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第1条:脳卒中と骨折予防 寝たきりゼロへの第一歩 (厚生省指針より。一部改変) リハビリテーション科部長 斉藤裕 今日は、この前お話しした糖尿病の話をもう1回復習するということにします。そして、実は前回から始まっているんですが、「寝たきりを防ぐ10カ条」というものがありまして、寝たきりを防ごうという「ゴールド・プラン」をやっている厚生省の委員会が作ったもので、一昨年マナボットに北大の先生が来られてこの話をしていましたよね。そのあと午後から僕らはシンポジウムをやったんですけれど、第1条から第10条まであって、色々いいことが書いてありますので、1回に2条も3条もお話し出来ないかも知れませんが、ひとつひとつ、僕の分かる範囲でお話ししたいなと考えています。 一番基本的なものに、すい臓から出るインシュリンというホルモンがあります。血液の中にある糖(血糖)の量を一定に保とうという働きをするホルモンが、このインシュリンというホルモンなんです。血液の中の血糖が多くなったらこのインシュリンがたくさん出て、その血糖値を100ぐらいに下げていく。そういうものなんです。 これは相対的なものなんですが、糖の元になる脂肪とか炭水化物をたくさん食べる。要するに、口から入ってくる量がたくさんあって、それが体の中で糖にたくさん変わって、そして相対的にインシュリンの働く量よりも入ってくる糖の量が多いということになった時に、インシュリンで処理出来ない分が出て来てしまうわけです。それがおしっこの中に『尿糖』という形で出て来てしまうわけです。だから、口から入って体の中に溜る糖の量とインシュリンの量がある一定の量の関係になっていれば、糖は過不足なく体の中に溜められていくんだけれど、入ってくる量が多かったりしたら糖はおしっこの中に出てくるし、インシュリンの働きが悪かったら、必ずしも食べ物としてたくさんの糖が体の中に入ってこなくても、結局糖を処理し切れないという状態になっておしっこの中に出て来てしまうということになるわけです。 そういう時というのは、『インシュリンの量というものが正常よりも少ない量でしか分泌出来ないような状態になっている』か、あるいは『インシュリンはある程度の量が出ていてもそのインシュリンの働きが悪い』か、その二つのどちらかなわけです。 糖尿病で一番怖い形のものは、インシュリンというものを作る力がないというものです。インシュリンを作っているところはすい臓ですから、そのすい臓の働きが悪いためにインシュリンが少ししか出来ないか、あるいは出来たとしてもあまり良い製品ではないインシュリンしか出来ない。そういう状態を引き起こすのが『すい臓の病気のためにインシュリンが出来ないという形の糖尿病』なんです。その時は、インシュリンというものを体の外から補ってやらなければいけません(インシュリン依存性糖尿病)。そういう形で治療をしていきます。そういう形の糖尿病というのはずっと治療していかなければならないので、辛い生活を強いられていきます。 もう片方のタイプは、インシュリンはある程度の量が出ているし、ある程度の働きがなされているにもかかわらず、『入ってくる糖の量が多過ぎるために血糖値が高くなる』、そのための糖尿病という形のものがあります(インシュリン非依存性糖尿病)。そういう人達は、入ってくる糖の量を少なくするという形で「食事療法」ということをやります。それから、糖尿病の「運動療法」というのがありますけれど、運動をすることによって体内に入っている糖の代謝を出来るだけ促進させて、糖の消費を多くさせてやる、そういうことで糖があふれ出なくて済むようにする。そういう形のものがあります。 このように、糖の量とインシュリンの量と、どちらが多いか少ないかという、そういう形で糖尿病というものの状態を了解すればいいと思います。外から補っていかなければならない場合と、食事・運動という面から体の中に入ってくる糖の量そのものを少なくしようという場合のものと、二つあります。そして、そういう治療を内科の方で行なっているし、リハビリの方では運動療法というひとつのやり方があって、治療の一環として参加しています。 