『台所に入ろう(片手で調理)』

作業療法士 網田恵美子





−はじめに−


今日のテーマは、「台所に入ろう」ということで、主にけがや脳血管障害の後遺症で片手が思うように動かなくなってしまった方を対象に話を進めて行きたいと思います。

台所というと、日常生活のおふろに入るとかトイレにいくことなどとは違って、「私には関係ないわ」と言う方がいらっしゃるかも知れません。ですから、前半は調理にこだわらずに、皆さんの使える方の手の能力というか器用さを知っていただこうという内容にしました。また、これから少しずつでも台所に立ってお手伝いをしてみたいという方や、今、実際にやっているけれど、何かいい工夫があったらという質問や、それに対してアドバイスがあったらどしどし意見を出してもらいたいと思ってます。




−台所に入る意義−


まず初めに、台所に入る、その意義について私の考えで4点を挙げてみました。
1.日常生活の自立(へ向けて)
2.片手動作の習熟
3.生活の質的向上=心豊かに暮らす
4.役割をもつ
台所に入るということは、たいがいあまり広くない所を杖あるいはつたい歩きで入って何か目的の事をしようという訳ですから、日常生活の自立と片手動作の習熟という要素が入ってきます。

また、作業の一部あるいは全部をこなしている方にとっては結果的に家での役割をもつことになります。

毎食のようにお弁当やお総菜を買うとなれば経済的にも大変ですし、何より栄養の面でも不安があります。ですから、少しずつでも練習を始めて自分で作れるようになった方が(買い物への興味や季節感、調理方法や味付けの工夫など)生活に広がりができて、心豊かな生活が送れるのではないかと思います。




−かかわりかたの段階−


次にどのようなかかわりかたがあるか段階をあげてみました。

1.簡単な飲み物を自分で開けたり、注いだりする
蛇口の使用
缶入り飲料のプルタブをあける
紙パックやペットボトルからコップに注ぐ
お茶を入れる(ポットの使用)
2.後片付け
テーブルを拭く
自分の使った皿やコップを流し台までさげる
自分の使った食器を洗う
食器を拭く
家族の食器、調理道具全般を洗う
3.調理の一部をする
米を研いで炊飯器を使う
ガス、電子レンジ、トースターであたためる
果物を切る
ゆでる、煮る、焼く、炒めるなどの調理の一部をする
4.調理全般をする
自分又は家族の食事を一回分整える
自分又は家族の食事を2〜3回分整える
献立を考えながら計画的に買い物をする

このかかわりの段階はおおよそ下へいく程難しくなっています。
ここで今自分があるいは障害をもっている家族がどのあたりをやっているか、確認をしてみてください。



かかわりの段階1は、飲み物に関するものが多いのですが、泌尿器系の病気の予防のためにも水分は十分とったほうがいいといわれています。これからは気温が下がってくるので温かい飲み物がほしくなりますね。ポットやお茶の道具を一か所にまとめて出しておくと、自分で入れてみようかなという気持ちにもなれていいと思います。

ただし電器ポットはコードがついていますから、壁際などふだん通らない側にコードがくるようにしないと、つまづいたり手に引っかけたりして危険です。コードが邪魔になるようなら普通のポットが安全でいいと思います。

お店の食器コーナーや雑貨コーナーに行くと、急須を使わなくてもいいストレーナーというものがいろいろと売られています。これはわが家では2代目のものですが、7〜8年前に東京の雑貨屋さんで初めて見つけたときにはあまりの便利さにうれしくて、友人にも配りました。使い方は柄を握って口を開いて、スプーンですくうようにしてお茶の葉をとって、後はお湯の入ったカップに浸すだけです。ちょうどティーパックのような感覚でお茶が入れられます。この2代目は市内で偶然見つけて買いました。

