日本の伝統野菜 その2  なす      

なす(茄子)、 学名: Salanum melongena、 英名: Aubergine、 Eggplant

  ナスの原産地は、インド東部という説が有力だが、タイの可能性もある。原種とされる野性種が、まだ特定されていない。インドや東南アジアには変化に富んだナスが見られ、果皮の色も紫だけでなく、緑や白、黄、赤、斑入りなど、様々である。熱帯地方では多年生で樹のようになり、日本でも温室で育てれば何年でも実をつける。えこふぁーむでも、今年は通販で色々なタネを仕入れ、イギリス(下記注*)からは鮮やかな赤の品種、国内では大和農園から緑と薄紫の品種のタネを手に入れた。
 ナスは5世紀には中国に渡り(「斎民要術」)、日本にも8世紀には伝わった(「正倉院方書」)。ヨーロッパに伝わったのは13世紀頃である。日本では、もともと奈須比(なすび)と呼ばれていた。初夢に見るとめでたいとされる順番に「一富士、二鷹、三なすび」という言葉があるが、江戸時代から、ナスは促成栽培が試みられ、高価に取引されたことから、そのようなことわざが生まれたらしい。「秋茄子は、嫁に食わすな」ということわざも大変有名だが、あまりにおいしいので嫁いびりに言っているという説と、アクが強いので体を冷やす、または秋ナスにはタネが少ないことから、嫁の体をいたわり、孫の誕生を願う意味だという説などがあり、はっきりしない。ヨメというのはネズミのことなのだという説まである。いずれにしても、それ自体、味の淡白なナスは、日本の食卓に欠かせない野菜であり、煮てよし、焼いてよし、漬物には最高だし、油にもとても合うので、ナスの揚げ煮なんか絶品である。
 ナスの在来品種は、九州から東北までたくさんあるが、基本的には南西日本がナガナス(長〜大長)、関西から関東がセンナリナス(卵型〜中長)、東北がマルナス(丸、小丸)であり、これは中国でもそれぞれ華南系、華中系、華北系と全く同様に対応している。ナガナスには北方系のもの(南部長〜岩手、川辺長〜秋田、仙台長〜宮城)もあるが、南方系の博多長久留米長ほどは長くない。中国南部にはヘビナスという50pを越えるような極めて長いナスもある。また、マルナスも東北だけとは限らず全国に少しずつ存在し、京都でも有名な大型マルナスの加茂ナス(大芹川)や、小ナスの椀木などがある。他の種類(亜種)としては、紫の色素ナスニンの欠けたアオナス(中国三尺など)があり、これは花も紫でなく白い。ヨーロッパには、シロナス(タマゴナス)という葉緑素もないナスがあり、Egg plantというのもうなずける。また、最近スーパーなどでも時々見かけるベイナス(アメリカオオナス)は大きくなると1sを越える卵型だが、へたが紫ではなく緑で、普通のナスと違い、茎も緑色をしている。耐病性台木として利用されているアカナス(ヒラナス)は、ナス科ナス属の別種で、他にナス属の作物としては南米原産で果物として利用されているペピーノがある。ナス属以外のナス科の作物にはトマト、ピーマン(トウガラシ)、ジャガイモ、タバコなどがあるが、すべて南米原産であり、ナスだけがアジア原産なのも面白い。
 現在、在来品種は市場に出回らなくなり、ほとんど全国共通のF1品種(自家採取不可能な種苗会社の独占品種)になってしまっているが、日本でナスのF1品種が登場したのは思ったより古く大正時代のことで、埼玉県農業試験場にて作出されている。F1品種の主なものはナガナスでは黒陽、筑陽、センナリナスでは千両、くろべえ、米ナスではくろわし等がある。センナリ系の在来品種はほとんど姿を消しているが、関東の真黒、奈良の千成、中長型では愛知の橘田、兵庫の大市などがある。マルナスは、まだ在来種が特殊な用途のため栽培され、仙北丸(秋田)、魚沼巾着(新潟)、小丸ナスでは民田、出羽小ナス(山形)などがある。

前回『 かぶ』の補足


 ヨーロッパではルタバガ(スウェーデンカブ)というものが食べられていると書いたが、実はアイヌのアタネは、正確にはカブ(Brassica napa = ナタネ、アブラナ)ではなく、ルタバガ(Brassica nupus = セイヨウナタネ)だったらしい。東北地方に伝わる仙台カブ(地名の仙台とは関係なく、古くから伝わるので先代が語源ではないか)もルタバガらしいのだが、いずれも来歴ははっきりしない。明治7〜8年に政府が欧米からルタバガを導入試作したが、これは定着せず、もちろんこれよりはるか以前に西日本のカブとは別ルートで大陸より伝わったのではないかと考えられる。ちなみに染色体数(ゲノム)ではナタネがn=10、西洋ナタネはn=19である。近縁のキャベツ(Brassica oleracea)がn=9であり、西洋ナタネは遠い昔に東洋ナタネとキャベツが交配して生まれたものである。

*) 最近のガーデニング・ブームのおかげで、英国の種子が大変手軽に手に入るようになった。しかも日本のものより種類が豊富で価格も安い。コレクション・パックと言って5〜6品種が少量ずつ入ったものが500円くらいで手に入るので、家庭菜園にはもってこい。Thompson & Morgan(蓼科高原バラクラ、TEL: 266-71-5555)やMt. Fothergill's(アールスメール、TEL : 03-3760-2151)が、送料もかからず便利(カタログは有料)。後者は、殺菌剤も不使用で有機栽培にも最適。

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