自然墓地




 自然墓地のお兄さんが、僕を招きいれた。
点々と草や木が茂る荒地に、僕は手を引かれ、仰向けに眠る男の人の元に来た。
「死んでるの?」
「そうだよ」
「埋めないの?」
「埋めはしないし、お経もあげないし、祈りもしないよ」
そのまま放置されると言う。
そしてお兄さん以外の誰も、ここには来ない。
暗くてじめじめしていて、怖いこの墓地でお兄さんと、死んだ人は二人で暮らす。
「なんか悲しいね」
「いいや、悲しくはない」
「なんで?」
「悲しくないからだよ」


 お兄さんは、僕を招かなくなった。
「君には辛すぎるんだよ」
「どうして?」
「いろいろな生き物たちが彼の元に集まってきているんだ」
「するとどうなるの?」
「体の中から、バリバリと音がし始める
 ぼこぼことお腹からガスが出てきて、膨れる
 鳥や獣たちが、その人を食べる
 そして草や木が茂り始める
 今はもう、彼は彼の姿をしていない」
「今はどんな姿なの?」
「姿と言えるものはない。生き物の姿になった」
「どんな生き物の?」
「全てとしか言えない。彼を食べた生き物の体となって、君がその生き物を食べる。すると彼は君の体のものとなる。そして永遠にそれを繰り返す」
「終らないの?」
「終らない。生き物が生きている限り」
「体の中に………、みんなが生きている?」
「そうだ、その中に君も僕も彼も、みんな生きている」

 再び、お兄さんは僕を招いた。
同じように手を引かれ、点在する草と木を通り抜け、あの人の元に来た。
死んでいたあの人の元に。
 でももう、死んでいない。
草と木がそこに生えている。
お兄さんの袖を引っ張り、僕は聞いた。
「木になったの?」
「木にもなった。みんなになる」
見回すと、青々と荒野に点在する草は風に揺られている。
木々はざわざわ声を出す。
「あの草や木があった所に、誰かが死んでいたんだね」
「死んでたんだ。食べられ、ぐちゃぐちゃになった彼らの元に種が舞い降りて、芽を出した。死んだ、彼らを糧にした。そしてこの荒野を潤した」

「みんな死んでないんだね」
「死んでないよ。死んでいるけど死んで無いよ。死ぬのは良くないけれど、悪くないんだ。みんな、再び生きる」
 お兄さんは、そう言って、少し笑った。
 墓場で笑った。


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