家の中で杖を持たずに歩ける方なら、後片付けのテーブルを拭く事や自分の使った食器を流し台まで下げることまではできるようになると思います。滑りにくい加工をした樹脂製の軽いお盆(市販されています)を使うと二つ以上のものを運ぶことができます。そのときは、手に近い方に食器をのせると、軽くなって腕の負担が少なくてすみます。

最近はいろいろと便利そうななものが出回っていますから、ホームセンターやデパートを歩くと思いがけずに、自分の生活にぴったりあったものに出会えるかも知れません。興味のある方は混雑していない平日などに家族や仲間とそういうところをぜひ、歩いてみてください。



−台所に入る前にしておきたいこと−


1.片手で(5本の指で)押さえと操作ができるように練習しておきましょう

話が少し変わりますが手を使って何かをするということは、両手が使える人は片方の手でものを押さえて、もう片方で道具を使ったり、ものを操ったりします。例えば、缶ジュースの蓋を開けるときは、片方の手で缶を押さえて、もう片方でプルタブを引き上げますし、片手で袋を持って、もう片方でハサミを使うときもそうです。

このように、手で何かをするということは、手に二つの役目が必要となります。片手しか使えなかったらどうしますか。

一般的には押さえるほうの役目を体の別の部位を使ったり、あるいは別のもの使って押さえたりすることが多いでしょう。

押さえ方をまとめると
A.他の体の部位で押さえるー両足に挟む。使えないほうの腕と脇に挟む。体とテーブルの間に挟む。あごで押さえる等。
B.他のものを使うー重しをのせる。クギ、画鋲でさす。
ところが調理や洗い物ではAやBだけではできません。例えばリンゴの皮をむくにも、茶碗を洗うにもAやBの方法は使えないのです。そこで大切なのが
C.指の使い分けです。片手の5本の指を押さえる指と、作業する指とに使い分けるということです。(これは資料の2枚目、台所に入る前にしておきたいことの1番目にあげてあります)


今日は、始めにお話ししたように皆さんの片手の能力がどのくらいあるか知っていただこうと思って、紙を用意して来ました。

紙を片手で折るのですが紙を押さえる指と、折り目をつけるいわゆるアイロンがけする指とに使い分けをしていただいて、そこのところの大切さと、片手でもできるというところを実感していただきたいと思います。資料にはくず入れにも使える箱の作り方をのせました。できるところまででいいですから折ってみてください。



これが難しいと思う方は、紙を二つ折や四つ折りにする練習からしてください。

実際に片手で家事や手伝いをして入る方はうまく折ることができているとおもいます。もし、上手に折れたけど家では何もやっていないという方がいますか。そういう方は何でもいいですから、おうちの方から何か手伝えそうな仕事をもらって、それこそ腕に磨きをかけてください。また、もし上手に折れなかったら新聞に挟まってくるチラシなどで少しづつ練習してみてください。



2.台所を使いやすいように片付けましょう

次に、台所に入る前にしておきたいことの2番目、使いやすいように片付けましょう。台所は放っておくといつの間にか物で一杯になってしまい、肝心の探したい物が見つからない事があります。

時間と体力のむだを省くためにも、必要なものが、さっと取り出せるように不要なものの整理をすると、いいでしょう。また、よく使う調味料や、ナベ、調理器具などは、手の届くところに出しておくのもいいと思います。



3.調理器具の選定

3つ目にあげたのは調理器具の選定です。片手で調理するとなると、あまり重すぎるナベは、使いにくいばかりでなく腕に負担がかかります。また、底が丸くても火にかけて不安定だったり、カタカタ動いて洗いにくかったりします。中身が入ったナベは片手で持つとけっこう重いものです。両手ナベよりは取っての長い片手ナベの方がもちやすく、指への負担も少ないでしょう。このように、家にあるナベ一つを取っても、片手で使いやすく、オーバーワークになりがちな手に優しいものだけを選んで、出しておくと、作業能率も上がると思います。



