『歩くということ』

講師:理学療法士 猪野勝





【はじめに】


今日お話しすることは、歩くということです。歩くということを色々考えたんですけれど、まずプリントに沿って、通常私たちがどうやって歩いているのかということを簡単にお話しして、体の不自由なかたがいったいどのような歩き方をしているか、日頃歩いていてもどのくらい歩けばいいのかということもお話ししていきたいと思います。




【一歩行周期】


それでははじめに歩くことについてお話ししていきたいと思いますけれど、そのプリントに人がいっぱい描いています。私たちは普通歩いているときに、何も考えないで歩いています。私たちが歩行などを訓練するときに、どのような歩行をするのかということを考えていつも分析するわけですけれども、普通私たちがどのように歩いているかということをひとつの周期にして捉えた場合、その基本となるものがこのような図になります。右足から歩くことで説明します。


右足のかかとが着いてからもう一度右足のかかとが着くまで、これを「一歩行周期」といいます。その中でいったいどのようにして歩いているかというのをここに描いているわけです。歩くということは体重移動の連続しているものですから、まず右足に体重をかけて、その後、体重がかかったら左足を出す。左足に十分体重がかかったらまた右足を着くという、連続した体重の移動の連続なんですね。それを如何にうまくしていくかということが上手に歩くとか速く歩くということにつながるわけです。


●「立脚相」と「遊脚相」と「両脚支持」

歩行とは片足ずつ歩いていくわけですけれど、片足が着いている状態と上がっている状態があるわけです。これを分けて、片足が着いている状態を「立脚相」といいます。立っている状態ですね。そのあと反対の足が着くわけですけれど、そのあとの浮いている状態、これを「遊脚相」といいます。片足が着いているときと浮いているときの繰り返しで歩く。歩行が成り立っているということです。この二つがあります。足が遊んでいると書いてありますが、浮いている状態ですね。「立脚相」と「遊脚相」、この二つに分かれています。かかとが着いてから反対の足が着いて浮く状態。その時が遊脚相です。

その二つの状態に分かれているんですけれども、歩行周期、右足のかかとが着いてもう一度右足が着くまでの状態、その間の立脚相の割合というのが、通常、かかとが着いてからもう一度右足のかかとが着くまでの60%となっています。そして、浮いている状態が40%。6対4の割合で着いているわけです。この状態が普通私たちが歩いているときの割合です。これは右足ですが、左足の方も同じように60%と40%ということになります。

ただ、歩いている時の特徴としては、両足が同時に着いているときがあります。これが一緒に着いているときがないと、走っている状態になります。歩いているというのは常に絶対に両足で着いているときがあるわけです。これが「両脚支持」と書いてありますけれど、両足で支持している時期、これが歩行周期の中に10%から20%あります。この図でいうと、いっぱい人が描いてありますけれど、その下に描いてあります、左足と右足の状態ですね。かかとの着いた状態。その右足、右足の黒いところが立脚相ですから、これだけの割合があって、左足の時には逆に、重なったところがありますよね。それが両足で支えている時期、それが全体の10〜20%あるということです。そういう状態で歩いています。

通常歩くときはそんな感じなんですけれど、関節が痛くて悪かったりびっこを引くようなときにはもっと違った割合になります。


●「歩く」ということを分析すると...

・踵接地:最初、歩くときには通常かかとから着きます。歩く練習をするときに「かかとからしっかり歩きなさい」と言われますね。かかとを着くことによって膝がスムーズに出やすくなるわけです。着かないと、このまま足が突っ張って、腰が引けた状態で歩いたりとかしてしまいますから、こういう状態でかかとが着く、これをかかとの接地時期といいます。

・足底接地:その次に、足首が着いて、足底接地と書いてありますけれど、足全体が地面に着いたとき。こういう時期になります。

・立脚中期:そのあとに、歩いていて大切な時期なんですけれど、「立脚中期」という時期があります。この状態は、かかとが着いて、体がまっすぐ起きていて、まっすぐ体の真下に来る時期ですね。この状態が大切な時期です。特に体の悪いかたでは、この立脚中期に充分に体重がかからないので歩く姿勢が悪く、お尻が引けたような歩き方になります。片足が麻痺しているときとかは特にそういう状態になります。本当はきちんと着きたいんですけれど、力が入らないので。この次の振り出すときによいしょと余計な力がかかっちゃいます。このときがうまくいかないから歩幅も伸びなくて、歩くスピードが遅くなったりするというところがあります。この立脚中期というのが大切です。体重をかける練習でよくやると思うんですけれど、半歩前とか半歩後ろですね。この状態が立脚中期ですね。この状態の訓練をします。歩くスピードを上げたいというかたは特にこういう歩幅を大きくする練習をすると思います。これが歩くスピードを速めるための一つです。力をつけるためもあるんですけれど。歩行周期の中で立脚中期というのが特に大切です。

