失語症の検査と訓練

言語療法士 菅野栄子





はじめに

今日は失語症の検査と訓練ということでお話をさせていただきます、言語療法士の菅野といいます。よろしくお願いします。

今回は失語症の検査と訓練についてお話をしていくんですが、この失語症という病気のことを、1回目の時にもお話はしたんですが、簡単に説明していきたいと思います。




失語症とは

失語症という病気は、読んで字のごとく、「言葉を失ってしまう病気」ということです。「言葉を失って話せなくなってしまう」というだけでなくて、「相手が話している言葉を完全に理解できない」というのも、失語症の症状の一つになります。

私達にもふだんあることなんですが、たとえば人の名前だとか物の名前がとっさに出てこない、浮かんでこないということや、たとえば「リンゴ」と言おうと思ったのに間違えて「ナシ」と言ってみたり、リンゴの「リ」が「ディ」になってしまって「ディンゴ」になってしまったりとか、そういう、「言い間違える」というのも失語症の症状の中に入っています。

しかし、失語症という病気は、何らかの原因で、たとえば脳梗塞や、交通事故で頭を強く打ってしまったなどの脳に損傷が起こった場合、そのあとに起こってくるのが失語症という病気なので、けがや病気が何もなしに名前が浮かんでこないというのは失語症とは言いません。何か大きな病気、脳梗塞とか脳出血とか頭部外傷とか、そういう病気やけがが原因で脳に傷がついたり、病気ができたりして、その結果出てくる言葉の障害というのが失語症になります。ふだん、もの忘れがちょっと強くなって、「あの人の名前が出てこない」というのは失語症とは呼びません。




失語症の分類〜4つに分ける分類法です

この失語症というのには、大きく分けて4つのタイプがあります。細かく分けるともっとたくさんの種類にもなるんですが、大きく分けて4つになります。

 1.運動性の失語
 2.感覚性の失語
 3.混合性の失語
 4.全失語

一概には言えないんですが、1.がどちらかといえば軽いもので、2.3.4.と下にいくほど重症度は重いと思って下さい。

1.運動性の失語症というのは、その中にも重いかた、軽いかた、というふうにはレベルがあるんですが、簡単に説明してしまえば、「完全にはうまくしゃべることができない」というタイプの失語になります。しゃべれないという方ですから、理解はいいんだけれども、自分が言いたいことを表に出す、表現する ことがなかなかできにくいというタイプの失語症です。

2.感覚性の失語は、どちらかというと「理解の方に障害がある」タイプの失語です。「完全には理解できない」ということは、「相手の人が話したことを理解できない」というのももちろんあるんですが、「自分が話している言葉もうまく自分の耳で聞いて理解することができない」という、ちょっとややこしい 症状が出てきます。だから、本人はちゃんとしゃべったつもりで、たとえば 「のどが乾いたから水をくんできてくれ」と言ったつもりでも、それが相手の人にはそのようには聞こえません。関係のある言葉、たとえば「水」だとか そういう言葉が出ることもあるんですが、全く出ない場合や、全くでたらめ で、日本語じゃないようなことを「ゴニョゴニョ」と言ったりとか、重症の 場合はそういう言葉をしゃべるという、どちらかというと難しい失語症になります。

3.混合性の失語というのは、1.と2.が混ざったものです。「完全にはしゃべれないし、完全には理解できない」というもので、運動性と感覚姓が字のごとく混ざってしまっている状態です。

4.全失語というのは、1.と2.が合わさった上に、それにもまして重たいということです。「完全には」というのが抜けて、「しゃべれないし理解できない」といった感じの、失語症の中では一番重たいタイプになります。

