寝たきりになりやすい
病気について

〜脳血管障害〜


リハビリテーション科部長 斉藤裕





〜はじめに〜

毎週、担当スタッフが交代で具体的な話をしています。僕も皆さんに具体的な話ができる方が色々有益だろうと思うんですが、僕としては実際に訓練室で訓練をやっているわけではないものですから、具体的な訓練の話より、病気の種類とか病気の性格だとか、そういう事を少しお話ししていきたいなと考えています。




〜寝たきりになりやすい病気〜
釧路市の統計です

このリハビリ教室を始めるきっかけとなった『寝たきりをどのようにして防いでいったらいいのか?』というテーマのひとつになるんですが、『寝たきりになりやすい病気』というものがあります。釧路市で2年ほど前に行われた国勢調査がありまして、その時に『寝たきりになりやすい病気の順位』というものが発表されています。

釧路市では何が一番寝たきりになりやすいかといいますと『脳血管障害』、あたるという事です。あたったために寝たきりになるというのがもっとも多いんです。その次は『脊髄損傷』、怪我です。交通事故にしろ落盤事故にしろその他の産業事故にしろ、脊髄がやられて、そのために手足が動かなくなるというものが2番目にランクされています。その次には『慢性関節リューマチ』というものが3番目になっています。そして4番目は『大腿骨頚部骨折』という、お年寄りのかたが転んだ時に起こしやすい骨折として、足の付け根の骨折があります。それから5番目と6番目はほぼ同じ種類のもので、『骨粗鬆症(こつそしょうしょう)』というものがあります。新聞やラジオ、テレビで耳にすると思うんですが、骨粗鬆症。ちょっと言いづらいんですが、そういう病気があります。こういうものが釧路市においては寝たきりになりやすい病気の上位を占めています。

全国的にはどうかといいますと、全国的にもやっぱり『脳血管障害』、あたったというのが一番多いわけです。その次は『老衰』です。3番目が『骨折』です。それは大腿骨の頚部骨折にしろ、骨そしょう症が基盤にあっておこる背骨の圧迫骨折にしろ、そういうものが寝たきりを作りやすいんです。このように、全国的な順序と釧路市の順序というのは1番目は同じですけれど、2番目以降はちょっと違っています。

今回は釧路市の統計に沿った順番で、『寝たきりになりやすい病気』というものはどういうものなのかという事を少しお話ししていきたいと思います。




脳卒中の種類
〜脳出血と脳梗塞〜

まず1番目です。脳卒中という病気です。脳血管障害ですね。『脳が突然にあたる』という病気です。この病気になった時には症状としては片麻痺、片方の手足の動きが悪くなるという状態になります。

脳卒中というのはどういう事が原因で起こっているのか? これは頭の中に起こる病気です。頭の中でどういう事が起こっているのかと言いますと、頭の中に出血を起こす。これは『脳出血』といわれる形です。これは『脳の中に起こる脳出血』『脳の外側に起こる脳出血』のふたつがあります。そして外側に起こる脳出血、くも膜下出血とか硬膜下出血と言われるものですね、そういうのには手術適応があって、手術して治療する事が出来ます。それから脳の中に起きる出血。それは起こる場所によって違うんですけれど、すぐに血を吸い取る事によって助ける事ができる場所がいくつかあります。

脳卒中を起こす原因としてもうひとつ、血管が詰まって血が行かないためにその脳の一部が死んでしまう『脳梗塞』という状態があります。脳梗塞というのは、頭の中の血管がだんだん狭くなっていって、血の通りが悪くなっていって、結果的に血が流れなくなってしまうという形のものと、心臓に問題があって、心臓から血栓や塞栓という血などのかたまりがとんでいって、突然血管をふさいでしまう。そのふたつがあります。

このように、脳梗塞を起こすには心臓が悪くておきる場合と、血管が徐々に細くなって起きる場合とがあります。血管が細くなって起こっていくもののひとつに、コレステロールがたくさんたまって血管をふさいでいくという形のものがあります。


頭の中で脳卒中を起こす原因というのは、大きくは、『血が出てやられてしまう(脳出血)』場合と、『血管が詰まってやられてしまう(脳梗塞)』場合、そのふたつの場合があるという事を覚えておいて下さい。


