『寝たきりゼロへの10カ条』

第2条.寝たきりは寝かせきりから作られる。過度の安静、逆効果。

(厚生省指針より。一部改変)


講師:リハビリテーション科部長 斉藤裕





〜はじめに〜

前々回からテーマに挙げています「寝たきりゼロ作戦」という、厚生省で作成した「寝たきりを作らないための10カ条」の解説を一つ一つやっていく予定です。前回は「第1条:脳卒中と骨折予防、寝たきりゼロへの第一歩」ということで、圧迫骨折とか大腿骨頚部骨折の話とか、色々な話をしてきました。その一番最後にリウマチも寝たきりになりやすいものの一つなんだということをお話ししましたが時間切れになりまして、次にはリウマチの話からするという約束をしていましたので、まずそのリウマチの話をして、そして、今日の本題である「第2条.寝たきりは寝かせきりから作られる。過度の安静、逆効果」についてお話ししたいと思います。




〜リウマチ〜

リウマチはご存知のように、色々な関節に痛みが出たり腫れが出たりする全身的な病気の一つです。そして、特に女の人に多いような印象がありますが、実際には男の人にも結構ありまして、大変長い経過をとっていく病気なものですから、これは本当に辛い病気の一つだと思います。

リウマチという病気というのは、よく「RA」と書きます。「リュウマトイド・アルスライティス」と言います。「関節リウマチ」という言葉で呼んでいます。リウマチそのものの一番根底に起こっているのは、膝の関節を書いてみますけれど、これは上の骨です。これは下の骨です。関節というのは、関節の中に軟骨があります。関節の表面を非常に滑らかにして関節をうまく動かす装置として「関節軟骨」というものがあります。その軟骨を栄養するために、関節を包んでいる袋の内側に「滑膜」という組織があって、この滑膜というものから、関節軟骨を栄養する栄養分が水となって出て関節軟骨を栄養を与え、ここから水がまた吸収されて排泄されていくという、水を入れるのと同時に排泄するという二つの働きを持った滑膜という組織があります。これは動く関節にはどこにでもある構造なんですけれども、リウマチという病気はこの滑膜に起こるんです。そして、こういう滑膜に病気が起こると、それがどんどん増殖していって、だんだん関節の軟骨を壊していくというような経過をとっていく病気なんです。




〜リウマチの診断基準〜

リウマチがどうして起こるのか、本当の原因というのはまだ分かっていません。免疫反応の異常なんだろうという研究は進んでいるんですけれど、本当の理由はまだ分かっていません。現在一般的には、その免疫の異常なんだろうと言われています。

この病気が始まってくる時に最初に起こることは何かというと、こういう滑膜が増殖してくるものですから、関節周辺が腫れてくるという症状が臨床的には一番最初に出てきます。関節一つ一つが腫れてきます。そして腫れが出てくるのと同時に、関節の中に水も溜ってきます。腫れが出て水が溜れば当然痛みも出てきます。

こういうものの初めは典型的にどういう症状が出てくるかというと、本人の訴えの中では、手のこわばりという感覚を訴えます。朝起きた時に手がこわばった感じがして、すぐぱっぱと動かない。それは、滑膜炎が起こって関節のあたりが何となく水っぽくなって、腫れがあるためにぎこちないんですね。だけれども、そういう症状も最初のうちはすぐ治ります。朝起きるとすぐ治るんだけれど、だんだん本格的なリウマチの形になっていくと、朝のこわばりというのがだいたい1時間以上続くという形になって出てきます。

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これがリウマチであるかどうかという時の診断には、『アメリカリウマチ協会の診断基準』というものがあって、その診断基準にのっとって診断します。血沈が高いとか、血液にリウマチ反応が出ているからリウマチだとかいうことではないんですね。実際にこれがリウマチであると言えるのは、

