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ここに、阿懿の手記がある。
手記と言っても阿懿は字を知らなかったので、阿懿が書いたのでは無い。
阿懿は妄想狂に陥った後、邑外れの学者の所へ言った。
学者と言うが、彼は何かを研究している訳でも無く、昔少しばかり大きな町で学問をした程の者である。
だがそれでも知識人では在るのだから、真逆[まさか]食人などと言うおぞましい意識に心奪われては居るまい、
と阿懿は考えたのだ。
そこで阿懿は己の日々の状況等を学者に書き留めて貰おうとした。
そうすれば、食人、
と言うものを未来又は現在の世間に迄伝える資料に成ろうし、もし近しい将来、
現在の状況が阿懿の手に終えないものと成った時、誰かに助けを求める為の材料にする事も出来る。
そういう阿懿の精一杯の考えであった。
さて一方の学者(名を王欣)はというと、
勿論阿懿が狂っているのを知っていた。
だが然し、
―ここで気狂い者の話等と言うものを記してみるのも面白いかもしれぬ―
実際はおくびにも出さなかったが、王学者はこう考え、阿懿の代筆を引き受けた。
王学者は阿懿の言う事を一言半句変えずに書き留めたので、(阿懿はやはり狂人であったから)支離滅裂な所が有る。
昨日言った事と全く違った事を次の日には言っているし、前後の話の関連性も無い。
だがそうした事も又、阿懿の病気、又性分(そもそも教養等皆無であった)によるものが大きいと思われるし、
それらの文章は阿懿の心情等を知る重大な手がかりにも成り得るので、私もその手記をそのまま載せようと思う。
括弧[かっこ]書きされているのは私の、文章に対する補足である。
〜続劇〜
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