そして糖尿病の場合には、リハビリの方でも関係あるようなことで恐ろしいことが一つあります。それは、細い血管が詰まっていくために起こる『壊死』というものです。そういうものが起こってくると、皮膚や骨が腐っていって、足を切断しなければならないという事態になります。それが直接リハビリと関係のある『足の切断』ということにつながる状態です。そのようなことが目の中に起こったら『糖尿病性の網膜症』、腎臓に起こったら『腎硬化症』。それから神経にも起こってきます。神経に来ている細い血管にもそういう詰まった状態が起こってきますので、神経の働きも悪くなります。そういうことで、全身病として大変怖い病気です。 前回は脳血管障害の話をしました。寝たきりを作りやすい状態の全国的な順序をお話ししました。全国的なものとしては「脳血管障害(脳卒中)」が第1番で、第2番目が「老衰」で、第3番目が「骨折」ですよという順序をお話ししました。それから釧路市内ではどうかというと、同様に第1番目が「脳血管障害」です。第2番目が「脊髄損傷」で、脊髄のレベルで神経がやられて手足が動かなくなって歩けなくなるというものでした。第3番目が「リウマチ」という疾患でした。第4番目が「骨折」ということでしたけれど、全国的なものとしても地域的なものとしても、脳卒中が寝たきりになりやすい原因の中で一番重要な疾患なんだということで、前回、脳卒中に関する話をしました。 今日は、寝たきりの第2番目、全国・釧路市の両方に共通するものというものではないんですけれど、全国の順序に沿って「骨折」ということについて話してみます。 寝たきりゼロへの第一歩 年齢がいくと、転んだりして骨折を起こしやすい所がいくつかありますが、そういう骨折を契機にして寝たきりになってしまいます。よくあることは、手術はしたんだけれど、でも結局はうちに歩いて帰れないし、うちに帰っても寝たきりになってしまう。そういうのは大変悔しいことだと思うんです。せっかく整形外科の先生がいい技術でもって手術をし、リハビリの方でも一生懸命やる。看護婦さんがたも一生懸命やる。家族のかたも一生懸命やる。皆一生懸命やっても寝たきりになってしまうというのは大変情けないことです。そういうことを少しでも防ぐためにどうしたらいいかという話になっていくんですが、その中で、骨折をなぜ起こしやすくなってくるのかという話からしてみようと思います。 〜骨粗鬆症〜 新聞でもラジオでも大変にぎわせていると思いますが、「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」という、骨がもろくなるということが一番の基本にあるようなんですね。骨というものは、「骨が出来る」のと「骨が壊れていく」のがあって、新しい骨というのは必ず出来てくるわけです。一方で骨が吸収されて一方で新しい骨が出来ていって、それでいつまでも骨の形が保たれていってるんです。銀行の貯金と同じです。お金が入ってくるのと出るのが同じで、一定の状態になっているわけです。 この、「骨が出来ることよりも、壊れて骨が吸収されていくことの方が多い」場合に、この骨粗鬆症ということになっているわけです。収入よりも支出の方が多いという、そういう状態を骨粗鬆症と言っています。どこの家でも大変なことですね。入ってくるお金よりも出るお金の方が多ければ、うちの中で常に色々なもめ事の原因にもなりますし、そういうことで、骨がだんだんもろくなっていくわけです。 実際にこの骨がたくさん作られていくためには、よく耳にする「カルシウム」というものが必要です。骨を作る材料です。骨を作る材料のカルシウムとか、小さい骨の元を作る「タンパク質」。骨の小さな元が出来て、そこにカルシウムがくっついて骨が強くなっていくわけですから、こういった骨を作る材料がちゃんと保たれていてはじめて、骨がたくさん追いついて作られていくわけですけれども、だんだん年齢が高くなってくると、まず、体の中にカルシウムが入ってくる量、すなわち摂取量が少なくなってきます。食べ物が腸から吸収されて骨の方に行くわけですが、腸の吸収力が悪くなってくる。それから食べる量もだんだん少なくなってくる。そうすると、骨を作る材料が不足してくるということになります。 