『言語訓練 1.失語症』

講師:言語療法士 菅野栄子





〜はじめに〜


今日はタイトルとしては言語訓練ということで、失語症に関してお話をしようかと思います。このリハ教室でも2回ぐらいは失語症のことに関してお話をしてきたんですけれど、もう一度簡単に復習をしてから、失語症の言語訓練について入っていきたいと思います。
 ・失語症の定義
 ・失語症の一般的な分類
 ・実際の検査結果〜標準失語症検査の結果
 ・現在訓練中の重度運動性失語のかたの訓練と検査結果



〜失語症の定義です〜


失語症は「言葉を失う」と書きます。どうしたら失語症になるか、失語症というのはどういうふうになっていくのかという事です。


●まずひとつは「大脳の損傷によって起こる」ものであるという事です。これは、脳血管障害、脳出血や脳梗塞のことを言うんですけれども、そういう病気が原因でなるという事。それから、交通事故や何かで強くぶつかってしまった頭部外傷、頭の怪我ですね。そういうことで、脳そのものが傷つく事を言います。失語症になるというのは大脳の損傷というのが第1条件というか、脳に傷がついたがゆえに失語症になるというものです。

●2番目に、ちょっと言葉が難しくなるんですが、「いったん獲得された機能の崩壊」というのがあります。これはどういう事かというと、生まれつきに失語症になるという事はないという事です。だから、大脳の損傷を受けるのが小さかった時には、別の病気と言うか障害として区別されるんですけれど、失語症の場合は、生まれつきではなくて、生まれてから獲得した機能、普通に言えば「話せる」「書ける」「読める」「聞いて理解する事が出来る」という力がついて、脳に損傷が起こって出来なくなってしまうという事です。

●3番目に、原則としては「不可逆性」と言いまして、これは病気になる前の状態までに、100%完全に戻るという事は、脳に傷がついてしまっているので難しいですよという意味です。けれども、100%まで戻らないから全然だめかというとそうではありません。病気する前が100%だとすると、9割近く戻ったりするかたもいれば、30%ぐらいまでしか回復されないかたもいますし、それは脳の損傷を受けた場所だとか大きさだとか、そういうものによって個人々々違ってくるんですが、原則としては不可逆性です。そして、不可逆性であり「進行性ではない」というのが付きます。進行性ではないというのは、2回目の梗塞などの発作が起きなければ、それ以上悪くなっていく事はないという事です。病気をしてから10年、20年経っていくと、生理的な大脳の機能低下というのはもちろんありますが、一度傷を負った所から徐々に失語症という病気自体が進んでいくという事はないと言われています。以上が失語症の医学的な定義です。




〜失語症の一般的な分類〜


このようにして起こってくる失語症にもいくつか種類があります。細かく分類すると10種類近くに分類されていくんですが、一般的な4つのタイプというのを復習としてお話しします。

まず、言葉といってもいくつかに分かれます。

「言葉を話す」という事。
「話された言葉を聞いて理解する」という事。
「書かれている字を読んで理解する事、または声を出して読む事」という事。
「字を書く」という事。


と分かれます。
そして失語症は次のように分かれます。

1番目には「運動性の失語」というのがあります。
2番目には「感覚性の失語」があります。
3番目には「混合性の失語」があります。
4番目には「全失語」があります。


この4つのタイプの簡単な症状の違いというのを説明します。




●運動性失語

「運動性の失語」のかたは、話すことは非常にたどたどしい。非流暢です。非流暢というのは、「あの、あの、あの」という感動詞が入ったりとか、言いたい事がなかなか思うように出てこないという事です。

運動性のかたの「聞いて理解する力」というのはほぼ保持されている、保たれているというふうに言われています。もちろん運動性の中でも、症状的に非常に軽いかたとか、重症度別にいけば重たいかたと軽いかたというのが運動性失語の中にもあるんですが、どちらかといえば聞いて理解する事は結構出来るタイプのかたが多いです。それが運動性の失語です。読むという事は、声を出して書かれているものを読むというものと、書いてある内容を理解するというものと、2つとも含んでいるんですが、それらがまとまって、しばしば障害されていると思って下さい。

運動性失語のかたの「字を書く」という事に関して、頭の中には何となく浮かんでいるんだけれども、詳しくはっきり覚えているかどうかというと、ちょっと怪しいと言えます。たまに字じゃない字を書く、似ているんだけれど、例えばへんがちょっと違ったとか、さんずいで書かなければならない所がにんべんになっていたとか、ちょっとした誤りがある事が多いです。運動性のかたはこういう感じの症状が見られてきます。


