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−理学療法士:石田祥雄− 今日のテーマは「体力」というものを挙げてみました。「体力がない」と一言で言うと、ちょっと動いただけですぐ疲れてしまうとか、風邪なんかひきやすいとかあると思うんですが、それ以外にも、体力というものの中には色々なものがあります。それを少しずつ説明していきたいと思います。 私たちが普段生活していく中で、健康な生活をしていくために必要なものとして、「運動」「栄養」そして「休養」という三つのものが大きく挙げられています。運動、栄養、休養、その三つがそれぞれ単独にあっても、それはあまり効果的ではなく、それらが全て調和がとれていてはじめて、健康でいられると言われています。その中でも運動というのは、身体の発達や発育、体力の維持や向上、それと健康増進ですね、そういったもののために、運動というのは極めて大きな役割があると考えられています。 しかし、ひとたび障害をおってしまった場合、運動というのがスムーズに行えなくなってきます。病気であるとか怪我であるとか、そのものによる運動機能障害が挙げられます。例えば、脳卒中になって手足が動かなくなった、それによって座る事も立つ事も難しくなります。それから怪我ですね。例えば、足を骨折してしまった、そういう場合には、それも同じく立つ事が最初のうちは出来ません。そういった運動機能障害です。 そういうものに加えて脳卒中の場合ですと、高次脳機能障害というものがあります。例えば、何か物があって、普通であれば「これはこういうふうにやれば、こういうふうに使えるものだ」という事が当たり前に分かるんですけれど、そういうものが分からなくなってしまう。それから言語障害ですね、言われている事が理解出来ないであるとか、そういう病気や怪我そのものによる一次的な障害というものがあります。 一次的な障害が起こるとそのあとに、それによって体の活動が低下する、行動範囲が狭くなる。結局、運動量というのはとても少なくなってしまうわけです。運動量が減るという事は、力であるとか、心臓の働きであるとか、肺の働きであるとか、そういう循環器系の働き、機能が低下するということがありますし、関節が硬くなってしまったりとか、そういうような事によって、また障害が重くなるという、二次的な障害というものも起こってきます。 そこで、リハビリテーションの訓練、病院のリハビリであるとか家庭でのリハビリといった広い意味でのリハビリなんですが、そういう所では最初のうちは一次的障害ですね、病気の根本的な治療であるとか怪我の治療であるとか、そういう事を改善したあとに、今言いました行動範囲の減少による二次的な障害、筋力が低下するとか、心臓や肺の機能が低下するとか、関節拘縮が起こるとか、そういう事を予防するという目的があります。そして最終的な目標なんですが、これはそれぞれのかたがおった障害の度合いに応じて、「その障害を持ちながらも健康的に生活をする」というところに目的があります。 今日は脳血管障害、脳卒中による片麻痺を中心にお話しする予定なんですが、脳血管障害というのは、まあだいたい中高年齢層に多いですね。脳の障害、脳がやられてしまったという事に加えて、誰にでも共通して言えることなんですけれど、「老化」というものがあります。これは絶対避けられない問題なんですけれど、その脳の障害に老化というものが加わって、リハビリテーションというものが複雑になり、また長期にわたってやらなければいけないという事になります。 それで、リハビリテーションというものの中で、体力というのはいったいどういうように考えられているか、どのように捉えていくかという事です。 1.全身の体の持久力をまずつけなければいけない。そして持久力をつける事によって体全体を健全に保つという事があります。これが分かりやすく言えば「体力作り」というような事になると思います。 2.歩行出来るかたであれば、障害物や自然のでこぼこした外の地形ですね、そういう所を歩く。車椅子を使用する人であれば、車椅子をこぐという能力というものが体力というところで見られます。これは「応用動作」です。応用動作を習得するという事です。 3.体の問題ではなくて気持ちの問題、心理的な問題ですね。積極的に何かに取り組む事が出来るであるとか、忍耐強く耐える事が出来るであるとか、みんなとうまくやっていく協調性であるとか、そういうような精神的な心の中の問題もあります。これも一応、体力というものの範ちゅうに入ると思われます。 実際には、障害の重症度、どれだけ重いか軽いか、という事にも左右されるんですが、まず第一に体力作りというのが必要になります。 体の面であるとか気持ちの面であるとか話しましたけれど、体力というのがどういうふうに分かれているのか、書いてみます。体力には、身体的な要素と精神的な要素があるんですが、その中にそれぞれ「行動するもの」というものと、「防衛するもの」があります。