そして、そういうものが骨につきやすいかどうか、骨が出来やすいかどうか、というホルモンがあります。それはエストロゲンというホルモンで、女性では閉経後はそういうものが極端に少なくなってきます。そのために骨が出来づらくなってくるという、老人のかたに多く見られるようになる、ホルモンの問題があります。 それからもう一つ。運動をすることによって筋肉を使う、そして全身的な循環が良くなるということで、骨の元がたくさん運び込まれて、骨が出来やすい状態を作る。そういう状態が運動や色々な訓練なんですけれど、そういうこと自体も低下してきます。 だから骨が出来るということ全体も低下してくるわけです。骨が出来るということ全体も低下してくる上に、さらに壊れるということも速くなってくるから、骨の新陳代謝の全体がだんだん小さいものになっていくわけです。しかし、骨自体が小さくなるわけではないから、骨の大きさは元々あるんだけれども、その中で骨の生成が行なわれる場所が少なくなってきているから、だんだん、すかすかの骨になっていくわけです。その結果、ある年齢以降になってくると骨粗鬆症が起こりやすくなってきて、骨自体が非常に弱くなっていくわけです。その結果、骨折を起こすということです。 骨折が3つあります〜 1.背骨の圧迫骨折 ある程度年齢がいった時に起こしやすい骨折は3つあると言われています。その一つは、「背骨の圧迫骨折」。尻餅をついて転んだ時に背中が痛いというようなことがあったら、それはたいてい背骨の圧迫骨折というのがあります。 背骨には小さな骨が、首で7個、首から腰までの間で12個、腰で5個あります。それだけの骨がずっと上から下まで続いているわけですけれど、どんと尻餅をついた時にその骨がつぶれてしまうということがあります。これも治療の最初にはある程度安静を強いられますので、どうしても横になる時期はありますけれど、ある期間を過ぎてもなお横になって安静を強いられている場合には、歩けなくなってしまうということが大変頻繁にあります。 2.大腿骨頚部骨折 二つ目に、足の付け根の骨の骨折です。「大腿骨頚部骨折」と言われる骨折です。足の付け根の骨で、その骨の首の所が折れるものです。お年寄りのかたが尻餅をついて転んだらほとんどが背骨の圧迫骨折で、横に転んだらこの大腿骨頚部骨折です。こういう骨折をしたらたいていは手術をしていかないといけなくなります。もし、半身があたっているかたがこの骨折を起こしたら、本当に歩けなくなっていく原因になります。あたっている方と同じ方に骨折を起こす場合が多いんです。その場合にはまだいい方が残っているから、早く手術をして人口の物に置き換えてしまえば早く歩けるようになるんですけれど、もしあたっている方と逆の良い方を折った場合には、良い方がなくなるものだから、ほとんど歩けなくなってしまいます。それが大腿骨頚部骨折と言われるものです。 3.橈骨遠位端骨折 それからもう一つは、手首の骨折です。転ぶ時に手をつくもんですから、手首に橈骨という骨がありまして、橈骨の端の方の骨折という意味です。人間は倒れる時に必ず手をつこうとしますから、もろに転んで手をついた時に、手首の親指側の骨の端が折れるという骨折があります。これは寝込まない唯一の骨折ですけれど、こういう種類の骨折を起こしてきます。 普段からの運動が大切です〜 骨折の根底には骨粗鬆症というものがあるわけです。だから、何とかして骨粗鬆症というものを防げれば一番いいんです。それを防ぐことのできる方法は何かというと、薬が出ています。ホルモンの一種なんですけれど、豚から取った物とか鮭から取った物、そういう骨を作るホルモンがあって、そういう物を使って治療もしています。それから、何といっても普段から運動をしているということがやっぱり重要なんですね。骨粗鬆症を防ぐ上でとても重要なんです。 骨という物は不思議な物で、若い人でも骨折した後ずっと体重をかけられない状態が続いていると、骨がすかすかにやせてきます。だから、骨がやせないために大変重要なことは、骨に体重がかかっているということなんですね。 宇宙飛行士が宇宙に上がった時のことです。何か月間も行って戻った時の初期の頃ですね。その頃、骨がものすごくすかすかになってしまったんです。