2017/3/19━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 幽玄の森羅万象の散歩道 動物行動学からの性♂♀の話・動物・植物・環境・宇宙・時間・哲学 興味のおもむくまま“みかりん”の しゃべりんぐ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━目指せ1万部! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆         やまねこ通信 E=MC二乗                                vol.248 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ こんにちは。 みかりんです。 今回のメイン記事のタイトルは、やまねこ通信史上最も長いです。 短くしようにも、これ以上短くなりません。 題して 「動物の分布から、南北米大陸文明がスペインに滅ぼされる理由を考察する話」 です。 タイトルとしてどうかとは思いますけど、目からウロコの話です。 私は、子どもの時から、アステカやインカがスペインに絶滅されてしまったのが 何故だぁぁぁ〜とずっと疑問だったんです。 武器などに違いがあったとしても、スペイン隊は所詮「遠くからやっとやってきた者」です。 地元の本隊が何故やられてしまったのか。 普段対立している近隣のものたちがいても、そういう外敵がいると一致団結するだろうし 何よりも地の利があります。 例えはアレですけれど、ベトナムが米軍に負けなかったような。 この私の長年の疑問に答えてくれる説に出逢ったので紹介します。 まずは動物の長い話から始まります。 ここに↓バックナンバーがあるよ。『内容一覧』という所をクリックしてみて。 http://www.phoenix-c.or.jp/~daichi-m/yamaneko/yamaneko.htm 「ラジオ山猫通信」も、ここから聞くことができます。↑ ━■動物の分布から、南北米大陸文明がスペインに滅ぼされる理由を考察する話━━━━━━ 大型哺乳類の家畜と言ったらどんな何種類の動物を思い浮かべますか? この場合の「大型」の定義は45kg以上とします。 これね、20世紀までに家畜化されたのはたった14種なんです。 これらを「由緒ある14種」とします。 14種は「メジャーな5種」と「マイナーな9種」に分かれます。 <メジャーな5種> 牛、羊、ヤギ、豚、馬 <マイナーな9種> ヒトコブラクダ、フタコブラクダ、ラマ、アルパカ、ロバ、トナカイ、水牛、ヤク、 ※バリ牛、※ガヤル (※牛の仲間です。限られた地域のみの家畜) ここで、お?と思った人がいるかもしれません。 私がそうでした。 ゾウは?ゾウはどうなのさってね。 紀元前200年頃のハンニバル将軍の、1万頭の軍馬と37頭のアフリカゾウのアルプス越えとか、 そんな昔でなくても現在でも東南アジアの使役ゾウがいます。 これらのゾウは人間に飼い慣ならされた動物だけど、家畜化されてはいないんです。 もともと野生のゾウを飼いならしたもので、飼育されながら繁殖したものではないんですね。 家畜とは、人間の役に立つように、飼育しながらエサや交配をコントロールして 選抜して繁殖させて、野生の原種から作り出した動物のことです。 品種改良の過程が含まれるんですね。 だから、野生の祖先種と色々異なっています。 牛、豚、羊は、飼育種の方が小さいです。 テンジクネズミは、飼育種の方が大きいです。 羊やアルパカは、抜け毛が少なくて体毛が豊かな個体が選抜飼育されています。 牛はより多くの乳を出します。 で、「由緒ある14種」は今では世界中に広がっています。 広がったっていう事は、もともと一様に分布していた訳ではありません。 南米にはラマとアルパカの野生祖先種がいましたけど、北米とオーストラリア大陸と アフリカ大陸のサハラ砂漠以南には「由緒ある14種」のどれもいなかったのです。 あんなに動物がいるアフリカなのにです。 それに対してユーラシア大陸には「由緒ある14種」のうちのメジャー5種を含む13種の 野生祖先種がすべて生息していました。 (北アフリカまでをユーラシアとするという解釈:北アフリカ地域は、生物地理学的にも 文化的にも、サハラ砂漠以南よりもユーラシア大陸に近い) もちろん13種の祖先種が、一様にユーラシア大陸に分布していた訳ではないです。 ユーラシア大陸のどこをとっても13種全部が生息していた所もありませんし。 チベット高原にしかいない野生のヤクのように 限られた地域に生息していなかったものもいます。 でも、でもユーラシアには、13種のうち複数が生息していた地域も多いのです。 たとえば西南アジア地域には、13種のうち7種が生息していました。 南北米大陸には、かつてはアフリカ大陸くらい多くの大型哺乳類が生息していたと思われていて 家畜化候補になりえたラクダや馬をはじめ、多くの動物が1万3千年前頃に絶滅しているんです。 オーストラリア大陸は世界の大陸のうちで一番面積が小さく、しかも孤立していたから 野生哺乳類の種類はどの時代をとっても他の大陸より少なかったのです。 そしてたぶん何種類か生息していたであろう「家畜化可能な動物」は、南北米大陸と同じく、 アカカンガルーを除いて、ヒトが大陸に移住してきた頃に絶滅してしまいました。 まぁ、言い換えればユーラシア大陸が広い事、過去4万年間の絶滅種が少なかったというのが 「家畜可能な動物」が一番多くユーラシア大陸にいたという説明ができるんです。 ユーラシア大陸以外に住む人々も、ユーラシア大陸で家畜化された動物が伝わってくると 直ちに受け入れて自分たちで飼育しはじめます。 「由緒ある14種」は世界中の人々に素早く受け入れられて、 さまざまな大陸で繰り返し独自に家畜化されています。 そして、近代になってから色々な動物を家畜化しようとする試みで成功したものは 数が少ないし、大型哺乳類となると皆無でしょう。 「メジャーな5種」がアフリカ大陸のサハラ砂漠以南に伝わると、 様々な部族の人々がそれらを家畜として飼いはじめます。 その結果どういう事が起きたかというと、家畜を飼うことで有利な立場になった人々は 周りの狩猟採集民を自分たちの土地から追い出してしまいます。 たとえば、牛と馬を飼い始めたバンツー族の農耕民は、もともと住んでいた西アフリカから 居住区を広げていって、わずかな期間のあいだにサハラ砂漠以南の地域に 昔から住んでいた狩猟採集民をほとんど追い出してしまいました。 西アフリカに家畜として伝えられた馬は、それまでの戦い方を根本から変えてしまいました。 そして騎兵隊を軍事力の中心とする王国が複数出現しました。 でもね、家畜としての馬の伝播は西アフリカで止まります。 それより奥には馬の伝染病を媒介するツェツェバエが生息していたのです。 馬の伝播でアフリカで起きたことは、世界中で繰り返し起きました。 つまり、家畜を飼うことで今までより豊かになって、 家畜を持たない周囲より優位に立てる現象です。 19世紀に勇猛果敢な騎馬戦や馬を使ってのバイソン狩りで知られるインディアンたちは、 実は17世紀末になるまで馬を知りません。 ヨーロッパ人の入植者のもとから逃げ出した馬を捕まえて、 生活の中に積極的に取り入れたんです。 スペイン人がインディアンのナホバ族に伝えた羊によって ナホバ族は美しい毛織のブランケット作りで知られるようになりました。 これはインディアン社会に大きな影響を与えました。 ヨーロッパ人がタスマニアに住みついてから10年も経たないうちに、 それまで犬を見たことがなかったアボリジニが猟犬として使う犬を多数飼育しています。 (ディンゴはオーストラリアまでね。タスマニアまで生息域を広げていなかったのね) こういう例をみると、オーストラリア大陸、南北アメリカ大陸、アフリカ大陸に もし家畜可能な動物がいたら、土着の動物を家畜化して利益をあげていたと当然のように 考えられます。 では何故そうなっていないのか。 家畜化できるシマウマやバッファローがいたなら、 なにも家畜が伝わってくる17世紀や19世紀まで待たなくてもいいのですから。 これはどうもヒトの方に原因があるのではなく、動物の方に原因がありそうです。 ヒトは動物を飼うのが好きです。 野生動物をペットして飼い慣らすは家畜の初期段階ですね。 どんな大陸の人々も、昔からペットを飼っていました。 これまで人がペットとして飼い慣らした動物の種類は、家畜化されたものより遥かに多いです。 ニューギニアの村では、カンガルーやオポッサム、ヒタキやミサゴといった鳥もペットに して飼っている村民がいます。 