2015/11/15━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 幽玄の森羅万象の散歩道 動物行動学からの性♂♀の話・動物・植物・環境・宇宙・時間・哲学 興味のおもむくまま“みかりん”の しゃべりんぐ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━目指せ1万部! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆         やまねこ通信 E=MC二乗                                vol.235 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ こんにちは。 みかりんです。 朝晩は結構冷えています。 北海道はもう初冬ですね。 やまねこ通信 vol.192「右と左と螺旋の話」で 左右の話がいかにややこしいかという話をしました。 今日は生き物たちの右と左の話をしようと思います。 まず普通に思い浮かぶのが「左利き」です。 左利きは民族や時代や男女に関係なく一定の割合で出現します。 多数派では決してないんだけど、いつもほどほどに少数派で存在し続けています。 理由はわかっていません。謎ですね。 動物たちにも右利き左利きがあるものもいるし、 どちらでもないという動物もいます。 まぁ動物ならそうだよねと思いますね。 それでは魚とかヘビはどうなんでしょ。 右とか左とか関係なさそうですよね。 まぁ、たいていの魚やヘビは関係ないようです。 でも、多くの種類の中には左右が重要なものもいるんですね。 今日はそんな珍しい魚とヘビの話をします。 お話の中には古い古代の湖の話や松ぼっくりの中の種を食べる鳥の話もします。 ここに↓バックナンバーがあるよ。『内容一覧』という所をクリックしてみて。 http://www.phoenix-c.or.jp/~daichi-m/yamaneko/yamaneko.htm 「ラジオ山猫通信」も、ここから聞くことができます。↑ ━■魚とヘビと左右の話━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ アフリカ大陸の中央の少し左側を南北に巨大な谷があります。 グレート・リフト・バレーと言います。 日本語では大地溝帯と呼ばれています。 大きな裂け目って事です。 ここはプレートが裂けつつある所で、いずれはこの巨大な谷は、 アフリカ大陸が割れてしまう裂け目になる所と言われています。 ここに三つの古い湖があります。 北から順にビクトリア湖、マラウィ湖、タンガニイカ湖です。 普通の湖は河川から土砂が入ってきてだいたい数千年から数万年で 埋もれて消えてしまいます。 湖には年齢があるんですね。 でもこういう陸地の裂け目のような古い湖は、 埋没を上回る速度で深さが増していくのでとても長寿の湖になります。 こういうタイプを古代湖とか断層湖というんですね。 現存する一番古い湖はロシアのバイカル湖で2500万年前にできました。 このあたりの話はvol.233「ネス湖とネッシーの話」でしましたね。 日本での断層湖で代表的なのは琵琶湖です。年齢はおよそ40万年です。 バイカル湖に比べれば全然若いみたいですけれど、 今の琵琶湖ができる前は、あのあたりは小さな池や沼がたくさんあって それらの歴史を含めると400万年と言われています。 そして先ほどお話したアフリカの古代の湖、タンガニイカ湖、マラウィ湖、ビクトリア湖は、 それぞれ2000万年、200万年、75万年の歴史があります。 こういう古い歴史のある湖には、共通する特徴があります。 それは世界のどこにもいない、ここだけにしかいないという固有の生物が たくさんいることです。 魚には魚を食べる肉食のものがいます。 肉食ではない魚は、プランクトンや水草や泥の中の何やらを食べるものがいます。 その両方を食べるものもいます。 さて世界には妙なものを食べる魚がいます。 