1.まず「こわばりがある」ということです。それが少なくとも「1時間以上続いている」というこわばりがあります。

2.それから、こういう関節の腫れが少なくとも「3つ以上の関節に見られる」ということです。3つの関節というのは、手では肘の関節、手首の関節、指の関節。足では膝の関節、足首の関節、足指の関節。そういうところの少なくとも3か所以上にそういう腫れがあるんだということが必要なんです。

3.そしてしかも、その腫れが「6週間以上持続している」ということが必要なんです。関節の腫れが6週間以上持続しているということです。

4.しかも、左右に対称的に起こってきます。右の膝に起これば左の膝にも起こります。


そういうようなことがあってはじめて、リウマチであると診断出来るんですね。

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血液を調べたらリウマチ反応が出ているからリウマチですよ、と言われることが世の中にはあります。しかしそれは、アメリカリウマチ協会の診断基準にのっとったリウマチではないんですね。日本リウマチ学会できちんと決まっている診断基準は、アメリカリウマチ協会で決めている診断基準にのっとったものですから、その中には血液による診断は含まれていません。だから、少なくとも関節がこわばるということ、朝起きてから1時間以上とれないこわばりがあって、しかも関節が同時に3つ以上にわたって腫れていて、そして左右に対称的な部位に腫れが認められて、そしてしかも6週間以上それが継続しているというものがリウマチです。


●多発関節痛〜リウマチに似ています

だから、リウマチというのはそんなに多くはないんです。世の中で言われているほど、あそこの病院に行って診てもらったらリウマチと言われた、ここの病院に行ったらリウマチ反応が出ているからリウマチだと言われた、というほど多くはないんです。それが日本リウマチ学会で決めている診断基準です。その4つの診断基準を持っているものが確実なリウマチなんだという診断基準です。

その4つが揃っていなくて、例えばリウマチ反応が出るもの、あるいはレントゲンを撮ったらリウマチ特有の所見が見えるもの。そういうものは、リウマチの疑いとしてあるんだという診断基準になっているわけです。だから確定されたリウマチではないんです。それがある程度時間が経ったら、ちゃんとしたリウマチに出来上がってくるものはあるかも知れないですが。

普通そういう時は「慢性関節リウマチ」という名前を付けるよりは「多発関節痛(色々な関節に痛みを伴うもの)」として、そういう診断名のもとで僕達は治療をしています。というのは、リウマチの治療に使う薬、抗リウマチ剤というのは色々な副作用を持っている薬で、その副作用に目をつぶってもなおかつリウマチを押さえることが必要だという損得勘定でもってリウマチの治療をやりますから、本当に確定されたものでなければリウマチの薬を最初から使わないようにするわけです。その前の段階のものとして、多発関節痛というレベルのものとして、普通の鎮痛剤を使ったり、抗リウマチ剤の程度の低いものを使ったり、そういうことから始めるわけです。だからリウマチの時に、最初からステロイドを使うとか、免疫調整剤を使うとか、免疫抑制剤を使うとかいう治療に入っていくのは副作用があるから、やっぱり恐ろしいんですね。




〜リウマチの治療〜薬について〜

リウマチの治療の最も重要なことは、滑膜の異常が根底にあって関節が破壊されていくということがありますから、それに伴う痛みですね。「痛みをコントロールする」ということが何よりも重要なことで、その次に「関節の破壊を守っていく」というのが、リウマチの治療の考え方の大切な点です。

痛みというのは人間の活動性を損なわせる一番大きなもので、しかもなおかつ、リウマチのかたは午前中に大変調子が悪いということがありますので、飲み薬ばかりでなくて、鎮痛剤の坐薬の使い方が非常に重要になってきます。午前中に調子が悪い、朝起きた時にこわばりなどで調子が悪いわけですから、前夜の寝る前に坐薬を使って寝るとか、あるいは夜中におしっこで目が覚めた時に坐薬を使っておく。そうすると、翌朝目が覚めた時に、かなり楽な感覚で午前中を過ごしていけます。