まぁ、実際の所こうした動物は最後には食用にされてしまうんですけれど ずっとペットとして飼われ続けるものもいます。 ニューギニア人は、飛べない鳥であるヒクイドリのヒナを捕まえてきてペットとして 飼うこともあるけれど、ヒクイドリの成鳥はヒトの腹を切り裂く危険な動物です。 古代エジプト人やアッシリア人、近代のインド人はチーターを狩猟用に飼っていました。 古代エジプト人の絵画からは、レイヨウやガゼルなどの有蹄類、ツルなどを飼っているのは まだわかるんですけれど、危険なキリン、ハイエナまで飼育していたことがわかります。 アジアゾウは今でも飼われているけれど、明らかに危険なアフリカゾウもローマ時代に 飼われています。 ヒトは動物を飼うのが好きでペットとして飼い、家畜化への初期段階となった動物は数多いの だろうけれど、実際に家畜になったのはほんのわずかなんです。 人類が動物を家畜化した年代は、考古学的証拠があるもので言えば 紀元前8000年から紀元前2500年頃に集中しています。 最終氷河期後に定住型の農耕牧畜社会が登場してから数千年内のことなんです。 大型哺乳類はまず羊、ヤギ、豚が家畜化されて、紀元前2500年頃に家畜化最後の動物ラクダが 家畜化されました。 それ以降、大型哺乳類で家畜化された重要な動物はいません。 小型動物ならいます。 ウサギが食用となったのは中世です。 マウスやラットが実験動物として飼育されたのが20世紀に入ってから。 ハムスターがペットとして飼われたのが1930年代に入ってから。 小型哺乳類は絶えず家畜化されているけれど、それ以前にそれほど利用されなかったのは、 当時の人が家畜化してまでの利用の価値を見出せなかったからなんでしょう。 大型哺乳動物で家畜化されなかった動物にはそれぞれ理由があります。 ヒトはあらゆる動物を飼おうとしていますから どの動物も家畜になるチャンス?はあったんです。 ヨーロッパから別の大陸に移住してきた人々の中には、 土着の大型動物の家畜化に真剣に取り組んだヒトたちがいます。 19世紀と20世紀だけみても、エランド、ワピチ(アカジカ)、ヘラジカ、ジャコウウシ、 シマウマ、アメリカバイソンといった少なくとも6種類います。 これら大型哺乳類は、科学者や遺伝学者が綿密に練り上げた計画のもとで家畜化が試みられ たんだけど、非常に限られた成功しかされていなくて、 結果を言えばビジネスとして経済的魅力を見出せるほどではないのです。 非常に限られた成功っていうのは、スーパーでバイソンの肉が売られていることもあるし、 ヘラジカに荷物を運ばせて乳を搾ったりしているけれどっていうくらい。 アフリカでは、アフリカ土着の病気にかかりやすいユーラシアの家畜よりも、 病気に対する抵抗力が強い、そしてアフリカ独自の気候にも強いエランドを家畜化しようと する試みは何度となく行われているけれど成功していません。 家畜化されない動物の理由は6つあると言われています。 【エサの問題】 動物はエサとして食べる動植物の10%が血となり肉となります。 体重500kgの牛を育てるのには5トンのトウモロコシが必要ってことなんです。 これが、家畜が大型草食動物ばかりで大型肉食獣が家畜化されない理由です。 【成長速度の問題】 成長に時間がかかりすぎる動物は家畜化する意味がありません。 家畜は、早く成長しなければ価値がありません。 草食性で何でも食べて肉もたくさんとれるのに、 成長に15年もかかるようなゾウやゴリラが家畜化されないのはそのためです。 【繁殖の問題】 たとえばヒトは衆人環視下のもとでのセックスは好みません。 こういう性質を持つ動物はヒトのほかにもいます。 チーターがそうですね。 古代エジプト人、アッシリア人、近代のインド人は野生のチーターを飼い慣らしています。 ムガール帝国の皇帝は1000頭ものチーターを飼っていたけれど、 全部野生のを捕まえてきたものです。 チーター繁殖は王族が何度も試みて失敗しています。 現代の生物学を駆使してやっと1960年代に動物園でチーターの赤ちゃんが誕生したという レベルです。 野生のチーターの繁殖行動は、何頭かの雄が1頭の雌を何日も追い掛け回します。 壮大で荒っぽい求愛行動があって、はじめて雌は排卵して発情するんです。 ビクーニャというアンデスの野生のラクダも繁殖がうまくいきません。 