家庭で行なう片麻痺上肢の機能訓練

主任作業療法士 柏原英郎





はじめに

皆さん、今日はご苦労様です。今日のテーマです。「家庭で行なう片麻痺上肢の機能訓練」。今回は、家庭で出来る簡単な運動、いつでも誰でも出来る、共通した運動をピックアップして、簡単にお話ししようかなと考えました。

今日のお話は、脳卒中による片麻痺に限定しています。経験のあるかたはご承知のことと思いますが、脳卒中でたおれられて長期間が経ちますと、2年、3年、7年、8年と長期間経ちますと、手の麻痺のある程度強いかたというのは、運動を継続する手段もだんだん少なくなってきますし、運動をしても手というのはある程度以上の機能が回復しなければなかなか使えないものですから、運動が長続きしないものですね。我々が、家に帰ったらこうこう、こんな運動をした方がいいですよと言っても、だいたい普通のかたであれば出来ないのが当然だと思います。私たちもそれは承知の上でお話ししています。

機能の回復、能力の回復という点だけに焦点を当てるとなかなか難しいですけれど、今持っている手の能力というものを維持する、そのために運動を毎日少しずつやるんだというふうに考えなければ、運動しないで何年間も過ごしていると、だんだん体のあちこちの調子が狂い始めます。




家庭で行なう機能訓練の3つの目的

今日のテーマの家庭で行なう機能訓練の目的を簡単に書きます。

1番目、機能の維持です。麻痺はあるんだけれども少しは動くという場合に、今の能力を最高の状態に保っておこうということが主な目的になります。

2番目、組織の健康と書いてありますが、体の各組織です。骨、関節、筋肉、腱いわゆる「すじ」ですね、皮膚、血管。そういったものの組織が何年も経つとだんだんと弱ってくるわけです。そうすると、ちょっと転んだだけで骨折するとか、骨折しないまでも関節、特に肩の関節なんか痛み出す。それから五十肩のような炎症が起こってきたり、ちょっとこすっただけで皮膚が弱くなっているので内出血が起きたり、だんだん手の血管も細くなったりもろくなったりします。そういったものを予防するために、というのが2番目の組織の健康維持、健康管理ですね。

3番目です。今お話しした能力、運動機能。能力の回復というものに焦点を当てた場合です。手でも足でもそうなんですが、麻痺が起こると、自分の自由意志で、自由のままに動かせないわけですね。「麻痺してもいいや」と言うかたはいらっしゃらないと思います。どうしても、健康を回復したい、能力を回復したいわけですね。そのためというふうに大ざっぱに考えて下さい。

今日は3つの目的を持って簡単にお話しするんですが、これからお話しする簡単な運動の種類、色々あるんですが、「この運動は1番目の機能維持にあたる。2番目のためにはこの運動とあの運動と」というふうには分けてはおりません。どの運動がどの目的に適しているかというのは、その人の状況に応じて決まるものですから、今回は誰にでも出来る運動、そして簡単に出来る運動、そしてこの3つの目的のために少しは役に立つのではないかという運動を集めてみました。そういうつもりでお聞き下さい。




関節の柔軟性を維持、回復させる運動

これからお話しすることは、脳卒中によって左の手足が麻痺したんだという前提でお話ししていきます。

この、関節の柔軟性を保ったり回復させる運動というのは、だいたい皆さんもご存知だと思いますが、3種類あります。


●自動運動

読んで字の如く、自分で動かす運動です。左の上肢の各関節ですね、上から順番にいきますと、肩甲骨、肩、肘、手をひらひらさせる時の前腕、手首の関節、指の関節。ひとつひとつやっていくと結構な量があるんですが、馴れたら簡単に出来ます。自動運動ですから、麻痺した手がある程度動くかたに限ります。やり方は簡単に分かると思います。