こんなふうに、運動性とか感覚性とかきれいに分けて、説明はしているんですが、実際の患者さんの中で、型にはまったような運動性の失語のかたとか、型にはまった感覚性の失語のかたとか、そういう典型的な例というのはあまりありません。純粋な運動性の失語といった純粋例のかたというのは非常に珍しく、私も学校で勉強した時に失語症の本を色々読みましたが、「ああ、こういうタイプなのか」と思って、いざ患者さんの前に出てみると、混ざっていてよくわからないというのがほとんどでした。現在も、勤めて丸3年になりますが、教科書どおりの純粋な患者さんに会ったことはほとんどないと言っていいぐらいです。失語症の分野に関しては、まだまだ歴史が浅くて、よくわからない部分が多く、ましてや、人間の脳の中のことなので難しく、これからどんどん研究が進んでいく分野だと思うので、いま私がこうやってしゃべっていることは、20年後には全くうそになっているかもしれません。

この4つの分類法の他にも細かい分類はありますが、そういう話をしていくととても1時間ではおさまりきらないので、ここでは省きます。




失語症の検査をふたつ紹介します

以上のようなタイプに、検査をして分けていきます。このタイプ分類というのは、そのあとの訓練をしていく上で、何ができなくて何ができるのか、というのをしっかり把握しておくために大切な過程になりますので、その検査のことについて、これからちょっとお話をしていきます。

この検査にも、色々な先生方が考えて作られたものが何種類かあるんですが、ここでは、現在うちの病院で使っている検査を、ふたつ紹介していきたいと思います。


●標準失語症検査(SLTA)

言語訓練の指示が出た失語症のかたに必ず行っている検査は、Standaard Lan-guage Test of Aphasia 、略称で「SLTA」と言います。日本語で「標準失語症検査」と言います。昭和50年に日本で作られた、今現在も最もよく使われている検査の一つです。内容は、・聞いて理解する力がどのくらいあるかという、聞く力。

・物の名前を答えたり、説明するという、話す力。
・漢字やひらがなや文章を読んで理解する。文字を理解するという、読む力。
・漢字・ひらがな・文章を書く力。
・計算(たし算・ひき算・かけ算・わり算)。一桁のものから三桁までの計算が できるかどうか。

をみる検査です。

この5つの項目から成り立っている検査で、だいたい1日でやってしまえば、1時間半から2時間程度でできるんですが、訓練時間が1回30分ぐらいというメドがありますし、続けてこういう検査を1日でやってしまうと、患者さんの方が非常に疲れて、こんな疲れることをされるのなら言葉の訓練はいやだ、ということになりかねないので、入院されているかたであれば、1週間ぐらい時間をかけて、通院されているかたであれば2週間以内に終わるようにしています。

この検査というのは、日常の言語活動、誰かと電話で話したり、手紙を書くとか、そういう活動の中で、あまり使わないことを問題にしてあります。

たとえば、聞く部分であれば、絵が6つあって、「みかんはどれですか?」という聞き方をして、それを指さしてもらう。話す部分で、1分間の間に、「野菜の名前をできるだけたくさん挙げて下さい」とか、ふだんの生活の中では、まあ普通の人はこんなことはしないだろうなというようなことを、わざと選んで検査の内容にしてあるもので、あくまでも、そのあとにやっていく言葉のリハビリを行っていく上で、必要なデータを取るといった、何がどのようにできるのかというのをみる検査になります。

この結果はグラフとして書き表していくんですが、「10問中6つできたからまあまあいい」とか、「10問中ひとつもできなかったから全くだめ」というような見方だけではなくて、解釈には非常に色々なことを考察していかなければいけないという、結果の理解というのが難しいため、グラフがこういう曲線をたどったからこの人はこのタイプだというふうな分け方をするのはちょっと危険です。

専門家が見てその人の経験から、この人はこういうことが苦手で、こういうことができるから、たぶんこのタイプであろうという感じで判断するものであって、ぱっと見て、「あ、この人は運動性ですね」とか、「感覚性ですね」という分け方ができる検査ではありません。これが今の日本では一番使われている検査の一つです。


●実用コミュニケーション能力検査(CADL)

もう一つうちの病院でやっている検査があるんですが、Communicative Abili-ties of Daily Living、アルファベット4文字で略称で書くと、「CADL」、「実用コミュニケーション能力検査」です。これは1990年に作られたまだ新しい検査です。作られたというよりも、もともとの英語バージョンがあって、それを日本語バージョンに変えたというのが1990年の話です。