それは、重力がなくて体重がかからなかったから、そういうことになったんです。 そういうことが起こってはまずいということで、重力と同じような状態を作るために、腰にバンドをつけてゴム紐で下に引っ張って、重力と同じ条件を作って、そこで足踏みをしたりして体重をかけるということが行なわれるようになって、骨のやせが随分改善されてきたと言われています。 だから、我々が普段出来ることで骨のやせを防ぐことにつながる一番いいのは何かというと、やっぱり歩くということなんですね。歩く、運動する。それは骨に圧迫の重みをかけてやるということと同時に、筋肉を働かせたり心臓を働かせたりすることで、骨の出来る材料を必要なところに頻繁に送り込むことが出来るし、骨が出来やすい条件を作ることが出来るんです。もちろん、カルシウムを摂るために牛乳を飲むという手段がありますけれど、そういうことで皆、栄養の量としては十分得られているわけですから、特にカルシウムをたくさん食べなければいけないとかいうことではなくて、今の食生活の中ではほとんどそういう物は欠乏しないだろう、よっぽど偏食をしない限り、と言われていますので、やっぱり歩くということが大変重要なことなんだということが分かります。 特にご婦人のかたで、そういう年齢を過ぎていかれる場合には、体の色々な変調を起こしてきますので家にこもりがちになったりするかも知れませんけれど、出来るだけ外でたくさん歩かれて、外の空気を吸って散歩をするということが、本当に色々な面で重要なんだなということが分かります。 どうですか、どこか骨折を起こして寝込んだという経験をされたことがありますか。僕は整形外科をやっていて、そういう骨のことを扱っていましたので、もう起こってしまったことは仕方がない、防げないということが分かります。そうすると、そこから早く起こすようにしなければいけないし、こういう骨折を起こして寝たきりになると、骨折だけの問題でなくて、その人の持つ全体の能力が低下していってしまいますから、もしこういう病気で手術したり寝たりしたような場合には早くから起こすようにしていかなければならないなと思います。せっかくいい手術をしても、寝たきりになるようにつながっていくのでは困るわけです。 座ることから始まります 〜とにかく座る〜 僕が整形外科をやっていた時には、どういうことに気を付けていたかと言うと、ベッドの上にとにかく出来るだけ早くから座ってもらって、足がちゃんと下に着くような座り方をしてもらうということです。ベッドの高さを調節したり、ベッドがそれ以上調節出来ない場合には、足の裏にブロックを──ざらざらするブロックがありますよね、そのブロックをどこかから拾ってきて──足の下に置いて、その上で足踏みをさせるというようなことをやっていました。 歩いていくためにはまずその人が「起きることが出来るかどうか」ということが重要で、その次に「座った状態を保っていられるかどうか」です。これは以前にもお話ししましたけれど、大変重要なことだから何回もお話しします。要するに座った状態を少しでも長く保つことが出来るようにする。そのためには座っているお尻の部分、それから足の裏まで含めて、全体が何かに接触している方が安定性が高いわけです。足が浮いたまま座った状態を保てるようにしようというのはなかなか無理なんですね。それよりも、下にブロックでも何でも置いて、足の裏、太もも、お尻がきちんと何かに接触していると安定感が高いから、そういう格好をしてもらいます。 その次には、さらに体の安定性を高めなければならないから、その訓練として、何か物を置いておいて、こっちに持って来たりそっちに持って行ったり、だんだん安定性が高くなってきたら、遠くに置いた物を遠くに持っていく。最初は片手で持って行くということでもいいんですけれど、だんだん色々な所に持って行けるようにする。それから、前ならえをした状態で手を動かす。それからお手玉ですね。日本の遊びの道具の中で、お手玉はバランスの訓練のためには大変いいんですね。 そこまできた人は手も十分使えるようになっているから、その人が歩こうとするためには、立つことが大事なんですね。何かにつかまってでもいいから立つことが大事なわけです。