そしてこういうものは、最初からいくつかの前駆的な警告が出ているんですね、体の中から。そのひとつには、一過性に、一時的にぱっとおかしくなって、30〜40分で治ってしまうという、『24時間以内に全く何の症状も残さないで治ってしまう』ような状態がまず最初にあります。その次に、それがもうちょっとひどくなって、意識を失うとかけいれんを起こすとかいうのがあって、それが『3週間以内にまた何の後遺症も残さないような状態で治っていく』というものがあります。前もって前駆的な症状がそういう形で出てくる場合があります。そういうのが続いていって、とどめにバンとあたってしまう、そして全身症状を起こしてくるという、そういう形をとっている場合が多いわけです。

ただ、脳出血については前駆症状がなく、突然に来るという事が多いです。これは、どちらかというと血圧が高い人の場合に起こりやすい。血圧が高くて血管が破裂するという事になります。しかし、脳梗塞の方はどちらかというと、血圧が正常血圧の範囲内で起こりやすいと言われています。

こういったものが起こってくる時間をみると、活動している日中に起こりやすいか、あるいはまだ活動が始まっていない状態の時に起こりやすいかといった違いがあります。夜間とか明け方に起こってくるのは脳梗塞が多いと言われています。それから、年齢的には脳出血を起こす人は若いかたに多いんです。50代、60代、70代になってくると脳梗塞という形をとってくる場合が多いんです。そういう違いがあります。




〜脳卒中による片麻痺の起こりかた〜

こういうような事が起こって、症状としては片麻痺が起こる、体の片方に麻痺が起こるという事です。頭の中に脳があって、そして脳から背骨の中の脊髄に神経がおりてきて、首から手の方へ行く神経のグループと、足の方へ行く神経のグループが分かれていって、人間は色々な事が出来ています。



頭の中の右側から出た神経は、途中で首のずっと上の方の『延髄』と言われる高い場所で、反対側の左の方に神経が行っています(延髄交叉)。この延髄で交叉しているものですから、たとえば左側の方の脳の中に出血があったり梗塞があって病気が起こった場合には、右側の手足が動かなくなるという形になります。それとは反対に脳の右側の方に病気があった時には左側の手足に不自由さが出てくるといった、そういう特徴を持っています。

そして、1割ぐらいの神経が同じ側にも来ています。ほんのちょっとですね。ここで大事なのは、その1割ぐらいの神経はおもに足の方に来ているという事です。右側の脳の9割の神経は左側に行くんだけれども、一部の1割ぐらいのものが同じ右側の足の方に来ています。だから、いったん病気が起こって、手と足の症状が同時に強く起こったとしても、治りかたが違うわけですね。手の方は治りかたが大変難しいんです。足の方は、装具を使ってでもなんとか歩けるようになる人は9割ぐらいの人だと言われています。それはなぜかというと、その神経の一部が同じ側にも来ているために、つまり神経が両方の脳から来ているために、助かっている神経が多いんです。だから、足というのは早く歩けるようになるんです。

ところが手の方は、反対側のところの部分からしか神経が来ていないものですから、いったんやられてしまったら、脳の神経が回復しない限り、動きは回復してこないんだという事があります。それが手と足の回復という点で大きな違いです。足はわりと動きやすくなるんだけれども手がどうしてもだめ。ここが大きな違いです。




〜運動以外にも色々な麻痺があります〜

神経には手足を動かす神経、つまり運動をつかさどる『運動神経』と、それから感じをつかさどる『感覚神経』とがだいたい一緒の1本の電線の中に入って、手や足の方に降りて来ています。だから病気になった時に、私達がいつも考えなければならないのは次の通りです。

1.運動をつかさどる神経。
2.感じをつかさどる神経。
3.膀胱の動きをつかさどる神経。
4.人間的なものの考え方とか感情をつかさどる神経。『高次脳機能』という表現をしていますけれど、これは言葉の問題だとか感情の問題だとか記憶の問題だとか、そういう種類の、人間として自己保存をはかっていく上で非常に重要な働きをする部分です。


