今月の旬

このページも78回までやってきました
これからも北海道の旬を料理人の心と一緒に届けます
「 magari 」(マガーリ)からの8回目
宮下輝樹氏ご好意により12回・1年の長期連載になります
ゆっくりとお楽しみください
 

 2009年 3月のテーマ 「 牡蛎 」

 

 今回のテーマは「牡蛎」、78回で4回目、最多登場の素材である。
 実は牡蛎のリゾットを家で作りお腹を壊した事がある。
一晩中苦しみながらトイレの前で過ごした。
それ以来、妻は牡蛎料理を作ってくれない
リゾットは途中まで私が作っていたのだが、手際の悪さに見かねて妻が手を貸してくれたので、私が腹を壊したのを見て罪悪感から二度と牡蛎料理は作らないと決めたのだそうだ。
正確には私のいるときに牡蛎料理を作らない、ということでロケで出張などすると妻と子供はカキフライなどで舌鼓を打っている。
今では完全復帰で牡蛎料理を食べるのだが、これはもっぱら外での出来事。
たまに「牡蛎鍋にしない?」「カキフライ、いいねぇ〜」と誘っても完全却下
さみしいですな、いろいろあったけど牡蛎、本当は大好きなんです〜
そういえば過去にもカキフライ弁当で苦しんだり、元気をつけようとスーパーで殻付き牡蛎を買い駐車場の車の中で食べて直後に具合が悪くなったり、小料理屋で牡蛎の酢の物を食べて腹痛を起こしたり、あれれ、本当にいろいろあるなぁ〜、まぁその何倍も食べて楽しんでいるわけなので、どうしてかは私にもわからない。
おそらくは体調が良くない時に力のある食材・牡蛎を取り込んで、その力に負けているのじゃないかと考えている。ニンニクでも負けちゃって眠れなくなる事も、外見に似合わずデリケートなところがあるのだな。
小樽の伊勢鮨で食べる牡蛎の握りも絶品だし、和食のお店でいただく土手鍋もサイコー、厚岸で食べた牡蛎ラーメンも面白かったし。ということで大好きだけどなかなか逢う事の出来ない牡蛎がテーマ。前置きが長過ぎで失礼。
簡単に牡蛎の復習を。
カキ・マガキ、イタボガキ科で、この科には夏が旬のイワガキ、大型になるイタボガキ、スミノエガキなどがある。マガキの産地は広島、宮城、岩手などが有名、北海道では厚岸、佐呂間、知内などが産地として知られている。旬は秋から冬で、この時期は養分を蓄えて美味しいとされている。春からは産卵期で食用は避けられているのだが、厚岸では低温環境を活かして通年出荷されている。
牡蛎にはグリコーゲン、タンパク質、タウリン、鉄分が多く含まれ、疲労回復などに効果があるようだ。グリコーゲンは直接ブドウ糖に分解できるエネルギーとなり、牡蛎はこれらの栄養に富んでいるため「海のミルク」と呼ばれている。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牡蛎の蘊蓄はここまでにして、牡蛎の行方を追って見よう。牡蛎はどんな一皿になるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

  

