月を見て



動けない彼女は
真夜中 眠れずにいる
弱々しい体 目に力はない
潜在する力を象徴するように 背は高くも
体は病的に 細く
眠れない
夢を見れないでいた

現実でも
眠りの中でも
苦痛が
苦痛が
原因のない苦痛が
夢を持たせないでいた
夢は逃げるも 苦痛は胸の中に住み着き
今は 彼女は潤まない瞳を 開け続けている
まばたきしないで
部屋の 暗闇に向かって



カーテンレールが音を静かに立てる
カギは音もなく開き
ゆっくりと 窓は開く
未来がどこにあるのかわからず 指し示せない
力ない指は
透明な窓ガラスを開けた

悪い目で覗き込む
床を這い 薄い布団を引きずって
冷たい風
身を切る冬の風 穏やかで凶暴で
冷たい息をさらに冷たく煙とする 風
それを顔に触れた

白い息
弱々しく何もしない できない彼女でも 息は白くなる
静かな夜
部屋とは違う静けさ

笑わない風景 弱くも強くもない風景
暗い夜  人気も音もない
風は彼女の身を切る 別に彼女は何もしない

月は光を与える
彼女にさえ 無力にさえ 安らかなまぶしくない 見つめられる光源
悪い目の彼女には月は
変に輝く光
空で月は光る やさしげに 無感情なのに やさしげに
彼女の目 細ませ 星々は同じく 光を与えた 無感情なのに
空は無常なのに やさしげだった
暗く怖い空に 星々と月は光っている
輝いている 悪い目を通しても ぼやけてしまう目を通しても
誰も見なくても 感情なく 輝いている
どこかやさしく

ずっと ずっと見つめてる 風の痛みはもう感じない 痛すぎて
痛すぎて
彼女の苦痛みたいに
何も感じない

長い足を床に転がし 痛みきった髪を窓の縁に流し
頭を窓のひさしに乗っけた
そのままで
見つめていた
何も考えずに 何も思わず 何もしゃべらずに
感じていた
泣いて 言葉にできない感情を
ずっと

長い間



右の空が明るい

元気そうな色 赤い色
太陽の色

星々と月は動き続け 輝き続け
無感情なやさしさで 彼女を照らしていて
少しづつ 名残惜しむのか
ゆっくりと
沈んだ

太陽が登る
無遠慮に
光を与えに
対象を選ばず 黒を駆逐し 青を空に広げ 白い雲をあらわにし
人々は
ぽつり ぽつり 道に出てくる
明るい顔で
表情のない彼女とは異質の

話し声がする
テレビ音がし始める 車の音がする 人が動く

太陽は上がる

月よりも高く


大きく息を吐き
長い時間をかけ 窓のひさしから 身を剥がし 足をゆっくりと立て
そろそろと
体を立たせた

光を浴びて

弱々しくも力強くあろうとして
 


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