この検査は、ふだんどのように言葉を使っているかを調べる検査です。必ずしも言葉での答を要求しません。先ほどのSLTAというのは、「聞く」なら聞いて指を指す、「話す」なら声に出してちゃんとしゃべらなければ正解という形にはしなかったんですけれど、この検査では、たとえば「年齢はおいくつですか」という質問内容があったとして、それに、「30いくつです」とか「40いくつです」というふうに、もちろん口で答えられればそれはそれで正答なんですが、その他に、しゃべれないけれども数字を紙に書くことができる場合には、それでも正解になりますし、指で「42です」というような感じで、口で話せなくて字も書けないけれど指で表すことができれば、それも正答という形になります。そういう身振りや文字や絵を使ってもいいという、正解としてとる幅が広くて、実際にそのかたがどんな方法でふだん、人とのコミュニケーションをとっているかというのを見る検査になります。

この検査はやっているほうも非常に楽しいんですが、こんな自動販売機もどきがあって、これで、「どこそこまで行く切符を買ってみて下さい」という項目があります。これで何を見るかというと、今自分がいる場所から行き先までの切符の値段を把握して、自動販売機を見て、お金をここに入れてボタンを押せば切符が出てくるという、一連の流れの理解ができているかどうかを見ます。

また、時計のおもちゃがあって、実際にこういうふうにやって、「今は何時ですか」というふうに、時計が読めるかどうか。「4 時10分を指して下さい」と言われて、ちゃんと作れるかどうかという時間の理解などをみます。

また、このようなスプレーの模型があって、値段もついているんですが、買い物をする時に、「お金が千円しかなくて、この二つは買えますか」というようなお金の計算をみます。

電話のおもちゃも入っていて、電話をかけて、「誰々さんをお願いします」とか、電話がかかってきた時にどんなふうに受け答えをすればいいかとか、ある場所の電話番号を調べるのに、電話帳を使えるかたは電話帳で調べてもらうし、番号案内の104 番を使えるかたは調べてみて下さいというように、実際、日常にあるかもしれない場面を想定して作ってあります。答が口で話せなくても、身振り手振りで、相手になんとか伝わればそれで正解にするといった、コミュニケーション能力がどれだけあるかというのを調べる検査です。

これもさっきの検査と同じように、結果はグラフであらわしていくんですが、点数で5つの段階に分かれます。

1.全面的に援助が必要なかた
2.大半は援助が必要なかた
3.一部援助があればやり取りはなんとかできるかた
4.ほとんど実用的で、多少の不自由はあるかもしれないけれど、口で話すだけでなくて、身振りや文字を使えばだいたいほとんどのことが足りるだろうというかた
5.ほとんど問題がなくてコミュニケーションに関しては自立しているかた

という5段階に分けることができる検査です。

ここにいる斉藤先生は別かもしれませんが、他科の先生方も、病気のことはもちろん理解しているんですが、こういう言葉の障害の、どのタイプでどれだけの重さでとか、何ができて何ができなくてという把握が非常に難しいというか、なかなかされないんですね。たとえば、私はわかっているんですが、担当している主治医の先生までに、患者さんに関しての情報が伝わっているかどうかというのは、なかなか難しいんです。もちろん先生とカンファレンスという形で、患者さんについて話し合いを細かくすればいいんですけれど、時間の制約などがありまして、なかなかそういうことができません。こういう検査の結果で、例えば、このコミュニケーションADLの検査であれば、この人は日常生活においては自立のレベルです、ということを一言で言うと、「じゃあほとんどのことはできるんだな」と理解できるんですね。さっき言ったSLTAのグラフでは、結局、何ができて何ができないんだというようなことが、見てわかる検査ではない、非常に考察を加えて考えていかなければいけないという検査なんです。

しかしこちらのコミュニケーションADLの方は、ぱっと見て5つの段階のうちの、一部援助だとか、多少助けてあげれば話は通じるんだなとか、そういうのがはっきりわかってくるので、医療側のスタッフの間で情報を交換する場合には、CADLは非常に有用だと思います。

