男と女



ふと、男が死んだ。











永い時が流れた。
裸の女が男の前に立っている。
涙はもう出ない。
黒の服は破り捨てた。じっと、白い布が掛かった男の前にいる。

女の紅い唇。
それは男の紫の、暗い紫の唇を求めた。ゆっくりと。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
ゆっくりと。

唇同士が重なり合う。




冷たい、唇だったのだろう。


一本の粘液が二人の間に引いた。


男は 裸だった。
もうすでに。彼女よりも先に。ただ布をまとっていただけ。それは今転がっている。

赤裸の一対の男女がいる。


(ただし対照的な)



もう男は女を求めない。
胸の中、女を入れない。閉じ込めない。
勃ちもしない。捕らえず、逃がす。
死んでいるから。

女はかつて男がした事を、男がしたがってた事をさせる。
自分で、
手取り足取り。



男の胸の中、女はいる。
悪い匂いに気づかずに。胎内に彼を入れて。

男の胸の中、女はいる。
悪い匂いに気づかずに。胎内に彼を入れて。




眠り、眠る。



夢を見る。
男との夢。二人の夢。二人だけの夢。
楽しかった夢。


いない夢へ。
男がいない夢に。
ささやき合う夢は、裸でいた夢は、
裸で一人でいる夢。孤独の夢へ。

男は死んだのだ。





男は死んだのだ。



暗い中一人ぼっち。
女は一人ぼっち。



日の下、一人ぼっち。
女は一人ぼっち。
明るくても一人ぼっち。



裸で、女は穴を掘る。
粉の骨となった男を入れる穴。

男の粉は自分の中にも入れた。
体の中のゆりかごにも。


まだ、女は裸でいる。
男は女の体に染み付きかけている。服を着たら、取れてしまいそうだった。
だから裸でいる。
男を埋めた後も。




髪と髪とを編んで結んだ。
女と男の髪。
切り取っておいた男の髪。
半分は編みこみ、半分は自分に生えている髪に結んだ。

女は裸のまま、赤裸のまま、
川へ。
軽やかなせせらぎ。
そこに降りて、冷たい水に、
冷たい生命力の水に素足を浸す。
目を閉じそのまま。

目を閉じそのまま、日を浴び、立ちながら足を水に浸し、草と木々の緑に囲まれる。

男と自分を、女である自分を想いながら。
愛した男を想いながら。




二種類の髪を編みこんだ束を、女は流した。
やさしげで力強いせせらぎに。
女は、女と男を流した。



裸のまま、じっと、ずっと見守っていた。
流されるのを。
見守っていた。

裸のままで。


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