そして、足を開いて立った状態で、悪い方の足に少しずつ体重をかけられるように腰を持って誘導していくわけです。そしてだんだん左右の足への体重のかけかたがスムーズに出来るようになったら、今度は前後に体重をかけられるようになるかどうかを見るわけです。その時にはつかまってでもいいんですよ。より安定性が高いことであればいいわけですから。そういうことで重心の移動が出来ました。 その次に、1秒ないし2秒でも片足で立っていられるということになれば、初めてその人は歩くことが出来るようになるわけです。それが出来なければ歩くことが出来ません。 このように、順番にそういうことをして、そしてだんだん歩くようにしていくということが大変大事なんです。だから歩くための一番の基本は何かというと「座る」ということになるわけです。そして、そういうことが出来る人は、それを出来るだけ長続き出来るように、息切れしないで出来るようにならないとその動作を続けていられないから、早い時期から座ることをさせることによって、心臓の循環器の問題とか呼吸の問題、そういうものに少しずつストレスをかけていくわけです。そして、だんだんそれに耐えられるようになっていくわけです。寝かせておけば、そういうもの全部の能力が低下する方にいきますから、心臓の働きも呼吸の働きも、それに見合う働きしかしないでサボっていってしまいますから、座らせるということで少しでもサボらない状態を作っておく。それが、その人の体力を維持していく一番の基本になります。だから、呼吸とか循環とか心臓とかそういうものの働きが悪ければ、体力も何もないわけです。体力というのは、そういう一つ一つの機能がきちんと出来上がった状態が体力なわけですから、それが低下するのを防ぐためには、とにかく座るということが何より重要だということになります。 使った方がいいんです〜 歩く場合によくありますけれど、杖を使わないで歩いた方がいいという考えとか、杖を使わない方が格好も良いという考え方があります。僕は杖を使うのが見た目に悪いということを我慢出来る人か、杖を突いても何ともないという人であれば、絶対に杖を突いて歩いた方がいいと思います。 杖があった方が楽な人から杖を取った場合に、立つことに50%の力が費やされて、歩くことに残りの50%の力しか出せないわけですね。ところが杖を突くと、立つということに20%か25%の力だけで済んでしまうわけです。だから、あとの75%から80%の力を歩くという方にエネルギーを使えるから、だから杖を突いて歩くというのは大変重要なことだと思っています。だから、杖を外して無駄なエネルギーを使って少しの時間しか歩かないよりは、杖を使ってたくさん歩いている方が絶対に有利なんだというふうに思って下さい。 このように、自分の回りにあって利用出来るものは何でも利用するということが大事だと思います。手すりにつかまって起き上がる。手すりにつかまって歩く。何か棒があればその棒を持って歩く。つかまった方が安全だし、大変上手に有効に持っている能力を発揮出来るようになりますから、どうぞ、格好悪いとかおっしゃらずに、利用出来るものは使いましょう。立っているものであれば親でも使えというぐらいですからね、昔から。だから、何でも利用出来るものは全て利用した方がいいんだろうと思います。 問:僕は今まで杖を使わないで歩いて、普通の人の生活に少しでも近づけるようにリハビリしてきたわけですけれど、そういう考えはうまくないということですか? 答:まず、何か病気を持ったり、自分の体に不利なものを持った時には、一番に考えなければいけないことは、安全性を考えなければいけないと思います。転倒しないようにしなければいけない。それともう一つは、あなたのように脳梗塞であたっているとか、そういう場合には循環器系の問題が根底にありますから、杖を使わないで歩くということは大変多くのストレスが心臓にかかっているわけですね。大変大き過ぎるストレスがかかっています。そういう無駄なストレスを心臓とかそういうものにかけないためにも、杖をついて少しでも安楽な格好で歩くことが出来るという方が、僕は重要なことなんだと思っています。そして、少しでもたくさんの距離を歩くということで、循環器の問題、呼吸器の問題、筋肉のきたえられる問題、そういうものに知らず知らずに力がついていくと思います。