|
リハビリテーション科部長 斉藤裕 今回は「リハビリテーションってこんなに身近なもの」という題名を付けましたけれど、実際にお話ししたいことはここに書いてある3つのことなんです。体力が落ちたとか力が落ちた、そういうことってよく言葉に出てくることですが、体力が落ちるということはどういうことなんだろうとか、筋力とはどういう具合になっているものなんだろうかというお話をしたいと思っています。そして、そういうものを予防するためにどんなことをすればいいのか? 日常生活の中にあることを我々は毎日知らず知らずのうちにやっているんですが、いざ人にこういう具合にした方がいいですよと言うときに、具体的にどんなことをやったらいいのかということを、この会を通して知っていただければと思います。 自分は体力が落ちたとかいう表現をするときに、どんなことを言っているかというと、疲れやすいとか、ちょっと何かやると息切れがする、実際に力そのものもなくなってきた、動悸がしてとても辛い、そんなような表現を使う場合が多いですね。例えば、それまで健康だった人がある期間、何かの病気で寝込んだあとに起こってくることもあれば、夏の間外に出て散歩や運動をしていた人でも、北海道であれば冬期間の間運動もしないでごろごろしていてひと冬を過ごして、春になって体力が落ちたなあと感じることがあると思うんですが、そういうようなときに共通しているのは息切れがしやすいとか疲れやすいとか動悸がするといった種類のものなんですね。それは病院というところで見ていますと、長い間安静を強いられていた人がいざ起きあがって、そしてだんだん退院に向かって生活していく過程で見られることと全く同じことなんです。
![]() そういうときに起こっている一番大きなことを入院している患者さんを医学的な観点から見てみますと、横になっているということで一番変化が強いものは何か。人が上を向いて寝ています。心臓がここにあって、この心臓から血液を色々なところに送り出しています。心臓から血液を送り出して体の中に回しているんですけれど、起きているときと違って勾配がないものですから、特に強い圧力をかけてぐっと押しださなくても、体の中を血液はわりと弱い力で回っていくということになります。そのように血液が体の中を回って行く時に、押し出す力はそれなりでいいんですが、それを引き上げる力がなければ血液は心臓の方に戻ってきませんから、結局は循環していく血液の量そのものがだんだん少なくなっていくんです。 もう少し詳しくいいますと、血液を心臓から体の中に出すんですけれど、それは内臓にも行くし、手足にも行きます。そして、そういうところで一時的に血液がプールされているわけです。そしてそれが戻ってくるためには、手足から押し出すポンプの力があるんです。筋肉のあるところは全てそうなんです。体の隅々まで血液は流れて行くんですけれど、それを引き上げる力として心臓の吸い込む力と同時に、筋肉を使って体の中にある血液を心臓に押し返すポンプの力があるわけです。 安静にしていると、心臓の持つポンプの力そのものが非常に弱ってくるんですね。安静にしていると手足も使わないですし、筋肉そのものも使わないで済んでいきますから、体の中で押し出すポンプの力そのものがあまり使われないで済んでしまいます。そうすると、血液が体の中のそういう部分にだんだんプールされてくる(溜まってくる)わけです。そうすると、心臓から全身を回って戻ってくる血液の量は、もっと少なくて済むようになるんです。で、どうして少なくても済むか、それでやっていけるかというと、筋肉が動かないでいるために筋肉が必要とする酸素、そういうものを消費するのが少なくて済んでいるわけです。筋肉をたくさん使えばたくさんの酸素が必要になってきますから、そうすると、たくさんの酸素を運ばなければいけないから、血液の量もたくさん循環していかなければならないんですが、実際にあまり使わないで安静にして寝ころんでいると、筋肉が必要とする酸素がそれほど多くなくて済むし、酸素が少なくて済めばそこに血液の上に乗って運ばれてくる酸素そのものの量が少なくて済む。そうすると、血液そのものもそこにたくさん行かなくても済むということです。 結局、静かに安静にしていると、今まで10のレベルで働いていた心臓が5のレベルでもやっていける、あるいは4のレベルでも何とかまかなっていけるということになってしまうわけです。そういう種類のことが心臓とか循環系の「廃用状態」、使わなくても済む状態で、「廃用症候群」という名前でも呼んでいます。