の

中身は子供



月明かり…………
血の出ない腹は切られた
堅い褐色の血は
何も汚さない 匕首も何もかもを
子供を腹から取り出す 老婆さえも

恨みは起きない
感謝が起きる



小さな子供
生まれなかった子供
村の老婆は 優しい老婆は
手に取り泣いた

かわいそうな子
かわいそうな母
老婆は彼女を良く知る
だから泣く



生まれなかった子供
異形の子供
人の形をなしていない子供
白いきれいな布に包まれる
新しい胎盤

母は再び棺の世界へ
二度と外気に触れることはない
土の中で手を振った
霊魂は手を振った

老婆が抱える 我が子に
信じて
また会えるのを


老婆は行く
遅くも できる限りの速さで
危ない道で
夜は短いのだ





彼女の
墓の中にいる女の 死んだ妊婦の


その前の茂み
額を赤く塗られ
土の中へ
第二の母の中へ



陽は昇る
朝は来る
夜と言う 別世界の時間は終った
朝と言う 常世が戻ってきた
腹の中の子を
家の前に埋めるということ
彼岸の朝である 此岸の夕の葬儀の後
老婆が一人行き 取り出すこと
それは 儀式
再び会うための儀式
生まれ変わり 家の別の女の元に生まれるための

罪じゃない
悪じゃない
祈りの儀式
慈悲の儀式



こうしてまた
子は生まれる

老婆は 陽に手を合わす
女尾の冥福を祈って
この生まれ変わりを願って

家の平和を願って



(実際、昔の日本にこのような儀式があったそうです)


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