「行動体力」。行動に体力という言葉がつくんですけれど、行動体力というものの中には、「行動を起こす」「続ける」「調整する」という、この三つが含まれます。 「防衛体力」。防衛体力というのは、色々なストレスに対抗する、適応するというような事ですね。 精神的な行動体力というのは、何か行動を始めようであるとか、意志とか意欲であるとか、判断ですね。そういうふうに言われています。 精神的な要素の中の一番下の「防衛体力」は同じく、精神的なストレスに対する適応力という事です。 こういうふうに分かれています。色々な分け方があるんですが、その中からひとつの分け方を挙げてみました。 この中で、障害者のかたにとって一番必要だと言われているのが「防衛体力」です。体を守ろうとする体力。それから「行動体力」の中の「行動を続けるという体力」が必要だと言われています。続けるという事は持久力ですね。物事を長い時間続ける事が出来る。簡単に言えばそうなると思うんですけれど、特に高齢者のかたであれば、何かを速く出来なければいけないであるとか、力を強く出さなければいけないであるとか、そういう事はさほど重要とはならないで、より重要なのは「調整する」というところにも入るんですけれど、バランスを取るとか、体を軟らかく保つとか、持久力とかが重要ではないかと言われています。 それで障害を持ったかたには、スポーツ選手なみのたくましい体というものは必ずしも必要ではなくて、年齢や障害の重症度に応じた中で、生活していく上で生きがいなどが見いだせれば十分ではないかと言われます。 重要な事は、ある一つの動作を起こして、それをうまいこと調整するとか持続するという事と、そして気持ちの問題なんですが、うまく支援する。やろうという気持ちを持ち続ける。実行して継続しようとする気持ちを持つという事も重要です。ですから、障害者の体力を考えた時に、それぞれの障害に応じて健康的な生活を送るために、行動を起こしてそれを調整し持続するという事と同時に、精神的な、それをやろうとか続けようとか、そういうような気持ちを同時に持つという事が大切になります。 実際には、持久力は特に必要だというのは分かるかとは思うんですが、それだけではやっぱり足りません。例えば、片麻痺の患者さんや歩行が難しい患者さんがたなど、速く歩き続ける、坂道を上る、家庭や職場で肉体的な作業をする、そういう事が大切で、それに加えて、道路や家の中をスムーズに歩く、横断歩道を青信号がぴかぴか点滅する前に余裕を持って渡り切る事が出来る、でこぼこの不整地を安全に歩く事が出来る、歩いていて後ろから誰かに肩をたたかれたり声をかけられて振り向く事が素早く安全に出来るなど、そういうような事も重要な体力と考えられます。ですから、色々な状況下において臨機応変に対応出来る、そういう能力として持久力だけではなく、筋力とか敏捷性とかバランスを取るという事も必要不可欠な問題ではないかと思います。 そういう能力、色々な状況で安全にスムーズに行動出来るというような事があれば、その結果として、ふだん家の中ではあまり動いていなかったけれども、ちょっと外に出てみようかとか、外に出られたんだからちょっと買い物をしてみようとか、電話がかかってきたので話をしてみようとか、そういうような事につながっていくのではないかと思います。 持久力のみならず、筋力であるとか平衡バランス能力であるとか、そういうものが必要だと今お話ししましたけれど、実際に障害を持ったかたの力とか、バランスを取る能力は、実際にはどれぐらいあるものなのかという事なんですが、色々な先生方が研究されています。その一部を持ってきました。 筋力。足の筋力です。「麻痺していない方の足の力」というのは、障害をおっていない人に比べて、やはり低い値を示しているという事が言われています。そして、障害をおってからの期間が長くなればなるほど、その力はよけい弱くなってしまいます。それとは逆に、日常生活の中で一杯活動しているかたは、比較的筋力の低下が少なくて済んでいるという事が言われています。 麻痺している方の筋力なんですが、これは膝を伸ばすとか、足を持ち上げるとか、そういうようにそれぞれの関節を勝手に動かせるかと言うとそうではないですね。