要するに、使われないで済む状態がずっと続いて行くわけです。そうすると心臓も一生懸命働く必要もなくなるし、一生懸命働く必要がなくなればそこに持っていく酸素の量も少なくて済むから、呼吸の機能も低下した状態でまかなえてしまうわけです。このように、使われないで済むために色々なことが低下していく状態を廃用症候群といっています。アメリカで、宇宙に長期滞在した人たちが地球の重力がないために色々なものが使われないでやせていくという、安静を長く続けたときと同じような状態があったわけです。その時にこういう言葉が使われていったわけですが、それが今、一般の老人医学、高齢化医学の中でしょっちゅう使われている言葉なんです。そして、循環器とか呼吸器に使われない状態が起こってきたものを、体力の低下が起こっているんだという言い方をしています。 人間が色々なことをしていく上で、まず何かをしたいと考えますね。リハビリ教室に出たいとか、今日はリハビリ教室をやらなければいけないとか、色々考えるわけです。それを実際に続けていくための体力ですね。そういう欲求とか欲望を続けていかれるためのエネルギーの元としてこういう体力が必要なわけです。そして、その体力があって、さらに色々なことをしゃべったり書いたりして、自分がやりたいことを実際に表現しているわけです。体力というものが落ちていれば、こういうメモを開くこと自体もできませんし、皆さんにお聞かせすることもできないし、皆さんもここに来ることもおぼつかなくなってしまうということにもなるわけです。だから、使われないで済んでいっている状態そのものが廃用症候群であるというふうに言っています。 では、どれぐらいの割合でその機能が低下していくかというと、一般には長く寝ている人、例えば1週間なら1週間、10日なら10日寝ている人たちの平均的なものなんですが、心臓の機能としては1日に3%ぐらい低下していくだろうと言われています。1日に3%ぐらい低下していきますから、10日も寝れば心臓の力なんかはかなり低下してしまうわけですね。だから、しばらく寝ている人たちを起こそうとすると、めまいがしたり気分が悪くなったりということが起こってくるわけです。心臓の力そのものがこういう割合で減ってきていると同時に、血液の循環する量が少なくなってしまってますから、使われない筋肉の中にプールされてしまって、実際に100動いていたものが何十かに下がってしまうわけです。そうすると、1回に心臓から押し出されていく血液の量が少なくなっているものですから、全部に血液が回りにくいわけです。1回に絞り出す血液の量が少ないから、元のように出そうとして補うことで、脈の回数を増やすということになっていくわけです。 だから、それまで長い間安静をとってきた人を起こそうとすると、まず血液の循環量が追いつかないからめまいが起きたり吐き気があったり、そういった起立性の低血圧というような形で、体から見れば体を防御しているわけです。そういうものを起こさないように。そしてさらにそれを量として補おうとして、今度は脈がどんどん速くなってくるわけです。だからぼーっとなってきて、長い間座っていられなくなって、また寝てしまう。そういう変化が根底に起こっているわけですね。1日に3%ぐらいずつ心臓の循環としての機能は落ちていっているんだと覚えておいて下さい。 それからもう一つ。筋肉が使われていないから血液がプールされます。その筋肉が使われない分だけ、組織も酸素を必要としていないで済んでいるわけですから、心臓と同じように、肺の呼吸機能も1日に3%ぐらい低下していくと言われています。それは血液の循環する量と酸素を取り込む量とがそれぞれ1日に3%ぐらいずつ低下してきます。だから、それまで静かに寝ていた人を突然起こして、どうにか歩かせようと思うと、血液の循環の問題から辛い目にあうし、人間が起きるようになるとそこで必要になる酸素の量ももっと必要になってきますから、呼吸も速くなってきます。早く息を吸わないと追いつけなくなってしまいます。だから、体力というものは、心臓の循環の問題と、肺の換気−酸素を吸って炭酸ガスを吐き出す−という二つの面から表現されるわけです。 ですから、この二つが低下してくると、長く起き続けられなくなってきて体が疲れやすい、起きてもすぐめまいがする、だから横になっている方が楽だという悪循環に入っていってしまいます。これは、普通の人がしばらく運動しないで過ごした後、「いやあ、体力が落ちた」と言うのと全く同じようなことが同じようなことが起こっているわけです。