ということで、リウマチの治療を受けているかたは自分が

・どんな薬を使っているか、
・何という薬を使っているか、
・何という薬をどれだけ飲んでいるか、
・そして坐薬をどういう形で使っているか

ということを、きちんと知っておく必要があるし、お医者さんにしっかり聞いておいた方がいいと思います。




〜リウマチは時間の長い勝負です〜

そしてリウマチは長い経過をたどる病気であるというのと同時に、季節による変動があります。例えば、普通の時期だったら調子もまあまあ落ち着いていても、梅雨の時期になってくると非常に調子が悪くなってくるとか、1日のうちでも午後になると調子がいいけれど午前中は調子が悪いとか、色々な変動があります。

例えば時期によって調子が悪くなってきたら、この病院にずっとかかっていたけれど、調子が悪くなってきたからどこかの病院に移ろうとか、そういうことはあまりお考えにならない方がいいと思います。長い付き合いの治療の中で、長い目で見ていかなければならない病気ですから、ある程度調子が悪いからということで別な病院に移るということは大変損なことだと思います。損得でものを言ってはいけないんですけれど、他の病院に移らないで、少なくともある時期が終るまで待ってみる。そしてその後にどうであるかで判断すべきだと思います。

そうやって診てくれるお医者さんであれば、色々な話をしたり、診察をしてその関節をその都度チェックしたり、動きを診てくれる筈ですから、調子が悪いということがあっても病院をすぐ変わらない方がいいと思います。僕は病院に勤めているから病院の先生を擁護する話し方をしているわけではないんですけれど、リウマチというのは本当に大変な病気だから、出来るだけお医者さんと一緒に、「長くなるけれど一緒にやっていく」というふうに心がけた方がいいと思うんです。




〜リウマチの治療:運動の面から〜

痛みがあって、その次に起こってくることは関節の破壊ということですから、関節が壊れてくるということを少しでも防がなければいけない。腰から下は体重がかかる関節ですね。胸から上は体重はかからないけれど動きが強く要求される関節です。関節の破壊を少しでも少なくしようとするためには、体重のかかる関節であればそこにかかる体重を少しでも少なくしてやることを考えます。それは太らないということと、痛みがあったら嫌でも杖を突いて、そこをかばってやる必要が出てきます。

それから、僕達がこういうふうに真っ直ぐ立っている時は、膝の筋肉は10の筋力で済んでいるんですけれど、これが10度曲がるとその1.5倍の筋力が必要になってきます。20度曲がると2倍の筋力が必要になってくるわけです。だから、関節が固まってしまうというのは、筋肉の力がなくなったということと全く同じことなんですね。そうすると、筋力が落ちたから歩く時に関節に無駄な力がかかりやすいという悪循環になってきます。だから、関節は動きが悪くならないように1日1回でも2回でも完全な状態まで動かせるよう、自力でも他動的にでも動かすことが必要です。関節が曲がるのを防ぐ必要があります。そして同時に、筋力が落ちると歩いたり支えたりするのが大変なわけですから、筋力を落とさないためにはある程度歩くということも必要なんですね、逆に。

だから、リウマチのかたで関節が暖まりながら、しかも体重があまりかからないで歩けるというのは、よく水中エアロビクスというものがありますけれど、ああいった水の中でのプールを利用したような運動というのは大変いい運動の一つだと思います。筋力低下が起こると関節を固定する力がなくなってきますから、関節の破壊も強くなりやすいものです。そして、関節が曲がってしまうと筋力が落ちなくても何倍もの筋力が必要になってくるから、それは筋力低下が起こっているのと全く同じことなんです。