よその魚のウロコを専門に食べる魚です。 先ほどお話したアフリカの断層湖のタンガニイカ湖の固有種の魚で シクリッドと呼ばれるものにこのウロコを専門に食べるものがいます。 彼らの口は右か左のどちらかに曲がっているんです。 そして右に口が曲がっているものは、他の魚の左側からウロコを剥ぎ取り、 左に口が曲がっているのは右側からほかの魚を襲うのでです。 魚なのに右利きや左利きがあるのかって事なんですから、これは驚きです。 この魚の学名がエキセントリカスっていうんですけれど、 新種の名前をつける人の驚きがそのまま学名になっていますね。 この魚は右利きと左利きの比率は五分五分の割合なのだろうか、 ヒトのように偏っていないのだろうか、 遺伝的に決まっているのだろうか、 本当に片側のウロコしか狙わないのだろうか。 こういう疑問を次々に明らかにしたのは日本の研究者でした。 実験を重ねて口の曲がりに応じて襲う側が決まっているのが確かめられました。 親と子の組み合わせを調べて左右は遺伝的なものというのもわかりました。 そしてこの左右の比率はおよそ五分五分だという事もわかりました。 でもここでちょっと興味深い傾向がわかったんです。 左右はいつの年も五分五分という訳ではなくて、 右が多い年と左が多い年がゆっくり交互に現われるんですね。 たとえば左利きの魚が多数派のときは、エサにされる魚たちは左側ばかり狙われるので 左側に注意が向くんです。 そういう状況だと少数派の右利きの魚はウロコを獲るとき有利です。 結果として右利きの魚はたくさん子どもを残す事ができて、 左右の比率は五分五分に近づいてそして多数派と少数派は逆転します。 これが繰り返されるんです。 遠くアフリカの古い古い湖に棲むウロコを食べるという珍しい魚。 ロマンを感じますね。 さて。 左右が対称になっていない生き物で有名なと言えば、 カレイやヒラメといった平べったい魚たちのグループです。 この海の底に潜んでいる平たい体って、体の上下をぺっちゃんこにしたものではなくて、 左右を平たくしたものです。 まず魚を横たえて、そしてぺっちゃんこに圧縮してたものって言ったらわかるかな。 だから尻尾は垂直じゃなくて水平だし、内臓も下側になくて、 こう、普通の形の魚が横に寝た位置に内臓があるでしょ。 普通の魚を横たえると片方の目が海底を見るしかなくなるでしょ。 その、海底にあるはずの片方の目が、水面に向かってねじれて移動して、 もうひとつの目と並んでしまっているのがカレイの仲間なんです。 生まれた時の幼い時代は普通の魚っぽい形をして普通に泳いでいます。 そして来るべき海の底の生活に備えて成長するにしたがって、片方の目が移動していくのです。 このカレイの仲間が興味深いのは、極端に左右非対称ということだけじゃなくて、 右側のと左側の種類がいることなんです。 「左ヒラメの右カレイ」って言葉があるようにヒラメの仲間は左側が上になっていて、 カレイの仲間は右側が上になっています。 でも例外はどの種類でもあるし、ひとつの種類に右と左が両方いるものもあります。 たとえばヌマガレイは両方いるんだけど、場所ごとにその割合が違うんですね。 日本近海には左側しかいないけれど、アラスカでは3割が右型で、 カルフォルニアだと半々になります。 なぜ地域によって違うのか、わかっていないんです。 それからヒラメを養殖していると、野外では滅多に見られない右型が とても高い確率で育つんです。 そして右型になるか左型になるかは遺伝で決まっている訳ではない事や、 右型は野外ではうまく生きていけない事はわかるんだけど、 理由はわかっていないんです。 生物の右左問題は謎だらけなんですね。 次にイスカという鳥についてお話します。 イスカは日本を含む北半球の森林に棲む小鳥です。 イスカはクチバシにとても特徴があります。 クチバシって上下にあるでしょ。 イスカはこれがうまく噛みあっていなくてね、 上のクチバシが下に向かって湾曲していて、下のクチバシが上に向かって湾曲しています。 ピッタリとかみ合わないんです。 だからクチバシを閉じると交差することになるんです。 交差は二通りあります。 