病院での色々な検査の結果で、患者さんの場合ははっきりとした形で分かりますけれど、一般の人でも根底はそういうことが基本になって、体力が落ちたなあということが起こっているわけです。 その安静にして寝ている間に、あるいは動けない状態で、これを何とか予防していこうとすれば、筋肉がだらんとなった状態でそこに滞ってしまうというのを何とか防げばいいわけです。そうすると、横になっている間でも筋肉を使うということで防いでいくしかないわけです。だから、寝ながらの時でも足をあげるなり動かすなりということで、筋肉が収縮して筋肉のポンプ作用が働きますから、そういうところに血液が溜まらないで戻っていこうとする循環の量をある程度確保することができます。そうすると、心臓から1回に出る血液量、体の中を回る血液の量が少なくならないで済むわけです。だから、心臓の1回の絞り出す量を低下しないようにするということが必要で、そのためには筋肉を動かして筋肉のポンプ作用を働かせて、また心臓に血液が戻るようにしていくということが必要なんです。鉄アレイを持ったりバーベルを持ったりして一生懸命訓練をしなければならないということではないんです。 そこで筋肉がある程度使われていると、筋肉が使われる限りにおいて、筋肉の細胞が酸素を必要とするわけですから、そこに酸素をたくさん運んでいかなければならない。そこに酸素をたくさん運んでいくためには、酸素の入った血液がたくさん流さなくてはいけない。そういうことがうまくできるようになっていくわけですね。そうすると、呼吸器の肺の機能もあまり低下しないで済んでいけるということになるわけです。だから、横になっていても体を動かすということは非常に重要なことなわけです。人が動かすという面では関節の固まりを防ごうということで有効なんだけれども、自分で筋肉の持っているポンプ作用を働かせて、自分の心臓を守ろう、自分の肺の機能を守ろう、体力を落ちないようにしようというためには、少しの筋肉の力でもいいから自分で動かすということができていれば、少なくともそういう種類のことに起因した体力の低下は防げるだろうということです。だから、これはものすごく単純で身近なことなんです。寝ながらでもできます。 それよりももっとできればいいと思われるのは、リハ教室の中で常にしゃべっていることなんですが、『座ること』ができればもっといいんです。座った形を取ることができると心臓にとっては高さの差がありますから、血液を体の隅々まで送り出すには、自然に心臓にストレスが加わるわけです。力を強く出さなければ血液を全部に送り出せないということが心臓に課せられると心臓はサボることができなくなりますから、一生懸命働こうとしていきますし、座るということで姿勢を保っているための筋肉が働いているわけです。首の筋肉も働いているし、手も動かしているし、足も動かしている。座るという体勢をとるだけで心臓のサボりをかなり防げているわけです。 このように、心臓の循環と肺の呼吸機能というのが常に低下しないで済むための格好というのが「座る」ということです。体力というのは心臓の機能と呼吸器の機能、この二つから成り立っているわけです。これが寝るということによって使われないで済んでしまう状態が続いてしまう。そうすると、その人の体力というのは全部ベッドに吸い取られていってしまっているということですね。 筋肉を使わないで済むからそこに血液が溜まってしまって、有効に回る血液の量が少なくなってしまっているということと、筋肉を使わないで済むから酸素もあまり必要としないで済む、だから呼吸の回数も少なくて済む、だから体力はベッドに吸い取られてしまっているということです。そして、だんだんもぬけの殻になってしまう。そのもぬけの殻を防ごうとすれば、使わないで済んでいる筋肉を使った方がいいし、座ることができれば心臓にかかるストレスももっと強いし、知らず知らずに体をまっすぐに立てていようという筋肉も一生懸命使われているわけです。そうすると、それだけ血のめぐりも量も多くなっていくし、体力低下を防ぐこともできるということなんです。 こういったことは目には見えないことなんですが、病院のベッドを使っても、フランスベッドを使っても、パラマウントベッドを使っても、どんな高級ベッドを使っても安いベッドを使ってもせんべい布団を使っても、起こることはみんな同じなんです。とにかく、自分の力で筋肉を少しでも動かせることができればいいということなんです。その時に、筋力がない人は自分の力では動かせない場合もありますから、そういった時は少し助けてあげればいいんです。筋肉は収縮することでその作用が起こりますので、そうしてやっていくわけですね。