今月の旬

 

54回目の今月の旬、
これからも料理人の仕事と季節の風をお届けします。

今月もレストラン ル ミュゼよりお送りします。

 

 2006年 4月のテーマ 「 菜花 」

 今月は「菜花」がテーマ、もう春そのものである。
年も明けると野菜売り場には「菜花」が並ぶ。きっと南の暖かい方のものなんだろうなと眺めながらパスタに合わせたり…。
北海道でも栽培が盛んな地域がある。時期には一面、黄色の花が広がる。滝川市周辺は2004年に170ヘクタールもの作付けを誇る。この面積、日本で一番らしい。2000年から生産者と市民有志からなる実行委員会の手で「菜の花フェスタ」も開かれている。
 この菜花、種類がある。もともとは奈良時代より前に伝播した在来種、この他に菜種油を絞るために現在主流の西洋種。その若い葉とつぼみを食用にするのが「菜花」、「菜の花」。アブラナ科アブラナ属で「野沢菜」「小松菜」「白菜」「チンゲンサイ」も仲間だそうだ。普段からいっぱいお世話になっているのかぁ。
 で、「菜花」のお話。1970年代琵琶湖を中心に洗剤などの生活排水に起因する水質汚染をどうにかしようと、洗剤ではなくせっけんを使用することで排水の改善が試みられた。その後、有機リンを含まない洗剤が主流になることでせっけん利用が低調になるが、菜種を中心としたリサイクルの動きは全国的な展開を迎えている。菜種の栽培は蜜蜂の生活を支え、油は料理に使われ、油の搾りかすは肥料になる。使用した油はBDF(バイオ ディーゼル フューエル)として化石燃料にかわる燃料としてもう一度利用される。先日札幌市内でもこのBDFを使用した車を見かけた。愛車のビッグホーンでも使えるのかなぁ、窒素酸化物とか粒状性物質なんかはどうなんだろう、気になりますなぁ。使ってみたいなぁ…
 また話があっちこっちに飛んでしまった。野菜売り場で見かける「菜花」「菜の花」これらもまた種類がある。菜花、心摘菜、かぶれ菜、宮内菜といろいろ。古くから身近な野菜で、日本のものと思い込んでいた。確かに歴史は古く、普段はお浸しや辛し味噌での和え物で食べることの多い「菜の花」だが、洋食での扱いは和と洋の合体だと。渡来して来たもので、他の地でも栽培の歴史のあるものであればパスタに使われても、他の料理に登場しても何の不思議もない。世界ではどのように栽培され、どのように調理されているのだろう。なんだか古くて新しい野菜という感じがする。石井氏はこの「菜の花」をどう調理するのだろう。滝川の産という素材を見せていただいたところ、普段目にするものと少し違い、図鑑で見る「宮内菜」の種に近いようだ。さぁこの「菜花」、どんな料理になるか早速見せていただこう。

 

 

 

 『 滝川産菜花と旬の魚貝 』 
        その香り高い菜花のエッセンスを添えて 

 先月に続き、これまた春を感じさせる一皿に仕上がっている。塩茹でした「菜花」にソテーしたアワビ、ホタルイカ、ツブ、ホタテを合わせている。ソースは普段お目にかかる方の「菜の花」をミキサーにかけてほろ苦さを演出。種による苦味の差を使い分けることでバランスを計っている。ソースの緑の爽やかな色目が、木々の芽吹き・成長を思わせる。あしらわされた菜の花の花びらがこれから咲くであろうレンギョウも連想させる。余計な言葉は必要無い、視覚から見た者の春のイメージを引き出すのだ。
 
口に運ぶとキャベツとも違うホウレン草とも違う甘みと青っぽさが広がる。この「菜花」、良く見るものより渋みが少なく甘みが強い気がする。初めて体験する「菜花」である。おや?全体を滑らかに覆っているものは…。極上のオリーブオイルのようにサラリとして、爽やかな香りがする。その実体は「なたね油」。今回の素材「菜花」の生産者である滝川の中野さんの手によるものである。その名は「北海道、滝川のなたね油 育てて搾った中野の気持ち」。今回の「菜花」も初めてならこんなにサラッとして香りを楽しめる「なたね油」も初めてである。あんなに小さいなたね、収穫も搾取も手間がいっぱいかかるのだろうと、どれだけ作付けすれば搾るほどのなたねが採れるのだろうと考えてしまう。料理の奥の生産者を感じる一皿でもある。
 「菜花」の青み、甘みに、ソースの苦味、魚貝の旨味、塩味と見事にバランスを考えた皿。この後に続く料理に期待を感じさせる、前菜の役目を見事に果たしている。取材には酷だ、次の皿はないのだ。

 

 

 

 

 

 

えっ?今月も?もう一つ?嬉しいじゃないですか
ということで、歓迎、歓迎、二皿目も撮影!

