玉座の説話




壇上の玉座を見て私は幻視した。


そこでは玉座に誰かが座っていた。玉座は宝石がいくつもちりばめられた、豪華な物だった。
力なく、ぐったりとその玉座に人が座っていた。
その周りには何かが転がっていた。まだ何なのかわからない。


明かりが燈され、惨たらしい光景がそこに展開している。
床には数多くの人が、死んでいた。いずれの死体も刀傷だらけで、腕や頭が無いものばかりだった。
そして玉座にいる青年は大きな錆びきった剣が胸に突き刺さり、死んでいた。
頭に大きな力で変形した鉄のかぶとが載っていて、血の跡が勲章のように服を染め上げていた。
さながら地獄の死者を従えた冥土の王のように見えた。

無論そんなはずは無く、その死体達は全く動かず、その光景で動く物は全く無かった。
壇上の玉座にいる青年をその光景の中心にしながら。

だが、不意に青年の姿が曇りガラスを通して見たかの様にぼやけた。
地面に膝が落ちた衝撃がして両手を地面についた感触がして、
再びはっきりとした光景を見た時は、埃だらけで汚れた床に透明な液体が少しこぼれていた。
そしてまた、視界がぼやけては液体が床に落ちた。涙のようだった。
その後叫び声が廃墟の宮殿に響いた。
「あの子は王の玉座に座って死んだんだ!」
私の喉からの物だった。
どうやら私は始めから誰かの中に入っていたようだ。

「予言の通り宮殿で死んだんだ!」とも私の意思の外で叫んでいた。
私が入った人物――中年の女性のようだった――の思い出らしき映像が私の頭をよぎった。

この人物は玉座で死んでいる青年の母親だったらしく、平凡と言える青年との思い出ばかりだった。
そして、戦争が起こり青年はそれに参加した。
私が中に入っている人物は喜んでそれに参加させた。予言が成就する事になると信じて。
「この者は宮殿の王の座について死ぬ」と言う占い師の予言を。
王になると信じて。
結局は青年は戦争の最中王になる事は無く、注目もされずに死んだ。
玉座に寄り掛かって死んだ。
予言は不幸を予言していた。

しかし、この女性は誇らしげだった。
その感情は私にも伝わった。勇敢に戦って死んだと信じて。
まるで王の様な威厳に満ちた表情で、亡くなっていたのだから。

喉からは歓喜と悲しみの叫び、目からは涙が出てきた。
数々の死体の中で、死の王である青年を賛美するかのように。
戦争の生贄を捧げるかのように。

私は博物館で王の玉座を見ている。
人々が座りたかったであろう、権力の象徴を。




(アンデルセンの「絵のない絵本」から話を得ました)


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