まず肩甲骨からいきます。肩をすくめる運動です。これは左肩(麻痺側)だけやるんだという時でも、普通は両方一緒にやった方がやりやすいものです。ウインクと同じで、片方だけでは出来ないというかたでも、両方でやると比較的楽に出来ます。

肩の関節です。こう、上がる所までゆっくりと上げていきます。前と横と後ろです。出来れば、肘をまっすぐ伸ばしたままやれば色々な目的があって良いんですが、上げるとどうしても肘が曲がってきやすいですね。横に上げたりすると、すぐ肘が曲がってきやすいですね。出来たら肘を伸ばすという方法がいいですが、それでも構いません。

それから、途中までは上がるんだけれど、そこから先、頑張ったら肘がこう曲がってしまうというのなら、それでも構いません。とにかく、「関節の動く範囲を最大限に動かす」ということだけ気を付ければ結構です。

それから、この運動に限らず、今からお話しする運動全てなんですが、「ゆっくりやる」ということだけ注意して下さい。速くやっても得られるものはほとんど何もありません。馴れたかたというのは、ぱっぱとやります。自分の調子やら経験によって分かって判断していますから、それはそれで構わないんですが、普通は速くやると得られることがないのと同時に、故障も起きやすいことがあります。すでに起きている故障、肩が痛いとか、そういうのを増悪させるという原因にもつながりますので、なるべくゆっくりやります。

実際には、前に上げる運動、ゆっくりとこうやります。ここから上がらないところ、そこからもうひと踏ん張りして、そこからゆっくりと下げます。そして、必ず力を抜いて下さい。一度リラックスさせて下さい。それからまた上げます。ゆっくりとです。

それから、後ろですね。後ろというのは難しいですね。肘を伸ばしたままでは難しいですから、背中を上に這わせる方法でも構いません。

肘は簡単ですね。曲げたり伸ばしたり。

ひらひらさせる前腕の運動(回内、回外)は、これはどんな位置で行なっても構いません。普通は右手でちょっと支えてひらひらさせても良いし、テーブルの上でひらひらさせても構いません。

それから、手首の曲げ伸ばしと手首の左右への運動です。指の曲げ伸ばしも同様です。

回数はだいたいというふうに考えて頂ければ良いんですが、1回につき20回を目標として出来れば結構です。半分でも結構です。疲れやすいとか、毎日やるのは面倒くさいとか、毎日やっていると単純運動というのは面倒になりますから、少なめでも構いません。やらないよりははるかに良いということです。これが自動運動です。


●自己他動運動

「自分で行なうんだけれど他動的に行なう」ということは、手で言えば、左(麻痺側)を右手を使ってやるということですね。これももう皆さんもご承知のことだと思いますが、今やった手の運動(自動運動)を自由な方の右手を使ってやるということです。

この自己他動運動というのは、特に肩の運動なんかでは出来ない運動の方向があります。横は出来ません。このように頭の上から右手で持ってやれば横の方の運動も出来るんですが、関節がちょっとでも固まっていると痛くて出来ませんから、まずは、上の方だけたっぷりとやっておいて下さい。これは寝た状態でやるのが楽です。左手の方にも無駄な力が入りませんし、重力もかかりませんから、寝た方がはるかに楽なんですが、馴れれば坐っていても十分に行なえます。

その他の各関節についてはよろしいですか。右手を使ってやるだけですから、ゆっくり、止まる所までやればいいです。

この自己他動運動の唯一の注意点というのは指です。指の運動をやる時に手首も一緒にやる場合もあります。指と手首を一緒に伸ばす運動です。問題なのは指の付け根の関節ですね。過伸展といって、この運動を無理やりやっていると、指の付け根の関節が変形してしまって、手の甲の方へそっくり返ってしまいます。それだけは防いで下さい。そうなるとなかなか元に戻りにくいですから。

個人差があって、元々簡単にそっくり返るというかたもいますから、右手の関節の柔軟性と比較しながらやってみて下さい。今の注意点を気を付けるには、こうすればいいですね。テーブルの上でも膝の上でもいいです。こうやって、左の手のひら全体に右手の手のひらを合わせて行なって下さい。