SLTAとコミュニケーションADLという検査は、失語症の疑いのある患者さんには、どちらかは必ず行っていますし、二つとも行うかたもいます。この二つの検査で、そのかたの障害の種類や重症度などを把握していきます。

この二つの検査をやってもカバーしきれない部分というのがあるんですが、そういう細かい検査は、そのかたの二つの検査の結果を見て、苦手な部分、例えば物の名前を答えていくのが難しいかたであれば、100 枚の絵カードをもってきて、その名前をどんどん答えてもらって、何%できるかとか、そういうような検査をしたり、聞く力がちょっと落ちているなという患者さんであれば、その絵カードを4枚なり5枚なり並べて、そのうちの犬はどれですかという感じの、聞いて理解する力をみる検査とか、その患者さんの症状に合わせて検査を選択して、より詳しい障害を調べていきます。検査に関しては以上です。




失語症の訓練

言語障害というのは、その患者さんひとりひとりによって全く違っています。その症状とか、さっきの検査の結果をとっても、全く同じプロフィールを持つかたというのは二人といません。言語訓練に関しては、その内容は一人一人かわってきます。検査で見つかった苦手な部分を中心に、または、検査ではそんなに悪くは出なかったんだけれど、自分は手紙を書くのが好きだから、字の練習をもっとしたい、というご希望があれば、そこを中心に訓練していくことになります。

今私がやっている訓練は、私と患者さんが1対1で個室で行うものが主になっています。そういう訓練ももちろん大事なんですけれど、そういう訓練をずっと続けていくと、この人が相手じゃなければしゃべれないというように、相手が限られてしまうという恐れがあります。言語療法士以外の人とつながりを持つということがなかなかできにくくなってきます。患者さんによっては、「言語訓練ではすごくよく話すんだけれど、他のリハビリに行くとあまりしゃべらない」とか「あまりしゃべれなくなる」、「ざわざわしている所では話しにくい」、「広い場所だとちょっと恥ずかしい」など、そういうことも出てきてしまうので、1対1が原則ではあるんですが、そればかりをやっていくというわけではありません。そのかたの性格だとか、障害を受けてから訓練をしてきて、そろそろ1対1ではなくて、他の人の中に入ってグループ訓練をしたらどうかな、という時期がいずれはくるんですが、そういうかたたちを集めてグループ訓練をやっていく場合があります。

現在行っているグループ訓練、私が今患者さんと一緒にやっているグループ訓練というのは、まだ始めて2週間ぐらいしかたっていないんですが、ひと組が3人グループで、始めたばかりのため、皆で集まって世間話をするような程度のことしかできていません。3人というのをこれから4人、5人、10人と、どんどん増やしていけるかなと思っているんですが、まだ何とも言えません。内容もただ集まって話をするだけじゃなくて、言葉に関したゲームをやってみたりだとか、トランプをとってみても、ただトランプだけが目的じゃなくて、そこにいるグループの皆さんと一緒に楽しむような感じでゲームをしたりとか考えています。これは私の最大の希望なんですが、患者さん同士が仲良くなって、病院で訓練が終わったあと、一緒にどこかに遊びに行くだとか、たとえばパチンコが好きな人なら、ちょっとパチンコ寄っていかないかいという感じで、患者さん同士のつながりがうまく作っていけたらいいなというのを考えています。

訓練については、先ほども言いましたが、患者さんのひとりひとりの症状によってやることが全く変わってきますので、ここで一概に言ってしまうとちょっと収拾がつかなくなってしまうかなと思います。したがって、こういう場合はどんな訓練をしたらいいんだろうというのがあれば、質問を受けるという形で、あとで聞いていきたいと思います。




