悲しい火



戦いの日
戦火は燃え続けた
家も 木も 本も 人も 人々も
心も
怒りの心が
悪い方向に
ひどく燃える劫火は
更なる火を呼び
その火は さらに火を呼んだ
滅びの火
恨みが全てを燃やし
恨みが人を燃やした

終らない
火の戦は 終らない
全てを燃やして 壊してゆく
でも
終らない
助けを呼ぶ声
聞く人はいない
助けの声は燃えて 消える

本が薪のように
人が柱のように
家が山のように
燃える
消す人はいない





血が
落ちてきた

紅い血
あたたかく 時に冷たい 血
そんな血を流す人がいる
どこからか来た人が

泣いて
血の涙で 泣いて
血の涙を 流して
そして全身から 絶え間無く血を流して
その人の体は 固まった血で黒っぽくわからない
顔も体格も服も あまりの血でわからない


血が地面に跡を残す
ナメクジの跡のように 血を残す
そのままで
火の中に入って 泣いた
わんわんと泣き 血を流して
火を消した
その血は止まる事も枯れる事を知らないのか
ずっと流していた


でも火は止まらない
まだ燃えている 辺り一面に火は燃えている
戦いがまだ続いているから
まだまだ燃えている
火は消えていない
男の行為は無駄に終る
人が作り出す 地獄は終わりがない




雨が降った
かつてない大雨が降り
全ての火は消え
人が燃えた後のような臭いの中
血が蒸発したような悪臭の中
人々は空を見上げた
血の雨が降った後の空を
青空
その中に大きな男がいる
血を流す男
あの男だ
血の雨を降らせた男
血の洪水を作った男
空にそびえる巨人となった男の登場により争いは止まっている
みんなその男を見上げた
みんなその男を    見つめた


最初静かだった
男は何も言わずに 下を 下の人々を見つめた
見つめながら
少しづつ
嗚咽が始まった
血の涙が少し流れ始めた
口からも 花からも 耳からも
血が流れ始め
大声で泣いた
血の大雨が再び降る

洪水が 再び発生した
痛々しい血液が また流れ始める


それは
火を悲しむ感情だった
夜を昼のように明るくするばかりで
命を無くし 全てを無くす 日を起こす事への
悲しみだった


それは長く続いた
人々は眠れなかった 火の中でも眠る人々が
悲痛な助けを求む声の中でも眠る人々が
傲慢な人々が
男の怒りを聞いて
哀れみと言う怒りの声を聞いて
あまりの血の池により発生した
血の霧を 体内に吸い込んで


男はもういない
黒褐色の固まった血の街に もう火はない
争いは終わり 血を取り除く作業が続いた
でも鮮血が少し落ちている
あの男が来るのか 鮮血が落ちている

再び発生した 心の火を消すために


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