上のクチバシが右に下のが左にと、その逆になってるのです。 まぁ、ちょっと見た感じ不恰好でとてもスマートとは言えません。 でもこのクチバシは松ぼっくりの中の種を食べるのには機能的なんですね。 交差したクチバシをまだ開ききっていない松ぼっくりの隙間に差し込んで クチバシを開いて中の種を食べます。 調べてみると枝の一箇所に止まったままだと一個の松ぼっくりの種を 全部ほじりだすことはできないんですね。 左右に差があるんです。 右利きのイスカが食べた後の松ぼっくりは、 左利きのイスカならまだ食べる処はたくさん残っているって事なんですね。 この状況は先ほどのウロコを食べる魚と似ているように思えるけれど、 イスカはウロコを食べる魚とは違って遺伝的に左右が決まっている訳ではないんですね。 そしてイスカのクチバシの右型左型の割合には地域差はなくてどこでも1対1です。 っていう事は、たとえば右型に不利な自然選択を受けたとしても、 生まれてくる子どもたちは一対一で生まれてきて割合は変わらないんですね。 あぁ、そうか遺伝的でないからこそ一対一が保たれているのか。 このあたりを考えていくと深い謎と、どこかに答えがあるような気がします。 それではヘビの右利き左利きの話をします。 手も足もないヘビに右利きも左利きもないと思いますけれど、 そういう訳でもないヘビもいるんですね。 このヘビの話をするにはカタツムリの話から始めなければなりません。 いえ、カタツムリの前にまず普通の巻貝の話をしますね。 サザエとかタニシとか私たちの身近な巻貝は大体が右巻きです。 右巻きの貝っていうのはその貝を上から見たときに、 貝の巻いていく成長の方向が時計回りで巻いている貝の事をいいます。 もうちょっと簡単に見分けるには、 巻貝の入口が自分に見えるように見た場合に、入り口が右側にくるのが右巻きの巻貝です。 巻貝は右巻きのと左巻きのがいます。 でも同じ種類の中で右巻きと左巻きが混在することはほとんどなくて、 種類によってどちらかに統一されています。 そして圧倒的に右巻きのが多いんですね。 特に海にいる巻貝はほとんどが右巻きで左巻きのは数えるほどしかいないんです。 左巻きは少数派なんです。 でも陸上に棲むカタツムリは少数ながら、たくさんの種類で左巻きのが知られています。 ここにも謎があるんです。 カタツムリを観察していると、首根っこの所に小さな穴が時々開くのがわかります。 この穴はありとあらゆる事に使われる穴なんです。 呼吸もします、排泄もします、卵もここから産みますし、 交尾のときにここから生殖器が伸びてくるし、 伸びてきた生殖器を差し込む穴でもあります。 ひとつの穴で何もかもまかなえるんですね。 これを総排泄孔といいます。 穴の奥の方でいくつもの管が分岐されていて色々な内臓に繋がっています。 さて。 成熟した二匹のカタツムリが交尾することとなります。 多くのカタツムリは雌雄同体です。 お互いの生殖器を相手の総排泄孔に同時に差込みます。 ぐるぐるに巻いたふたつの殻が、ぐるぐる回りこみます。 ねちょねちょしていてなまめかしい感じです。 生殖器の形やその位置が種類によって違うので、 別の種類との交尾をこの微妙な違いで避けているらしいカタツムリもいます。 問題なのが時々突然変異で生まれる左巻きのカタツムリの存在です。 右巻きカタツムリの総排泄孔は右側にあります。 左巻きカタツムリのは左側にあるんです。 右巻きカタツムリと左巻きカタツムリの交尾はうまくいかないんですね。 左巻き同士の交尾は大丈夫です。 なんの問題もありません。 だから集団全体が右巻きか左巻きで統一されていれば誰も困らないんです。 右巻き集団の中にぽつんと左巻きが突然変異で生まれます。 一匹では子どもを残す事はできません。 2匹生まれてもうまく出会えるかどうか。可能性は低いです。 3匹4匹と増えるといつかは相手とめぐり会えるかもしれないけれど、まぁ、圧倒的に不利です。 右巻き集団の中の少数派の左巻きカタツムリが数を増やすのはかなり難しいのです。 それでも左巻きカタツムリっていうのは確かに存在しています。 