言語訓練の部屋についてのお話です

ちょっと今回の話からずれるかもしれないんですが、私が今ここで3年半やっている言語訓練の、実際のやり方について、ひとつ説明をしてみたいと思います。

言語訓練室がこの1階にあるんですが、その部屋の使い方の一つを紹介します。これがこの棟の1階(F棟1階)の図だと思って下さい。皆さんはこのエレベーターで3階に上がって来られたと思って下さい。こっちの方へ行くと作業療法の訓練室があって、廊下の反対側は非常口で行き止まりになっています。言語訓練室はこちらの廊下の突き当たりにあって、ここに扉があります。引き戸になっています。

言語訓練室というのは4つの部屋からなっています。ひとつ目の部屋には机があって、ワープロが置いてあって、ワープロの訓練をするかたにはこの部屋を使っていただいています。二つ目の部屋にはコンピューターが一式置いてあります。これは、言葉に障害のある患者さんに使えるソフトを入れたコンピューターを置いてあります。実際に今は一人の患者さんしか使っていないんですが、ゆくゆくは色々なソフトをそろえて、色々な患者さんに使えればいいなという感じで、一応コンピューターも置いてあります。

三つ目のこの部屋が空間としては一番広い場所になるんですが、私はここにどんと座っております。こちら側に患者さんに入っていただいて、机をはさんで向かい合う形で訓練をやっています。こっちの四つ目の部屋がひとつ空いているんですが、ほとんど使っていません。

実際に訓練をされたかたや、ご家族のかたはわかると思うんですが、私は廊下に通じる扉を開いて訓練をしています。あけっぱなしなんですね。だから、この前を通るかたには部屋の中は見える状態になっています。私が今まで他の病院で見てきた言語訓練室の場合は、こういう広い部屋ではなくて、非常に狭い場所で訓練をしている場合が多いんですが、私は大きい所でやっています。

どうしてかというと、まずひとつ目に、扉を開けてあるというのは、患者さんの家族のかたにも、どんな訓練をしているのかというのをできれば見ていただきたいと思っているからなんです。家族の人が見ていると緊張してできないとか、気になってしょうがないとか、そういう場合には扉を閉めたりだとか、家族のかたに、「すみませんがそちらの方でお待ち下さい」と部屋から出ていただくこともあるんですが、できれば、どんな訓練をしているか見てもらいたいし、毎日接している家族のかたでも、実際には患者さんの能力を誤解されているかたというのはいらっしゃるんじゃないかなと思うんですね。だから、実際に訓練をして、どんなことをやっているのか、どれくらいできるのかというのを家族のかたにも見ていただきたいというのがあって、わざと扉を開けてあります。

検査の時とかは、家族のかたはどうしても見ていられなくて、「お父さん、あれだよ」と言ってしまう場合もあるので、検査の場合はちょっとご遠慮ねがうこともあるんですが、検査の結果の説明をする場合だとか、ふだんの訓練はなるべく、きがねなくのぞいてもらえるようにと思って扉を開けてあります。ここは結構人通りが多くて、エレベーターも近いし、公衆電話も近くにあるので騒々しいのですが、それを考慮しても、見ていただきたいなというのがあって扉は開けてあります。もしかしたら、患者さんの中には、開いているのが嫌だなと思われているかたもいるかもしれないんですが、一応そういうことを基本にして考えているので、扉は開けて訓練をしています。




訓練に使っている道具や機械を簡単に紹介します

話が前後しますが、訓練に実際に使っている道具というのをいくつか持ってきたので、簡単に紹介したいと思います。

まず、絵カード関係なんですが、今使っているカードは、色のついていないシンプルな線でかかれた、こんな絵カードを使っています。これは主に、見てもらって「これは何ですか?」という名前を答えてもらう訓練とか、これを見てこれの漢字を書いて下さいとか、色々なふうに使えるので、患者さんの苦手な部分に関していろんなふうに使っていきます。こういう色のついていないシンプルなカードが1種類、これは150 枚ぐらいありますが、中にはふだんあまり使わないだろうというものもあるので、100 枚だけ選び出してあります。

それから、このカードに付随させて、このカードの漢字を書いた字のカードを100 枚準備してあります。このカードの表にはひらがなが、裏には漢字が書いてあります。かたかなのものに関してはひらがなとかたかなが書いてあります。これは読む練習や、字を書き写す練習に使っていきます。また、絵と文字を合わせて、名前と絵を合わせていく訓練にも使っていきます。

