『体力のはなし』

講師:理学療法士 石田祥雄





〜はじめに〜


今日のテーマは「体力のはなし」ということですが、「体力」と、それに関係の深いと思われます「運動」について簡単にお話ししたいと思います。

以前ここでも「体力について」ということでお話しさせていただいたことがありますが、体力というものには大きく分けて「行動体力」というものと「防衛体力」というものがあります。「行動体力」というのは体を動かしたり行動を起こすために必要な体力です。「防衛体力」というものは体を守るための体力です。例えば、ストレスに対して抵抗力を持つとか、風邪を引かないような体力、そういうような体力です。

今日のお話はほとんど「行動体力」という、体を動かすという面での体力のお話です。その行動体力というものの中には、心臓や肺の持久力というものがまず一番大切なものとしてあげられます。それと、筋肉そのものの持久力というものも次に大切になります。そして、筋肉の持久力ではなくて筋肉の力、最大筋力ですね。どれぐらいの力を出せるかということです。そして体の柔らかさ、柔軟性。それと平衡感覚、バランスがうまくとれるということ。敏捷性、素早く動くことができる。体の中の筋肉とか脂肪のバランスですね。そういうものも大切と言えます。




〜「体力がない」とは〜


一般的に健康のために大切だと言われているのは
「心臓や肺の持久力」
「筋肉の持久力」
「筋肉そのものの力=最大筋力」
「体の柔らかさ」
「体の中の筋肉や脂肪などの割合、バランス」

です。

俗に「体力がない」「あんたは体力がないねえ」という場合は、その中でも心臓・肺の持久力、筋肉の持久力、筋力。この三つではないかなと思います。

例えば、ちょっと動いただけですぐ疲れてしまうというのは心臓や肺の持久力、あるいは筋肉そのものの持久力がない場合ということになりますし、力がないということでいうと、皆さん椅子に座っていますけれど、そこから立ち上がるのもやっとだ、「よっこらしょ」と声を出してやっと立ち上がることができるんだという場合には、普通の健康な人に比べるとちょっと力が弱いかなと言えます。少し歩いただけで足がプルプル震えて、もうダメだということもあるかもしれません。




〜体力をつけるために〜


どのようにしたらこの体力、主に心臓・肺・筋肉の持久力、あるいは筋肉そのものの力がつくんだろう、強くなるんだろう、あるいは維持できるんだろうということなんですが、これはやはり体を動かすことです。運動をするしかないんじゃないかなと思います。

どのような運動をすればいいのか。心臓や肺の持久力をつける、あるいは落ちないようにするために「ほんのり汗ばむ程度の軽い運動を長い時間続けるといいんだよ」というふうによく言われます。だから、これぐらいの運動であれば1時間ぐらいは楽にできそうだなというぐらいの強さの運動でいいと思います。

人が動くときには呼吸をしています。体の中に取り込む酸素によって動くためのエネルギーを作り出すんですけれど、一生懸命運動して思いっきり走って息が切れてもうこれ以上動けないよ、というときに取り込んでいた酸素の量の半分ぐらいの酸素を取り込めるというのが「ちょっと汗ばむ程度で楽に長い時間運動できるよ」というぐらいの強さの運動なんです。

それぐらいの楽な運動というのはまた、体の中の筋肉や脂肪のバランスについても、体の中の脂肪分をより効率的に燃やしてくれるという利点があります。確かに強い運動をすればするほど脂肪だって燃やすことができると思うんですが、その割合ですね。楽な運動というのはより疲れずに楽に脂肪を落とします。ただ、長時間の運動が必要になります。短時間では絶対効き目がありませんので、とにかく長い時間、楽に運動を続けるというのがいいと言われています。ですから散歩とか自転車をのんびりこぐとか、そういうようなことができればいいんじゃないかなと思います。

筋肉の面で言えば、筋肉の持久力というのはこれも強い力はほとんど必要ありません。弱い力で長い時間、何回も何回も繰り返すということが大事になります。ですから、例えば寝転がって足の軽い曲げ伸ばしを何回もやってみるとか、座って手を羽ばたくように動かすとか、弱く楽な運動を何回も何回も繰り返すということで、筋肉そのものの持久力というのがついてきます。