その毛は動物の中でもっとも上質で軽くて珍重されています。 古代インカ人は野生のを捕まえて毛を刈り込んで放していました。 ビクーニャは交尾に至るまで複雑な求愛行動を長時間行います。 捕獲状態ではそういう事にはなりません。 雄同士一緒にされるのを極端に嫌い、年間を通して食事をとる縄張りと寝る縄張りが 別でなければならないんです。繁殖は無理です。 【気性の問題】 当たり前なんだけど、ある大きさ以上の動物は人を殺します。 豚、牛、馬、ラクダに殺された人もいます。 たとえばクマ。 肉は珍味として知られて高値で売れます。 主に草食だけれど人間の食べ残しも食べる雑食性でもあります。 成長するスピードも早いです。効率よく800kg級になれます。 でもおとなしく飼われている動物ではありません。 アフリカ水牛もすぐに体重1トンほどに成長します。 でも危険な動物で、予測つかない動きをする事が知られています。 家畜化しようとして人間が殺されるか、大きくなって気が荒くなる前に人間が水牛を殺すかの どちらかになります。 体重4トンになる草食動物のカバも危険動物です。 アフリカ大陸のすべての動物の中で一番人を殺しているのがカバです。 シマウマ。これは手ごわいのです。 シマウマは、いったん人に噛み付いたら絶対に放さないという嫌な習性があります。 それと投げ縄では捕まらないのです。ひょいと頭を下げます。 子どもの時はある程度従順でも、大人になると気難しく危険な動物になります。 【パニックになりやすい問題】 シカやレイヨウの仲間は、神経質でビクビクしています。危険を感じたら一目散に逃げます。 囲いの中に入れるとパニックなってショック死してしまうものや、死ぬまで柵に体当たりする ものもいます。 10mも飛び上がって時速80kmで逃げ回るガゼルを家畜化なんてできません。(笑) 【序列社会集団を形成しない問題】 家畜化された大型哺乳類はどの種類も、3つの条件を満たしています。 ・群れを作って集団で暮らしています。 ・集団内での序列がはっきりしています。 ・群れごとの縄張りを持っていません。複数の群れの暮らす場所が重複しても平気なんですね。 序列の性質がある集団を形成する動物は、人間が頂点に立つことで効率よく支配できるので 家畜化にはとても重要な性質です。 この3つの条件のどれかが欠けても家畜化には不向きなんです。 たとえばほとんどのシカやレイヨウの仲間が群れで暮らしていても、 彼らははっきりとした序列を持っていません。リーダーを刷り込み記憶する習性がないんです。 シカやレイヨウを飼い慣らすことができても、群れを制御できる人はいないのです。 以上が「家畜化されない大型哺乳類の、6つの条件」です。 では、大型哺乳類を家畜化することにどんなメリットがあるのかを考えてみましょう。 ・肉や乳製品などの食料の提供。 ・農業に必要な肥料の提供。 ・陸上での輸送運搬。 ・物づくりの材料としての皮の提供。 ・軍事的な動力。 ・農耕動物としての働き。 ・織物のための毛の提供。 ・さまざまな細菌に対する免疫を人々に植え付ける。 ざっと並べてもこんなにあります。 大型哺乳類の家畜化を受け入れた集団は、まだ受け入れてない集団に対して すぐに優位に立つ事ができてしまうのです。 そして最後にあげた「さまざまな細菌に対する免疫を人々に植え付ける」これ。 これは言い換えれば「それらの細菌にさらされた事のない人々の命を奪ってくれる」んです。 長い動物の話が、やっとここまできました。 今回、ここが伝えたかった事です。 人間の死因で一番多いのは病死です。 天然痘、インフルエンザ、結核、マラリア、ペスト、麻疹(はしか)、コレラなどの感染症は もともと動物からかかる病気で、今では人間だけが感染して動物には感染しません。 過去の戦争で勝利したのは、必ずしも優れた将軍や武器を持っていたのが理由ではなくて、 たちの悪い病原菌に対して免疫を持っている側だったって事なんです。 免疫のない相手に病気をうつすことが出来た側って事です。 1519年、スペインのコルテスは、600人の兵士と共にメキシコ海岸に降り立ちます。 コルテス軍がアステカの首都に到達し、アステカ人に追いやられ コルテス軍は三分の二を失いました。 1520年、コルテスが再び猛攻撃を仕掛けます。アステカとの激しい戦いが起きます。 