●感覚性失語

「感覚性失語」の患者さんは非常に滑らかに話します。たくさんの言葉を話すんですが、それは「錯語」と呼ばれるものであったり、「ジャーゴン」と呼ばれる、話はしているんですけれど意味が分からない。例えば文法にのっとった日本語をしゃべっているというよりは、「もにょもにょもにょ」というようなはっきりしない発音であるということです。「錯語」というのがちょっと分かりにくいかと思うんですが、例えば「りんご」と言おうと思ったのに「みかん」と言ってしまったりします。それだとまだ、何となく予想はつくんですが、「りんご」と言おうと思ったのに「たん」とか「なんだ」とか、全く関係ない、数も違うし発音も全然違ってしまう言葉が出てくる、そういうのが「錯語」というんですけれど、それが話の中に全部つらなっている。だから、分かる言葉がない状態で話す。

いずれ、感覚性のかたの発話サンプル、実際に話しているテープがありましたら、いつかのリハビリ教室でお聞かせしようかと思います。感覚性失語のかたは話す事がとにかくたくさん出ますが、ちょっと聞いただけでは意味はよく分かりません。全く意味が分からない言葉ばかりかというと、たまに出るんですね、おはようと出てきたりとか。全く分からない言葉ばかり話すわけではないんですが、それを聞いて全てを理解するというのは難しいという失語です。

感覚性のかたは聞く事は障害されます。端折ってしまいますが、読むことも障害されます。書く事に関しては、さっきの運動性失語とちょっと違いまして、感覚性失語のかたは形態は保持されます。だから、字を書く事は出来るんですが、実際に書いて欲しい文字が書けるかどうかというと、それはあやしいですね。字は正しいんだけれども、その時に適切な字が書けるかどうかというのは疑問が残るところです。


●混合性失語

「混合性失語」のかたは、話す事に関しては、1番目の「非流暢」と2番目の「流暢でジャーゴンが混ざっている」というのが、まさしく混合性の状態になっているというもので、聞く事も障害されています。読む事も障害されています。書く事も1番と2番がプラスされているような感じです。だから、どこからどこまで混合性にするか、または運動性と感覚性に分けるかというと、判断する人間の考え方というのも入ってくるかと思うんですが、この人が混合性ですというような感じはなかなか見受けられません。でも、1番目の症状と2番目の症状が混ざった感じ、とにかくそういうふうに思っていて下さい。


●全失語

最後に全失語です。全失語のかたは運動性のかたと同じように非流暢か、もしくは、無言と書いてしまうと語弊があるかも知れないんですけれど、なかなか声自体を出しにくい状態で、出ても言葉という形でなくて発音という形で出てくるものです。聞く事はもちろん、読む事も障害されています。書く事も同じように障害されています。

3番目の混合性失語と4番目の全失語とは、ちょっと区別つけにくいかと思うんですが、これは詳しい検査をしていく上で、検査の項目でどれだけ出来るかどれだけ出来ないかという事で判断をしていきます。これが失語症の簡単な、分かりやすく分けるとこのような4つのタイプに分かれます。




〜実際の検査結果:標準失語症検査の結果です〜


今日は実際に、今までお話ししたタイプのかたの検査の結果と、そのかたが行なった言語訓練の内容、そして、その訓練を行なった結果どのように回復していったかというのを、実際の検査結果をお見せしながらお話ししたいと思います。


●運動性失語のかたの言語訓練と検査結果です

まず、検査項目の小さな部分が見えにくいかと思うんですけれど、このかたは運動性の失語のどちらかと言えば軽かったかたの検査の結果です。この検査はSLTAといいまして、標準失語症検査という検査を使っています。



だいたいの線の形を見ていただければいいんですが、最初の4つの部分は聞いて理解する部分、その検査結果をあらわしています。10問中いくつ出来たというのを示しているんですが、ここの最初の落ち込み(3つ目の検査項目)、これは長い文章を聞いて、それを完全に理解出来ているかどうかというのを見る部分です。そして、これ(検査項目の5.呼称)は物の名前を答える絵のカードを見て、それが何であるかというのを答えてもらう部分なんですけれど、これが20問あった内の一つも出来なかったものです。ここ(項目10.語の列挙)は動物の名前を1分間に出来るだけたくさん挙げて下さいというものなんですが、このへんがちょっと出来にくかったところです。あとはこのへんの字を書く部分が低くなっています。全体的に見ると、下にくっついている部分のところがあまり成績が良くないというふうになります。