●他動運動

他人が動かす運動です。ここの病院のリハビリに来ているかたはだいたい皆さんご存知だと思いますが、我々他人が動かす運動です。家族のかたが毎日毎日1回やってあげている、何年間も続けてですね、そういうかたを知っていますが、良く出来るもんだと本当に思います。毎日々々、風呂に入るのも面倒くさいというかたも結構いると思うんですが、感心なものだと思います。




物を使った運動

2番目の自己他動運動と似ているんですが、物を使った運動です。色々な物を使ってやるというだけなんですが、関節の柔軟性の運動についてはよくこういった運動をしますね。このように、壁に手をついて徐々に上に挙げていく、左手に右手を添わせて上げていくという運動もあります。これはよく肩なんかで使います。それから指先が固いんだ、全然伸びない、伸ばそうと思っても伸びない、右手で無理やりやっても固まって動かないという場合に、テーブルなんかに左手を乗せて上から右手で押すという運動、これなんか簡単な運動ですね。大ざっぱに言えば、このような運動があるということです。

先ほども言いましたように、とにかくゆっくりやる、回数をたくさんやるよりもゆっくりとやる方がはるかに効果は高いです。以上で、関節の柔軟性についてのお話は終わります。




筋肉を使った運動

これは、今お話しした運動とは全く違いまして、麻痺した左手の筋肉を使って、運動能力を維持したり高めたりするための運動で、一般的に言うトレーニングというイメージで結構だと思います。ただし、筋力強化とはかなり意味あいが違いますので、筋力増強運動だ、筋力を強くする運動だというふうには、一応思わないで下さい。

これは、関節の柔軟性を保つ運動よりもはるかに個人差の大きい運動の処方ということになります。麻痺の重いかたと軽いかたでは、運動のやり方も種類もかなり違います。しかし、これからお話しする5つ〜6つの運動があるんですが、その運動は誰にでもだいたい共通で、そのかたそのかたの能力の状況に応じた変化をつけやすい運動を集めてみましたので、まずお聞き下さい。




体操

体操です。これはラジオ体操と同じような格好でやるんだというふうに思って頂ければ結構です。全然違うのは、坐ってやるということと、ゆっくり行なう。反動をつけないで行なうということです。反動をつけたら駄目です。決して反動をつけないでゆっくりと行なうんだということが、ラジオ体操と異なるところですね。

この運動は先ほどの関節の運動の際の自動運動と非常に似ているんですが、左手(麻痺側)全体をゆっくり前に上げる。これは先ほどの訓練と違って、肘が曲がり始めたらそこで止めるということが大事です。ゆっくり上げて下さい。ゆっくり上げて、ここまで頑張ったけれど肘がどうしても曲がる、ここからもっと上げようとするとこんなふうに肘が大きく曲がってしまうという場合には、少し曲がり始めた所で止めて下さい。これを、上がった所で5秒間以上止めて、またゆっくり下げて、完全にだらーっとリラックスするという運動の繰り返しです。これは1度につき20回ぐらいやって下さい。

このように横も同じです。先ほども言いましたように、肘が曲がりやすいですね。曲がって来たらそこで止めて下さい。その時にですね、出来ればこんなふうに肩が内旋したような格好にならないように、曲がり始めたら止める。これもやっぱりゆっくり20回行ないます。

それから後ろも同じです。後ろに上げるのは非常に難しい運動ですけれど、決して背中に這わせないようにして下さい、効果がありませんから。ゆっくり後ろに上げて、行かなくなったら止めて、また降ろすという運動です。