この時、結局スペイン軍の勝利を決定付けたのは軍事力ではなく、 ひとりの奴隷がメキシコにもたらした天然痘の大流行だったんです。 この天然痘の大流行でアステカ人の半分が死亡しました。 生き残ったアステカ人からみれば、アステカ人の命だけを奪ってスペイン人には何もしない 奇妙な病気です。士気は下がります。 2000万人だった人口は、1618年には160万人まで激減したのです。 1531年、スペイン人のピサロは、168人の兵士を連れてペルーの海岸に降り立ちます。 人口数百万人のインカ帝国を征服するためにです。 でも1526年頃に陸路でやってきていた天然痘が、多くのインカ人の命を奪っていて、 後継者争いの内部分裂状態になっていた混乱に乗じてピサロがインカを征服しました。 これらの話は南アメリカ大陸での話しですけれど、 同じことが北アメリカ大陸の先住民のインディアンの人々にも起きました。 1540年、スペインの征服者エルナンド・デ・ソトが北アメリカ大陸に来た時には 廃墟と化したインディアンの村落をいくつも見かけました。 デ・ソトが来る以前に上陸したスペイン人の中に病原菌を持っている者がいたんです。 スペイン人の病原菌がスペインの軍勢よりも先に北米内陸部を襲っていたんです。 1600年代になって、フランスからの移住者がミシシッピ川下流域にやってきた頃には、 アメリカ先住民の大集落はほとんど姿を消していました。 当時の北米大陸には、約2000万人の先住民が暮らしていたと推定されています。 コロンブスのアメリカ大陸発見から200年経たないうちに、 先住民の人口が95%も減少してしまったんです。 南北アメリカ大陸の先住民たちは、ヨーロッパ人に出会うまではユーラシア大陸の病原菌に さらされたことがありませんでした。 だから、免疫がなかったし、遺伝的に強い抵抗力もなかったんです。 彼らの多くが、天然痘、麻疹、インフルエンザ、チフスで死亡しました。 それに続く死因は、ジフテリア、マラリア、おたふく風邪、百日咳、 ペスト、結核、黄熱病です。 征服者はこれに気づき、手ごわいインディアンたちに、天然痘の患者が使っていた毛布を 贈って殺すという方法も使いました。 ここで疑問が生じます。 南北アメリカ大陸では特有の病気がなかったのか。 それが征服者に感染という逆パターンは何故なかったのか。 この謎も動物の観点から説明できそうです。 ユーラシア大陸を起源とする集団感染症の病原菌は、 群れを作る動物物が持っていた病原菌が変化してものです。 ユーラシアでは、群れを作る動物がたくさんいます。 南北アメリカ大陸には、家畜はたった5種類しかいませんでした。 北米大陸南西部とメキシコに七面鳥が、アンデス地方にラマとアルパカとテンジクネズミが、 熱帯気候の南米にバリケン(鳥)。そして南北米大陸全体にイヌ。 これだけが家畜です。 北米と南米先住民が家畜化できた数少ない動物たちは、病原菌の祖先になるような菌を 持っていそうにないんです。 まずバリケンや七面鳥は大きな群れを作りません。 子羊のように抱きしめたくなるような動物でもないので、 物理的に触れ合うこともほとんどないです。 アンデスのラマやアルパカは、羊やヤギや豚より、ずっと小さな群れで飼われています。 それに人はラマの乳を飲まないんです。(乳からの感染はない) そして人の近くや屋内で飼われることもありません。 ユーラシア文化圏では家畜と人がもっと近いんですね。 農民が牛や豚と同じ小屋で寝起きすることもよくあります。 ニューギニアでは人間の母親が子豚に乳を与えることもあります。 こうやって歴史を俯瞰してみると、歴史は必然だったのかと感じます。 地球上で、現在この大陸の大きさと配置だから、動植物がこのように分布されたのです。 そこに棲む人の文化に影響を与え、それらが動き歴史が作られていったのが判ります。 という事は、条件を同じにしてもう一度歴史をやり直しても、 同じような結果になるという事です。 地球の表面で起こる人類史は、なるべくしてなったという結果なのかも。 ━■みかりんの叫び━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「マオリ族とモリオリ族」 マオリ族とモリオリ族の話をします。。 場所はニュージーランドの東にあるチャタム諸島という島々からなる所に、 モリオリ族という集団が平和に暮らしていました。 