この4つの部分が脳の中にあるから、それをどうなっているかを管理していくのが大事なんだと、そういうぐあいに見ています。



運動神経と感覚神経(感じの神経)というのは、これはだいたい1本の電線として束になっていますから、左側の大脳がやられると右側の手足がだめになって動きが悪いのと同時に、感じも悪くなってきます。感じには表面の感じと、深いところにある感じがあります。

よく麻雀でありますよね、目をつぶって表面をさわっても何が描いてあるかを知る。そのような、目をつぶっても物を認識できるという表面の感覚とか、それから深い体の位置の感覚、たとえば、私達は目をつぶっていても指がどういうふうに曲がっているか分かります。そういう種類の感覚がありますから、そういうもの全部がある程度をも持ってやられていきます。だから一番ひどくやられてしまうと、感覚も分からないし、手足も動かないという、そういう事があります。




〜麻痺の程度をどのようにあらわすか〜

運動というのを、手の動きと指の動きと足の動きでみて、『やられた神経がどのへんまで回復してきているのか』という指標があります。

僕達が普通に動かす事ができる状態が『6』の動きだとします。それから、全くだめな状態を『1』とします。『1』から『6』までの段階があって、あたった当時の全くどこもかしこも動かないという状態が『1』の段階だとしたら、あたる前の状態まで回復するのが『6』の段階というぐあいに決めておけば、それで表現していけばいいんです。

『1』の段階は全然動かない状態です。

『2』の段階というのはどういう段階かというと、良い方の手や足を力一杯動かした時に、悪い方の筋肉がどこかちょっと動くのが感じられるという段階が『2』の段階です。

『3』の段階はどういう段階かというと、手とか足を動かす時にひとつの『かたまり』としてしか動かせないという段階です。僕達は指を1本ずつでも動かせるという、ひとつひとつ分離された運動ができるんですけれど、『3』の段階まで回復したレベルではどうかというと、指を1本だけ曲げようとしても握りこぶしになってしまう。一部分だけ動かすことができないで、全体が動いてしまう。どこか動かそうとしても全体が動いてしまうという、『かたまりの動き』となって出てくる段階なんです。しかし、少なくとも『3』の段階まで来れば、色々なことが少しずつ出来やすくなってきます。

『4〜6』。それがだんだん『4』の段階とか『5』の段階というぐあいになってくると、もう少し一部分だけ動かせる。前ならいができる。前ならいをしたままこういう動きができる。そういうぐあいに動き方がだんだん、個々の分離された動きとしてできるようになってきます。

そうすると、神経の回復が、色々な事が起こって来ているんだな、どの段階に起こって来ているのかなというのがわかるので、ぼくらはいつもそういうのを見ながらやっています。




〜つっぱりはなぜ起こるか〜

こういう病気が起こった時に運動の神経はどういう特徴を示すかというと、非常につっぱるような、反射が非常に強くなるような、そういう事が起こります。ふだん僕達は、上(頭)からの指令で手足を動かしていますけれど、その途中でやられてしまうと考えたら、今度は上からの指令(コントロール)がきかなくなってくるわけです。

たとえば病院なんかでいいますと、病院長とか副院長がいるうちは僕らは静かに言う事を聞いている振りをしながら働いていますけれど、病院長とか副院長が何かの理由でいないと、そうしたら次は僕らがやりやすいようにやればいいという事です。会社でも病院でもそうですね。いつも上から押さえつけられているわけです。

上から押さえつけられながらそれなりの運動を、僕達は自由な意志を持ってやっているわけですけれど、いったん脳に出血を起こしたり梗塞を起こしたりして病気になると、上からの全体的な抑制がきかないものですから、自分達で勝手に動こうとするような動作として出てきます。その一番典型的な形というのが『つっぱる』という事なんですね。手や足がつっぱるという事がそういう状態をあらわしているという事なんです。




〜膀胱にも麻痺が起こります〜

おしっこをためてそれを排泄するという、非常に大事な排泄器官の膀胱にも、やっぱりそういう神経が支配してきているわけです。この膀胱も、いつもの上からの押えつけがなくなってしまったものだから、いつもつっぱったような感じになっているわけです。手足がつっぱるのと全く同じ事が起こってくるわけです。

膀胱というのは袋ですから、腎臓の方から来たおしっこがある程度たまってきたら、はじめて『おしっこがしたい』というのが頭の方に行って、そして頭では『おしっこをしていいですよ』という反応が来て、その指令が膀胱に行くわけです。