いなくならないんです。これは大きな謎です。 右巻きカタツムリが圧倒的に多いこの世の中で、 右巻きカタツムリを食べるのに熟練した、そんな右利きの捕食者がいれば、 左巻きカタツムリが突然変異で生まれてくる理由も、左巻きカタツムリが出会う確率も、 生き残る確率も多くなるのではと考えた若き研究者がいました。 それが今日のお話をするのに参考にしている本「右利きのヘビ仮説」の著者、細将貴さんです。 カタツムリばかり食べるヘビがいます。 もしかしたらこのヘビは、多数派の右巻きカタツムリを食べるのに特化しているのではないか、 このヘビは右利きではないのかと、さきほど紹介した日本の若き研究者は仮説を立てたんですね。 普通に考えるとヘビって獲物を丸呑みするイメージがあります。 殻ごとカタツムリを食べるのなら右巻きも左巻きも関係ないです。 でもカタツムリしか食べないイワサキセダカヘビは、 時間をかけて中身を引き出して食べるんです。 ヘビの下あごって、ちょっと想像しづらいかもだけど、 どう言ったら良いのか人間にとっての両腕のように左右を別々に動かせるんですね。 で、片方の下あごでカタツムリの身を刺して、 もう片方をいったん外してもっと奥に差し込んでというのを繰り返して 中身を引き出して食べているんです。 だから右巻きカタツムリが相手なら、右の下あごよりも左の下あごの方が よりカタツムリの殻の奥に突っ込むことができるんです。 だからもしイワサキセダカヘビが右巻きカタツムリを食べるのに特化したヘビなら 左右に何か違いがあるはずなんですね。 イワサキセダカヘビをおなかを見せるようにひっくり返すと、 下あごの裏のウロコが左右対称ではありませんでした。 このウロコの並びは筋肉のつくりを反映しています。 調べてみるともっと決定的なものが見つかりました。 下の左右の歯の数が違っているんです。右の方が断然多いんですね。 歯の本数が左右で違う動物って、カレイやヒラメの仲間のほかに例がないんです。 この日本の若い研究者は「右利きのヘビ仮説」を証明するためには より多くのデータを集めなければなりませんでした。 多くの人の協力を得て、地球上のイワサキセダカヘビの標本の8割を集めることができました。 でも論文を書いて仮説を証明するのはまだヘビが足りません。 イワサキセダカヘビ以外の世界中のセダカヘビを調べなければならないんです。 その方法なんですけれど、これがなかなか素敵なんです。 なんでもアメリカの博物館では研究者には所属標本を貸し出すのが 業務の一環とされているんですね。 博物館の学芸員と面識のない海外の研究者であっても普通に貸し出ししているというんです。 しかも所属標本のリストにはネットで世界中の誰もが自由にアクセスできるんです。 カナダを含む北米の28もの博物館の爬虫類と両生類の所蔵状況を知ることができて、 何のツテもなく「ヘビの標本を送ってほしい。これはとても大事な事なんです」という メールでさらに多くの標本を調べることができたというんです。 学問研究に国境の壁がないとても素敵なシステムですね。 集めたたくさんの標本のヘビの歯の左右の数を調べるのに、 借り物の標本を解剖するわけにはいきません。 そのためレントゲン写真を撮っていきます。 十分な数のセダカヘビのレントゲン写真の歯の数を数え、体の長さを測定してわかったことは、 歯の本数も左右の歯の数の差も、成長に応じて変わるものではなくて、 遺伝的に決定されているもので、セダカヘビ科のほぼ全種類が右利きだとわかりました。 程度の差こそあっても右の方が左より歯の数が多いんです。 ほぼ全種類と言ったのは、一種類だけ左右の歯の数が完全に同じだったんですね。 これはマラッカセダカヘビというヘビで熱帯のヘビです。 これはどういうことなんだと研究者は頭を抱えました。 でもその後、この問題は解決します。 マラッカセダカヘビはナメクジを専門に食べるヘビだったのです。 ナメクジを食べるのなら右利きである必要はありません。 こうしてデータは揃いました。 このあと研究者は右巻きカタツムリと左巻きカタツムリを イワサキセダカヘビに襲わせる実験を重ねて、 右利きのヘビ仮説の論文を発表するに至りました。 