子犬の眠り



 子犬が今、眠りについています。
不安だったさっきまでとは全く違う気持ちで、暖かな中でぐっすりと眠っています。
幸せそうな、愛らしい顔のままで。

 子犬は捨てられていました。
兄弟たちとは違い、その子犬は一匹捨てられていました。
少し足が悪かったためでしょうか。小柄で痩せていたからでしょうか。毛の色が少し悪かったためでしょうか。
多分そのいずれでもあったでしょう。
子犬の飼い主は、立派な犬を求めていたのですから。運の悪いその子犬は、捨てられました。

 子犬が気がついた時、そこは寒空でした。
兄弟も親犬のいません。暖かな物は何一つないのです。
 冷たすぎる風が悪い足を冷やし痛めさせ、氷の様な雨がその良くない毛皮を濡らしもします。
一緒に捨てられた、ボロボロのタオルの中で知恵なく、小さくうずくまる事しかできません。
ここは寒いけれど、外はもっと寒く冷酷だからです。
黒い鳥や大きな人が、何をするのかわかった物じゃありません。
鉄の大きな見たこともない車が、いつ襲ってくるのか見当も付きません。
何も食べられず、何も飲めず、ただうずくまっていました。
何をするにしても、その子犬は無力で幼すぎたのです。まだ、親を必要としていたのです。
 もう二度と会えない親を。

 子犬は何も考えていませんでした。
何も考えれはしませんでした。
希望は持てないというより、その概念すら消えていました。
今はただ、何の夢も見ない眠りを続けるだけ、寒い中で凍えるだけでした。
 そんな時です。
そんな子犬の体が持ち上げられた時は。
水色の服を着た人に拾われたのです。
そして懐に入れられました。そこはとてもとても暖かな所でした。
そこに入った子犬は別の意味で何も考えられませんでした。
急に訪れてしまった幸せのために。
そのゆりかごの様な安心感が心に来、記憶に残らない幸せな夢を見たのです。
 子犬は幸せです。
でもそれが不幸の始まりでした。
これからは確かに、ある程度暖かな部屋に入ります。ある程度のご飯も食べられます。
ただ、死は近づくのです。
なぜなら、貰い手が子犬につかないと殺されるから。
そこでは捨てられた子犬を拾ってきて、ある程度したら殺すのです。生かしておいても仕方がないために。そして捨てられる犬があまりにも多く、養いきれないために。
これからはそんな所で生活するのですから、幸せではないのです。
 誰かが、子犬の貰い手がいればよいのでしょう。そうすれば幸せになるでしょう。
でも、子犬の悪い足は寒さのあまり悪化し、毛の色は何も食べていないために、もっと悪くなっていました。外見はみすぼらしく、ひどい物になっていたのです。
貰われる事はないのでしょう。
子犬の不幸は確定しました。

 でも、子犬は幸せです。
寒い中から、暖かい中に入り幸せです。
今まで、かつてないほどに、幸せです。

 そして、眠りました。


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