しかしこういう病気になると、手足がつっぱるのと同じように膀胱は常につっぱって、ちぢこまろうとしているわけです。だから、おしっこが少したまってもそれがすぐ刺激になって、自分の意志とは関係なくおしっこが外に出やすくなってくるという特徴を強く出してくる場合があります。

要するに『ためておく事が出来ない』わけですから、夜間におしっこが頻繁に出やすいとか、日中もおしっこを我慢できなくなるとか、そういう種類のことがあります。これは当の本人にとっては非常につらい症状のひとつなんですね。家族の人にとっても、夜も頻繁に起きなくてはならないということがあります。これはある程度しょうがない、この病気のためにしょうがないということはありますけれど、これは泌尿器科的に薬を使ってその膀胱のつっぱりを弱くする薬がありますから、そういう薬を使っておしっこの回数を減らすということができます。だから、脳卒中の病気になったらリハビリ、神経内科、脳外科なども非常に重要なんですが、泌尿器科というのも大変重要なものになります。




〜失語・失行・失認も起こります〜

もうひとつ重要な事は、脳の高次機能という機能でみた場合に、『失語・失行・失認』という3つの働きがあります。

『失語』 一つは、言葉を交わしてコミュニケーションをとるという言語機能が障害された失語です。

『失行』 二つ目に失行です。こういう病気にあたる前まではちゃんと自分で出来ていた事、たとえばお茶を袋から出して急須に入れてお湯を入れて注いで飲むとか、金槌を普通の使い方で使うとか、そういう種類の事はみんな出来ていたけれど、それが出来なくなってくる。そのものごとの順序がわからなくなる。そういう事のために、変な使い方をするという事があります。手足が動かないから出来ないという事ではなくて、手足がちゃんと動いていて、もののやり方も言葉では言えたりするんだけれど、実際に行動にあらわしてみると出来ない。

そういう事があります。たとえば診察の時に、『その椅子に座って下さい』というお話をすると、そこには行くんだけれども、そこでどうしたらいいか分からなくなる。座るという行動が出来なくなるという事があります。

『失認』 三つ目の失認というのは、今までちゃんと自分でこういうものを見たら、これはチョークだとか、これは時計だとか、これはマイクだとか、これはマッチだとかちゃんと分かっているんだけれども、それを取って下さいと言われても分からない。そういう事があります。

このどれもは脳の表面にある神経がそういう働きをしているわけですから、行動がおかしい、やる事がおかしい、言う事がおかしいからといって、この人はひょっとして頭がおかしいのではないか、痴呆なんではないか、という見方は出来ません。痴呆という表現は、この大脳の表面の働きが全部やられて低下している状態を言います。




〜失語の種類〜





これは左側からみた脳の図です。これは前頭葉という前側の脳、これは後ろ側の脳で後頭葉、ここらへんが横側の脳、側頭葉です。

たとえば失語というようなものはどこで起こるかというと、脳の左側の前頭葉にあるものがやられた時に起こるものが『運動性の失語』と言われるものです。大きくは『運動性の失語』と『感覚性の失語』、そのふたつがありますが、この『運動性の失語』というのが起こる時はここなんです。運動性の失語というのは、物事は了解出来ているんです。失語症を持った本人にも了解できているんですけれど、言葉として作り出せない、喉まで出て来ているんだけれども言えないという、もどかしさを伴う失語が運動性の失語です。

そして、左側の脳の横のちょっと後ろ側に大きな問題が起こった時が『感覚性の失語』と言われているものです。感覚性の失語というのは、本人が了解しているかしていないかが第三者にはちょっと分からないんですね。そして、そこから出てくる言葉もちょっと分かりません。

このかたが言葉を了解しているかしていないかというのを知る非常に単純なやり方に、チョークを何本か置いて、黄色いチョークを取って下さいとか、あるいは黒板消しを取って下さいといった時に、それが取れるようであればだいたい運動性の失語ですね。物事は了解出来ているけれどもそれをしゃべれないわけです。感覚性の失語の場合には、チョークを取って下さい、何々を取って下さい、電気はどこですか、と言われてもその言葉を理解して行動であらわす事が出来ない。そういう形の失語が感覚性の失語というものです。

