今月の旬

 

53回目の今月の旬、
これからも料理人の仕事と季節の風をお届けします。

今月もレストラン ル ミュゼよりお送りします。

 

 2006年 3月のテーマ 「 ボタン海老 」

 今月は3月1日に漁期が始まった「ボタン海老」がテーマ。日本海、大平洋、噴火湾とあちらこちらで漁が始まり魚屋の店頭を賑わしている。刺身、鮨種と人気のボタン海老、タラバエビ科は雄性先熟で小さい時は雄、3年で成熟し性転換して雌に変化する。なるほど大きなものは皆、卵を持つ雌である。このタラバエビ種のメカニズムを知るまでは雌ばかり集めて売っているのだと思い込んでいた。甘海老も同様タラバエビ科で青い卵を持つものばかりが魚屋の店先で並んでいるのを見て雄はどこへ行っちゃったんだろうと思っていた。

 調べると富山湾で多く漁獲されるトヤマエビ、日本海や北大平洋、オホーツク海やベーリング海にも分布し北海道ではボタンエビとも呼ばれると言う。ではボタンエビは、というと「北海道南部から土佐湾にかけて本州の大平洋岸に沿って分布する日本固有種で」と小学館の食材図典にある。分布で考えるとトヤマエビが北海道で広く漁獲されているボタンエビのことのようだが、図を見る分には目の前にあるエビはボタンエビのようである。いや背の隆起が強いからやっぱりトヤマエビなのかなぁ?だとしたら本物のボタン海老は他にいることになる。道産子である私はボタン海老といえばこの写真の海老で、本物のボタンエビは見たことが無いということなのか?

 さらに調べると本家のボタン海老は漁獲量が少なく、トヤマエビが名前を乗っ取ったと言う話さえ出てくる。トヤマエビが自分で名乗るわけはないので、何か入れ代わりの経緯があるんだろうなぁ。トヤマエビと言うが富山より北海道の方が量は多いという話も有る。「ボタンエビ」にも会いたいが、今回はおそらく標準和名「トヤマエビ」の「ボタン海老」が主役、もうイライラしている方もいそうなので本題に進もう。

 今回は噴火湾産である。かつてまだ修行時代に師匠から市場で勉強するように言われ、その市場で出会った春がこの『ボタン海老』だと想い出を石井シェフは語ってくれた。そんな想い出の食材をどう調理しているか早速見せていただこう。

 

 

 『 噴火湾ボタン海老と春野菜の一皿 』  

  なんとも春らしい色使いの一皿である。そら豆に菜の花、ホタテにウニ、マーシュ、クレソン、ペリカンマンゴー、芽ネギ、ディルにエディブルフラワーそしてボタン海老。素材を殺さぬように「ギリギリの足し算」であるイギリスのマルドンの海塩。あまり見えていないのだが一番下に隠れているものがまた海を感じさせる。これは食べてのお楽しみ。
 ボタン海老の透き通った身と他のキャストを目で楽しんだ後は隠れたウニやホタテと野菜達、そしてボタン海老の歯ごたえと甘みをを楽しむことができる。1万円のコースの前菜であるこの一皿はコースのこれからの楽しみを予感させると同時に暖かな、華やかな春を感じさせるものとなっている。

 

  実は今回のテーマ設定で石井シェフは悩んでいた。
越冬キャベツをテーマにしようかと考えつつ、これは旬のページで登場済みの食材である。考えた上で雪が多かった冬を想い、暖かさに憧れ、春を具現化した一皿を選んだ結果がテーマの「ボタン海老」であった。一方、雪融けのこの時期、まだまだ野山は残雪と土の色で緑や花には程遠い。憧憬ではなく現実を絵にしたものがもう一つの皿なのである。話を聞いてしまったからには両方を見せてもらいたくなり、お願いの上、撮影させてもらった。

 

 『 和寒産・越冬キャベツと平目、蛤 』
  雪に覆われた畑をイメージして

 写真では見えないが、一番下に牛蒡のピューレを大地に見立て、その上に平目と蛤とキャベツを乗せ、牛乳の泡を残り雪に想わせている。牛蒡のスライスはまだ芽の出ぬ立ち木のようだ。
 焼いてから蒸している平目に、これまた蛤と一緒に蒸したキャベツ、このキャベツの甘みと蛤の旨味がウ〜ン、すごい。大地と海の授かりの力だ。今度の塩味は羅臼の深層海水塩、生クリームとレモンの酸味が加わったこのスープ、ゆっくりゆっくりと移り変わる季節を思い出した。そろそろ山の木々も萌葱色にゆっくりと変わっているだろうか。

 

 

 

 

先月から旬を伝えてくれるのはシェフ 石井 誠 氏 「レストラン ル・ミュゼ」のシェフである。2005年夏にオープンしたこのお店の空間は、シェフとシェフの想いをくみ取った建築家の仕事を見ることができる。
ソムリエでもあるシェフ
石井 誠 氏は専門学校で料理を学び、国内のホテルに勤務の後、フランス、イタリアを放浪、スペインで厨房に立ち、帰国後イタリアンのお店を経てエノテカの料理長となる。もともと体育・美術・技術が得意な学生であった石井氏、エンジニアの家系であったが突然変異なのか高校後の進路を料理の世界にしてしまう。料理を「表現すること」と考え、渡仏時期にルノアール、ゴッホ、マティス、シャガールなど多くの画家のアトリエを訪れる。美術の分野で生の文化に触れ、ゆっくりとした思索の時間を海外で持った石井氏、今は日々の料理に「絶対美」を反映させるべくひと皿ひと皿に向かっている。フレンチの技法をベースにしながら捕われず、縛られずに『石井』の料理を作る毎日なのである。その自由さ(石井らしさとでも言えようか)が日本古来の野菜を素材に使ったり、食材の持つ『美しさ』を皿に導くという心掛けを生んでいる。

 登場した料理 『 噴火湾ボタン海老と春野菜の一皿』
 こちらは10000円のコースの前菜。
 もう一つ『和寒産・越冬キャベツと平目、蛤 : 雪に覆われた畑をイメージして』
 こちらは7000円コースのお魚料理。
 予約をしてお楽しみを

 

 

 

 

 

 

   住所  札幌市中央区宮の森1条14丁目3ー20

   電話  011-640-6955

 営業時間  ランチタイム  11:30〜14:00ラストオーダー
       ディナータイム 18:00〜21:00ラストオーダー

  定休日  第1、2日曜日、第3、4月曜日

   URL  http://www.musee-co.com/ 

 

 

 石井シェフがライフラインと考えているという片岡さん、お店のマネージャーである。シェフの料理に惚れ、お店の立ち上げから参加しているサーヴィスのプロである。テーブルセットではクロスの一枚一枚にアイロンをかけ、やがて訪れるゲストを想いながら丹念に仕事をしている。「彼女の接客が好きで料理がおまけと思っているお客さまもいる」というシェフのお話にも頷ける動きである。

 

 

 

 

 

   
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 陶芸家 中村裕氏の作品が店内に。
 そのグラデーションは遥かな山の稜線を想わせる。
 ミュゼで実物をどうぞ