4.安全対策

4つ目は安全対策の面から、今一度、台所を点検してみるということです。よく通るところの足元には、物を置かないようにしたり、台所マットを敷いている場合は、ずれないようにする工夫をしてください。また、揚げ物など油を多く使うような料理の時には、火が入らないような火加減にすることはもちろんですが、過熱し過ぎないように電話や、来客の時には火をいったん止めるか、出ないようにするのも必要なことだと思います。万が一の場合に備えて、小型の消火器を設置したり、調理中は片手ナベの柄を、手や体に引っかけないように向こう側に向ける習慣をつけることも大切です。また、調理中に使う事がある、はさみや、ティッシュなども、置いて置くと便利です。




−調理の実際−


ヘ(食器、まな板、包丁、なべ)を洗う
ヘ(食器、まな板、包丁、なべ)を拭く
ヘ野菜を洗う
ヘ野菜の皮をむく、切る
ヘ効率をよくするために手順を考える(洗い物が減る、時間短縮)
ヘよく使うものは手の届くところに置く
ヘ流しの中に洗い物をため過ぎると作業がしにくくなるので、手があきしだいこまめに片付ける(台所に立つ時間も短縮)


では次に、野菜や、果物の皮むきや切り方について、片手で行う場合の一般的な方法を実際にお見せしたいと思います。まな板は普通の物を使ってもいいですし、材料を固定するためのクギが初めからついている介助用品もあります。


●野菜の皮をむく、切る
皮をむくときにはまず、材料が安定することを考えます。そのために丸い物は、半分に切ってしまいます。切り口を下に向けて、後は上から下に向かって皮をむきおろしていきます。

大根やニンジンなどは適当な長さに輪切りにしてやはり切り口を下にして安定させて上から下に、皮をむきおろします。このとき、材料の直径より高くなってしまうと不安定となり仕事がしずらくなりますから注意してください。

皮むきや細かく野菜を切るときには包丁のほかに皮むき器や万能調理器を使う方法もあります。皮むき器の場合は材料を、クギに刺したり、コーナーを作って転がらないようにして使います。一方、万能調理器の場合は調理器の方を動かないようにして、野菜の方を手にもって、皮をむいたり目的に合わせた切り方をしていきます。これを使うと切るのが楽なので野菜がいっぱい食べられそうです。

●野菜を洗う
流しに吸盤つきのタワシをつけておくと、芋や、ニンジンの土を落としたり包丁を洗うのに便利です。

●食器・まな板・包丁・なべを洗う
食器や鍋は、使ったらすぐに洗うと落ちやすいのですがそうできない場合はとりあえず水に浸けて置くことがとりわけ大事になります。洗い方にはいろいろな工夫ややりやすい方法がいろいろとあると思いますが、洗いにくい茶碗やどんぶりなど深さがある物は、スポンジで内側と外側をはさむようにして、親指を動かしながら茶碗を回して洗っていくという方法があります。

鍋の場合は深さがありますので、親指で鍋を固定して他の4本の指でスポンジを使って洗っていきます。大きく動かすと鍋が揺れて力が伝わらないので注意します。まな板や、皿は平らなので流しに直接置いて安定した状態で洗えます。

●効率をよくするために手順を考える(洗い物が減る、時間短縮)
また、洗い物を出し過ぎて、流しが使いにくくなるとか洗い物でくたびれるということがおきないように、手順を考えて、調理する事も大事です。例えば、お浸しと、みそ汁を作る場合作り方の順序で鍋がひとつですんだり、二つ使うことになったりします。初めにお浸しにする、野菜をゆでて、熱いうちの鍋はさっとこするだけできれいになりますからそれからみそ汁を作れば食後の後片付けは鍋は一つということになります。また、まな板も、きれいなうちに生で食べる野菜次いで火を通す野菜最後に、魚や、肉という順序で切っていくとまな板や、包丁や手を何度も、洗う必要がなくなります。それで手順を考えることが効率的となるのです。



以上でわたしの話を終わりますが、ちょっと台所に入ってみようかなという気持ちになっていただけたでしょうか。ありがとうございました。




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