例えば、足の力をうまく出せないときでも、ナイロンのゴミ袋を下に敷けば床との摩擦が少なくなりますから、動かしやすくなります。抵抗を少なくしてあげて自分で少しでも動かせれば、これは儲けものということになります。 こういったことは、長い間安静を強いられた人を例に挙げて話していますが、安静以外の人でどんなときにも体力を補給して維持していけるのは「歩く」ということにつきると思います。歩くということはこの全てを行っているんです。だから、こういう冬の時期が過ぎて、だんだん暖かくなってきて、少しでも散歩にでられるということになれば、歩いてもらいたいと思います。それが何よりの体力低下を防ぐものだと思います。どれだけ歩けばいいのかということがよく問題になりますけれど、その人の循環の状態とか呼吸機能の状態によって違うものですから、歩いてみて、次の日がっくりと疲れが残るようだったら多すぎるというのをひとつの目安にするしかないと思います。そして、昨日はこれだけやってみてがっくりこなかったら、それを増やしていけばいいんです。それを3倍ぐらいに増やしてみたら、翌日に疲れが残ったということであれば、それよりもう少し少な目にしてやればいいんです。とにかく頑張ってやるんだということではないんです。楽しみながら、散歩をしながらできていれば、我々の体で言えばそれだけで十分にいけるというふうに思っています。 病院の中では訓練の時間というのはだいたい45分ぐらいという時間の規定にはなっていますけれど、実際には色々なものを調べてみたら、45分では少ないんですね。1日45分の訓練では体力が低下していってしまうと言われています。病院でリハビリをやっている僕らがこんなことを言うのは変なんですけれど、それでは足りないので、その倍の1時間半近く動くことができればいいんです。ある一定時間、訓練室で訓練をやって、あとは病室に帰って寝ていると、ベッドに取られる量の方が何倍も多いわけですから、ある規定があって訓練室ではこれだけの時間という訓練で終わってしまいますけれど、病室に帰っても横にならないで座ってテレビを見ている方がよほど大事だと思います。ベッドに吸い取られたのでは本当にもったいないと思います。入院していて薬代は取られる、手術代は取られる、完全看護とかいって着るものも規定されていて、それらは全部お金を取られているんです。なおかつ、ベッドにまで取られてしまってへろへろになってしまうのではどうしようもないですから、病院に儲けさせない、ベッド屋さんに儲けさせないというわけでなく、やっぱり座って歩くということが非常に大事なんだなあと思います。ここまでが体力の話です。 問:眠気が起きたとき、自分の意志と体力で何とかできないものですか? 答:大変いいご質問をいただきました。頭の中の非常に特殊な機能なんですけれど、横になるということで頭の中の血液流が20%ぐらい下がってしまうと言われています。そうすると、頭の中の血の流れが少なくなると当然そこに行く酸素の量も少なくなっていくし、横になっていると入ってくる刺激も少ない刺激しかないですよね。体を縦にしていると広い方向から刺激や情報が入ってきますけれど、横になっていると首を動かす範囲でしか刺激が入ってきませんから、その二つが重なってすぐ眠くなってしまいます。だから、横になるというのはすぐに眠気を誘ってしまうということになって、良くないですね。起きあがると頭に行く血液の量も多くなってくるので、きちんと眠気も取れやすくなります。特にお年寄りの方にこういう状態が続くと、頭の活動が固定化しやすくなってしまいます。血液の循環量は悪くなるし、入ってくる刺激の量は少なくなる、それからあまり皆に望まれていないなんて雰囲気があれば、寝て、見ざる−聞かざる−言わざるでいいというふうになって落ち込んでしまいますから、お年寄りの方こそ起こすというようにした方がいいと思います。 次に筋力ということなんですが、筋肉の力があって関節がよく動くということで、我々ははじめて色々なことができているわけです。関節を動かすのは筋肉の力ですし、関節が固まってしまったら筋肉の力がいくらあっても色々なことができません。 特にこのときに、体の上の部分と、移動するための足の部分とに分けて考えてみますと、体の上の方というのは、動くことと筋力と、当然どちらも必要なんですが、動くということの方が、関節が固まらないということの方が非常に大事なことなんです。歩くということについては筋肉の力があるということが重要なことです。 