青年



牢屋が運ばれてくる
人々の罵声を浴びながら。石を投げつけられながら。
人々の罵声を浴びながら。石を投げつけられながら。
一人の青年が入った牢屋がゆっくりと運ばれてくる。

青年は天使像の様な微笑を忘れず
血を流す。
顔から 額から 歯茎から 右腕から 左手から 胸から 左足の甲から 右膝から……
その他ありとあらゆる所から。

人々が冷静なら彼はこのような目には遭わなかったかもしれない。
今までよそ者でありながらこの土地で苦労を重ねつつ生活をしていたのだから。
得た物を彼より貧しい土地の者に分けていたのだから。
共に生きようとしていた。

彼は何も話さない。
生きることに興味がないわけでもない。死にたいわけでもない。
声を出す事ができないだけだ。
元からうめき声も出せない。
彼が悪くないのを知っている人たちは今いない。この場にいない。
集会での決定は覆る事はない。なにより投石や罵倒を止めさせようにも熱気を抑えようにも彼の冤罪を知る人は少なすぎる。

彼は壊すはずがない。
この土地の人々が日頃拝む像を壊す事は決してない。この土地に溶け込むため、誰よりもその像を拝んでいた。
彼を知る人々は皆彼が壊した事を否定した。でも彼は否定する事ができない。声を出す事ができないから。
人々の怒りは彼のせいにした。

多くの怒りの中、一つだけ微笑む彼がいる。
叫びの中、一つだけ清らかな静まりがある。

彼は殉ずるのを選んだ。静かに何も弁解せず あわてず 殉ずる。
人々の 思うがままに まかせた。
彼がしたのは微笑む事だけ。
そうして死へ向かう。

怒号と共に彼は牢屋から出された。
人々の前に立たされた。服のように血は包み込み、血の服はさらに厚くさせられる。
でも彼は、微笑む。
まるで絶対なる者からの祝福を受けるように。

最後の刑が始まる。
今までの何日にも休みなく続いた投石と罵倒の刑から命を終わらす刑が始まる。
それは死。
槍を刺した後の
王による首の切断。

槍が微笑む彼のわき腹の浮き出たアバラ骨の間を
貫通した。
彼は少しもうめかない。
怒りの表情の王は大きな刀を
大きな刀を
彼の頭と平たい体の間を通した。
まだ彼は微笑んでいる。血で顔が隠れながらも。

王は高々と青年の首を掲げ彼の顔を見えやすいようにぬぐった。
王は青年と対照的な笑いをする。
 彼は幸せそうに微笑んでいた。
 二度と他の表情にならず微笑んでいる。
人々が少しずつ静まってくる。
 これからも 今までも 彼は
人々は彼の顔を見る。
 微笑えんでいる  彼はずっと静かに。

 彼はあまりにも涼しく   死してなお
 微笑んで 死んでいる   微笑んでいる

王も人々も
彼が悪くないと知っていた人たちも
彼の首を見る。

沈黙して。
まるで彼のように一切しゃべらず沈黙して。

違うのは表情
無表情 それでだんだん
悲しみ。

よくわからない 悲しみ
憎い奴殺して うれしいのか
単に悲しいのか
怒るべきなのか 殺した奴に 怒るべきなのか
自分自身を怒るべきなのか 怒り狂うべきなのか
単純が急に複雑になった
怒りの悲しみ。

一人の男が走ってきて 彼の首でなく 体に抱きつく。
青年の体に突き刺さった槍に自分の腹を刺すために。

抱きつき死んだ者が壊したと皆知った。


彼の墓がある。
涙の塩で辺りが白くなった墓がある。
それでも彼は微笑んでいるのだろうか。
この土地にて死んで、人々が自らの死に悲しんでいるのをどう思っているのだろうか。


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