それから、手などの動きが必要とされる関節ですね。そういう関節の骨というのはそんなに破壊が進みません。足の関節は過重によって破壊が進んでいきますけれど、他のところはリウマチそのものの、滑膜が骨を食べていくということによる破壊だけなんですね。そういった関節では、変な力がかからないようにしようということが必要です。例えば手などはリウマチがひどくなると小指側の方向に指が変形してきます。びんの蓋なんかを開けようとするような時には指が小指側に力が常に働いているわけですから、逆に開けるような開け方とか、変形されていく方向と逆の方向へ物を動かすように心がけることが大事だと思います。

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そして、リウマチの場合に非常に調子が悪くなってくると、寝たきりになります。梅雨のような時期になると、午前中はどうしても寝たきりになってしまいますけれど、本当に痛い時に無理に動かす必要はありません。午後になって徐々に外気温が上がってくると楽になってくるし、そういう時に坐薬をうまく使って痛みが取れた状態で少しでも動くようにしていくというふうにやっていくしかないと思います。うちの中に閉じこもりきりになってしまいますから、少しでも外に出られるようになるといいんですけれど、そういう時にはやっぱり仲間がいるということが大事なことなんだろうなと思います。

リウマチで股関節が悪くなったら、最後に人口関節を入れるということをやります。それからリウマチは首にもきます。首の第1と第2の骨があるんですが、その上に頭蓋骨がのっています。そこにもリウマチがきて、神経を圧迫するという恐ろしい状態もあります。だから、リウマチの人で首が痛いという人がいたら、整形外科で一度診てもらった方がいいですね。基本的にはリウマチは内科の病気なんですけれど、その対象になる所は主として関節で、動いたり移動したり活動する関節に起こるものですから、結果的に整形外科に受診する場合も大変多いんです。そういうこともありまして、リウマチの治療は整形外科の先生は大変うまいですね。もちろん内科の先生もうまいですが。ということで、リウマチのお話はここで一段落します。

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問:別海町の病院の先生が、リウマチの時に海水の濃さの水を風呂ぐらいの温度に暖めて、それにつけておくと痛みが消えると言っていたんですけれど、どうなんでしょうか?

答:それは僕には初耳ですが、考えられるのは、まず暖めるという保温効果を塩の入っている水で狙っているんだと思われるのが一つと、塩が入っている水は普通の水より浮力がつきます。海水と同じで浮きやすくなります。体重のかかり具合が少なくなるので、そのために関節にかかる余分な負荷を少なく出来るから、その時に一時的に楽になるということだと思います。温熱効果とかかる体重が少なくなる。その二つの理由で楽になるのかなと思います。

これは鹿児島大学の付属施設でやっている方法なんですが、マイナス160度くらいの冷凍噴霧で体を冷やして、リウマチの痛みを取ろうという治療をやっている所もあります。僕が函館で整形外科をやっていた当時に、北海道から鹿児島大学へやりに行っている患者さんが1人いました。非常に寒い所に入って、そこから出てくるというものなんです。そうすると、体が冷えていますから、そこから常温になるまでに温度が上がっていくという変化が起こります。その時に、体にとっては温めているのと同じ効果が出るので、一時的に楽になるのではないかという解説がついています。

だから逆に、高い温度のお風呂に入った後に普通の室温に戻る時に、結果的に温度が下がっていくから冷えるということになります。そのためにお風呂から出た後、リウマチの調子が悪いという人もいます。だからリウマチの種類、形としては慢性関節リウマチという一つの表現がされていますけれど、その中にいくつかの形が違うものがあるようなんですね。その違いによって、そういった気持ちの良さという効果があるのかも知れません。

リウマチも1回でぱーっと症状が出て、治療をして、さーっと治まっていってそれで二度と起こらない人もいれば、良くなったり悪くなったり繰り返していくリウマチもありますが、この形が一番多いんですね。それから、徐々に確実に悪くなっていくリウマチもあります。悪くなり出したら一気に悪くなっていって、3〜4年でどうしようもないぐらい悪くなるリウマチもあります。男の人のリウマチは悪くなるのが非常に速いみたいです。それはリウマチに限らずどんな病気でも、男の人と女の人がかかる病気では、たいてい男の方が速い経過をたどるようです。