こういうのは頭の中の左側の脳に障害が起こった時、身体症状としては右側の手足が不自由な場合に、失語症を優位に起こしてきます。起こっているのが前側か後ろ側かによってこのへんの違いが出てきます。そしてこの両者を結んでいる色々な線維があって、そういうところがやられた『混合性の失語』というものがあります。そして両方とも全部、しゃべるのも聞くのも了解するのも全部だめな時には『全失語』という言い方をしています。

だから、色々と話しかけてみて、その人が言葉をしゃべるかどうかをまず見てみます。そして、しゃべっている中で、たくさんしゃべるかあまりしゃべれないかをみます。そして、しゃべれない時には話の内容を了解しているかどうか。しゃべれないけれども話の内容を了解しているかどうか。了解しているようであれば、先ほどいった運動性の失語と言われるもので、分かっていてもしゃべれない状態です。もうひとつ、しゃべれなくて話の内容も了解していないという事になったら全失語という部類の失語になります。

話せるか話せないかで分けて、話せる方では、たくさんぺらぺら話せるか、ぼそぼそとしかしゃべれないかという時に、ぼそぼそとしかしゃべれないけれども内容が理解出来ているという人は運動性の失語なんです。要するに、しゃべり方がうまくいかないわけです。

しかし、ぺらぺらしゃべれる中で、言葉の理解をあまりしていないようだけれど、色々な言葉をしゃべる。僕らが聞いた事のないような言葉を、目茶苦茶な事を口走る。僕達が理解出来ないような言葉を『ジャーゴン』という言葉で言っているんですけれど、そういうものが頻繁に出てくるものは感覚性の失語なんだというぐあいに考えて下さい。

そして、感覚姓の失語というのはなかなか治らないんです。なぜ感覚性の失語が治らないかというと、『自分が間違った言葉を言っているという了解がない』から治らないんです。運動性の失語というのは、自分がしゃべっている言葉が間違ったという事が分かるわけですから、そこでしゃべらなくなったり、言い換えたりしようとします。そのように、自分で自分の間違いをチェックできた時にはじめて物事は変化していけるようです。それは僕らの生き方と全く同じですね。自分のやっている事を、これでいいんだと思っていればそのまま行ってしまうし、ちょっと人から注意されて、ああ、こんな事やるんじゃなかったと思えば、はじめてそこで自分の行動も変化していくという、それに大変似ていると思います。以上が言葉の問題です。




〜失認〜

失認です。これはどちらに多いかというと、右側の脳がやられた時に起こりやすいんです。左側の脳がやられた時は、言葉の問題が出てくるという事が特徴的です。右側の脳がやられた時は何が出やすいかというと、失認が出やすいんです。 失認というのは何かというと、『空間失認』というのが一番大きいですね。僕達は空間というものがだいたいわかるわけです。ここにこういう物があって、こういう形をしているという事が分かる。そして距離間もわかる。広がりも分かる。

ところが、空間の失認というのがある時には、僕達が見えているような見方ではないらしいんですね。僕は自分自身がそうだから分かるんですが、高所恐怖症なんです。高いところに昇った時に下を見るとザワザワしてきます。ふらふら動いているんじゃないかという感じでおっかないんですね。ふだん僕が見慣れていない空間だからそういうぐあいに見えるんですね。とび職の人だったら全然問題ではないと思います。僕らがそういうふだん見た事のないような空間を見た時に、そっちに足を踏み出して行けるかというと、なかなか行けないわけです。恐ろしくて。

そのような空間が、とても足が地についていないような状態に見えたり、空間というものが異常な感じに見えている、そういう状態を空間失認といいます。これがひどいと、足を踏み込んで歩けないわけです。足を前に一歩出す事が出来ないわけです、恐ろしくて。だから空間失認がひどい人は歩けなくなってしまいます。麻痺がそんなにひどくなくても、歩けなくなってしまいます。おっかないんです。

それから、上下左右の感覚がはっきりしなくなりますから、服を着たり脱いだりが、主として着る時に、できづらくなってきます。そういう時にはこっちが右なんだとか、こっちが上なんだとか、下なんだとか、どこかに印をつけておくと、そういうのを着る事ができるようになる事があります。