今は市販の子供用の教材できれいなものも出ていますので、それも一緒に使っています。これは公文から出ているカードなんですが、こういった色つきのきれいな絵カードです。漢字で字も書いてあるんですが、裏には大きく字が書いてあります。これはすごく使い勝手はいいんですけれど、漢字に関してはふりがながなかったり、ひらがなで書いてあるものには漢字がなかったりと、ちょっと子供向けなので、失語症の患者さんにぴったりとは言えず、ちょっと足りない部分もあります。これは1組が30枚のカードが5組出ています。これは全部そろえて、色々な訓練に使っています。

もう一つは、横に長めのカード。ここにある機械に入れて使うことができるんです。ここに絵とひらがなと漢字が書いてあります。これの下に黒い線がついていて、これを機械にかけますと、この線が録音テープになっていて、「しか」というふうに名前を入れたり、録音することができるので、たとえばその人の名前を新たに吹き込んで、名前を言う練習に使ったりとか、これは自習用にいいんですね。この機械が先生の役をやってくれて、くり返して言う練習とか、読む練習とか、字の部分を隠して絵だけを見て名前を答えていく訓練とか、自分でやっていく訓練に有用です。

その他にも色々あるんですが、字を読む訓練には、こんな感じでファイルにしてあります。ある程度の文章を書いて、これを読んでもらったりとか、そんな感じで使っている教材があります。

ここでご紹介したのはほんの一部なので、他の病院に比べれば種類がそろっていないかもしれません。このカードばかりを使って訓練するのではつまらない、というかたには、それなりにそのかたに合った教材を新たに作ったりします。こういう訓練用の道具は他の患者さんにも回して使えるんですが、その人にしか使えないものだとか、こういうのが使えないから新たに作らなければいけないとか、色々な患者さんがいらっしゃいますから、教材というのはこれだけじゃないんですけれど、一応こんな物もありますという紹介でした。


今日予定していたお話は終わりました。言葉の障害に関してはまだまだ理解もされにくいし、わかりにくい部分もたくさんあると思うので、これからもまた、毎月1回ぐらいずつ話していく機会があると思います。もっと細かくかみ砕いて、皆さんによくわかるように、私自身ももっと勉強しなおして、またお話させていただきたいと思います。




質疑応答

:平成元年に脳内出血で倒れて話せなくなりました。新聞を読んだり本を読んだりしてだいぶ回復したんですが、大声が出ません。道を歩いている時、前に山崎さんという人が歩いていても、普通であれば届く大きな声を出せないわけです。こういうのは検査で治るもんでしょうか。それから、二つ目に、電話がかかるのが一番嫌なんです。夜、「お晩でございます」ときたのに、こっちは「おはようございます」とか間違ってね。三つ目に、今年の1月に老人クラブで挨拶したけれども、頭の中で形作って挨拶するつもりであったんだけれど、いざしゃべってみると、支離滅裂で挨拶になりませんでした。この3つです。
:まず一つ目の声の大きさに関しては、機械を通してやればできる検査というのもあるんですけれど、うちの病院にはその設備がないので、数字で、たとえば今3ですから5までレベルをあげましょうという検査はできないんですけれど、自分で声が小さいからもう少し大きな声を出したいというご希望であれば、訓練という形でやっていくことは可能だと思います。訓練というのも普通の歌手のかたがやっているような発声訓練ですね。腹式呼吸からだんだん大きな声を出していく訓練という形でやっていけば、100%納得されるまでいくかどうかわからないんですが、現段階よりは大きな声を出せるようになるということはできると思います。

電話の件ですね。訓練すれば治るという種類のことかどうかとなると、これもまた練習しだいという話になってしまうんですが、間違いを恐れないことというのも大事だと思います。1回間違えてしまったから、「また今度電話が来て出たら、間違えたら嫌だから」というとどんどん消極的になって、結局、話す機会というのをつぶしてしまうことになります。多少間違えても、「あ、間違えちゃった、ごめんなさいね」みたいな感じで、「また今度頑張ればいいや」とかね、そういう感じで、悲観しないでせっかくの機会を自分からつぶさないようにと、そういうふうに考えていくのもいいかなと思います。