実験の結果はイワサキセダカヘビは左巻きカタツムリを食べることができなかったんです。 右巻きカタツムリから突然変異でときたま生まれる左巻きカタツムリは、 右巻きカタツムリが多数派の中では圧倒的に不利です。 交尾相手を見つけるのにとても難しいのに、それでもある一定数必ず存在してるんです。 左巻きカタツムリの存在は、カタツムリのセダカヘビ戦略でもあるんですね。 今日は古代の湖の話、ウロコ専門に食べる魚の話、松ぼっくりの中の種を食べる鳥の話、 巻貝とカタツムリの話、右巻きカタツムリ専門に食べるヘビの話をしました。 そんなヘビに対抗するカタツムリの戦略は左巻きカタツムリを生み出した話も紹介できました。 すべて長い長い時間が作ったものです。 言い換えればすべては時間が作り出したドラマです。    * * * * *  * * * * *        鏡の中の世界はすべて逆 時計の針は左に回り、野球のランナーは右回り       ひらがなの「さ」は       ひらがなの「ち」に見えるよ       カタカナの「ヨ」は       アルファベットの「E」に見える       鏡の中は裏返しの世界だ       右側のウロコばかりを狙う魚       右巻きばかりの巻貝の世界       右巻きカタツムリを食べるのに特化したヘビ       それに対抗するべく生み出された左巻きカタツムリ       多数派の中の少数派の価値       鏡の中を見てみよう        すべてが逆になったまま問題は先送り ━■みかりんの叫び━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「持続可能な社会」 10月から11月にかけてNHKスペシャルで「アジア巨大遺跡」というシリーズを4回放送で やっていました。 カンボジアのアンコール、ミャンマーのバガン遺跡、中国の始皇帝陵、日本の縄文です。 どれも見ごたえがあって素晴らしかったのです。 私が一番印象に強く残ったのがミャンマーのバガン遺跡でした。 日本の縄文は一万年続いた世界に類をみない文化です。 縄文時代は今から約1万2〜3千年前に始まって、約2千3百年前に終わりました。 その約1万年間を 「縄文時代」 、その文化を 「縄文文化」 と呼んでいます。 そこには一万年も続いた仕組みがあったはずです。 いくつかは想像はできても、ちょっと昔過ぎます。 ミャンマーのバガン遺跡の頃は、11世紀から13世紀です。 約200年の間、仏教の信仰を介して「富の再分配」の仕組みが出来上がっていて 不満のない社会が続いていたのが最近の研究でわかってきたんです。 そのことに私は驚いたのです。 昨日、フランスでテロが起きたニュースが報じられました。 外国ばかりではありません。自暴自棄になって起こした事件は日本でも毎日のように報道 されています。 こういういった事件のこんぽんにあるのは、不公平感です。 「富める者はどんどん富み、貧しきものはいつまでも貧しさから抜け出せない」 こういう不公平感が個人単位でも国家単位もある限り、事件やテロはおきます。 世界史をみると、周辺諸国を力でねじ伏せ広い国土に君臨し、強固な身分制度があり 底辺層の犠牲に上に国があったというものばかり学んできました。 でも力でねじ伏せた仕組みは力で攻め込まれます。長続きしません。 現代史も争いの歴史です。 「富める者はどんどん富み、貧しきものはいつまでも貧しさから抜け出せない」 そしてここにあるのは競争の理論です。心は休まりません。 昔のようにあからさまなパワーゲームではなくなったけれど、 そのかわり経済ゲームになって個人単位でも国単位でも競争は激化しています。 心の平安とはほど遠いです。 「富の再分配」が出来ていない社会なんですね。 ミャンマーのバガン遺跡を研究していて、「富の再分配」が出来ていた社会だという事が わかったんです。つまり貧富の差のない社会を実現していたんです。 このあたりを説明してみます。 ミャンマーは、インドシナ半島の西部にあります。 