最後の授業




 授業が始まりました。
死刑になる、少年への授業です。
それが、静かに始まりました。

 今まで、多くの事を少年は授業として学びました。
読めなかった字や金属の加工について、歴史上の人物についてや難しく未だわからないままの哲学まで学びました。
また、人を殺してはいけない理由も学びました。
 少年はこの授業が一番印象に残ったと語ったそうです。少年は人を殺したからかもしれません。

 最後の授業。
それは少年が特に希望した、人を殺してはいけない事の復習でした。
神が霊によって人を造ったためとか、自分が自分の命を愛しているのなら他の命までも大切にすべきだとか、父母を始めとする祖先の命が人の中にいるためとか、いろいろな古今東西の答えでした。
それを、以前と同じくノートに写し取っていきます。
 命が大切なら、自分が死刑になるのはおかしいのではとも思った物の、それも仕方ないと少年は、ノートの欄外にさらっと書きました。
 多数の人々から自分は死を望まれています。人を殺してしまいそれを償うという意味で死ぬのを昔はわからなくても、今はわかります。
でも正直、別の理由で死を受け入れていました。
  言葉に上手くできない理由でした。

 少年は何だか晴れやかな気持ちでノートに鉛筆を走らせ、その手を休めるとノートを閉じました。
授業が終りました。
もう、少年は学ぶ事が無いでしょう。
近々、少年は罪を償うために、刑に処されるでしょう。
大半の学んだ事は、役に立たず虚空へと消えます。
今までの事は、無駄だったのでしょうか。
 そうではないでしょう。
これは、祈りでした。
 その少年がきちんと人間としての心を持ってほしいという祈りでした。


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