モリオリ族は採取狩猟生活民です。人口は約2000人。 1835年そのチャタム諸島に、銃や棍棒や斧で武装したマオリ族900人が 突然船でやってきました。 「モリオリ族は我々の奴隷である。抵抗するものは殺す」と告げ集落を歩き回りました。 マオリ族は農耕民です。 数の上ではまさっていたモリオリ族は、抵抗すれば勝てたかもしれません。 でも「揉め事は穏やか方法で解決する」という伝統にのっとって 抵抗しないことに決めて、資源の分かち合いを基本とする和平案を会議で決めました。 狩猟民族っていうのは、割と資源の分かち合いをするもんなんです。 獲れるときと獲れないときがある。えてして食料は保存が効かない。 ということでそういう伝統なんですね。 でもね、その会議の結果をマオリ族に伝える前に、 マオリ族はモリオリ族を襲って数日の内に数百人を殺し、その多くを食べてしまったんです。 生き残ったものは奴隷にされたんだけど、そのほとんどは数年のうちに気の向くままに 殺されてしまったんです。 チャタム諸島の数世紀のモリオリ族の歴史は突然終わってしまいました。 マオリ族の言い分は 「我々は自分たちの慣習に従って島を征服し住民を殺した。それがどうしたというのだ? 自分たちの慣習に従って行動したまでである」 モリオリ族もマオリ族も自分たちの慣習に従ったまでなんです。 で、マオリ族はモリオリ族と違って人口密度が高い所に住んでいる農耕民で グループの統率も強く、残虐な戦闘に加わるのは珍しくなかったんです。 このモリオリ族の悲劇は、優れた装備の戦い慣れした集団が、 そうではない集団を襲ったって事なんだけど、 こういったことは歴史上幾度となく起きてるそう珍しいことではありません。 この事件の注目すべき点は別にあります。 実は、マオリ族とモリオリ族、 彼らは1000年ほど前に同じ祖先から枝分かれしたポリネシア人なんです。 現代のマオリ族は10世紀ころにニュージーランドにやってきたポリネシア農耕民の子孫です。 この時ニュージーランドにやってきたマオリ族の一部が、 チャタム諸島に渡ってモリオリ族になったんです。 その後、マオリ族とモリオリ族は数世紀の間交流はなく、 技術面と政治面はまったく正反対の方向に進んだのです。 マオリ族は技術面と政治機構を複雑化させていったのに対して、 モリオリ族は単純化させるほうに進んでいきました。 モリオリ族は狩猟採集民へ戻り、マオリ族は集約型の農耕民になっていったんです。 凶暴で貪欲で支配的なDNAが存在しているのではなく、 環境が人間社会に及ぼしているっていう話でした。 ━●編集後記━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★今回、メイン記事もみかりんの叫びも、一冊の本からまとめたものです。   「銃・病原菌・鉄(上)」という本。超オススメ本です。    当たり前だけど本ではもっと詳しく書かれています。  ユーラシア大陸は横(東西)に長く、  アフリカ大陸と南北アメリカ大陸は縦(南北)に長いので、  家畜や植物が伝わる速度が 全然違う話なども面白かったです。  それとなんと言っても「由緒ある14種の動物」の話。    この本を書いたジャレイド・ダイアモンドさんはアメリカ人です。  「神」という言葉を使わずに話をすすめていきます。  白人は優秀だから世界を征服したというような視点は微塵もありません。  メイン記事のラストに書きましたけど、  読後感は「同じ条件で歴史をやり直しても、たぶん似たような結果になるだろう」です。  同じ条件なら白人がリードする世界がきます。  ある人種が優秀とか、ましてや神に選ばれたとかじゃなく、  大陸の配置と形がそういう歴史を歩ませた。って事が本当にわかりやすく書かれた本です。   ★vol.248の参考にした書籍&サイト     銃・病原菌・鉄(上)  著/ジャレイド・ダイアモンド 訳/倉骨 彰  草思社 ★ラジオ山猫通信の過去の放送 (2010年1月4日第9回放送〜2015年12月22日第152回放送)が、  パソコン、スマートフォンから聴けます。  http://www.phoenix-c.or.jp/~daichi-m/yamaneko/yamaneko.htm  ↑ここの右側「ラジオ山猫通信」って所をクリックしたら聴けます。  