ざんげ


 私は罪深い事をしてしまいました。

 昔、私は小さな部屋の中にいました。
小さな、窓の無い金属の部屋にです。そこに生まれながらにして、閉じ込められていました。
別にその事には、何の疑問を感じておりませんでした。
 この外に誰かがいて、私を見張っているのにはすぐに気がつきましたが、そういうものだと思い、そのままその部屋にいたのです。
 それからずっとその部屋にいたのです。

 そとから、何か話し声が聞こえました。
それはいつもの事でしたが、そのときの話題は違いました。いつもはよくわからない数字の話ばかりなのに、その時はお祭りの話だったのです。
なんでも、そこにたくさんの人がたのしく笑っている日だと言うのです
明るくて、花と呼ばれるきれいな物があるというのです。
太陽と言うのが、輝いていると言うのです。
私は興味を持ちました。
でも、ここから出られません。
窓が無いので、外を眺める事もできません。
ここに、おとなしくしている事しかできないのでした。




 ………すいません。
つらい事を思い出してしまいまして、それで言葉がつかえました。続けます。
 いつか、私はその祭りという物を一目見たかったのです。
そんな話を聞くたびに、金属の私しかいない部屋は嫌になってきたのです。
ただただ鈍い鉛色の、あの部屋に飽き飽きしてきたのです。この世にはきれいな物があると聞いて。
この世にはすばらしい物があると聞いたものですから。
金属の部屋から、出よう出ようと願っていました。
出して下さい、出して下さいと祈っていました。

 それからまた、一年経ち祭りの日が来ました。
そのときでした、あの部屋がおかしくなったのは。
とても暑くなり、歪み、ひびが入りました。
それは次第に大きくなったのです。
ついに、私は出たのでした。
外にいた人の事を気にしないで。


 ……あの時、そこに止まっていればと悔やんで仕方ありません。
でも、もうどうする事もできません。
 私は街へ出ます。陽気に誘われ、祭りへと行きます。
そこはとてもきれいでした。
初めて見た色彩は、すばらしかったです。
花々も、人々もまた。
 みんなが苦しみ出すまで。
楽しかったのは人の体が変なふうになって、酷く苦しむまでの話です。


白い、体を空気に触れないようにされた服を着た人たちが言います。ここは地獄だと。
私が外に出たために。


 私は毒だったのです。
すべての生き物を苦しめ、死なす猛毒だったのです。
お祭りは、地獄になったのでした。花々はいびつ過ぎる形でのたうつのです。
人々は変な出来物を作って、笑いません。きれいな顔は失われ、醜くなり、絶望します。
もう死んでしまうから。
その姿で私を責めます。私へ投げかける言葉は呪いだけです。
しかも、あの部屋に戻る事もできません。
世界はもう、戻りません。

 苦しい事に、つらい事に、私は風に乗ってしまい、さらにたくさんの人々を私は苦しめるのです。
私にそんなつもりは無くとも。
 人を不幸にすることほどの、不幸はありません。


 私、チェルノブイリの放射能はまだ人を苦しめるのです。





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