ミャンマー最大の都市ヤンゴンから約700km、車で10時間の平原の中にバガン遺跡があります。 日中の最高気温は40度にもなる灼熱の地です。 かつて11世紀から13世紀にかけて繁栄したバガン王朝の都がありました。 王朝が滅びて700年以上経って宮殿はすでにありません。 そこには無数にそびえる仏塔だけがあります。 この仏塔の遺跡群は東西に7km、南北に6km。そこに3000ほどの宗教建造物が密集しています。 世界でも類を見ない祈りの景観です。 このバガンの遺跡群は大きく分けて2種類あります。 寺院と仏塔(バゴダ)です。 バガン王朝が出来た当時はさまざまな宗教があって、中には親殺しをしても罪が許されると いうような極端な教えを説くものまであって、国が乱れていました。 バガンの王朝の初代国王は、国家を繁栄させるためには仏教を柱とする事を一番として 行動をおこします。 まずみずから率先してパゴダや寺院を作りました。 歴代の王たちも見習って寺院を次々に建立します。 仏教の教えが広まることで「殺さない盗まない」などの正しい行いが浸透していきました。 命令によって統制するよりも信仰を柱とするほうが社会が安定して発展すると考えたのです。 ここまでは普通です。 最近の研究でわかったことはこの先です。 バゴダ遺跡は3000もの建造物があるんですけれど、 王が建てたのはそのうちの30にも満たなかったんです。 寺院やバゴダの多くは庶民が作っていたんです。 でも建設にはお金がかかります。 王とは違って財力も権力もない庶民たちはどうやって建造物を作ったのか。 王族が寺院を建立します。 その時、王族は私有財産をを使って庶民に対価を払っているんです。 強制労働ではありません。 農耕や交易で民衆が生み出した富は、税として王に集まります。 普通はここで王は富をどんどん蓄積していきます。 でもバガンの王は富を建造物賃金として庶民に対価をどんどん払っていったんです。 庶民はその富を貯めて、庶民が自費を投じて寺院がバゴダを建立します。 その時、また富は一般庶民に振り分けられます。 こうして庶民が建てた無数の建造物ができました。 なぜバガンの人々は富を自分の暮らしをよくするために使わずに、 寺院やバゴダを建立するために投じていったんでしょう。 これね、現在のミャンマーの人々の生活の中に答えがあります。 現在、寺院やバゴダの修復や維持管理は人々の寄進(寄付ですね)からまかなっています。 答えは「功徳」なんです。 ミャンマーでは現世でどれだけ功徳を積んだかによって 来世に何に生まれ変わるか信じられているんです。 功徳は寄進だけじゃなりません。 托鉢に来るお坊さんに食事をささげる。庭を綺麗に掃き清める。生き物に余った餌を与える。 こんな事も功徳になります。 人々はさまざまな形で功徳を積むことが生活の一部となっています。 1000年前に生まれた寺院やバゴダは功徳の産物だったんです。 王は功徳を積むために巨大な寺院やバゴダを建立。        ↓ そのために働いた庶民に対価を与えることも功徳。        ↓ 富を得た庶民たちは自分たちのために寺院やパゴダを建立。これも功徳。 バガンでは功徳を積もうとする行いによって富が回り続けているんです。 その結果、貧富の格差が生まれにくい社会が実現していたんです。 当時の繁栄を表した碑文があります。 「バガン王国はあらゆる王国のなかで最も住み心地が良い。  住民たちは危険を知らず、苦痛の無い生活を楽しんでいる。  国は有用な財に満ち、民は豊かでその収入は莫大である。  ゆえにこの国は、神々の国よりも望ましいとさえ言うことができるのだ」 バガンが栄えた11世紀から13世紀は、西ヨーロッパでは封建社会でした。 強固な主従関係があって、国王や領主など少数の有力者に富が集まっています。 人口の大半を占めた農民は、農奴と呼ばれ自由を制限され重い税を課されてました。 繁栄を誇ったバガン王朝は、13世紀の末に元の侵攻を受けて滅びました。 でもこの時代に育まれた信仰は今でも人々の間に深く根を下ろしています。 番組では一般庶民のアウンさんを紹介しています。 