それから筋力ですね。筋肉の力そのものを見た場合には、できれば強い抵抗をかけて、1回でも2回でもいいですからぐっと踏ん張るようなことをすると筋力もついてきます。




〜運動をしないと起こること〜


今お話ししましたような運動をしないとどういうことが起こるか。まずは体力が落ちるわけです。体の中にどれぐらい酸素を取り込めるか。酸素をいっぱい取り込めれば取り込める方が力が湧いてくるわけです。エネルギーが作られるんです。体力が落ちるということはその取り込める酸素の量が減ってきちゃうんですね。取り込める酸素が少ないからそれによって体の中で作られるエネルギーが少なくなってすぐに疲れてしまう。長続きしないということになってきます。

動かない、運動しないという状態が続くと、体を支えるために必要な筋肉や体を動かすために必要な筋肉がまず痩せてきます。筋肉が痩せてくるとその中にある血管の数や密度も若干減ってきます。筋肉が痩せてしまうとその筋肉はうまく動かなくなるし活動しなくなるので、そこに必要とされる酸素量も減ってきて血管も少なくなるものだから、筋肉に入ってくる酸素の量もどんどん減ってくるわけですね。結局、エネルギーが作られなくなってしまって疲れてしまいます。

筋肉も細くなってくるし、血管もなくなってくるし、それによって酸素もうまいこと体に入ってきません。それに加えて、動かないでいると心臓などに負担がほとんどかからない状態が長く続くので、心臓そのものも痩せてきます。心臓の筋肉が痩せてしまって力が弱くなってしまいます。そういうふうになってしまうので、体力が落ちるんだよということですね。

筋肉の話をもう一度します。運動をしないと筋肉が痩せてきてしまいます。もちろん筋肉が痩せてくると筋肉の力も弱くなってしまいます。立っているだけでも筋肉というのはすごく活動しているんですが、特に、自分の体を坐らせたり立たせたりといったことに使う「重力に逆らって体を支えるための筋肉の痩せ方が強い」と言われています。そうではない筋肉、手を持ち上げるといった、体を支える筋肉以外の筋肉もやはり痩せるんですけれど、でも体を支える筋肉ほどは痩せないんです。でも力は弱まります。そして運動をしないで寝た状態が長く続いているような場合は、自分で体を動かそうという意志も弱くなっている場合が多いので、脳から色々な命令を出す能力も落ちているんだ言われています。

とにかく、運動をしないと筋肉が痩せて心臓や肺の能力も落ちて、どんどん動けなくなってしまうんだよということです。ですから、楽に長続きできるような運動を続けることが大切なんですよということです。




〜どのように体力の低下を防ぐか〜


体力の低下ですが、それをいったい防ぐことができるのかということです。ベッドの上で全く何もできないよという状態であれば、その状態のままでたまに足を動かすとか、たまに起きあがってみるというようなことをやったとしても、やはり持久力にしても筋肉の力にしても、そういうものは弱くなってくるのは仕方がないと思います。何もやらないよりはいいとは思うんですが、あまり効果はないんじゃないかと思います。それでもなんとか維持したいんだということであれば、とにかく大きな負荷をかけて、それになおかつ長時間きついトレーニングをしなければ効果は期待できないと思うんですが、ベッドの上で寝ていなさいと言われている人はまずこんなことはできませんから、ちょっと難しいです。

ですからまずはそういう状態にならない、寝たままにならないように心がけておくということが第一に必要であると思います。病院の先生から「体を起こしてはダメだよ」というような制限がある場合には別ですが、座れるのであればできるだけ座っているというのが大事で、たとえ座るだけであっても心臓や肺や筋肉には刺激が加わりますから、多少の維持にはなるだろうと思います。全く刺激がないというのが一番悪いですね。

ベッドの上で寝たきりにならないようにという話ですけれども、障害のない人、あるいは障害があっても日常的に運動できる人であればどのようなことをしたらいいのかということですが、何回も繰り返しますけれど、軽めの運動を長い時間のんびりと繰り返す、継続するということがいいですね。

「弱い運動を長い時間継続するということはとてもいいんだよ」ということなんですが、その場合には心臓や肺の持久力、筋肉の持久力、筋肉の力などもつくし、脂肪を効率的に燃やすことによって体の中のバランスもよくなるし、以前には成人病と言われていた生活習慣病に対する予防的な効果もあります。高血圧の予防、血液中の脂肪量の調節、糖尿病の予防、適度な運動をすることによるストレスの発散ということにもなろうかと思います。