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問:老人の体によく膝に水が溜ることがありますね。水を取ってもらえば楽になる、そのままほおっておくとまた水が溜る。それはリウマチとは違うのですか。

答:あれはまたリウマチと違いまして、変形性の関節症と言われるものなんですけれど、先ほどお話ししましたように、リウマチというのは滑膜という所に最初に起こってきて、そして結果的に膝の骨が悪くなるという形なんですね。しかし、変形性関節症と言われる、よく膝に水が溜ると言われるものは、まずそういう人達は足の格好を見るとほとんど人はO脚(オーキャク)です。ガニマタになっているんですね。そうすると、体重がこの関節の内側にたくさんかかるようになるんです。普通関節というのは内側に50%、外側に50%かかるという具合に考えればいいんですけれど、ガニマタになっていると内側に体重がかかっていくんです。外側に20ぐらいしかかからないで内側に80ぐらいまでかかるわけです。そういう力の加わり方の変化があって骨がやられていく。骨がやられた結果、そこから痛みの物質が出てきて、それが滑膜を刺激して結果的に水を溜めるというのが変形性関節症です。だから、変形性関節症の場合には年齢がいった場合に起こってくるという違いがあります。リウマチは若くても起こってきます。

そして起こってくる場所は、リウマチは滑膜に一番最初に起こって、結果として骨が食われていって骨がやられる。変形性関節症の場合は骨が最初に変形してきて、その結果、滑膜に刺激が与えられて水が溜ってきて、そして水を抜く、ということが起こるわけです。最終的に出来上がる形は両方とも同じ形です。レントゲンで見れば骨の変形の形は最終的には同じ形になります。しかし、その起こり方が違うから治療の仕方が違ってくるわけです。

だから、変形性関節症の場合は、内側にかかる体重を少しでも外側の方にいくように、体重のかかり方を変えてやれば痛みは少なくなるわけだから、足の裏に薄い装具をつけたりすることでこの症状が改善していくことがあります。力の伝わりかたが片方にかたより過ぎているから、それを直してやれば少しいいんです。リウマチは根本的な滑膜そのものを薬で押さえなければだめなんです。




〜寝たきりは寝かせきりから作られる。横になる時間が多くなること=寝たきりの出発点〜

いつも思うんですけれど、寝たきりになったりボケを起こすという入り口になっているのは、横になっている時間が多くなっているということですね。寝たきりは寝かせきりから作られると言いますけれど、ボケそうになったり寝たきりになってしまう入り口は、横になる時間が多くなるということで、みんなそちらの方につながっていっているんだなという気がします。

実際に、僕らの身内にしても、やっぱり年がいった人が横になりたがっていたら、そうさせようという気になってしまいますね。横になっている方が楽だし、おじいちゃん、おばあちゃん、横になっている方が楽そうだから、そうさせてやりたいなという気持ちになるのは人情ですね。体の弱い人とかお年を召したかたに対してはそういう気持ちになってしまいますね。人情としてそうさせてあげたいなというのは分かります。

しかしその時、色々なものが失われていっているんだ、色々なものが奪われ続けていっているんだということが、僕もリハビリを勉強するようになってから分かってきたんですね。整形外科をやっている時は分からなかったんですけれど。だから、寝たきりとか寝かせきりというのは、本当はその人の体そのものの能力を低下させていっている非常に大きなことなんだなあということを、だんだん理解するようになってきたんです。

いつもお話ししていることの繰り返しなんですけれど、静かにしている、寝かせておく、ある限度内である時間を寝ているというのは、それは物事の回復のために大変良いことなんですけれど、それを超えて普段のリズムを壊すほど寝るということになると、かえって色々なことが奪われていってしまうんだということです。