このように、右側の脳がやられた時に一番問題なのは、空間が変に見えるために色々な事ができなくなってくるという事です。恐怖心を起こさせます。そのために歩けなくなります。それから、上下・左右・前後という感覚が認知出来ないから、歩くのにも服を着たりするのにも食事するにしても、うまくいかなくなります。これは目が悪いとか、耳が聞こえづらいとか、そういう事では全然問題ありません。目や耳のひとつひとつの機能はきちんと働いているんだけれども、そういうものが全体として頭の中で、『ああ、これはこういうぐあいの空間なんだ』『これはこっち側が右にあって、左側が少し前に向いているんだ』というような、全体の捉え方が出来ない。そのような大きな問題があります。




〜失行〜

失行というのは、これも左側の脳がやられた人に多く起こりやすいんですが、言葉では色々な事を説明できるんだけれども、自分でやってみると出来ない。また、自分でどこかのお寺に行って拝む事はできるんだけれど、人に言われて拝む事が出来ないという事があります。そういうような事で、『この人はちょっとおかしいんではないか』というような見方を間違ってする場合があると思いますけれど、それは失行が起こる場所の脳がやられたために起こっている行動であって、痴呆というのは全体がやられたためにこういうものが全部低下しているものなんです。失行はその場所がやられているために起こっている事なんであって、それは痴呆ではないんですね。だからそれは、絶対に混同しないようにしていかないといけないわけです。人格がありますから、相手の人格をきちんと認めるような事をしないと、大変傷つけてしまうという事になります。




〜脳卒中が起こりやすい危険因子〜

脳卒中を起こす危険因子というのがあります。『こういうものがあると脳卒中になりやすいですよ』というものがあります。そのいくつかをお話しします。

−煙草をたくさん吸うかたは危険です。

−高血圧症がずっと続いているかたも危険です。 心臓は1日に何十万回も動いているわけですから、そのつど血圧というものはあるわけです。だから1日に1回や2回測って血圧が高かったからといって、それは必ずしも高血圧とは言い切れないわけです。それが続いた時に高血圧だという言い方になるわけですから。よく看護婦さんの前に行って測ってもらうと、ふだんより血圧が上がる事がありますね、緊張しますから。人には1日何十万回も血圧があるんだけれども、そのうちの何回か測って高血圧だというようには言い切れません。それが続いて起こった場合に問題になるんです。だからその治療はやはりしておくべきなんですね。血圧が低い方が脳卒中にかかる割合は少ないだろうと言われているんです。現実にはわからないという研究データもありますけれど、やっぱり高血圧の治療をしている方が少ないだろうと、医学界の中では言われている場合が多いんです。

−糖尿病がある人も準備段階として危ないですよ。糖尿病というのは血管に病変を起こします。人間の体には心臓にも頭にも、どこにもくまなく血管があるわけですから、血管に問題を起こしてくる病気である糖尿病というのは、いつもコントロールしていかないとこわいですね。積み重なっていくとおっかないですねという事です。

−肥満も危険です。僕なんか人に言えたがらではないんですが。やっぱり肥満はおっかないですね。肥満がなぜおっかないかというと、色々な種類の脂肪が心臓とか肝臓とかにくっついて、その機能を低下させるという恐ろしさもありますけれど、実際に体を動かしていると、動く体を養っていくだけの血液が体中を常に回っていなければいけない。そうすると心臓にものすごく負担がかかってきます。それから美味しい物をたくさん食べると、脂肪の量も高くなって、高脂血症とか、コレステロールが高くなって病気になります。血管を細めていきやすいという事になります。



僕は整形外科をやってきて、今はリハビリをやっていますから、高血圧が実際にどうなったらどうなんだとか、それから脂肪の善玉がどうで悪玉がどうで、どれだけの比率があったらどうなるかというのは、詳しい事は僕にはわかりませんけれど、そういう種類の事があるんだという事だけを耳に入れておいて下さい。