:最初から肘が伸びないという場合には運動はどうするんですか。
:最初から曲がるかたはもちろんいます。麻痺がある程度重いかたはそうなります。全然上げれないかたはこういう運動はちょっと無理ですから、やめということにしておいて、少し出来れば良いんです。最初から肘が曲がってしまって、上げる前からもう曲がっている時には、体をなるべくリラックスさせて、今座っているような椅子の背もたれにゆっくりもたれかかって、手を横に降ろして下さい。両手とも、右も左も 降ろして下さい。それで、10秒から1分間と、随分と差があるんです が、そういうふうにしてリラックス出来たんであれば、そこから始めて下さい。1回運動するごとに降ろしても、また肘が曲がってしまうことがあります。そういう時にはまた降ろして、背もたれによりかかって 楽にしてから、それでやって下さい。そして、上げる範囲、前と横と 後ろですね、上げる範囲というのは出来る範囲というふうに考えておいて下さい。

これが1番目の体操です。これも1度につき20回ぐらいと考えて下さい。これも、20回というのが色々な理由できつかったら、5回でも10回でも結構です。必ずゆっくりやることと、一番上まで行ったら止めることを守って頂ければ、かなり効果はあります。

それから、今の運動で、何とかかんとか出来るけれど、ほんの少ししか上がらないというかたはちょっと別にしまして、ある程度ここらへん(正面ぐらい)まで上げることが出来るんだというかたは、次の段階です。次の段階では、少し大きめの物か、少し大きめで少し重量のある物か、そういう物を持って運動するということは良い運動です。これは缶コーヒーです。最初のうちは中身を飲み干して軽い空き缶として、持って、ゆっくり上げて、止めて、ゆっくり降ろすということをやります。もうちょっと次の段階に行ってみようかなというかたは、こちらの少し太目の缶を使って同じような運動をやります。もう軽くて十分出来るんだというかたは、中身を飲まないでそのままやって下さい。

物を持って体操をするんだというのは、かなり難しい運動になります。その分、出来るかたにとってはかなり良い練習にはなるんですね。今お見せしたように、何も持たないでここらへん(体のほぼ正面ぐらい)まで上げるという、この目安は一定ではありません。例えば、今まで色々な運動をやってきて動きが一定だ、45度ぐらいしか上がらないというかたでもやってみて結構です。どんどんやってみて下さい。そして、物を持ってやってみておかしな格好になるという場合はよくあります。あっという間に肘が曲がってしまうとか、最初からこんなふうに肘が曲がって肩が内旋してしまうという場合はよくあります。そういう場合にはまず飲み干して、細めの缶で中身のない軽い缶から始めてみて下さい。


:缶を持つのは、良い方の手で持つか麻痺した方の手で持つんですか。
:麻痺した手で持ちます。
:全然上がらない場合はどうするんですか。
:残念ながらそのように上がらないというかたで、どこかの病院のリハビリに通えないんだという場合には、家で毎日少しずつやらなければ なりませんから、今のような体操が出来ないというかたは、もうひとつ方法があります。家でしか出来ないという場合、もしくは月に1回ぐらいしか病院に来れなくて、あとは家で運動しなければならないという場合には、先ほどお話しした関節の柔軟性を保つ運動がありますね。こういうふうに、右手を使って左手(麻痺側)を下から持ちます。持ったまま左手を体の前まで持ってきます。それでちょっと左手をはなしてみて下さい。その位置で保てるかどうか。体の前の方の下の方でも構いません。もっと下でも構いません。麻痺が強いかたはちょっと力を入れればすぐ肘が曲がってしまうもんですから、低い位置でも構いません。それでちょっとやってみて下さい。止めれれば5秒ぐらい右手を離して下さい。肘は多少曲がっても構いません。