●横になる時間が多くなる=全身的な体力が奪われます

赤ちゃんの発達から見ればそうなんですけれど、赤ちゃんの時は皆、横になって生活しているわけです。それがある年齢になると座るようになり、そして立つようになります。横になっているということは、床に接している面積も広いから安定性が高いわけですから、「座る−立つ−歩く」ということは安定性がだんだん悪くなっていくという方向の変化です。そして、私達は地球に常に引っ張られているわけですから、その引っ張られることにだんだん逆らっていっているわけです。頭の距離、心臓の距離がどんどん高くなっていくわけです。そういう所まで血液をポンプで上げなくてはいけないということになれば、当然、心臓にかかる負担も多くなってきます。心臓が、そういう働きを十分に出来る力を持ってきたから、「座る−立つ−歩く」という変化になって来ているわけですね。

人間の体も精神もそうですけれど、これが逆の方向をたどると、常に楽な方向へ楽な方向へと行っているわけです。そうするとすぐ、楽なことに慣れてしまうわけです。こういった楽な状態をある期間続けると、「その状態で済んでしまう」という体の変化が起こってくるわけです。力強い心臓というポンプも必要ないし、体を起こすのに必要な筋肉の力も、起きているために必要な筋肉の力も、寝ていれば全く必要なくなります。

筋肉を使う必要がなくなれば、筋肉に必要な酸素の量も少なくて済む。そうすると、心臓が運ぶ酸素の量、血液の量も全体として少なくて済むから、心臓はあまり働くなくても済む。酸素もあまり必要ないから、肺の呼吸の機能も少ないもので済む。全部少ないもので済むような体になっていってしまうんです。こういう体に慣れていってしまうのが、結果的に寝たきりということです。こういうことで表されるものが「体力」という言い方をすればいいのかも知れません。

心臓の力もたいして働かなくても済む、肺もたくさん働かなくて済む、筋肉の力もあまり使わないで済む。こういう状態が「体力が落ちてきた」ということになるわけですね。体力が落ちてきたら、何かをやろうとしても、やろうとすることも、それを活動し続けることも出来なくなっていく。その人の能力が全体的に落ちていく、奪われていくということになるわけです。


●部分的な問題も起こってきます

体の局所の問題もあるわけですね。一つには、寝っぱなしになっていると床ずれを作ることもあるし、手足が固まってしまうということもあるし、変形を起こしてしまうということもあるし、力も落ちていきます。それからこの前も言いましたが、骨というのは重力という体重がかからなければやせていってしまうんだという話もしました。寝っぱなしでいると骨もやせていってしまいます。

だから、何かをしようとするために手足を動かそうとしても、その一つ一つの部品が錆びついてしまって、結局色々なことが出来ないということと同時に、動かし続けようというエネルギーを補給している体力そのものがだめになるから、当然手足を使うことも出来ずに、全体が落ちていってしまいます。


●横になる時間を減らして、起きる・座るということがとても大切です

こういう全身的な低下という問題の一つとして、ある期間寝ていた人を急に起こすと「起立性の低血圧」といってめまいをしたりして、すぐまた寝たがるということがあります。病院ではベッドでギャッジアップして少しずつ起こしていったり、家庭でも起こして寝かせないような状態を作っていく必要があります。寝かせるというのは眠るという意味ではなくて横になるという状態です。そういう状態を作らないようにしていくということです。そういう状態を防ぐようにして、その次に少しでも起きていられる時間を長くするために、座位の安定性をどうやって高めたらいいだろうかとか、座位のバランスの訓練はどうしたらいいだろうかとか、さらに起き上がっていく、歩いていくという時にはどういう手順を踏んでいったらいいだろうか、ということをこの前お話ししました。

こういうようなことというのは、リハビリに来たから出来る、来ないから出来ないというようなことではなく、自宅でこういうようなことがあるんだということを少しでも知ってもらえれば、防ぐ方向のことは出来ることが多いのではないかと思うんです。だから、このようなことをいつもお話ししているんです。