ですから、麻痺している方の筋力を測るについてはちょっと分かりづらいんですけれど、麻痺していない方と麻痺している方の関係というものがあります。筋肉の量がありますね。筋肉の太さなんですが、腕にしても足にしてもいい方が太いですね。ですけれど、麻痺している方の膝を伸ばす「もも」の筋肉というのは、体全体の中で結構やせてしまう事が多いようです。 筋肉の耐久性です。「どれだけ長い時間力を出し続ける事が出来るか」という事なんですが、ふだんの生活で、寝ているところから起き上がるとか、立ち上がるとか、そういう事をやろうとした時には出来るけれども、それが何回も何回も──家の生活ですから──繰り返されますよね。そういうふうに繰り返すような事になるとちょっと出来なくなってしまうとか、そういう事も多くあるのではないかなと思います。これは、結構気持ちの問題なんですけれど、「それをやろう」という意欲がなかったり、そういう場合にも、運動を続ける事が出来なくなるんではないかと思いますが、やはり、意欲の問題だけではなくて、筋肉そのものの持久力というのもやはり落ちている。それによって「疲れやすい」というのが出てくると思われます。 次に、足の筋力とふだんの運動量との関係、活動性との関係です。これもまた調べたかたがいまして、ふだんの生活の中で4千歩以上。4千歩、8千歩、そういう多量の運動をしているかたというのは、(膝を伸ばすももの筋肉がやせてきるという話をしましたが)そういうやせ方が少なくて済んでいます。活動している人は少なくて済んでいるという事ですね。そして、麻痺していない方の力なんですけれど、これもふだんの生活の中で運動している量が多ければ多いほど力が保たれていると言われています。 それで、「4千歩以上」「4千歩以下」とその本には出ているんですが、少なくとも歩けるかたでは4千歩以上は歩いた方がいいんじゃないかと書いてありました。実際にはどれぐらいの距離なんだろうかと計算してみました。下の理学療法の訓練室の1周が60〜70m、大きく回って70mくらいあると思うんですが、そこをだいたい 150から 200歩くらいかかるのではないかなと思います。その計算で4千歩となると、下の訓練室を25〜30周くらいです。それを一気に歩くというのはちょっと大変ですので、1日のトータルの歩数というふうに考えてもいいとは思いますが、出来るだけ長い距離を歩いた方が力が衰えなくて済むと思います。 そういう運動を、ちょっとこわいな、ちょっときついかなというぐらいで歩くと、そういう事が刺激になって、循環器系も賦活されるという場合もありますし。ただ、心臓の病気があるという場合にはまた別のやり方を考えなければいけないと思うんですが、自分の出来るの範囲で歩いた方がいいという事は言えると思います。 「身体的要素」の「行動体力」の最後の「行動を調整する」というのがありますけれど、調整するという中にバランスを取るとか、速く方向を変えるとかあります。まずバランスを取る。立っている時のバランスですけれど、片足立ちをやるとします。片足で立つという場合に、いい方の足で立つとします。麻痺している方の足を上げて、いい方の足で支えるというふうになると、たとえいい方で立っていたとしても、健常者のかたに比べると、やはり時間が短いと言われています。いい方の足で立ったとしても、20秒前後であろうというふうに言われているんです。そういう意味から言っても、トータルの全身的なバランスが低下していると考えられます。 バランスという意味で、立っているその場でこう回りますね。回る時には必ずバランスを取りながら回るわけですけれど、そういう場合に、いい方の足を内側にして回りますね。こういった回り方の方が回りやすいけれど、逆に麻痺している方を中心にして回ると、回りづらいというのがありますから、どちらへでもうまいこと回れるようになるためには、麻痺している方でもきちんと支える事が出来なければいけない。そのためには、ふだんから運動して、力が出来るだけ落ちないようにしないといけないという事も言えるかと思います。 協応性というものがあるんですけれど、これは二つ以上の事を同時に行う。例えば会話をしながら歩くとか、走っている車を見ながら歩いていくという事なんですが、そういうような事が難しいと言われていますね。健常者のかたであれば何でもないような事なんですけれど、障害をおってしまったかたというのはこのような事も難しくなってきますね。先ほども言いましたけれど、方向を素早く切り換えるという敏捷性も落ちています。