苦痛の人




この世は苦だと言った

老いて動かない人を見て、病んで爛れるのを見て、死ぬ人を見て
何より泣きながら生まれるのを見て
愛する何かを無くして、嫌なものと出会い、苦しみ続ける人を見て
苦しみに出会う、誰もが目にしない自分自身を見つめて


この世は甘美だと言った

死の床につき、病んだ体を持つ彼は、苦だと言ったこの世へ、
そうささやいた
目にする少しの者たちと、目にする事のない多くの者たちが囲い、
甘さを覚えた
精神が感じる甘さを

そして静かになる彼は
  何を この世に見たのだろう


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