一瞬の


 ある男が花を探しておりました。華かな祖国の王妃に捧げる花をです。
その道中でのおそらくは幻、おそらくは白昼夢であります。
 男は踏みしめられた道を歩いておりました。いつものとうり歩いておりました。
そうしておりますと、道が一部少し盛り上がっております。特に気にとめず歩き去ろうとしましたが急にそこから人がたくさん出て来ました。
只の人ではなく上下とも多くの短冊ごとくの人によって違う鮮やかな色の布切れがびっしりついた服にそれと同じ顔を隠すような帽子らしきものをかぶり うつむいて二手に別れ道をゆっくりと歩き去っていきます。
「もし」
男はあっけに取られましたが最後に出てきた者に声をかけました。
「何でございましょう」
「あなた方は何者なのでしょうか?」
「一瞬の者です」
「其れは一体」
其の者は手を横に大きく広げ一気に大きな拍手を打ちました。
「何ですか?」
「今の柏手はどこに行かれましたかな」
「虚空へ…行かれたのでは」
「しかり」
その者とは違う色をした者がいきなり多く現れ、
「しかり」
「しかり」
「しかり」
「しかり」と言われました。
「一体何者なのです?」と男は叫びました。恐ろしく感じたのです。
「恐れなり」
「喚起なり」
「笑いなり」
「栄華なり」
「没落なり」
「怒りなり」
「希望なり」
「絶望なり」
そうそのものたちがささやいた後、
「一切は一瞬なり。一切は華なり。われらは華、一瞬の華」
と一斉に言い少しばかりの沈黙の後
「探すが花は沙羅双樹の花。其の色は盛者必衰をあらわす。われらは華。一瞬の花」
そう言うと其の者達の服は急に色あせ水分が無くなったかのように枯れ、其の者達も枯れたようになりつむじ風で飛ばされました。
男は不安になり早急に戻りましたが、栄華を極めた男の祖国は滅んだとのことであります。

華は咲いて枯れるのみ たとえ其れが美しき華であっても


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