それで、手が動くことにどうしてこだわるのかというと、僕たちはこの指先で色々なことをやっています。この指先を使って、いいこともやれば悪いこともやれば、色々なことをやっているわけです。その時に、その効果をあらわすために、自分の体のどこにあるか、どこにもっていくかということが色々な関節で行われているわけです。肩の関節というのは、上肢全体を自分の周囲のどこに持っていくかということをやっているわけです。肘というのは、手をあるところに持っていく時のその距離を調節するために必要なものなんです。そして、はじめて、どこに持っていくかということがなされているわけです。 関節が固まってしまうと、僕もやりましたけれど、五十肩になって肩が動かないとなると本当に不自由なんです。やりたいところに手を持っていけないものですから。だから、どこか1カ所でも関節の動きが悪くなっても大変に苦労してしまうということになります。だから、そういう関節の固まりを作らないようにすることが何よりも大事で、その関節の固まりを作らないようにするために、動きの悪い状態の人がいたら1日最低1回、その関節を人の力で動かしてやります。肘であれば曲げるということと伸ばすということ。手首であれば曲げる、伸ばす、回す、親指や小指側に曲げる、6つの方向があります。肩もそうですけれど、前に持っていく、後ろに持っていく、横に持っていく、内側に持っていく、ひねる。そういうのを最低でも1日1回動かしてやるということが必要です。
関節というのは2本の骨が合わさる場所があって、それを結ぶ紐のようなものがついているわけです。この関節が屈曲した状態で長くいると、この紐が短くなって固まってしまいます。そうすると、この関節はもう伸びなくなってしまいます。それを防ぐためにはこの紐を1日1回でもいいから伸ばしてやるということが一番大事なことなんです。 脳卒中にあたった方は、さらにここに筋肉がついていて、しょっちゅうこの筋肉に曲げよう、曲げようと力が働いているわけです。だから、筋肉の曲がろうとする力はあるんですけれど、それが続いた結果として、伸びない紐が出来上がるということなんです。あたっている病気の人の特徴としては、ぱっと伸ばそうとするとそれに逆らってぎゅっと縮まろうとしますから、ゆっくりゆっくりやっていきます。そうするとこれは必ず伸びていきます。そういうことを1日最低1回でもやっていかないと、防ぐことができないわけです。頭から常に指令がきて曲がろう曲がろうとすることは四六時中来るわけです。来ないのは寝ているときぐらいなものです。寝ているときは手が楽になっているけれど、病院にきて診察室に来たりすると曲がってしまいます。だから、これは病気のために縮まろうとすることだから防ぎようがないんです。防ぎようがないけれど、ゆっくり伸ばそうとすれば伸びるという特徴がありますから、それをやらないといけないんです。それをやることによって、縮まろうとする紐を防がなければならない。それが「関節の拘縮を作らないようにしよう」ということなんです。 整形で関節の手術をされた方もそうなんですけれど、整形で手術をするときは、関節を構成している骨そのものに問題があったりするものだから、骨がつくまでは関節自体を動かすことはあまりできないんですけれど、ある期間たって骨が固まってきたら、暖めるなりなんなりすることで少しでも循環を良くして、やわらげて、ゆっくりゆっくり伸ばしたり曲げたりということをやっているわけです。だから、あたった病気よりは整形的な疾患の方が、本当は関節の固まりを作りやすいんです。構造が壊れていてなかなか動かしきれないですから、ある程度の時間固定していると関節が固まってきます。こういうことで、拘縮というものを防いでいきます。だから、1日に最低1回でも完全に伸ばすということができれば、その関節にとってはかなりいいことなんです。足首の関節だって、上に来る、下に来る、斜めに内側、外側に来る。それぞれの関節で色々な動きがありますので、その動く範囲を1回でも動かすことができればいいんだと思います。 筋肉の力というのはこれも1日静かに寝ていると3%ぐらい落ちていきます。何ともない人が1日寝ていて落ちるということではないですよ。1ヶ月寝ているような人が1日あたりこのぐらいは落ちているということです。そうすると、10日間動かないで寝たきりになっていれば、3割ぐらいの力は落ちていくわけです。そうすると、さあ、そろそろ骨の状態も良くなってきたから装具か何か付けて歩こうかといったって、歩けないんです。 だから、こういう時に筋力の低下を防ごうとするのは、やっぱりストレスをかけた筋力訓練をしていかないといけません。