砂の海




砂をキックした
足が二本に分かれていない足でキックした
砂の中を泳ぐ
守られていないこの世で 泳ぐ
人魚の彼女は
力強く
光のないこの世で 彼女は光を見つける
砂の中のまばゆい光を
水がない 砂の中 守られない世界
自由を感じ 泳ぎ出す


枯れ果てた海の底
砂にまみれて彼女はいた 塩にまみれて呼吸もできぬまま
塩に水を取られていた 目は開かない もうずっと光は見えない
そして太陽は彼女を燃やす
何日も燃やし続けた

死の気配を感じた時だった
すっと
体が砂の中に落っこちた
空中から 水の中に入るように

砂の中はひんやりしていた
まだ目は見えない
呼吸は楽にできた
燃えた皮膚は冷気が癒す

体が動き出す
動けなかった体が要求し始める 疲れきっていたのに
彼女のしなやかな筋肉は 尾は
暴走した
何の目的もなく
何の方向性もなく
爆発した

感覚は飛んだ 痛みも苦痛もない
この感覚に トリップする
理性もなくした 今はただ 今はただ
今は酔っている このスピードに このパワーに

この異常なほどの
この異常なほどの

力…………止められない

今はただひたすら
水の中じゃない海の中でもない 砂の中

泳ぐ……………………………





そして砂の中から 顔を出した
ここにも海はない
彼女が生まれ育ったような海は 
もうこの世界から消え去ってしまったのだろうか
でもよかった
何か別の物が 理性とは別の何かが彼女の背中を押し続ける
砂の海を泳ぎ続ける

彼女の体の中何かがこみ上げる
それを赤色の夕日に黒い何かを吹きかけた
雨雲だった
彼女を燃やした沈みかけの太陽を 雨雲で遮る
さわやかな雨が降り注ぎ すぐに止んだ
わずかな雨
でもそれで清められた
塩で汚れきった彼女の長い髪は
頭と共に出していた やたら乾燥した鱗もひれもない人魚のつま足は
癒される

彼女の肺から何かさわやかな物が 再びこみ上げてくる 鼻腔に芳香を感じた
こらえきれず 口から吐き出した
それは砂だった いや
それは虹になった 嬉しそうに人魚は 砂を吐き虹を吐いた
七色の 微笑を

それを楽しんだ後
ゆっくりとまた砂の中に入っていった
いつの間にか見えるようになった 砂の海の中に

そして泳ぎ出す 何者かわからない力を持って
いずれ砂漠に作り出す
お腹の中に移動した 海を持ちながら

再び泳ぎ出す


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