始母の夢


久しぶりに夢を見ている。

そこはまた、暗かった。暗闇が広がっている。
でも女性がいた。裸の青白く鈍く光っている、女性が。
眠りに落ちているのか、死んで黄泉に行っているのか、官能的な体を横たえている。
清純な顔、二つの乳房の大きな丘、キズもシミも黒子も無い胴、満ち溢れんばかりの腰、長く細い足……。
そして長い白い髪を足元までゆったりと流している。

不意に目を見開いた。目の色は辺りが暗くわからない。息を、深く吸い込み、体が一瞬膨れ、縮み、元の通りになる。
目を再び閉じた。ゆっくりと何か惜しむように。

何かが彼女の体に落ちてくる。
ポタッ……ポタッ……、と一滴づつ液体が彼女の体に落ちてくる。
延々と液体が落ちてきた。
顔に液体が溜まり、こぼれ落ちる。
彼女の顔を道連れに。液体の伝った跡は奇妙にえぐれている。
痛いのか体をくねらす。表情を変えずに。

この液体は何処から落ちてきたのか、はるか上空から落ちてきているようだった。
いや、違った。
今度は彼女の背中に液体がかかってきた。
液体が一滴づつ垂直に吹きかかっているようにも見えたが、今度は足の裏にも液体はかかってくる。水平に一滴づつ足に液体はかかる。
彼女を中心として重力が働いているようだった。

液体は止まらず断続的にあらゆる方向から彼女にかかってくる。
溶けていった。私はただそれを見ているだけだった。

美しかった顔は泥のように溶け出し、両足は一本になったかのように溶けてしまい、胸のふたつの丘は潰れきった。
跡形も無くなった。
そして最初に液体がかかり始めた顔から何かが生まれた。
それは青色と白色で……、青色が暗闇を侵食し、白色はぼんやりと所々を跡を残した。
二つの胸があった部位は再び……丸く集合し、力強く光る球と弱く光る球が生まれた。
太陽と月だろうか――。
腰の辺りからは緑が生まれる。黒茶色の物がその下にある。
草木と土……。
背中は一気に器を傾けるようにこぼれ出し、青い空と違う青をそこに置いた。
海なのだろう…。
長く細く、白かった足はさらに白くなった。
周りが青と白に侵略された場所に再び黒い世界を置く。月があるところに……。
ビースのように輝く星月夜がそこにある。

最後に二本の長い腕たちは他の体たちが形作った世界にその身を置いた。
細かく細かく分かれ始める。
生物達の声が聞こえる。
腕は海と陸と空にその身を置きさらに分解を始める…。
生物達が生まれた。<>rb その世界は色彩で満たされた……。
彼女の子孫たちは世界を彩る。
彼女の世界は子供たちで満たされた。彼女の体を元にして。


私の目が、開いていた。
ここは現実だった。彼女が形作った世界はもう見えない。
彼女が犠牲になった世界はもう見えない。
今見ている世界も、彼女が元になったのだろうか?



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