ボールを使った運動

次はボールを使った運動です。いつでしたか斉藤部長から、手を伸ばして強く握りなさいというお話があったかと思うんですが、それと同じような感じです。これは普通の軟式テニスのボールで、空気入りです。ふにゃふにゃです。これを使って筋肉を使った運動というのが簡単に出来ます。どういう状態でも良いですから、左手(麻痺側)に持たせて下さい。親指が強く曲がってしまってうまく持てないというかたが多いと思うんですが、そういうかたは右手を使って親指の位置をセッティングしてあげて下さい。だいたいの格好が取れれば良いと思って下さい。これで、先ほどの体操と組み合わせてやるのが一番良い運動になります。前にゆっくり上げた状態で握る。それから止めて、また降ろす。前、横、後ろですね。これが出来なければ、手を下にまっすぐに下げた状態で握っても構いません。

肘を曲げた状態で、手を膝の上とかテーブルに置いてボールを握るというのも意味はあるんですが、出来たら肘は伸ばしておいた方が良いです。最低でも、肘は伸びているんだということを確認してやってみて下さい。

このボールを使った運動は、使い方によっては色々使えるものです。ちなみに、このボール、すぐそこの石黒ホーマで2個ワンセットで398 円でしたか、税込みで409 円で2個手に入ります。色は3色ありました。こういうようなボールを使った運動というのは、馴れたら自分で色々工夫しながら出来るものですから、なかなかやりやすい運動だと思います。




手すりや家具などを使った運動

手すりというのは、だいたい一般の家庭にはほとんどないですね。ユニットバスに1本付いているか2本付いているか、その程度だと思います。片麻痺で、歩く時にやや不安定だというかたのお宅には、トイレ、お風呂、ちょっとした廊下などに付いている場合もありますから、そういう場合には手すりを使います。なかったら、安定性の良い色々な家具でも構いません。こういう出っ張りがあれば使えますし、勉強机でも構いません。今皆さんがお坐りの椅子でも構いません。椅子の背もたれでも使えます。椅子の背もたれを使うんですが、椅子が軽い場合には座面に古新聞でもいいし雑誌でもいいですから、どんと置いて重くして安定させてから使って下さい。

こういった物を使った運動というのは、麻痺した左手をあてがって、軽く握れるような状態の家具であれば握っても良いですし、握れなかったらこういうように手を開かせてあげて下さい。握った状態のままで平らな所に置かないで、なるべく開いた方が条件がいいです。この椅子の背もたれの上に左手をあてがって、体を左に傾けて、左手に少しだけ体重をかけます。それを左手で押し返すような運動です。左にかかった体重を押し返す。これは壁でもどこでも出来ないことはないのですが、壁に左手を保持させるというのは難しいものですから、ちょっと低めの家具なんかの方が良いです。

それから、結構やりやすいのがタンスですね。どんなタンスでもいいんですが、引き出しをちょっと前に出して、その引き出しのへりに手を当てても出来ます。思い切り体重をかけると引き出しが閉まって手をはさみますけれど、そういうのもやりやすいですね。

それから、ベッドの柵だとか、ベッドの置き場所にもよるんですが、頭と足の方にある板と言いますか、あれを使っても出来ます。

このようにして体重を少しかけますね。そしてゆっくりと戻す、その体重のかけ具合なんですが、自分が体重をかけてみて、自分の力で戻せる範囲内の体重をかけるというだけで結構です。この方法は、上の方の肩も、下の方の手も両方同時に固定されるので、この運動は色々なレベルの麻痺の人に使いやすい運動です。




雑巾がけ

昔で言う、長い廊下を濡れ雑巾で拭くという意味ではなく、ます乾いたタオルをこういうふうにたたんで使います。机でもいいですし、食卓テーブルでもいいですし、お膳でも何でもいいですね。平らな滑りやすい所に雑巾やタオルを置いて、その上に左手(麻痺側)を当てて、テーブルなりお膳の上なりをゆっくり前後に動かす。ここのOTでやっている「砂押し(サンディング)」と同じような動きですね。あれよりももっと難しいですが。ゆっくりと動かすと。その時に、まっすぐ前にはなかなか行きません。そういう時には、左麻痺であれば右の斜め前方に滑らすというのでも構いません。出来るだけ肘が伸びるまで押して下さい。

