異常気象と無農薬栽培
 
    5月末から7月末まで、作物にとって雨の欲しいこの時期に、余市の総雨量は2ヶ月間で数oというひどい旱魃だった。北海道でも道東は例年の倍以上の雨が降り、九州では台風と前線の影響により3日間で1000oも降ったというニュースが流れる中、どうしてこうも極端な気候になってしまうのだろうと、天を恨めしく思った。種まきしても芽が出ず、移植したハクサイも全部枯らしてしまった。一方で、無農薬で雨除けもないサクランボは、例年うまくいっても6月の末にちょっと採れるくらいだったのが、今年は7月の末までずっと採れて大豊作。こんなことは余市に来て15年間で一度もなかったことである。味もすばらしく、最後には糖度は何と30度を超え、サクランボにとっては最高の天候であった。
 8月に入ると、梅雨前線が北上し、やっと天の恵みの雨が降り、カラカラだった大地も息を吹き返した。作物も雑草も急に伸びだしたが、しかし今度は10日間こんな不順な天候が続き、ちょっとうんざりだった。梅雨がないことになっている北海道だが、これは間違いなく遅くて短い梅雨なのだった。
 その後は、北海道らしからぬ猛暑、珍しく熱帯夜などというものも経験し、寝苦しい日々が続き、例年は残暑などなく涼しくなるお盆を過ぎても、ずっと暑い日が続いている。このところ毎年のように異常気象でなかったことはないくらいだが、今年も全く天候には翻弄されっ放しである。
 そして、今夏の高温多湿は、とりわけ無農薬栽培が難しいとされる果樹栽培にとって、なかなか厳しい条件であると言える。比較的無農薬栽培に取り組みやすいブドウでも、ベト病が蔓延し始めていて、欧州種はほとんど収穫できそうにない。米国種はベト病に強いのだが、欧米雑種はやや弱く、ベト病に侵された粒を選んで落とす作業をしているが、今年は開花時期の天候のせいで、もともと粒のまばらな房が多く、何粒も残らない房もあり、かなり厳しい状況だ。べと病の特効薬というのもあるが、使うつもりはないし、ベト病予防に有効で有機栽培でも使用を許されているボルドー液(生石灰+硫酸銅)も、できれば使いたくない。せっかく途中まで面倒をみてきた果実の収穫をあきらめるのは忍びないし、ふところにも大きな痛手であるが、無農薬という信念を曲げるわけにはいかないし、農薬散布が畑の環境と自分の肉体にかける負担の大きさを思うと、頑張って農薬をかけようという気にはならないのだ。
  うちでは、そのためにブドウもかなりの品種を作ってリスクを分散している。また、他にも様々な果物を作っているが、これもリスク分散という意味合いもあってのことで、今年もプルーンや洋梨はほぼ全滅だが、農薬をかければ助かることは分かっていても、他の作物があるので収穫をあきらめている。幸いにして、今年はサクランボが例年になくたくさん採れたので、何とかしのげそうである。
  無農薬栽培というのは農薬を使わない分、相当に手間(というか愛情かな)をかけなくてはならない。まず、何と言っても作物を健康に育てなくてはならないので、何年もかけて土作りをする。そして、雑草や害虫が大きな被害をもたらさない程度にコントーロールできる生態系を作って行かなくてはならない。そのためには、たった1回の農薬散布も何年もの苦労を無にする行為であり、低農薬とか減農薬ということはできないのである。
 傍から見れば、うちの畑は雑草だらけ、虫や病気もあちこちに目立ち、無農薬・有機栽培というよりも、無管理・放任栽培と見られるかもしれない。しかし、私はできるだけ不要な労力をかけず、作物が自立して育つ自然農法が理想だと思っている(というより人手やお金が足りないだけか?)。そのためには、あえて雑草も生やすし、害虫にも少し(でもないか!)は収穫物を分けてやるのである。雑草や害虫にも、生きる権利はあるのだし、それを皆殺し(ジェノサイド)にする栽培方法を採るつもりはない。どんな生命にも、存在する意味がちゃんとあるのであり、神様は必要のない生命は創らなかったと信ずるからでもある。

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