・踵離床:今度はかかとが離れます。離れた状態でけり出すわけです。このときも大切ですが、足の悪いかたは力が入らないので歩幅が小さくなってしまうというところがあって、ここも大切ですけれど、一番大切なのは、覚えて欲しいのは立脚中期ですね。その立脚中期というかかとが着いてから足が着いて、反対の足もついているんですよ、この状態で。今度は足が浮いている状態。この状態で前に出すわけですけれど、このときに大切なのは、足首が上がるということです。足の悪いかたはここで足が上がらないから外側に引きずったりすることがあります。こういうことでも歩くスピードが遅いということになります。それがだいたい40%ですね。それが「歩行周期」ですね。「一歩行周期」といいます。あとはそれが連続ですから、歩くということはそれが続いていくことです。以上が歩行周期の説明です。

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・歩幅:歩くということで、「歩幅」というのはわかりますよね。右足のかかとから左足のかかとまでが一歩。その長さが歩幅といいます。

・歩調:歩行用語でちょっと分かりにくいものは「歩調」。これは一分間に何歩進めるかというものです。これが多いほど歩く距離は稼げます。通常の成人では110〜120。2歩で1秒ぐらい。それが平均です。ゆっくり歩けば70〜80ぐらい。信号などで急いでいるときは140ぐらい。

・両足の間隔:右足と左足の間隔。普通は10pぐらいです。でも、足が悪かったりバランスが悪かったりする人は少し開いて、転ばないようにしています。それも倒れないためですから、それでゆっくりと歩いている人がいます。通常で10pですが、これに無理に近づけることはありません。

・重心の位置:歩くときの重心の位置ですね。床から身長の55%、骨でいうと腰骨の下から二つ目です。その辺の少し前です。身長の55%ぐらいのところに重心があります。

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●高齢者と若年者

私たちは誰でも年を取ります。若いかたと高齢者のかたの歩き方の違いです。年を取るとどうしても歩幅も小さくなるし、スピードも遅くなる。その原因が書いてあります。左が高齢者、右が若い人です。お年をめされると体が前屈みになります。体の動きも小さくなって、どうしても膝が曲がったりします。また、力が弱くなるわけですから、立脚中期のあとの蹴る力も弱くなるわけですから、歩幅も小さくなります。それが原因で歩幅と速度の減少になります。原因として、関節の変形や痛みがあります。関節もこわばって、体も曲がってきます。力も弱くなって、歩幅が小さくなる。するとスピードも遅くなります。




【歩行とは? 連続した重心(体重)の移動】


歩行とはどういうものかということが書いてありますが、言葉で言うと体重の移動の連続ですから、右足に体重をかけて左足を出す−左足に体重をかけて右足を出す、という重心の移動で成り立っています。左右の重心の移動と前への推進力、その連続です。


●片麻痺のかたの歩行

実際に脳卒中になられて半身が麻痺して弱くなったかたの場合はどういうような歩き方をしているのかということをお話ししていきたいと思います。

まず一つ目は、半身が麻痺すると重心の位置が真ん中ではなく、麻痺していない方にずれます。そして、重心移動はあるんですが、やっぱり重心の位置によってその重心移動は決まりますから、いい方にはうまく傾けるんですが、悪い方にはうまく体重を乗せられない。歩いているときと考えると、左右対称であるものが非対称になってしまいます。いい方に偏っていきます。そういうような歩き方の特徴です。

ここに一例あげてありますけれど、足が着いている時期と足が浮いている時期にどれだけの差があるかということを真ん中辺に書いてあります。この60と40という数字は右も左も同じです。60%というのが立脚相、40%が遊脚相。片麻痺になられたかたがどのような比率になるかということを書いています。そういうかたが、装具も何もつけないで歩いているとき。ここでは左の手足の悪いかたとしてあげています。左足の方です。立脚相がだいたい52%ということです。次に足が浮いている時期が48%。特徴的なのが、数字でいうと右足ですね、立っている時期が72%、浮いている時期がわずかに28%。つまり、足の着いている時間がとても短いんです。ちょっと着いたら前に行く、ちょっと着いたら前に行く。歩く速さも遅くなり、歩幅も小さいです。

そういう人がどうしたら速く歩けるかというと、歩調ですね。1分間の歩数ですね。それを大きく速くするのが一番のスピードアップの方法です。しかし、そうはうまくいかないんですよね。無理すると心臓にも負担がかかります。やりすぎないということです。これが体の悪い人の裸足の場合です。

注目して欲しいのは、その次の「装具歩行」です。補助装具をつけた場合はどのぐらいになるか。左足の立脚相は56%。遊脚相も少なくなっています。右足の方も66%と、通常の方に近づいています。これはどういうことを意味しているかというと、装具が役に立っているということです。もしかしたら歩幅も増えているかもしれません。両脚支持の時間も19%になっています。それだけ歩く速さも速くなるわけですから、装具によって歩行スピードが増し、安定性も増していると思います。それが装具のいいところです。うまく活用するとそれだけ体重もかけれるようになるし、安定性も増します。