〜質疑応答〜

問:寝ていると足がつっぱるんです、特に親指が。紐をつけて引っ張るようにしたんですけれど。つっぱるという状態は、いい方に向かっているという事なんでしょうか。

答:先ほどの神経の回復の段階がありましたけれど、『1』の状態よりはつっぱっている方がまだいいわけです。もっとも悪いのはだらんとした状態のままでずっと最後まで続いてしまう事です。それが、途中まで回復して、おり返し地点に行くとつっぱりが出てきます。おり返し地点に行って、もとのゴールの方まで行くまでそのつっぱりがだんだん少なくなってきて、自分の意志で動かせる運動が出てくるわけです。

だから、一番最初は自分の意志でも何でも全然動かせない。その次はつっぱりが出てきて、ひとつのかたまった運動しか出来ない。そこがおり返し地点で、その時が一番つっぱりが強いんです。その次につっぱりがだんだん弱くなっていって、自分の意志で運動ができるようになってきてゴール、めでたしめでたしという事になります。だから、少なくとも『3』の段階までは来ているという事になります。『3』から『4』に行く方がいいんですけれど、なかなか難しいですね。



問:リハビリをやったらどうですか。

答:リハビリをやってそのつっぱりを少なくできるかというと、リハビリでつっぱりを少なくする事はできません。脳の問題ですから。しかし、手足の関節がかたまってしまうという事があると、つっぱりにとっても困るわけですね。だから、関節をかたまらせないようにするような動かし方を他動的にするという事が一番重要ですね。

それから、仰向けに寝た時には伸ばそうとするつっぱりが出てきます。うつぶせとか横になった時には逆に縮こまろうとするつっぱりが出てきます。姿勢によってつっぱりの方向が変化します。つっぱりはこの病気になったらしょうがないんですが、そのつっぱりの上にさらに関節がかたまってしまったり変形してしまうと、立ったり座ったりする上でももっと大変なわけです。だから、そういうものを作らないようにするのが一番重要です。そのつっぱりを少しでも少なくしようというのは、薬を使う事があります。筋弛緩剤という薬を使う事があります。何種類かあります。

そして、やっぱり膀胱の問題というのは大変だと思います。だから、もしこういう事で困られているかたがいらっしゃれば、直接泌尿器科の六條先生のところに行かれてもいいですし、私に言っていただければすぐ六條先生の方へ手紙を書いて、診てもらうという事をします。



問:膀胱の話なんですけれど、昼はそうでもないんですけれど、夜になったら頻繁にトイレに行くというのは、やっぱり病気が原因なんですか。

答:この病気だけでなくて、夜になると一般に年をめされたかたは回数が多くなってきますけれど、それよりも、こういう症状を備えていると、たまる量がほんのわずかでも出したくなるという事がありますので、頻度が多くなってくるのかもしれません。それから夜間になると血圧が変化してくるという問題もあります。そういうのも影響すると思います。



問:今の夜の話なんですが、水を飲ませると5 分か10分もするともうおしっこが出てくるんです。

答:それは、今飲んだ水がすぐ出て来ているわけではないと思いますが、冷たいものを飲むと腸管の反射がありますので、よく便なんかしたくなりますよね。冷たい水を朝に飲むと便をしたくなるという。そのようなひとつの反射経路が働いてきて、膀胱へのわずかな、普通の人なら起こらないような刺激でも、こういうところに刺激として伝わりやすいのかも知れません。それでおしっこが続くのかも知れません。



問:おしっこの事なんですけれど、夜間の冷えですが、冷えておしっこが出やすくなるのもそうなんですか。

答:そうですね。夜間に冷えやすくなるという事で、おしっこも出やすくなると思います。




〜おわりに〜

他にご質問がなければ、今日はこれぐらいで終りたいと思います。いつものように後ろにリハ教室の記録冊子がありますので、どうぞお持ちになって読んで下さい。返していただければよろしいです。

僕はこの次は『寝たきりゼロ作戦』に入る前に、今日言ったリューマチとか、大腿骨骨折とか、骨そしょう症という骨が傷んでいく病気とか、このへんをまたちょっと最初に触れたあとで、ゼロ作戦の方に入っていこうかなと思います。

僕の話だけでなく、うちのスタッフがしゃべる話で、もっとこういう話を聞きたいというのがあったら、どうぞいつでも教えて下さい。できるだけそれに沿ったお話をしたいと思っています。今のところは泌尿器科の先生と、神経内科の先生のお話を予定しています。今日はどうも有り難うございました。


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