対称




人が二人来る。
一面ひび割れたアスファルトの世界で
男が一人づつ一切曲がらずまた対面するために表れた。
そらわ一面凹凸の無い平たい雲が続く。
その他は別に何も 無い。

「やあ」             「やあ」
声がした。二つの同じ音の声が同時に出、混ざり合う。
混ざり合いの余韻ができ、それが無くなって少し経ち、口が開いた。二人の口が同時に。
「何者なのだ あなたは」     「何者なのだ あなたは」
同時に二人の男は声を出した。
「この世界で                 「この世界で
 気づいたら           気づいたら
 あなたしかいない        あなたしかいない
 あなたは誰?          あなたは誰?
 私と同じ声を発するあなたは」  私と同じ声を発するあなたは」

呼びかけに 全く同じ呼びかけが返る 声が跳ね返ってくるように。
不安げな表情が 二つ 並んでいる。

「一体何回同じ事を繰り返したのだ    「一体何回同じ事を繰り返したのだ
いるのは僕 いるのはあなた      いるのは僕 いるのはあなた
いるのは僕だけ いるのはあなただけ  いるのは僕だけ いるのはあなただけ
何故ここにいるのかわからず      何故ここにいるのかわからず
語り合おうにも            語り合おうにも
同じ声しかここにはいない       同じ声しかここにはない
語り合おうにも            語り合おうにも
あなたも私も             あなたも私も
同じ声                同じ声
全く                 全く
同じ声を出す             同じ声を出す
同じ音を               同じ音を
出す」                出す」

そして同じ行動をする。
またいぶかしげに二人は二人を見る。
これで何回同じ事をしたことだろう。
男二人しかいない。 誰もいない。
なのに二人は語り合う事もできない。決して語り合えない。

無機質な世界の風が吹いた。
男の髪は揺れる。全く同じように。
男の服ははためく。全く同じように。
一方の男は右手を差し出す。同時にもう一方の男は同時に左手を差し出す。
温かくも 冷たくも ない手。そう二人は感じる。
そして顔に触れようとする。素肌が出ているもうひとつの場所に。
でももう一方の男も左右対称で全く同じように動き 手を出すから
触れない もう一方の男が阻むから 鏡に映っているように動くから。

アスファルトに立つ
語れない 手しか触れれない 二人の男は
顔と服がだけが違う男は ただ向き合って立っている。
この前と同じように
いつもと同じように
何もできはしない。

何故こうなったのか 理由は全く無く
何もできはしない。

二人は何もできはしない
ただそこにいるだけ。

「誰なんだ あなたは……」   「誰なんだ あなたは……」

同時に声を出すだけ。






最後にうなだれ
後ろを同時に向き合い 去ってゆく。
アスファルトと真っ平らな雲しかない星で。

多分またこの星の裏側で同じ事を 繰り返す。
何も無いこの星で 賽の河原の石積を 繰り返す。


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