世界を変えるオーケストラ!(Web用拡大記事)
 
      シモン・ボリヴァル・ユース・オーケストラがすごい。昨年暮れには初の来日公演もあり、圧倒的な感動を人々に与えたようだ。私は今まで、このオーケストラの存在をうかつにも知らなかったのだが、つい最近インターネットで知り、You tubeに多数投稿されている演奏や、ニコニコ動画に投稿されたNHK放映のドキュメンタリーなどを見て驚嘆し、そしてこのオーケストラの成り立ちを書いた「エル・システマ」(山田慎一著 教育評論社2008.12.)も取り寄せて読んだ。
 オーケストラには、こんなにすごい力があったんだと、改めて勇気がわいてくる。このオーケストラは、ベネズエラの子どもたちを貧困や犯罪から救うために始まった「エル・システマ」という音楽教育システムの30年に及ぶ成果なのだが、その演奏は世界一流の音楽家達をうならせ、彼らは今や世界で最も注目される指揮者になったドゥダメルと共に世界中を演奏旅行し、今までクラシックなんて面白いとも何とも思っていなかった人たちが、その音楽のレベルの高さや情熱の力に感動している。そして今や世界中の国々が、このような音楽教育によって社会が救われ平和に寄与するものであるということに気付き始め、政策としてこのシステムに注目するまでになっているのである。
 私にも夢がある。ベネズエラにシモン・ボリヴァル・ユース・オケがあれば、日本には北海道農民管弦楽団がある! と言われるようにしたいのである。これは壮大な夢だが、そのためにはやはり、「エル・システマ」と同じような教育の場というものが必要であるし、何としても農民芸術学校を作らなくてはならない、という思いを改めて抱くのであった。

以下は「オーケストラは人をつくる」という、ドキュメンタリーをインターネット動画サイトで観ての感想(ブログ記事の転載です)

 標題のドキュメンタリーは、2005年にベネズエラで制作されたもので、30年も前にこのユース・オーケストラを創り育てたアブレウ氏の日本向けのインタヴューを導入部に追加して、2007年にNHKのBS−2で放映されたようである。私は、それをうかつにも知らなかったのだが、ネットサーフィンしていて動画サイト「ニコニコ動画」で見つけ、非常に感銘を受けた。ベネズエラと言えば、最近は先住民出身のチャベス大統領がラテン・アメリカにおける反米の旗頭として頑張っているなとか、ミス・ユニバースを輩出する美人の国というイメージくらいしかなかったが、こんなすばらしいオーケストラがあるのとびっくりするので、ぜひ多くの人に見て欲しいと思う。
 アブレウ氏は1975年に、たった11人の貧しい家庭の子ども達を集めてオーケストラを始めたのだが、彼の始めた活動は大きく実を結び、今ではベネズエラ全土に200ものジュニア・オケとユース・オケがあり、29万人もの子ども達がオーケストラ活動をしているのである。そして、貧困の中で麻薬におぼれたりしていた子ども達が、生き生きと喜びに満ちて学び生活するようになり、このオーケストラによる教育システムはラテン・アメリカ中にも広がり、今やヨーロッパでもこれに習うところが出てきているようである。アブレウ氏の掲げたモットーは「奏で、闘う」という力強いものだ。彼は、「闘わずに、望みはかなわない。」と言い、私もその言葉に勇気付けられる。彼のオーケストラの創立メンバーも、「やればできるのだという確信を学んだ。」、「愛と信念に基づいた活動だった。」と口々に語る。
 文化大臣も務めたというマエストロ・アブレウ氏の数々の言葉は、余りにも感動的であるが、このオケでマーラーの「復活」を振ったベルリン・フィル指揮者のサイモン・ラトル氏に至っては、「マーラーに見せたかった。いや、見ていたかもしれないな。」と語り、「このオーケストラは平和のための活動であって、音楽の未来にとって最も重要な活動である。」とまで言い切っている。また、「オーケストラが人生を豊かにするだけでなく、人生を救っている。」とも言う。ラトル氏は、「音楽は、自己完結するものではなく、常に何かのために存在する。」と語っているが、本当にそうあるべきだ。それにしても、1000人を超える大編成のユース・オーケストラがマーラーやチャイコフスキーの難しいパッセージを一糸乱れぬアンサンブルで演奏する姿には、圧倒される。アバドもシノーポリも喜々としてこのオケを振り、ドミンゴに至っては子どもたちが歌うヘンデルの「メサイア」のすばらしさに涙を流している。
 実はこのような驚異的な教育システムは、日本のヴァイオリン指導者である鈴木慎一氏のメソッドに習ったものである。鈴木氏は、才能は誰にでもあるのだということを、そのシステムで証明してみせたし、彼の弟子から多くの優れた音楽家も生まれている(前回のブログ記事でも触れたように)。
 ラトル氏は、子ども達の上達が速いのは「他人を批判するという習慣がなく、ミスをとがめるのではなく笑い飛ばしてしまい、お互いが励ましあって成長するからだ。」と言っているが、うなずけるものがある。
 それにしても、白人・黒人・インディオの混血で人種のるつぼと言える様々な顔が、こんなに楽しそうに演奏しているのを見ると、世界はもっと平和になれるはずだ、と確信する。一方で、コンピューターゲームや携帯電話でヴァーチャルな世界に閉じこもる現代日本の子どもたちは可愛そうであるし、もっと生身の人間のぶつかり合いを取り戻さなくてはならないと思う。
 アブレウ氏は言う。「オーケストラとは、合意することを前提に集まった共同体である。協調の中に生きる方法を見つけ、一人が全員に、全員が一人に責任を持つ」と。また、「音楽は、結束や調和、思いやる心を伸ばし、気高い感情を表現することで、社会の発展に寄与する」と。そして、「芸術は完璧を目指す。調和とか秩序、普遍的な視点とか、絶対的なものを」とも。また、「芸術は、意志と魂と精神を一つに融合させ、その結果、意味と価値が生じる」と、なかなか哲学的である。「芸術の世界でのみ、自らの存在の根幹を知ることができる」とも言う。
  今では、このオケから世界に羽ばたいた若き指揮者ドゥタトルが、シモン・ボリバル・ベネズエラ・ユース・オーケストラを率いて世界中で演奏活動をしており、昨年暮れには東京でもマーラーを演奏したそうです。のりとリズム感、情熱的な演奏はラテン系ならではのようで、you tubeでも、のりのりのアンコールが見られます。
http://www.youtube.com/watch?v=VS1tRoCAr-Q
http://www.youtube.com/watch?v=xlAaiBNCYU4

ニコニコ動画は、登録が必要ですが無料でできますから、ぜひ見てください。
その1(16分) http://www.nicovideo.jp/watch/sm3067028
その2(12分)http://www.nicovideo.jp/watch/sm3082316
その3(13分)http://www.nicovideo.jp/watch/sm3101348
その4 *残念ながら権利関係で削除
その5(10分)http://www.nicovideo.jp/watch/sm3133541
その6(11分)http://www.nicovideo.jp/watch/sm3153024

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