どうしても手をタオルの上にうまく平らに置けないで、手を握った状態になったとしますね。そういうふうになったら、それでも構いません。出来れば手を開いた方が良いんですけれど、自分の筋肉を使った運動だとどうしても指が曲がりやすいので、曲がった状態でもいいです。指が曲がっているとタオルを押さえにくいですね。押さえにくい時には、握った手の中にタオルを押し込んで固定してもいいですし、こういうふうに手にタオルを巻いても構いません。指先までタオルを巻いて、ゆっくりと行なう。これでも構いません。

実際に行なう方向なんですが、基本的に2種類あります。前後と、肘を伸ばしたままの状態で左右です。左右に動かす場合には特に外側に大きくです。内側よりも外側に大きく動かします。この2つの方向の運動が簡単に出来ますし、効果もあります。




両手使用

これが最後になりますが、両手使用。両手を使って、普段の生活の中で両手を使う機会を増やして、それを運動にするという意味です。

本来の手というのは、片手でやるよりも両手でやった方がはるかに動きは動きやすいんだと思って下さい。複雑な動きを両手でやるというのは、それはかえって難しくなるんですけれども、このタイトルの「筋肉を使った運動」で、家庭で簡単に出来る運動というのは、両手でやる方がやりやすい運動がかなりあります。どういった運動かというと、こういった背もたれのある椅子を運ぶ時に、右手で簡単に運べますけれど、あえて両手を使って動かすということです。この背もたれを上から持っても下から持っても、持ちやすい方でいいと思います。上からの方が持ちやすいと思いますけれど、両手で持って押す、両手で持って引くということです。良い方の手で簡単に出来るんだけれど、それをあえて両手でやるという意味です。

それからお盆、病院の食事なんかは小さなお膳かなんかで運ばれてきますね。あれを持つ時には、片手でも持てるんだけれども両手で持ちましょうという意味です。これがお盆だとしますと、片手で持ってひょいひょいと移動出来るんですけれど、これを両手で持ってみるということです。高い位置で持つことは無理ですけれど、体の近く、お盆をお腹にくっつけて、両手で持って、ちょっと前の方に離した状態で移動させるということです。

それから、布団をかぶりますね。布団をかぶる時に、仰向けになったとします。それで布団をかけますね。そういう時にも必ず両手でかけるんです。両手で持って、両手でゆっくりとかける。これはもう1日最低2回、朝晩1回ずつやるし、習慣的に簡単に出来る運動ですね。こういった類の運動が、両手を使った運動という意味です。




趣味を利用するという方法もあります

今までお話しした運動というのは、まさしく訓練のための運動ですから、面白味はたいしてありません。手の状態が良くなっていく経過だとか、治っていくようなもの、そういった状態を自分の目で見てぱっと分かるような場合には、それはやり甲斐があったということですぐ分かるんですが、なかなかそうはいかないので、訓練のための運動になりがちなんですね。

そういう場合には、以前からやっていた趣味なんかを利用するというのも、これはよく勧める方法です。趣味といっても、元気な頃にやっていた趣味というのは、ものすごく簡単で子供でも出来るというようなものというよりは、例えばゲートボールにしても、散歩にしても、庭いじりにしても、囲碁、将棋にしても、麻雀にしても、スポーツにしても、脳卒中になって左側が不自由になると難しくてなかなか出来ないものです。

その中で簡単に行なえるものといったら、例えば、ゲートボールのスティックを振り回すとか、うちの作業療法でも患者さんがよく希望するのでやっているのですが、ワープロをよくやっていますね。あれは片手、右手だけで十分出来ますから、それに左手を使うというのは、一定のキーを左手で押さなければ使いにくいような構造になっていますから、ワープロは。そういう場合に左手をちょっと使うという練習は出来ます。

ちょっと個人的な好みになるんですけれど、麻雀というのはあれは相当難しいんですが、両手の運動としては実にすごい運動ですね。どういうふうにやるのか教えてくれというのなら、いつでも麻雀を一緒にやりながら、私の家にはいつも用意してありますので、やってみても構いません。