休むということ、横になるということはものすごく気持ちが良いことです。健康な人は起きて元のサイクルに戻ろうとしますけれど、それがなかなか自分の力で出来ないような場合に、寝たきりという状態に落ち込んでいってしまうんです。だから、その時にもし自分で出来なければ誰か人の力が必要なんだけれど、人手を使う前に、その人手になるべき人の知識の中にこういうことがあればもっといいわけですね。そうすると、自然に寝たきり・寝かせきりを防ぐことにつながっていくと思うんです。

その人は色々なことが出来る能力を持っているんだけれど、その能力が知らず知らずに奪われて低下していってしまうんです。「起こす」という状態を作りだすことが、そして「座る」姿勢を作るということが、その状態を予防出来る最も良い方法なんだということを、何回もお話ししているんです。


●横になる時間が長くなるとボケも起こってきます

いつも話の最後になるんですけれど、こういう具合に寝たきりになったら、頭に行く血液の量は大変低下してくるわけです。そして、その人に入ってくる刺激も大変少なくなります。だから、起きるということで刺激の量が何倍にもアップしてくる。しかも頭の中の血流量も保たれるから、ボケを起こしづらくなってきます。

頭の活動が低下してくると全ての意欲が低下していきます。あれをしたい、これをしたいということがなくなっていきますから、人間の体全体を引っ張っていくものは何もなくなるわけです。人間の体を引っ張っていくものはただの筋力とか体力だけではないんです。精神活動です。何かをやりたいとか何かを起こしたいという欲求が、その人をどんな形ででも動かしていくわけです。それが何よりも大事で、それを一番行ないやすい形が「座る」ということなんです。「寝たきり」というのは体力を低下させていくんです。そして、そういうことがその人の能力(精神活動)を奪い去ることにつながっていくということです。

だから、病気であるためにどうしても必要な安静時期はあるんですけれど、それは実際には一般に考えられているよりずっと短い時間なんです。だから、こういうことでもって家庭でもやっていただければ大変有り難いことです。

しかし、その時に必要なのはやっぱり人手なんですね。この核家族の時代に人手をどうするんだ、人手もないのにそんなことを言ったってどうしようもないだろうと言われたら、その通り、どうしようもないんです。それをどうしたら良いかということは、僕も分かりません。世の中が超高齢化社会になっているのは日本の国では初めての経験なわけですから。それに対してどういう方法が良いのか誰も分からなくて、国でも色々やっているわけです。しかし、それはその事実としてあるんだけれど、我々が家庭でも出来る考え方として共有出来ることがあるんだということで、今日はこのようなお話をしました。




〜質疑応答〜

問:脳梗塞の人が、昼寝をやった方が良いのでしょうか。

答:短い時間の昼寝であれば、歩いてお疲れになりますからやった方が良いんですけれど、いつまでもずっと寝ているということが一番問題なんです。ご飯を食べる時だけしか起きていないという人も実際にはいます。奥さんに「いつまでも寝ていたらボケるよ」と言われても、奥さんを叱り飛ばすような人はたくさんいるようなんです。しかしそういう時は、奥さんの言うことを聞いて、起きて、あまり寝ないようにした方が良いでしょう。

実際にその人にとってどれだけの時間が一番良いのかというのは分かりません。僕が答えられれば一番良いんですけれど、その人によって違いますから分かりません。しかし、少なくとも昼に寝たら夜に眠れないということにどうしてもつながりやすいですから、夜に眠れないということになると生活のリズムが狂ってしまうわけです。ある一定のリズムで起こっている昼寝の量であればそれは構わないと思います。しかし、その生活のリズムが壊れていくような昼寝が、悪いことにつながっていくんだと思います。その人その人によって違うと思います。一日中寝ているという生活のリズムだと困るんですが。




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