オーケストラの価値
 
    アマチュア・オーケストラには、どのような意義があるのだろうか? プロフェッショナルなオーケストラは、もちろん芸術的に高いものを追求している(はずである)。しかしながら、芸術としての音楽という意味でのクラシック音楽(バロックから現代音楽までを含む)の愛好者というものは、おそらく全人口の1〜3%くらいのものだろう。日本のように文化予算も一人当たり韓国の5分の1足らず(おそらくそれ以下)、欧米のようにお金持ちが文化・芸術に寄付する習慣もないとなれば、娯楽としての音楽であるポップス的なものもやって聴衆を増やさないと、経営的にはやって行けない。しかし、それは裾野を広げるということにはなっても、決して本来の目的ではない。聴衆を集めることが難しいような現代曲や、知られざる名曲も発掘して演奏することこそ、プロのオーケストラとしては、やるべき重要な任務と言えるだろう。
 では、アマチュア・オーケストラは、一体何のためにあるのか? 技術的に未熟でも、プロのオーケストラの真似事をして、自分達が楽しめればいいのだろうか? しかし、それだけでは聴衆にとっては、何の意味もないだろう。どうせお金を払って聴くのなら、プロのオケを聴きたいということになるからだ。アマチュア・オーケストラであろうとも、仮初めにもお客さんを集めてコンサートをやるのであれば、聴き手に感動を与える演奏をしなければならない。そうでなければ、人前で演奏するべきではない。
 所詮、技術的にはプロに敵わないのだからと、自分達が楽しむことを優先するアマチュア・オケもあるが、それは芸術としての音楽に対する冒涜であろう。だいたい、そういう甘い考えで音楽を真から楽しむということができるとは、とても思えない。
 しかし一方で、演奏する自分達が楽しむのだということも、とても重要なことなのである。アマチュアのくせに、このことを忘れて技術ばかりに走り、つまらない団体になってしまうオケもある。技術的には、そこそこな演奏をするかもしれないが、メンバーが非常に居心地の悪さを感じながら音楽をやっているようでは、何のための音楽なのか分からない。大体、音楽というものは、技術だけで聴いている人に感動を与えることなど、できないのである。プロのオケでも、ただそつのない演奏をしただけでは、聴いているお客さんは決して感動しない。一方、アマチュアの多少傷のある演奏であっても、大きな感動を与えてくれることは、決して珍しいことではない。音楽は心を伝える道具なのであって、技術はそのための手段に過ぎないのだ。肝心の演奏する側の心がすさんでいては、感動など生まれるはずはない。
 私が理想とするアマチュア・オケは、初心者の参加を拒まず、しかし技術的には高度なものを目指すという姿勢のオーケストラ。そして、本番の演奏では技術では図れない心のこもった演奏で聴衆を魅了させる。これは、口で言うほど簡単なことではないけれど、十分な練習を積み、また周囲に上手な人がいれば、下手な人でも段々と上手くなって行くものである。そこがアマチュア・オーケストラの大変面白いところでもある。大人になってから楽器を始めた人でも、何年かオーケストラに参加しているうちに、最初はほとんど弾けなかった難しいシンフォニーなんかも弾けるようになるようになることには、本当に驚く。
 今や日本は、欧米以外でクラシック音楽をやるには、最も恵まれた国の一つだろう。音楽大学だって山ほどあるし、首都の東京は、今やコンサートホールが世界で最もたくさんある都市になった。東京だけでも、プロのオケが10もあり、アマオケは数知れず、200以上はあるだろう。札幌のプロオケは1つだが、Kitaraという世界的にも知られた立派なコンサートホールがあり、アマオケは10くらいもある。農民オーケストラなんてものまである! 何十万人もの子どもたちが無料でオーケストラを学んでいるベネズエラを別とすれば、こんな国はおそらく世界中どこにもないだろう。
 もっとも、音楽の専門教育を受けても、プロの演奏家になれる人は、ほんの一握りに過ぎない。以前は、そういう人たちは、プライドがあるのかアマオケのことなど見向きもしなかったが、最近はアマオケにもそういう人たちが入るようになってきて、少しアマオケの水準が上がってきたのではないかと思ったりもする。
 音楽そのものの本質には、アマもプロも関係はない。それで飯が食えているかどうかだけである。音楽の本質を追求する姿勢は、アマチュアだからといって、プロに劣るということは決してない。もちろん、音楽だけに時間を費やすことはできないが、それは決して音楽にとってマイナスなことばかりではない。アマチュアだからこそできる音楽もあるし、農民だからこそできる音楽もあると信じている。
 音楽は、言葉のように具体的に何かを伝えるということは難しい反面、言葉の通じない世界の人たちにもストレートに思いを伝えることができるという、すばらしさがある。農民オーケストラの初の海外公演を控え、そんなことを少し考えてみた。  

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