先程言い忘れましたが、裸足の時、両足の着いている時期が24%です。歩く速さが増せば両足の着いている時期も全体の10%ぐらいになります。急いで歩けば両足の支持の時間はだんだん短くなります。そのように見れば、装具をつけて両足の支持の時間は短くなっていますから、装具の効果が上がっていると言えます。

右に書いてあるのは片麻痺の歩行の特徴です。非対称性である。どうしても足首などを自分の力で動かせないわけですから、足をまっすぐに上げると引っかかるので、どうしても足を外側に向けて歩くということ。そういったことが特徴です。


●さまざまな人の歩行の比較

次に速さについてお話しします。表です。「さまざまな人の歩行の比較」。上の2例は「高齢者と青年」という形で書いています。歩行速度、高齢者が0.68ということは1秒間に68p進むということです。歩幅が48p。歩調が1分間に84歩です。青年が歩行速度が1.16。歩幅が63p。歩調は110。

このぐらいの歩幅でこのぐらいの歩調の人が30分でどのぐらいの距離を歩けるかということを書いてあります。高齢者のかたは30分で1200メートル。青年ではだいたい2qぐらい歩きます。それと比較して、当院に通院されている3名のかたの場合を書いてあります。

・A氏はふだんは車椅子生活のかたです。歩くことは可能ですが、歩いても家の中だけです。家の外では全く歩けない人です。
・B氏はある程度外も歩けるというかたで、自分で一人ででも買い物などに行けるかたです。3氏とも脳卒中の片麻痺のかたで、当院に通院しているかたです。
・C氏も片麻痺のかたですが、この方も自分のことは全部出来ます。屋外も自立しているかたです。


この状態で何が言いたいかというと、A氏の場合ですね。自分で外を歩けないかたです。1秒間に14pしか歩けない。1分間の歩数も19と少ない。でも30分経つと257メートルですから、PTの訓練室でいくと3周ちょっとです。歩けるということが大切なんですね。僕が言いたいのは距離ではなくて30分歩くということが大切であって、この人にはだいたいこのぐらいの歩く距離が目安なんです。万歩計で1日1万歩といいますけれど、そうではなくてこの人にはこれで十分なんだ、距離ではないということを言いたいわけです。むしろ、これが増えるにつれて外に歩けるという可能性を秘めていますから、これからも訓練を頑張っていただきたいということです。人それぞれにあった歩行距離というのがあります。昨日は歩かなかったから今日はその倍を歩いてやろうということはあまり良くないことですね。あとで疲れを残しますから。その人それぞれにあった距離を考えて、それを目標にして歩くことが大切だということです。


●日常生活の違いによる比較

一番下の表です。外国の文献からです。ふだんの生活によってどれぐらいの歩行距離があるかということです。「日常生活の違いによる比較」ということで、この方は70〜80歳ですが、特に大きな病気もないかたを対象にしています。このぐらいの年齢でこのぐらいの速さだということを考えていただければけっこうです。一番上の家庭内を主な生活な場にしているかたでは、歩幅も少なく、歩調も少なくて、この人の歩ける最大は140メートルです。2番目の「活動性に制限あり」ということは、外に出るときに介助者が近くにいなければいけないというかたで、歩行速度として1秒間に60pです。「活動性に制限なし」。歩くスピードも私たちぐらいのかたではこのぐらいになるということです。このぐらいのかたでも転倒の危険は大きいということです。家の中でも50%、外を歩ける人でもだいたい50%の転倒率です。


●万歩計について

万歩計です。僕も実際に使ってみて、座ってても触れたりします。この前ちょっと壊れたので、これを分解してみます。かちかちしますよね。音がすれば一歩ということです。

これがスイッチです。万歩計によっても違いますが、裏に電流が流れる仕組みになっています。触れて、カウントされて数字が出ます。この振れが小さいと1回しかカウントされないことがあります。振れが大きすぎると2回いってしまうことがあります。感度を調整するものもありますが。こんな作りになっています。

最近、万歩計を色々使ってみました。私たちだったら普通腰につけます。皆さんが使うときの注意点として、どんな人はどこに付けたらいいかということで何人かの人にやってもらいました。Kさんに付けてもらいましたが、この方は歩くのが速いです。いい方の腰に付けるとなかなか振れません。そして、悪い方の腰に付けると正しく振れます。家の中では振れにくいです。ゆっくり歩く人で家の中にいる場合にはなかなか振れません。それでも振れる場所というのは足ですね。靴下に付ける。そのように、振れる場所を見つけることが大切です。もっとゆっくりと歩く人、悪い足を引きずって歩くような人は靴の先でもいいです。そのような人は片足でしかカウントされませんから、×2で計算するといいです。毎日同じ歩数を歩く必要はありません。1週間単位で歩数を計算していけばいいです。

以上で今日のお話を終わらせていただきたいと思います。




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