ステレオ・ワールド

大げさな装置の前で白衣を着た二人の男がとてつもない偉業を成し遂げようとしてい た。
「これからついに我々は、別の次元に行くことができる!!!」
「博士の直感当たりましたね」
「うむ、まったくだ、この実験が成功すれば我々のノーベル賞も夢ではないぞ。では、 スイッチをいれるぞ!!」
けたたましい音を出しながら、別の次元への扉は開きつつあった。
「これで向こうが黄金ばっかりだったら1回目にして計画は成功ですね」
「ま、なかなかそうはいかんだろう。今回は適当だ。大量のミジンコのうちの1つに 印をつけるようなものだ」
「しかしどうなっているのですかね」
「しかしどうなっているのですかね」
助手の声がステレオとなって聞こえてきた、そしてその向こうにも博士と助手がいた。
「あれ?」
「あれ?」
「ぼくだ?」
「ぼくだ?」
と、ステレオとなって聞こえてきた、いや、こっちの次元の助手とあっちの次元の助 手が同時に声を出したのだ。
「私が左手を出すと、私から向かって右手をだすということは……」
「ここから見たところ、特にこの次元と変わりはないようですね」
「まさか、鏡というわけでもないし…あ、最悪かもしれないな……」
「え?!」
「コイルの度合いを適当に変えたまえ……」
大きな音が鳴り響き、そして、また別の次元が開いたはずだった。
「あれ、また同じ…」
「あれ、また同じ…」
さっきと同じ次元といえるものだった。
「さっきと同じ次元じゃないですか?」
「予感どうりだ……」
「え、どういう事ですか?」
「説明するとな、別の次元はこの次元とは違い、世界中が金でできていたり、石油が山 ほどでてたり、アドルフ・ヒトラーがユヤダ人を救済してたり、時代がずれていたりす ると思っていたのだが……」
「違ったんですね。」
「そう、これは仮説にすぎないが、すべての次元は同時に生まれ、そして……」
「ほとんど同じ様に世の中が移りかわっていたと……」
「そのとうりだよ……歴史にifはないと言うじゃないか……」
博士の絶望した声が同時に発声され、ステレオとなって響いた。


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