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『 カキえもんと春菊のトマトソース 』
 「カキえもん」とは北海道、厚岸のブランドである。通常は三陸の稚貝を購入して厚岸で育てるのだが、カキえもんは生まれも育ちも厚岸産。三陸生まれ厚岸育ちに比べ見た目は小さく厚みがある。厚みがあるためにプックリしている感じだ。少々小さめだが逆に味は濃く、火が入っても小さくなる率は少ない気がする。
 宮下氏が使うカキえもんは厚岸の中嶋均さんのもの。そもそも厚岸はアイヌ語でアッケケシ・牡蛎の多い所という言葉からその名がついたという土地。別寒辺牛川から大地のミネラルを多く含んだ水が流れ込む厚岸湖、つながる太平洋に面する厚岸湾からは豊かなプランクトンがもたらされる。この自然がアッケケシの名を産んだのだが、近年は乱獲と森の荒廃で天然のものがいなくなってしまうほどになったという。そこで地元の牡蛎養殖家が植林を始め、シングルシード方式など厚岸生まれの牡蛎養殖も研究され今日に至っている。中嶋均さんはその先頭に立った方で、今でこそ「森を育てる漁業」は当たり前のように語られるが、始めた時は変わり者扱いされたと聞く。採苗方式からシングルシードと呼ばれた厚岸生まれの牡蛎のブランド名が「カキえもん」である。
 食材と会話をする宮下氏、中嶋さんの牡蛎をこう語る。「味わいは濃く、でも繊細、エグ味もなく、旨味が集まっている」養殖家の育て方で味が変わる牡蛎、納得する牡蛎との出会い、そして生まれる料理、一皿に込められる想いや時間は、もの凄く長く熱い。
 さてさて、その一皿の完成までを見てみよう。今回は手打ちのパスタである。全卵と卵黄、00番と強力粉を均等に混ぜ合わせ真空袋に入れる。(日本ではタンパク質含有量で強力粉、中力粉、薄力粉と分けて使われているが、イタリアでは製粉の精製度で分類されている。精製度の順に番号がつけられていて、00番は外皮の含まれる量が低い一番精製度が高い小麦粉)
 真空袋に入れず手で捏ねると空気に触れて酸化して生地が黒ずむ。真空にして時間をおく事で水分が粉に均等に行き渡り馴染むのだそう。また使用する直前に捏ねを兼ねる伸ばす作業をする事で弾力ある食感を生む事が出来るとも語ってくれた。道具を使った効率的な手打ちパスタだ。
 牡蛎は殻から外し、殻の中の汁は別に取り置きさっと洗い粗く切る。粗く切るのはパスタに絡む大きさに。一方でオリーブオイルを入れたフライパンで丁寧にニンニクを素揚げしオリーブオイルに香りを移す。抜け殻のようになったニンニクを取り出し、鷹の爪、フルーツトマト、牡蛎、牡蛎の汁を加え加熱する。茹で揚げの時間に合わせソースを完成させ、湯切りしたパスタをソースへ、火を止めたあと余熱だけで春菊に火を通す。
 出来上がりは牡蛎が強烈に主張するわけでもなく、ニンニクもうるさ過ぎず、素材それぞれの仲の良いバランスを感じる。春菊の苦みや、トマトの酸味や甘み、牡蛎由来のコクや鷹の爪の余韻の深い辛み、どれも感じつつ突出していない。牡蛎だけ食べる楽しみとは全く異なる、素材が合わさった楽しみがある。ごちそうさま。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『 リコッタチーズのニョッキ
        タケノコソース 』
 このニョッキが旨い、驚いた。食感も香りも普通とは違う。宮下氏、これもこの時期しか作らないという。「越冬したジャガイモが美味しいんですよ〜」なるほど。先日の仕事で越冬したメークインの実力を実感した直後だけにもの凄く納得した。
 収穫期を見極め、温度を管理して越冬させたジャガイモは驚くほど旨さを増す。「インカの目覚め」などの新しい品種ではなくてもその甘みは驚くほどだ。スーパーで日が当たり緑化しかかったジャガイモの味気なさには戻れない。早く美味しく食べるために遮光袋でジャガイモが売られないだろうか。
 今回のジャガイモは「ユキラシャ」色白自慢のジャガイモだ。リコッタチーズを裏ごしして滑らかにして、茹でたユキラシャも裏ごししてロディジャーノチーズを加える。小麦粉はジャガイモのデンプン質の量を見ながら判断。こうして野暮ったくない洗練された感のあるニョッキが出来上がる。ソースはソテーしたタケノコに鶏のブロード。
 タケノコが北海道の産物ではないので、おまけのようにこの場に位置しているが、越冬ジャガイモをテーマに旬のページを飾っても良い一品だ。九州の筍だろうか、まだ春にはちょっと早い北海道に季節の訪れを運んでくれた。滑らかなニョッキと筍に感謝。
 

 

 

 

『 カキえもんと春菊のトマトソース 』、『 リコッタチーズのニョッキ 筍ソース 』はどちらも2000円
いずれも牡蛎の入荷、越冬したジャガイモの状態、筍の入荷などによるので確認が必要、要予約です。
イチゴの季節だそうで、取材時に magari でいろいろイチゴを出してくれた。
左は1パック500円のさちのか、真ん中は1個700円の徳島のももいちご、右は1個150円のさちのか。
右のさちのかは由仁町のはた農園のもの、水っぽくなく甘く、酸味も程よくもの凄く旨い。
ももいちごは1個食べたらお腹いっぱい。
1パック500円でも贅沢だ〜
イチゴひとつも凄い、みんな頑張ってますなぁ〜
 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 「magari」は2006年9月にオープンしたイタリア料理のお店である。シェフは宮下輝樹氏。道東の幕別出身、幼いころから料理が好きで、19才から本格的に料理の道を歩みだし、テルツィーナの堀川さんと出会う。もう7年も前、テルツィーナ時代の2002年にこのページでも登場してくれたのだ。あれからまたイタリアでの修行、東京・アロマクラシコ、札幌・クレシェンテなどを経て magari のオープンとなる。
 常に素材に着目していて、電話をしたら襟裳町だったりニセコ町だったりと産地へ実際に足を運び、生産者との会話を大切にしている。この想いは一皿一皿に現れ、お店を訪れる人を楽しませる。宮下氏の料理をする時の楽しそうな顔がとても印象的である。
 その日に入荷した厳選素材で組み立てるコース、旬のおまかせコースは5500円、8000円から(2名様より)
 
    住所  札幌市中央区南11条西20丁目2−26
    電話  011-552-8172
  営業時間  ランチ  11:30〜14:00
         ディナー 18:00〜21:30
   定休日  火曜日  

 

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