もうすぐクリスマスがやってくる。
 だから、もうそろそろ真理亜に新しい彼ができる。
「真理亜、新しい彼氏はできたの?」
「うん、昨日告白された。」
「だれ?」
「佐野君。」
 私の胸がトクリと鳴った。
 私は、真理亜にそれを気付かれないように聞き返す。
「佐野君って、うちのクラスの?」
「そう、うちのクラスの佐野健児君。」
 真理亜が口にした名前に、私の胸はまた少し締め付けられた。

 真理亜はとても綺麗だ。
 人形のように綺麗に整った顔をしていて、その表情が愛らしくくるくると変わる。
 そんな真理亜をクラスの男子達がほっておくはずもなく、真理亜はクリスマスが近くなると、必ずお目当ての男の子に告白された。
 いや、告白させていた、と言った方がいいのかもしれない。
 真理亜は自分が魅力的な女の子だということを知っていたし、その魅力をいつも最大限に利用していた。
 だからこそ真理亜は小学校五年生から去年の十六歳のクリスマスまで、毎年違う男の子とクリスマスを過ごしてきた。
 そして、今年は私が少し気になっている男の子、佐野君とクリスマスを過ごす。
 でも、佐野君が真理亜の彼氏でいるのも、きっとバレンタインデーまでだろう。
 毎年、クリスマスを真理亜と過ごした男の子達が、バレンタインデーを過ぎる頃には、真理亜のただの友達になっていたように。
 そんな風に自分を慰めて、そのあまりの空しさに、私は思わず溜息をこぼした。
「ねぇ、絵梨、クリスマスに予定はある?」
「ないけど・・・どうして?」
「うん、私達と一緒にパーティやらないかと思って・・・。」
「私達って、佐野君と真理亜?そんなの・・・。」
「だから、佐野君の友達の大崎君も一緒に。ね、いいでしょ。」
「どうして?」
「なにが?」
「どうして大崎君も一緒なの?」
「だって、絵梨、男の子とクリスマス過ごしたことないでしょ。だから、高校生活の思い出にそういうのあってもいいんじゃないかなぁ、と思って。ね、いいでしょ。」
「そんなの・・・。」
 大きなお世話だわ、と思っていると、真理亜がなおもしつこく頼んできた。
「ね、お願いよ、絵梨。佐野君って、無口だからさ、二人だと話とかはずまなそうじゃない。その点、絵梨と大崎君がいればね。」
 真理亜が哀願するように、私の目を覗き込む。
 私は思わず頷いていた。
 女の私でも、真理亜の頼みは断れない。
 もともと私は頼まれると嫌とは言えないタイプなのだけれど、真理亜にはなおさらだ。
 私はそんな自分に嫌気がさして、また溜息を一つ落とした。
 
 そして、クリスマスイブの日がやってきた。
 真理亜の家に行くと、もうみんな集まっていた。
 クリスマスパーティと言ったって、ケーキとシャンパンを囲んで、みんなでお喋りするだけ。
 佐野君とは話が弾まないなんて言っていたくせに、真理亜と佐野君は楽しそうに笑いあっている。
 真理亜の天使みたいに綺麗な笑顔と、佐野君の笑うと少しだけくしゃくしゃになる顔を見比べながら、真理亜は私の気持ちを知っているのかもしれないと思う。
 知っていて真理亜は、佐野君とつき合いだしたのかもしれない、と思う。
 真理亜はそういう娘だ。
 そして真理亜は、そういうことをしても許される娘なのだ。
 実際私は、そんなことを思いながらも、不思議なほど腹は立たなかった。
 真理亜と佐野君は、そう長くは続かないだろう、と思っているからかもしれない。
 佐野君は、真理亜が今まで付き合ってきた男の子達とは、違うタイプの男の子だ。
 真理亜が今まで付き合ってきた男の子達は、明るくて、女の子を笑わせるのが上手で、なにかと目立つタイプの人達だった。
 佐野君はどちらかというと目立たなくて、無口で、落ち着いた感じの人だ。
 そんなことから、なおさら真理亜とは長く続きそうにもなかった。
 
 パーティが終わるとすっかり遅くなってしまっていたので、大崎君が送ってくれた。
 なにを話したらいいのか分からなかったので、私達は一言も喋らずに黙々と歩いた。
「好きです。」
 突然、そんな声が降ってきた。
 びっくりして見上げると、大崎君が真っ赤な顔をして、私を見つめていた。
「あの、付き合ってほしいんだけど。」
 大崎君があんまり真っ直ぐな眼をして言うものだから、私は『NO』と言うことができなかった。


 そして、一年が過ぎた。
 今年もまたクリスマスを四人で過ごす。
 真理亜と佐野君はバレンタインデーを過ぎても別れなかった。
 それどころかもう一年以上も付き合っている。
 真理亜がこんなに長く一人の人と付き合うのは初めてのことだ。
 私と大崎君も去年のクリスマスから、ずっと付き合っている。
 でも、私達は手をつないだことすらない。
 一緒に映画を見に行っても、話すこともなくいつも一定の間隔を保ちながら歩いていたし、二人で一緒に写っている写真なんて一枚もない。
 大崎君は、私の気持ちに気付いているのかもしれない。
 だとしたら私は、大崎君にとてもひどいことをしている。
 そんなことを思いながらも、私は、大崎君に『別れよう』の一言を言うことができなかった。
 去年と同じ真理亜の部屋で過ごすクリスマス。
 メンバーも場所も変わっていないけれど、流れている雰囲気が少し違う。
 真理亜は専門学校に入学が決まっているし、大崎君は就職が決まっている。
 そして、私と佐野君は進学。
 あと三ヶ月したら、みんなバラバラになる。
 来年のクリスマスはどんな風に過ごすんだろう。
 そんなことを思いながら、クリスマスの夜は更けていった。


 そして三月、卒業式。
 私は短大に、佐野君は私立大学に進学が決まっていた。
 卒業式で、真理亜は綺麗な涙を流していたけれど、私は泣かなかった。
 真理亜と佐野君は、教室の片隅で第二ボタンとリボンを交換しあっていた。
 私と大崎君は、暖かい陽射しの差し込む廊下に、黙って二人、立っていた。
「ごめんね。」
 私が呟くように謝ると、大崎君は何も言わずに制服の二番目のボタンをはずして、私に差し出した。
 私はそれを受け取って、制服のリボンをスルスルとほどいて大崎君に渡した。
 大崎君は微かに笑いながらそれを受け取った。
 その刹那、私は大崎君のことが好きだったのかもしれない、と、思った。
 そう思うと、なんだか泣きたくなった。
 けれどやっぱり私は、泣かなかった。
 そんなふうにして、私達は高校生ではなくなった。


 それから五年目のクリスマス。
 私のもとに一通の手紙が届いた。

    結婚しました。
        佐野 健児
            真理亜(旧姓・高野)


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