このかたはどんな訓練をしたかといいますと、まずはここ(項目5.呼称)の物の名前を答えるというところを少しでも良くしようと、絵カードを使って名前を言う呼称の訓練をしました。それから、短い文章を声を出して読む事。そして、物の名前を漢字とかひらがなで書く、ここで絵を見て答えた上に字に書いてみるという訓練をしました。それから、長い文章を読んだりだとか、自由に世間話をするだとか、ここの検査に出てきたところばかりを訓練するんじゃなくて、色々な方法で約8か月間訓練をしました。もちろんずっと入院されていたのではないんですが、退院してからは週に1回ずつぐらいの訓練をしてきました。

成績が良かったのは、聞く事に関しては「1.単語での聴理解」。絵が6つあって、その中の「猫はどれですか」といった単語のレベルでは聞く力はすごくありましたし、このへんの上にくっついている部分(項目11.13.)は、漢字やひらがなで書かれた文字を声を出して読むというところ。それからこの上の方(項目15.16.17.)は、漢字やひらがなで書いてある文字を理解すること。字だけじゃないんですが。それから、ひらがな1文字を書いていくような事(項目22.)は確実に出来ていました。

それで、訓練をしたあとの検査の結果なんですが、赤い方の点線が訓練をしたあとになります。このへん、1回目の検査でやった時に落ちていた部分がぐっと上がっていますし、ここは出来ないままという感じです。他の項目についても前回より下がったという部分はありませんでした。このかたの場合、検査では多少まだ低下している部分はあったんですが、ふだんの生活の中で話をする分には困るという事があまりなかったので、訓練をして8か月後で、一応言語訓練はもういいでしょうという形で訓練を終了しています。

語の列挙の説明:検査の項目の中では「語の列挙」(検査項目10.)という事になっているんですが、これは1分間という限られた時間の中で、動物の名前を出来るだけたくさん挙げて下さいという課題です。失語症のかたはどのタイプのかたにも共通して見られるんですが、とっさに思い出して次々に挙げるというのが非常に難しいんですね。このかたの場合も、訓練をしなかったわけではないんですが、実際の検査場面になると訓練の時とは違った緊張感があって、分かってはいるんだけれども、なかなか思うように名前が出てこない。映像では頭の中に色々な動物が浮かんではいるんだけれども、その名前が出てこないという状態なんです。

日常の中では、1分間に野菜の名前を上げるとかそういうような事はないので、この項目のこのぐらいの低下ならあまり言語訓練というのはこのあと必要ないだろうという、もちろん患者さんその方の希望もありまして、このかたの場合はこの赤い線の結果が出た時点で言語訓練は終りにしました。これは運動性のかただったんですけれど、次は感覚性のかたの説明をします。


●感覚性失語の訓練と検査結果



この結果を見ると、さっきの運動性失語のかたとは全然折れ線の感じが違うというのが分かっていただけると思いますが、先ほども説明しましたが、感覚性の患者さんというのは聞くことの障害が非常に重たいんです。だから、「検査をしますよ」という事自体理解出来ないとか、「指をさして下さい」という事が良く分からないという感じなので、この検査を全部通してやるというがまず非常に難しいんですね。それでもだましだましと言いましょうか、何日か時間をかけて小分けにして検査をしていったんですが、まず、結果は非常に重たい、ほとんどがよく出来ないというグラフになりました。検査中にすごくしゃべる量が多くて、ジャーゴンや錯語など、非常にたくさんの発話が見られました。それが感覚性の失語症の一番の特徴なので、このかたの場合はそれを見た上で、感覚性の結構重度のかただというふうに判断しました。

それで、このかたの場合、聞く事に関しても非常に低かったですし、自分で話すという事も非常に難しかったので、どういう訓練からしようかなと迷ったんですが、まずは聞いて理解する事を少し訓練しようということで、絵のカードを3枚から5枚並べて、こちらが言ったものを指さしてもらうとか、身振り手振りをまじえながら、こうするんだよという感じで、言葉で言ってもなかなか理解出来ないですから実際にやって見せて、訓練をしていきました。