〜高齢者のための運動〜


高齢者のための運動です。これは高齢者に限らず、楽しくて仲間が近くにいて身近な場所でいつでもできる、そういうような条件があればいいですね。高齢者の場合にはまず「歩くという能力の低下」が一番最初にあらわれると言われます。歩行能力を落とさないためにはやはり足腰の力などを鍛える、維持することが必要ですが、そのためには歩けるのであればどんどん歩きましょう、これが一番いいですね。

膝が痛いとか腰が痛いということもあるでしょうが、そういう場合には例えば、身近な場所にあればプールの中を歩くということもとてもいいですね。プールで胸のあたりまで水に浸かってしまえば体重がかなり減りますから、そうすると足にかかる体重が減りますので、関節が痛い場合には大変いいと思います。そして、早く動こうとすればするほど水の抵抗が強まって筋肉には適度な刺激になるし、運動の強度を自分でコントロールがしやすいんじゃないかなと思います。

また、ラジオ体操とかNHKでやっているようなテレビ体操などを参考にして、首や体の柔軟性を維持するということもとても大事です。体操というのは皆さんもなじみ深くて日頃から行いやすいんじゃないかなと思いますので、ぜひやっていただきたいと思います。

それから、体操と似ているんですけれど、筋肉をストレッチしてやる。そういうこともいいですね。動かないでいるとどうしても筋肉が硬くなって、スジが縮まってしまって、体を動かしにくくなって、怪我しやすいと言われますから、筋肉や腱や関節の周りのものを刺激することによって、そのあたりの血の巡りを良くしたり力を強くしたりする。そういう効果もあります。

今日の話で一番大事なことは、特別なことをやれというのではなくて、日頃から動けることをやって下さい、それも強い運動なんて必要ありません、弱くて長続きできるような、ほんのり汗ばむような、そういう運動でけっこうですから、できるだけ長い時間、散歩なり体操なり何でもいいですからやってみて下さいというお話でした。


斉藤部長:一昔前のコマーシャルに「車はガソリンで動くのです」というものがありました。人間も含めて動物はみんな体力で動くんですということなんですね。体力があってはじめて色々なことができる。その人の持っている能力で何かをやりたいと思ったことをやり続けるための、その一番根底にあるのは体力なんだというお話なんですね。

体力ってとてもとても大事です。ベッドの上に寝た状態でいたらベッドに全部吸い取られてしまって、体力も何もなくなってしまいますから、そういう状態をできるだけ避けて座るようにした方がいいし、座ることができる人は立つようになれればいいし、さらに歩けるようにつながっていけばいいわけですね。その時に一番基本になるのは体力で、ベッドに吸い取られないようにお互いに注意しましょうという話なんですね。




〜上手な介助のために〜


●片麻痺の人の立ち上がりを介助するための基本

例えば、皆さんの誰か、座ったところから立ち上がれない人を立たせたいという場合にどうしましょうかということです。動きづらい人自身が考えることでもあるんですが、よくあるのは、椅子に浅くだらーっと楽に座っている場合ですね。こういう場合は誰が何しようとしても立てません。立たせようとすると、手伝う人の方が一発で腰をやられます。


椅子に浅く楽に座っている人がいたとしたら、体を前に倒してあげるとか姿勢を正してやろうと思ってお尻を後ろにひかせたとしても、立つときに体が前に行きにくいですからこれもダメですね。ですからやっぱり浅く腰かけさせて背中を背もたれから離します。

それから、足を前方に伸ばしたかたをそのままで立たせようとしても、これもまた難しいです。ですから、浅く腰かけて、体が背もたれから離れて前に倒れて、なおかつ足を引いた状態であればあるほど、自然に力が入って立ちやすくなります。介助する場合もそういった格好を先にとらせてあげた方が介助者の体のためにはいいと思います。より弱い力で楽に立たせることができます。

ただし、座っている人の足の力とかお腹とか背中の力加減によっても変わります。全く自分では力が入りませんよという人に対しては、足を後ろに引いて立ち上がる場合には、膝から前方へ落ちてしまう場合があって危ないということもありますので、そういう場合には足をちょっと前に出した状態で、膝を何かで押さえてあげて、膝をテコにしてよいしょと上げてやるという場合もありますね。