終わりに

ちょっと時間がなくなりましたので、今日のお話はだいたいこれで終わりです。もう一度念を押しておきますけれど、運動はゆっくりやるんだということを心がけて下さい。速くやる運動、強くやる運動というのは、我々担当の者がついてやるといった場合には良く使いますけれど、おひとりでやる場合にはゆっくりが最も大事な基本となります。

今日のテーマの「家庭で行なう片麻痺上肢の機能訓練」というのを終わりたいと思います。何かご質問がありますか。




質疑応答

:あたってる(麻痺している)方の足が外の方に向くんです。10人いたら8人までが外を向いていますね。それを少しでも治せる方法があるのでしょうか。
:それは、申し訳ありませんが、PTの専門の人に聞いて頂けますか。足をまっすぐにしたいというご希望ですね。それは、例えば装具を使うとか、こういった運動を毎日やれば良いとか、そのように簡単にいかないので、だんだんそういうふうになっていくという状況が一番多いですね。あれはある程度やむを得ないというふうに考えた方がいいと思います。その上で、足が横向きになるから痛みが出るとか、膝におかしな 感じがするという場合には治していかなければならないので、その場合には専門の知識と専門の評価と訓練が必要になりますので、担当の療法士と相談して下さい。

:誰かに手を引っ張ってもらったり、自分の力であたった手を100回引っ張るんですが、いいんでしょうか。
:100 回やって、引っ張る運動でも押す運動でも100回やって、それでも何ともなければ構わないと思います。

:ボールのお話がありましたね。テレビを見ている時には手が空いていますよね。ずっとボールを持って、やっていても構わないんですか。
:常にやるというのは、意識をテレビなり映画なりに向けたまま、例えば30分でも1時間でも続けてやるというのは、ちょっとまずいかなあという点が出てきます。具体的には、片麻痺に関してのお話ですが、だいたいテレビを見たりしている時には、こうなりますよね。左手は膝の上に置いたり、右手で支えて持ったりしますね。それで、ボールを握る もんですから、先ほど話した、伸ばした位置で握るという基本からずれてしまうということがひとつと、そういうふうに握っていると、手の筋肉、握る筋肉を休める暇がない、要するにリラックスした状態から緊張して握る、再びリラックスさせるという反復が出来ないということなんですね。ですから、出来ればコマーシャルの間だけやってみるという方がまだ良いかと思います。衛星放送なんかはコマーシャルなんかは全然ないですから、それはちょっと考えてもらわなければならないんですけれど、そういう方が良いと思います。

:五十肩、六十肩というと、イタイイタイと言いながら病院に行っても治らない、ある一定期間経てば自然と治っていくということがあるんですよね。でも、「痛い時にも何とか運動をしたい」ということで考え るんですけれど、どういうような体操をやって行ったらいいでしょうか。
:五十肩という故障で、例えば肩が痛いとしますと、肩が痛い時の基本中の基本というのはまず痛みを取ることですけれど、実際にはそうはいかないですね。固まってしまうとか、動きが悪くなってしまうということがありますし、ご心配もあるでしょう。私たちもそうです。私も肩が痛い時に、関節の柔軟性を保つ運動を無理やりやっていました。その場合に行なう運動というのは、今までお話した関節の柔軟性の運動と、筋肉を使った運動を、出来る範囲でやれば一番やりやすいと思います。将来に対する心配も排除出来ますし、ある程度の運動を常に行なうということで、体の組織の弱化も防げますので、普通と同じ考えでだいたい良いと思います。ただし、痛い運動は止めるんだというだけでだいたいは結構だと思います。

:だいたいの運動は出来るんですけれど、手が痺れるんです。自分でやっても他人にやってもらっても痺れます。
:部長に助けてもらいましょう。時間もなくなって来たので、部長に相談して下さい。




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