15年間こつこつと貯めた日本円にして100万円を、時自分の息子だけじゃなく親戚の子どもや 貧しい子どもたち全部で26人を「得度式」という儀式に投じています。 馬を借りる費用、お祝いにやってくる1000人分の食事代など 得度式に掛かるこうした費用の全てを一人で負担しました。 アウンさんはいいます。 「富を失った代わりに嬉しく思う。お金によって幸せは得られるが、  それはとても短期的なものだ。それは人生の幸せとは言えないだろう。  一方、功徳は生涯を通じての幸せを得ることになるのだ」 振り返って、現在の私たちは消費社会と競争社会に生きています。 そこにはネタミとソネミとウラミがあって、テロに怯える社会になりました。 すさまじい勢いで進む環境破壊は自らの首を絞めて、とても持続可能な社会とは言いがたいし 心の平安とは真逆の方向へ向かっているように思えます。 バガン王朝が滅びてしまったのは元の侵略というのも意味深いです。 拡大志向の競争社会に武力で滅ぼされたという事ですから。 でもバガン王朝の仕組みの意味するものは大きいです。 持続可能な社会、富の再分配の仕組みの社会というものが可能であるという事なのですから。 ━●編集後記━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★10月下旬に初雪が降ったので慌てて夏タイヤから冬タイヤに交換しました。  そしたらさ、今日まで雪降らないんですよー。  まったく天気ってヤツはぁ。 ★ラジオ山猫通信がリアルタイムで、  パソコン、スマートフォンから聴けるようになりました!  http://www.radiokaros.com/simulradio/  ↑ここがカロスのサイトの「インターネット放送聴取方法」のページです。  パソコンからスマートフォンから、カロスの放送を聞く方法が載っています。  http://www.simulradio.jp/  ↑ここがサイマルラジオのサイトです。  ここから全国のコミュニティーラジオが聞けるようになっています。    このサイトを開いたらちょっとスクロールすると「北海道」という場所があって  その下の方に「ラジオカロスサッポロ」という場所があります。  そこの「放送を聴く」をクリックするとメディアプレイヤーが立ち上がって、  リアルタイムに放送を聴くことが出来ます。  サイマルラジオは数分時間がズレて聞こえることがよくあります。  ラジオ山猫通信は、第一月曜日と第三月曜日の19:00〜19:30です。  明日の月曜日19:00に「魚とヘビの左右の話」が  リアルタイムで聞くことができます。  バックナンバーは、「やまねこ通信 E=MC二乗」のサイトの「ラジオ山猫通信」の  場所から、いつでも好きな回のお話を聴くことが出来ます。   ★今回のこの「昆虫界のジキルとハイド バッタの話」は、  ネットでいつでも好きな時に聞くことができます。  http://www.phoenix-c.or.jp/~daichi-m/yamaneko/yamaneko.htm  ここの右側「ラジオ山猫通信」をクリックしてスクロールして  「キツネに化かされない日本人の話」をクリックすると聞けます。  すぐに聞けない人は、じっと待ってみて。きっと聞けます。  http://crashlanding.under.jp/rajiyama1019.mp3  直接URLはここです。  今回の文は、おおむねラジオ原稿そのままです。  ラジオ用原稿をメルマガ用に書き換えているけどね。 ★vol.235の参考にした本、資料館、サイト      右利きのヘビ仮説  著/細将貴 東海大学出版会       黄金の仏塔 祈りの都 ミャンマー バガン遺跡      http://www.nhk.or.jp/special/asia-iseki/bagan.html                 ★予告です。         