ただ、一般的によく言われているのはやっぱり、浅く腰かけて、体を前に少し倒して、足を後ろに引いて、楽に立てるような姿勢をまずとらせてあげる。あるいは立とうとする人はそのように座って、立ち上がるための準備をする。そういったことが立つ場合には大事じゃないかなと思います。


●左片麻痺の人の立ち上がりを介助してみます

左側が麻痺して動かないということですから、右の手足は動くということですね。そういったときは右の手足をしっかり使わせてあげて下さい。全部手伝ってあげるのではなくて、できるだけ本人にも力を入れさせてあげて下さい。立ち上がるために必要なことの一つに足を後ろに引くというのがありましたね。使える足を後ろに引いておくことによって、その人は動く方の足の力で立ち上がることができます。

麻痺していない方の力を使いやすいわけですから、まず足を後ろに引いてあげる。もしこの人がもっと動きやすいかたであればお尻を前にずらしてもらってから、体を前に倒してあげて、それから手伝います。

近くに何かつかまるものがあればつかまってもらいます。手伝う人はまずどうするかというと、腰のベルトでも何でもいいですからつかまえて、いい方の手と足で頑張ってねと言って引っ張り上げるんですけれど、ベルトなどがないのであれば前方から手伝います。ついつい麻痺している側についてあげようとしてしまう場合もあると思うんですが、そちらについてしまうと、手伝うためにどうしても自分の方に引っ張りたがるんですね。そうすると、麻痺していて力の入らない左側の方に重心が寄ってしまうので、麻痺していない右側から接近して、つかまるものがあれば手でつかまってもらって、ベルトごと引っ張ります。そうすると、手伝う人の方にこのかたの重心が来るので、結局力が入りやすい右側で支えてくれます。


部長:なかなか椅子から起きあがれないということをよく病院でも聞きます。病院にいるときは椅子から立ち上がれたのに、うちへ帰ったら立ち上がれなくなったという人がいます。それは、病院にある椅子は足元が空いていて、足を後ろに引くことができるからなんですね。お尻とかかとが近くなるから頭を下げるだけで立ち上がりやすいんですけれど、家にあるソファーはかかとの後方に隙間が全くないから、足を下げることができないんですね。そうするとお尻とかかとが近くならないから立ち上がれなくなるんです。その時は、先程石田先生が言ったように体を前にずらせて、お尻とかかとを近い位置にもってきて、そして頭を下げると立ち上がれるということがあります。




〜質疑応答〜


問:片麻痺のかたが介助者と二人で歩く場合、片麻痺のかたはいい方の手で杖をついていますよね。それで、介助者は正確には片麻痺のかたのどちら側で歩いた方がいいのかということを教えて下さい。

答:基本的には杖をついていない方、麻痺している側についてあげた方が安全です。麻痺している方に立つんですが、立つ場所を真横にするのか後ろにするのか、そういう違いもありますし、歩いているときにどういうふうなバランスの崩しかたをしやすいかということによって自分の立つ場所が変わってくるんです。片麻痺のかたが比較的安定して歩けるということであれば、どの位置に付き添っても構わないと思います。

色々なかたの介助をする場合ですね。例えば、歩いているときに後ろにバランスを崩しやすいような人に対してはやや後ろ気味に立っている方がいいでしょうし、足を出そうとしても引っかかって前方につんのめるという場合もよくありますが、その場合には真横あたりについてあげます。あるいは真後ろに立って、バランスを崩したときに後ろから引っ張ってあげる場合もあります。それから、介助する人が自分のやりやすい場所、立っていて違和感のない場所を探すのも大事です。基本的には杖をもっていない側に立つんですが、あとは臨機応変に考えていただいていいと思います。

部長:例えば左半身が不自由だとします。そういうかたが100人転んだとします。大腿骨頸部骨折という足の付け根の骨折が非常に多いんですが、100人の人が転んで骨折をするとしたら、そのうちの90人から95人ぐらいはあたっている方を骨折するんです。ですから、いい方に転ぶというのは非常に少なくて、悪い方に転んで骨折を起こすのが圧倒的に多いんですね。だから、そういうことを考えると、左側の横か前後がいいのかなと思います。いい側に転んでも手を出して体を支えて衝撃をやわらげることができるからということもあります。




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