 

『 襟裳短角牛頬肉と竹の子のブイヨン仕立て 蕗の薹のベニエ 』
  待ちわびた春、その印象的な香りをイメージして

 こちらは運ばれた器に熱いコンソメがかけられる。春雨が雪を融かすかのようなつくりである。フリットにした蕗の薹に竹の子、それに酸味のあるブイヨンで煮込んだ短角牛のホホ肉、その上には牛乳の泡。ホホ肉、蕗の薹の香りに竹の子のシャキシャキ、石井氏曰く北海道の大地の香りである。食べているとコンソメにも蕗の薹の移り香を感じ、視覚と同じように早春を満喫する出来る。ホホ肉ももちろん柔らかく、主張過ぎずに美味しさを楽しませてくれる。口にした後、ホホ肉のゼラチン質をふと口元に感じ、蕗の薹の苦味が心地よい。
 美味しいものは美味しいで良いのだが、季節を感じ、素材の生産者や料理の作り手の情熱を感じる料理はまた格別。生命としてのエネルギーを得るだけでなく、広く生きるということの衝動をかられる食事は他に比べることが出来ない。身体も心も元気になる。
 ごちそうさまです。

 

 

 

2月から旬を伝えてくれるのはシェフ 石井 誠 氏 「レストラン ル・ミュゼ」のシェフである。2005年夏にオープンしたこのお店の空間は、シェフとシェフの想いをくみ取った建築家の仕事を見ることができる。
ソムリエでもあるシェフ
石井 誠 氏は専門学校で料理を学び、国内のホテルに勤務の後、フランス、イタリアを放浪、スペインで厨房に立ち、帰国後イタリアンのお店を経てエノテカの料理長となる。もともと体育・美術・技術が得意な学生であった石井氏、エンジニアの家系であったが突然変異なのか高校後の進路を料理の世界にしてしまう。料理を「表現すること」と考え、渡仏時期にルノアール、ゴッホ、マティス、シャガールなど多くの画家のアトリエを訪れる。美術の分野で生の文化に触れ、ゆっくりとした思索の時間を海外で持った石井氏、今は日々の料理に「絶対美」を反映させるべくひと皿ひと皿に向かっている。フレンチの技法をベースにしながら捕われず、縛られずに『石井』の料理を作る毎日なのである。その自由さ(石井らしさとでも言えようか)が日本古来の野菜を素材に使ったり、食材の持つ『美しさ』を皿に導くという心掛けを生んでいる。

 登場した料理『滝川産菜花と旬の魚貝』、『襟裳短角牛頬肉と竹の子のブイヨン仕立て 蕗の薹のベニエ』は7350円のコースの前菜と肉料理である。
 期待いっぱいで御予約をどうぞ
 

 

 

 

 ここでお薦めのワインを
「ドメーヌ ド シャソルネイ サンロマン コンブバザン 2002」
作り手はフレデリック コサール氏、有機栽培の無ろ過のワインである。
石井氏は帰国してからソムリエの資格を取得、同時期にワインショップエノテカのレストランで料理長に就任。この時代にさらにワインについての感覚を磨いた。
クリアなワイン、素材の味、葡萄の本質を感じるものを好むという。このワインもクリアで力強く、香が高くプライヴェートでその素晴らしさを感じたそうである。今、気に入っているワインのひとつらしい。取材中は飲める環境になかったのだが(ピントが合わなくなるので)これは気になる。強いという香りを、力強さを感じてみたい。きっと取材中に石井氏が語っていた「大地の本質」がわかるんだろうなぁ

 

    住所  札幌市中央区宮の森1条14丁目3ー20

    電話  011-640-6955

  営業時間  ランチタイム  11:30〜14:00ラストオーダー
        ディナータイム 18:00〜21:00ラストオーダー

   定休日  第1、2日曜日、第3、4月曜日

     URL    http://www.musee-co.com/ 

  

   
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 陶芸家 中村裕氏の作品が店内に。
 そのグラデーションは遥かな山の稜線を想わせる。
 ミュゼで実物をどうぞ