11月16日放送「これからの宇宙開発の話」  (ネットにUP予定は12月6日)(収録終わった) 12月6日放送「生き物に似てしまうロボットの話」  (ネットにUP予定は12月20日)(書き終わった) 12月20日放送「記憶と時間の話」  (ネットにUP予定は12月30日)(書き終わった) ★どうぞお時間のある時に「ラジオ山猫通信」も聞いてみてください。  2009年9月から始まった「ラジオ山猫通信」  そろそろ終わりが見えてきました。  「ラジオ山猫通信」は年内をもって終了することにしました。    こんな所を読んでいる人がいるとは思えないけど、ここでこっそりと告知。(笑)  でもメルマガは続きます。  今後ともやまねこ通信をよろしくお願いします。 ★私はいつも「やまねこ通信 E=MC二乗」の事が頭の隅にあります。  次回テーマは何にしようかと常に思っています。  「やまねこ通信 E=MC二乗」は、私みかりんを構成している大事な要素です。 ★「やまねこ通信E=MC二乗」では、あなたからの投書を受け付けています。  動物・植物・環境・宇宙・時間・哲学このメルマガの趣旨に合うような投書を  気軽にメールに書いてね。  過去に取り上げた記事からの話題も歓迎しています。 蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹     ★彡★彡★彡★彡★彡『蟹屋 山猫屋』★彡★彡★彡★彡★彡 生まれも育ちも北海道育の“みかりん”が、北海道の味覚を全国の方に広めるために 『蟹屋 山猫屋』を立ち上げました。一級品の道産品をお手ごろ価格でネット販売! 読み物としても楽しめるものを目指しているよ。    登録はここ→ http://www.phoenix-c.or.jp/~daichi-m/kani/   山猫屋の蟹は冷凍ガニではありません。ボイルしたてを食卓に直送! 蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹    ↑↑↑  私、みかりんのもうひとつのメールマガジン。  北の味覚。海産物。蟹おいしいよ〜。海水ウニもありますよー。  予算はこれくらい。食べる人数はこれくらい。と教えてくれたら、その中で  できる限りのご提案をします!山猫屋の蟹は冷凍物は扱っておりません!  さぁ、タラバ食べたいよう、毛ガニ食べたいようのメールをみかりんに書こう。  毛蟹の良いのが入荷してきています。  北の食材たちは脂が乗っておいしいです。  この機会に、どうぞ冷凍ではない蟹を!  ご贈答に、山猫屋の海産物を。 それじゃ、今回はここまで。 あなたのお便り待ってます。 daichi-m@phoenix-c.or.jp じゃね。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「生き馬の目を抜く」というところを 「生き馬の目をくり抜く」と発言した私。 「ええええぇぇぇぇ、くり抜くの?」って総ツッコミを受けた。 「くり抜く」だとスプーンでクリッて取るイメージだね。(笑) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○ やまねこ通信E=MC二乗 vol.235  2015年11月15日発行 http://www.phoenix-c.or.jp/~daichi-m/yamaneko/yamaneko.htm ○発行編集者 みかりん daichi-m@phoenix-c.or.jp ○発行システム: インターネットの本屋さん「まぐまぐ」ID:0000052530 http://www.mag2.com/ ○登録/解除 http://www.phoenix-c.or.jp/~daichi-m/yamaneko/yamaneko.htm ○やまねこ通信は、素人みかりんが趣味で発行しているもので、情報の正確さには  まったく自信がありません。引用して弊害が起きても責任は持てないよ。  それから誤字脱字変換ミスは大目に見てね。気を付けるけれどさ。えへ。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━