このかたは10か月ぐらい訓練を続けたんですが、点線が2回目に検査をした時の結果です。このかたの場合は1回目と2回目で、ちょっと伸びている部分もあるんですが、そう大きくは変化しなかったという結果が出ました。このかたの場合、訓練内容を「訓練訓練」しているとちょっと飽きてしまったり、結構気難しいという性格があって、出来れば訓練は避けたいなという気持ちをお持ちだったので、なかなか思う通り訓練が進まなくて、検査の結果も変わりませんでした。結果がこういうふうになって残っていますけれど、今はこのかたは退院されて、その後はどういうふうな生活をされているか分かりませんが、その時点で言語訓練も終了しています。これが感覚性のかたの結果です。


●健忘失語のかたの訓練と検査結果



これは先ほど言った4つの失語症の中には含まれていないんですが、「健忘失語」。忘れてしまう、「健忘症」の健忘と書くんですけれど、聞く事は能力的には非常に高いです。しかし、話す部分、絵を見てその名前を思い出すとか、次々に4コマ漫画を見て説明していく訓練では、その中にある帽子や杖の名前が出てこなかったり、動物の名前を次々に思い出すということがなかなか出来ないといった感じで、思い出して言う部分に関して成績が下がっているので、健忘失語と判断しました。他の部分、声を出して読んだり、書かれているものを読んで理解する、字を書く部分(左手を使ったので低下はありますが)では日常生活では問題ないぐらいの低下だったので、このかたの障害は思い出して言う部分にのみ限定されているだろうという事で、健忘失語という判断をしました。

こういうふうに、ここだけというふうに障害が限定されてくると、訓練もそこにばかり集中するので、絵カードの呼称が中心だったり、漫画の説明をする課題であるとか、思い出して次々に言うという訓練を行ないました。その結果がこれです。このかたは年齢が若かったことと、元々の障害が非常に軽かったものですから、訓練した結果、成績のほとんどは上の方にくっついているんですが、やっぱり苦手だというふうに1回目の検査で出た部分に関しては多少の低下は残っています。このかたは、病気して7か月後の結果がこれぐらいまで上がっていかれました。


●全失語の訓練と検査結果



次が、最重度と言われる「全失語」のかたの結果です。このかたも2番目に出てきた感覚性失語のかたの結果と、線の形の単純さが似ているんですが、このかたの場合は、話せる言葉はほとんどなくて、非常にたどたどしい話し方をされていました。先ほどの感覚性失語のように流暢にぺらぺらしゃべるんじゃなくて、非常につまりながら話していたという事と、検査の結果、ほとんどの事が出来ない状態だったので、全失語という判断をしました。

訓練の内容としては、一番最初のところの「単語の理解」ということで、聞く力が単語レベルであれば10問中8問出来ていたので、この力をもう少しつけようという事で、絵カードを何枚か並べて、その中から一つ選んで下さいというポインティングの訓練をおもにやっていきました。その訓練をしばらくやった結果がこれです。出来るようになった項目自体はほとんど変わりません。数として少し出来るようになったものがあるかなあという程度なんですが、話す部分は全く出来ませんでしたし、その他も、「良くなったね」というような感じにはいかなかったというかたです。まあ、正答率が少し上がったというところがうかがえるというかたです。




〜現在訓練中の重度運動性失語のかたの訓練と検査結果です〜


今まで見ていただいた4例のかたは、今は全然訓練はしていません。次にお見せするかたは今も訓練をされているかたなんですが、病気になって4年目に入っているかたです。



実線の結果は病気になってすぐの頃にやった結果です。出来ている項目も少なく、聞くところでも単語と文章は全然だめ、書くのも全然だめ、計算もあまり出来ないという状態でした。このかたの場合は発症されて間もなく、ベッドサイドから言語訓練に入っていった患者さんです。こちらの指示、例えば「目をつぶって下さい」とか「手を挙げて下さい」ということには良く従えたんですが、「名前を教えて下さい」とか「今日は何曜日ですか」という質問には答えられなくて、答えられないが故に非常にもどかしいという表情をする事が見受けられました。発症後1か月で、本格的なリハビリが始まっていったんですが、その時に取ったのがこの結果(実線)です。聞くことはある程度出来る。文章、単語レベルでちょっと出来るんですけれど、話す部分に関しては一番下にくっついてまっ平らで、何も出来ません。話すにしても非常に非流暢であって、話す量も非常に少ない状態で、運動性失語の重度の方かなと最初は判断しました。

この方の訓練は、最初は「口の形をまねする」というもの。それから、大きな声がなかなか出ていなかったので、大きな声を出すための深呼吸や発声訓練。少し出来ている聞くところの訓練をしていきました。どうしてこのように簡単そうな事からやるかというと、いきなり難しい問題を出して出来ないと、落ち込んでしまうわけですね。「自分はこういう事が出来なくなってしまったんだ。出来ないから自分はもうだめなんだ」というふうな、最初の落ち込みを防ぐために、まずは検査で1回やって、これならだいたい出来るかなという訓練から始めていきました。