筋力をつけるためには3つぐらいの方法があります。 (1)物を持って関節を曲げるようにしながら動かす方法です。鉄アレイなどを使って動かす方法です。 (2)もう一つは、手をまっすぐ前にやって、ぐーっと握りしめます。そうすると、曲げる筋肉も伸ばす筋肉も同時に収縮します。 (3)3つ目は階段を下りるときのような運動です。階段を下りるときというのは、片足は伸ばされながら縮んでいるんです。縮みながら伸ばされていくという動きです。階段を下りようとするときに、筋肉は伸ばされているわけです。伸ばされているんだけれども、一気に伸びきってしまったらがくんと膝が折れてしまうから、折れないようにするには筋肉が縮みながら結果的に伸ばされていくという動きです。その中で、階段をゆっくり下りるような、筋肉は伸ばされながら縮んでいくという運動が、筋力が一番つくと言われています。だから、整形の患者さんなんかは手足が自由ですから、足の筋肉をつけようとすると、階段をゆっくり降りるというような運動がいいんです。それから、足の四頭筋の筋力訓練ってやると思うんですけれど、上げておくだけでなくて、これをゆっくりと下ろしていく。20とか30とか数えながらゆっくりと下ろしていく。筋肉が伸びきってしまったらばんと落ちてしまうけれど、伸びきらないようにしながら下ろしていくわけです。そういう訓練がいいんです。寝ながらでもできるような訓練としては、足を上げてゆっくり下げるとか、あるいは仰向けになって膝の上を紐で縛って、足を開く訓練をします。そうすると、筋肉は抵抗を受けながら働きます。それから、寝ながらお尻を上げる練習です。これはお尻の筋肉を鍛える訓練です。そういった訓練というのは、歩く上で重要な筋肉を鍛える訓練ということになります。 そのように、筋肉の力が落ちてもうまく歩けない、色々なことができない、関節の動きが悪くてもうまくできないということになります。 そして、筋力と関節の動きというのは、実に裏腹な関係にあるわけです。裏腹というか、同じ関係と言いますか。筋肉が落ちると歩けなくなります。また、関節の伸びが10度悪いと、通常必要とする筋力の1.5〜1.8倍の筋力が必要となります。20度くらい伸びが悪いと2〜2.5倍の筋力が必要になります。だから、曲がっている、伸びないということだけで、必要以上の筋力を必要とします。このように、曲がっているということと筋力が低下したということは同じ意味なわけです。 だから、あまり歩かないで筋力が低下して、なおかつ、膝が曲がった状態あるいは股関節が曲がった状態でいると、なおさらダメになってしまうということが言えるわけです。筋肉の力が落ちるということ、関節が伸びないで曲がってしまうということ、これは両方とも同じようなことを意味しているということになります。少なくとも関節の拘縮が防げないときには筋力をつけなければならないし、筋力の低下を防げないときには関節の曲がりを何とか保たないといけないということになります。両方防げれば一番いいんですけれど、これは色々な理由があってできないということもあります。 関節の拘縮予防については、1日1回でもいいから全可動域を動かすことで何とかしようということです。さっき言った足については、その3種類の単純な運動で、しかもそれを3秒間から5秒間ぐらいやる。そしてそれを1回につき10回ぐらいでいいんです。そしてそれを1日2回ぐらいやればいいんです。そういう非常に短い量のことでその辺が防いでいけると言われているもんですから、ぜひやってもらいたいと思います。 今日お話しした体力の問題、筋力の問題、拘縮の問題というのは、本当にどこにいてもできるわけですね。病院にいて訓練の先生方と一緒にやらなければできないと言うものでもないし、何の機械もいらないし、どこででもできるということがありますので、リハビリって本当に身近なものなんです。すぐそこでやろうと思えばできるような種類のことなんです。それをお伝えしたいなと思ってこんなお話をしました。だんだんこうやって散歩できる時期になりましたので、散歩が何よりです。この全部を解消できるのは散歩だと思いますので、ぜひたくさん歩いて下さい。 本講演の印刷用ファイルのダウンロード(モノクロ)が可能ですが、 閲覧・印刷には「Adobe Acrobat Reader」(フリーソフト)が必要です。 配布は自由にされてけっこうです。必要なかたはどうぞご利用下さい。 印刷用ファイル ← ここからダウンロードしてください 釧路労災病院 リハビリテーション科 |