それからもう一つは、組み立てたことがうまく出て来ないということですね。私もそうなんですが、頭の中では昨日まではすらすらとうまく話す予定だったんですが、実際にこういう場面で人前に立って話をしてみると、そんなにうまくいかないんですね。いくら馴れているかたでも、人前に出れば緊張はすると思いますし、そういう緊張感が悪い意味で手伝ってしまって、考えた挨拶がうまく出てこないとか、順番がばらばらになってしまったとか、そういうふうな状態だったと思います。馴れれば大丈夫とは言いませんが、たとえば今日の私のように、原稿を全部読むだけじゃなくて、ポイントポイントだけ、言いたいことだけ順番にしるしていって、「これは言った、次はこれだ」みたいな感じで、ヒントやカンニングのようなものがあると気持ち的に、「次に話すのは何なんだ、忘れちゃったらどうしよう」という不安は、「これを見れば大丈夫」という感じで解消されると思うので、何か人前で話さなければいけない時には、ポイントだけでも書いて、隠して持っているといいかと思います。それを見ないで話せればもちろんいいですし、つまった時はこれがあるから大丈夫というような助けになるので、そういう方法もいいかと思います。


:ほとんど完全な失語の人なんです。しゃべれないんですけれど、歌は歌えるんです。そういうことってあるんですか。実際、その場に行ってびっくりしました。そういう人が二人いたんです。ちょっと考えられないことだったんです。歌は間違いなく歌えるんです。だけど、おしゃべりだとほとんど90%しゃべれないんです。理解に苦しみました。
:(他の人から)うちの主人がそうなんですよね。全くしゃべれないんです。出るのは単語だけなんです。本当にふだん使い慣れている単語だけ。だけども、歌は歌えます。
:1回目の私の担当のリハビリ教室の時にも似たような質問が出たんですけれども、歌というのは私達でもそうなんですが、歌うと気持ちが良い、解放的になる。お風呂につかりながら鼻唄が出てしまうとか、快−不快、心地よい、心地わるいでいうと、すごく「快」の状態になるんですね。その歌というのは最近覚えられたものではなくて、たぶん子供の頃からずっと歌っていたとか、大好きだった歌とか、そういう歴史のあるもの、頭の奥深い所にずっとあるものだったりするんですね。「はっきり歌詞を言ってみて」と言われるとわからないかもしれないけれど、メロディーにのせると何となく歌詞が出てくるという歌というのは、皆さんもあると思うんですが、そんな感じで、話は上手にできないけれど、歌なら歌えるというかたは実際にいらっしゃいます。歌えるから話せるかというとそれは別の問題になってくるんですが。


:おしゃべりできない人が、一生懸命に歌の訓練をしたら、それはそれで歌えるというのは、別のことなんですか。
:歌詞を全部ちゃんと歌えるかどうかまではいかなくても、ある程度ハミングになったりとかはあるかもしれませんが、メロディーにのったりだとか、歌詞の一部分だけなら歌えるだとか、そういうことはあると思います。歌うことによって患者さん自身に、「歌えるじゃないか」という自信がついて、それがどんどん良い方向に向かって、「じゃあ今度はこの曲を練習しよう」とか、「じゃあ、歌えるんであれば挨拶とか決まった文句、おはようとかさよならだとか、そういうのを練習しよう」というのもいいきっかけになっていくかと思いますし、歌というのは非常に心を楽しくさせると言います か、歌うことによって発散できるものもあるし、一人じゃなくて、皆と一緒に歌うと連帯感が生まれたりとか、自分もできるんだという自信につながったりするので、歌を歌うというのは、訓練というふうにくくってしまうとちょっと堅いんですけれど、趣味みたいな感じで歌うことを、好きなかたには勧めております。




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