1回〜8回の放送分は聴けません。  あまりにしゃべりがヘタ過ぎて、音源を貰えなかったんです。  後半になるにつれてどんどんしゃべりが上手になっているように聴こえます。  でも、それは編集がどんどんうまくなってきているんですね。(笑)  語るテーマによっては、とてもしつこくて何言ってるかわからないものもあります。(笑)  やまねこ通信ってのは読み物であって語るものではないんだなと思い知りましたよ。  でもラジオでしかやれない事もいろいろ挑戦しました。  どうぞお時間のある時に聞いてみてください。  そして過去のメルマガ版もどうぞ読んでみてください。   ★私はいつも「やまねこ通信 E=MC二乗」の事が頭の隅にあります。  次回テーマは何にしようかと常に思っています。  「やまねこ通信 E=MC二乗」は、私みかりんを構成している大事な要素です。 ★「やまねこ通信E=MC二乗」では、あなたからの投書を受け付けています。  動物・植物・環境・宇宙・時間・哲学このメルマガの趣旨に合うような投書を  気軽にメールに書いてね。  過去に取り上げた記事からの話題も歓迎しています。 蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹     ★彡★彡★彡★彡★彡『蟹屋 山猫屋』★彡★彡★彡★彡★彡 生まれも育ちも北海道育の“みかりん”が、北海道の味覚を全国の方に広めるために 『蟹屋 山猫屋』を立ち上げました。一級品の道産品をお手ごろ価格でネット販売! 読み物としても楽しめるものを目指しているよ。    登録はここ→ http://www.phoenix-c.or.jp/~daichi-m/kani/   山猫屋の蟹は冷凍ガニではありません。ボイルしたてを食卓に直送! 蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹    ↑↑↑  私、みかりんのもうひとつのメールマガジン。  北の味覚。海産物。蟹おいしいよ〜。海水ウニもありますよー。  予算はこれくらい。食べる人数はこれくらい。と教えてくれたら、その中で  できる限りのご提案をします!山猫屋の蟹は冷凍物は扱っておりません!  さぁ、タラバ食べたいよう、毛ガニ食べたいようのメールをみかりんに書こう。  毛蟹の良いのが入荷してきています。  北の食材たちは脂が乗っておいしいです。  この機会に、どうぞ冷凍ではない蟹を!  ご贈答に、山猫屋の海産物を。 それじゃ、今回はここまで。 あなたのお便り待ってます。 daichi-m@phoenix-c.or.jp じゃね。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「ウソじゃない!」という話を聞いてほしい。 庭のバードテーブルにお久しぶりの鳥が来た。 私はカメラを取り出して渾身の1枚を撮った。 鳥は「ウソ」と思った。 写真を撮り終えて図鑑を見ると「ウソじゃない!」「シメ」だった。 写真をパソコンに移すのにあれこれいじっていたら、写真を消してしまった! 「ウソでしょ!」ってなって「いやいやウソじゃない」って、二重の意味で。 もう何がなんだか。(笑) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○ やまねこ通信E=MC二乗 vol.248  2017年3月19日発行 http://www.phoenix-c.or.jp/~daichi-m/yamaneko/yamaneko.htm ○発行編集者 みかりん daichi-m@phoenix-c.or.jp ○発行システム: インターネットの本屋さん「まぐまぐ」ID:0000052530 http://www.mag2.com/ ○登録/解除 http://www.phoenix-c.or.jp/~daichi-m/yamaneko/yamaneko.htm ○やまねこ通信は、素人みかりんが趣味で発行しているもので、情報の正確さには  まったく自信がありません。引用して弊害が起きても責任は持てないよ。  それから誤字脱字変換ミスは大目に見てね。気を付けるけれどさ。えへ。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━