だから、ある程度たくさん歩かれることが必要だというふうに思います。 問:今までのお話の中で骨折を防ぐためには、骨に適度な圧迫を加えておくということで歩行が一番良いんだというふうに理解しましたけれど、どのくらい歩けばいいのか、その目安というものはあるのでしょうか? 答:歩行の目安というものは、その人の持っている体力ですね。いつも言葉としては体力という言葉を使いますけれど、一つ一つを見てみると、心臓の強さの問題、呼吸の強さの問題、筋肉の強さの問 題、周辺から情報を得ることが出来る感覚器の問題、そういうもの全部が統合されたものの中で行なわれる運動の量ですから、それはその人その人によって決まっているものだと思います。一律に30分やればいいんだ、1時間やればいいんだというものではないと思います。その人に合ったものが出てくると思います。 で、その時にどういうのを一つの目安にしたらいいかというと、歩くということが翌日に疲れを残すというような距離はやっぱり その人に合っていないんです。それよりも、歩いたけれど疲れはなんら残らない、特に体におかしい所も出ないという範囲のものが一番いいんだと思います。そのように、一律に決められる量ではないんだろうなと思います。 歩かれる時はどうぞ杖を使って歩いていただければ、倒れないようにするのに無駄なエネルギーを使わないで済みますから。その分だけ歩くということのためにエネルギーを使うことが出来ますから、色々な面でいいかなと思います。それで、1キロ散歩するのと2キロ散歩するのでは、より色々多くのものを見ることも出来ますし、よその庭もたくさん見ることも出来ますし、なかなかいい面があるかも知れません。 杖は見栄えが悪いので嫌だというかたが非常に多いと思います。特に日本の杖というのは、見るからに病人が使うんだというような形のものが多いですよね。だから、もし杖がどうしても嫌であれば傘でもいいんですね。傘でもいいから突いて歩くと違います。 僕が函館にいた時に、西武デパートには傘部がありまして、東京のアイデアルという会社が入っていたんです。それで、杖と傘が一体化した物を何とか作りたいんだ、それは治療上も日常生活上も必要なんだ、ということで、そういう物を設計して何とか会社で作ってもらえないものだろうかという交渉をしました。僕も自分で設計してみました。最初はその西武デパートの担当者も大変興味を持ってやってくれていたんですが、市場の試算をしてみたら、投資に対して売り上げが合わないと言うんですね。それで、自分の会社としては駄目だということになったんですね。非常に残念だったんですけれど。 杖の柄はたいてい横につかむ形になっていますけれど、僕が日本の色々な杖を見てみましたら、山伏の人は縦の杖を使っていますよね。山伏の人の杖というのはつかむ所は自由に決めることが出来るわけですね。最初の元気の良い時は高い所をつかんで、疲れてきたらもっと低い所をつかんだりとか、色々調節をしているんです。杖の長さというのは、僕らは教科書上は一応、突いた時に手で持つ所が腰の骨の横の所に来る長さがいいとか、横にやった時に中指の先端から真ん中までの杖の長さが一番いいんだと、教科書には書いてあるんですけれど、使っている人の疲れ具合によって杖の長さは違ってきているような気がします。ですから、山伏の人が色々な所を歩きながら使っている時に、調節しながら使っているという、あの六角棒の杖ですか、あれはやっぱり素晴らしいアイデアの物なんだと思いますね。 だから、家の中の手すりなんかも横の手すりだけではなくて、お風呂に入ったりする時には縦の手すりがすごく使いやすいと言われていますよね。それは高さの調節がしやすいからだと思います。 ここにある4本足の杖というのは、普通の1本足の杖で歩くよりも4本の杖の方が安定感が高いんですね。だから、足の安定感が悪い場合にはこういう4点の杖を使うといいですね。それから、杖には手で持つだけではなくて肘も当てて使う杖もあります。ロフストランド・クラッチという杖なんですが、つかんでいる所が手で持つ部分だけでなく、腕も接触していて、出来るだけ長い所が接触しているから、それだけ安定感が高くなるという杖があります。 