それもやはり、いっぱい活動して、出来るだけ速く動く事も練習しなければいけないという事になります。だから調整力、自分の体を調整するということは、バランスを取るとか、二つの事をいっぺんに行えるとか、素早く体を動かせるとか、そういうものが合わさって現れると言えます。例えば、突然横から人が飛び出てきたと、そういう場合に、その人を見て体をよけるために素早く横に体を動かさなければいけない。体を動かしたあとにバランスが崩れて倒れないように頑張らなければならない。そういう全ての事に言えると思います。 問:6年前に左があたりまして、左腕がこのぐらい上がります。これでも動くようになったんです。先生のお話を聞いていると、自分では、麻痺した方の腕の体力がついたから上がるようになったんだなと思っているんですが、これは体力ではないんですか。 答:いえ、今の話から言えば体力というふうに捉えることも出来るかも知れません。 問:今までの先生の話を聞きますと、神経がつながったという話もあるから、どっちかなと思いまして。 答:それぞれが単独に起こっているというものではないと思います。全体が変わってきたんじゃないかなと思います。 問:今までやっていた通りのリハビリをやっても構わないんですか。 答:それは継続して構わないと思います。 問:それから今の協応性ですか。この手術を受ける前に、僕は人を避けれなかったんです。人が来れば避けれないで、肩があたってしまいます。つまり、歩く事と避ける事の二つが出来ないわけです。そういうことを考えれば、将来的に自動車の運転は無理となるんですけれど、この点はいかがですか。 答:自動車の運転というのはとても難しいですよね。色々な操作がありますから。ハンドルを持ちながら足を動かさなければいけないとか、動かしながら状況判断をして、全て安全だという確認をしながら体を動かさなければいけないわけですから、もし人が来ただけでもすぐそれに対する反応がうまくいかければ、やはり危険ではないかなと思います。 問:運動をする時に、例えば普通に歩いている時とか運動をする時に、自分が今運動をしているんだとか、手を曲げるぞとか、何歩歩くぞとか、そういうふうに頭の中で考えながら運動した方が、ただ漫然と歩くよりも効果はあるものですか。 答:何歩歩くぞと考えたからその人の歩行能力が上がるとか、そういうことはちょっとはっきり分からないんですが、これをしようとか、こうしなけりゃいけないとか、ここはこうした方がいいとか、こういう状況になったらこうしなきゃとか、そういうふうに常に注意しながら、そういうふうに考えながら行動するという事は大切な事ということは言えると思うんですけれど、効果となるとちょっと分かりません。 リハ部長:今のご質問のことで答になるかどうかちょっと分かりませんが、効果があるかどうかというのは、比較的長い間続けたあとに出てくるものだと思います。急いで、短い時間で効果を上げようというのは、ある目標を持ってやる、それをある時間内にこなすということで、スポーツ選手であるとか普通の人の場合にはある程度可能な事なんだろうと思いますが、何か体に不都合なところを持っている場合には、出来るだけそれを長く続けていくことで効果が上がっていくという事になるかと思いますので、一番重要なことは、それを楽しみながらずっと続けていく事が出来る、そういう状況が一番大事だと思います。 そして、その体力、今石田先生が言った中に、体力の中には体を動かすとか筋肉を動かすとかいう、そういう体の構造上の問題、動かすための構造上の問題と、もうひとつ、それを動かし続けられるための心臓の問題とか呼吸器の問題とか、そのような付随した、エネルギーを常に補給していく機能を持つ器官というものがありますね。そのどちらもが出来ていってはじめて、体力というものが増えていくものですから、ただ楽しみながら散歩していくという事だけでも、呼吸の問題とか心臓の問題とか、そういう面では常にきたえられていくわけです。そういう面での体力増強というのは、あまりスピードには関係なく考える方がいいだろうと思います。筋肉とか、体を移動させるためのエンジンとしての力は、ある程度速く歩くとか、意識的に筋力をきたえるとかいう方法をとることで、それは効果的だと思います。その二つがあるかと思います。 本講演の印刷用ファイルのダウンロード(モノクロ)が可能ですが、 閲覧・印刷には「Adobe Acrobat Reader」(フリーソフト)が必要です。 配布は自由にされてけっこうです。必要なかたはどうぞご利用下さい。 印刷用ファイル ← ここからダウンロードしてください 釧路労災病院 リハビリテーション科 |