出来るものばかりやっていてもしょうがないので、この検査で出来ていた項目に近い訓練と、話す部分がこのかたの場合難しかったので、声を出して話をする訓練とを半々ぐらいにして、訓練プログラムを立てていきました。

このかたは、病気をする前から歌が非常に好きだったということが、だんだん分かってきたので、歌の練習をしようという事で、歌を1曲決めて、歌の練習をしました。歌手のかたが歌っているテープと一緒に歌ったりとか、または歌詞だけを患者さんに読んでもらったり、カラオケでひとりで歌ってもらったり、そういう訓練をしていって、約1か月半で1曲を完璧に歌えるようになりました。しかし、話してごらんとか、名前を聞くとうまく話せないんですけれど、練習した歌はとても上手に、間違えずに歌えるようになりました。

そういうふうに訓練を続けて、絵本の音読をしたり、他の患者さんと一緒に話をしたりと、実際の人とのやり取りをする場面での応用へと、内容をだんだん変えていきました。現在は、訓練室に来ると挨拶は必ず自分からします。そして、そのあと私が黙っていると、自分から話題をふってくれるんです。「今日はお天気がいいね」とか「今日は寒いね」とか、必ず自分で何かを、「言って下さい」と言ったわけではないんですけれど、自分から最初の一言を切り出すという事をしていくようになりました。

これが一番最近やった検査の結果(破線)なんですけれど、病気して3年たってこういう感じに変わっています。最初の頃全く出来なかった話す部分に関してこれだけの成績のアップがありました。字を書く部分も、右麻痺になってしまいましたから左手で字を書くというのが最初は非常に難しかったんですが、今は話せない分、字を書くことというのが能力的には非常に伸びました。

この結果だけではそのかたのコミュニケーション能力というのは十分説明出来ないんですけれど、実際場面では1年前、2年前と比べると、だんだん人と話す事を怖がらなくなったと言いましょうか、自分から非常に積極的に話しかけていくようになってきたという患者さんです。


一応言語訓練というのは1対1、STと患者さんが1対1でやる個別訓練というのが今のところ中心になっているんですが、数人で、3〜4人とか5〜6人とかでグループを組んで訓練をしたり、患者さんがひとりで自主的に行なってもらう自主訓練とか、言語訓練の中にはいくつか種類があります。今日お話ししたかたはほとんどが個人訓練を積んでいかれたかたの話だったんですけれど、グループ訓練とか自主訓練については、また別の機会にお話ししていきたいと思います。今日のお話はこれでおしまいにしたいと思います。




〜質疑応答〜


問:脳障害にかかったものが、どんなに上手に話しても「ああ、あたったなあ」と分かるわけですよね。これから退院して家庭に帰るわけですけれど、家庭でどんな訓練をしたらいいか、うかがいたいんです。

答:その方の症状によってやる内容は変わってきますが、例えば失語症か構音障害かどちらかによって変わります。どんなふうに話しにくいなという感じがしますか?


問:「はひふへほ」なんかが言いにくいんです。

答:発音の方ですね。まずは口の体操というのがあります。ご飯を食べたり普通に話したりする時は口の動きは非常に小さいんですね。良く動いているようですけれど。それ以上に「口を体操するんだ」というような感じで大きく口を開けてしっかり噛んでみるとか、舌を思い切り出して引っ込めたり、左右に動かしたりとかいう、顔の筋肉をたくさん使うという事と、発音する音に関して、どういうふうにしたらこの音が出るんだろうと、舌のくっつけ方とか声の出し方とか、細かい事を言うとたくさんあるんですけれど、それをしっかり覚えて、確認した上で発音の練習をしていかれるといいですし、自宅に帰ってからでしたら新聞を取っていらっしゃると思うんですけれど、新聞の記事を、なるべく大きな声でゆっくり読んでみるとか、こういうカセットレコーダーがあれば、それに自分が読んだのを吹き込んで、もう一度自分で聞いてみて、「あ、こういうところ、この音がだめなんだな」という確認をする事。もしくは家族のかたに聞いてもらって、どの音が聞きにくいよとかいうのを知る事。まず自分が分かることですよね、どの音が苦手か。それで、どういうふうにすれば出るのかというのを確実に知るという事ですね。口の運動というのが一番大事かと思います。




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