寝たきりを作らないというのは、何といっても座るということですね。それに尽きます。座ると何がいいかというと、見える範囲が違うわけですね。首を振れば左右にも上下にもたくさん見えます。寝ていたら正面付近だけしか見えないわけです。座るとそれだけその人に入ってくる情報量というのは何倍にもなるから、脳の刺激には大変いいわけですね。だから、座るということは重要なんです。 そして、座っているというだけで筋肉が働いているわけです。筋肉が働かなかったらくたっと倒れてしまいますから。座るだけで筋肉が働いているわけです。 それから心臓も働いています。呼吸も働いています。色々なものが働いているわけです。内蔵も働きますね。内蔵の働きも寝た状態より重力に引かれている方がよけいに働いているわけです。膀胱もそうですね。おしっこも腎臓から出て下がっていって膀胱の方に行くわけですから、寝た状態よりも座った状態の方が流れがいいわけですから、座るということはいいことづくめです。 その時に、さっき言ったようにきちっと座らないといけません。例えば、足の方をお尻より高く上げ過ぎたとしますね。そのようにして座面との接触面積が少なくなればなるだけお尻に体重が集中してしまうから、お尻に床ずれが出来やすくなってしまうわけですね。だから、座ったときに太ももの下の所に掌が一つすっと出入り出来るかどうかというぐらいの足の高さを目安にしてやればいいわけです。そうすると安定性も高いし、床ずれも少なくなるし、本当にいいことづくめです。 きちんと座れるようになれば、手を使って自分のことが出来るようになるわけです。ご飯も食べれるようになります。子供であれば6〜7か月になってくると座って手で遊ぶことが出来るようになってくるし、色々なことが出来るようになってきます。 背骨の圧迫骨折というのは結構多いですね。転んでいつまでも腰の痛みが取れないというような人に多いです。その背骨の圧迫骨折がある場合には、外から背骨の真ん中のとげとげしている所がありますね、そこを叩いてやると非常に痛がります。それがあると圧迫骨折している疑いがあります。 橈骨遠位端骨折ですね。これは転んだ後に手首のあたりが腫れてきたという時に危ないですね。その時は大事にして静かに整形外科に行って診てもらわなければいけないですね。 大腿部の頚部骨折というのは、折れる場所が2か所ありまして、関節の外側が折れる場合と内側が折れる場合があるんですが、関節の外側が折れる骨折はこれは誰でもすぐ分かります。転んだ途端に足がこんなになって痛くて歩けませんから。ところが、関節の中が折れている骨折というのはあまりずれが起こらないものですから、最初は普通の打撲やねんざと間違って、1日とか2日とか歩けたりするんですね。その後、骨がずれて歩けなくなってひどいことになってしまいます。そういった場合には、最初のうちはある程度動かしてもあまり痛みを訴えないことがあるんですが、こういう具合に寝かせて、膝を内側と外側に曲げる、つまり足をねじるようなことをやると非常に痛がります。その時はレントゲンでぱっと骨折が見えないような時でも、何日かたつと骨折線が見えてくる場合があります。だから、足をひねってみて痛がっていたら、もし立つことが出来ても立たせたりしない方がいいですね。 今日の第1条「脳卒中と骨折予防。寝たきりゼロへの第一歩」の中に、釧路地方ではリウマチの病気が入っているんですね。全国的には入っていないんですけれど、釧路では入っています。もし皆さんに聞きたいんだというご希望があれば、この次はリウマチの話をして、それから次に入っていこうかなと思いますけれど、リウマチに関心がございますか。あればリウマチの話をしたいと思います。そうしますか。じゃあ、この次はリウマチの話から入って、リウマチもまた寝たきりになりやすい病気ですから、そして第2条に入っていくということになります。では、今日はこのへんで終りたいと思います。 本講演の印刷用ファイルのダウンロード(モノクロ)が可能ですが、 閲覧・印刷には「Adobe Acrobat Reader」(フリーソフト)が必要です。 配布は自由にされてけっこうです。必要なかたはどうぞご利用下さい。 印刷用ファイル ← ここからダウンロードしてください 釧路労災病院 リハビリテーション科 |