農本主義とユートピア思想
 
 大分前にも述べたことがありましたが、かつて農業を中心とした社会を築くべきであるとする農本主義の考え方に、日本では皇道主義的な保守思想(特に宮沢賢治も傾倒した国柱会など日蓮宗系の思想)と、キリスト教社会主義的な大きな二つの流れがありました。前者には、源流を辿ればアジアモンスーン地帯で生まれた老荘思想の無為自然を重視する考え方があったと考えられますし、後者には乾燥地域の中にあって農業を発展させたユダヤ社会を支えた一神教の文化が根底にあると言えるでしょう。いずれにせよ、それらの哲学思想や宗教というものは、そのような自然状況下において、永続的な社会を維持して行くための大切な知恵であったのだと思います。そのような教えに反して、人類が文明を発展させ、その反動で様々な歪が生まれる中で、常に預言者的な人々が、農業に基づく永続的な理想社会を求めて発言し、また実践してきました。そのような人たちを、思いつくままに挙げてみます。

アッシジの聖フランチェスコ(1182?1226)エコロジーの聖人(ヨハネ・パウロ2世1980)、清貧と平和の思想
安藤昌益 『自然真営道』1753刊本 直耕、自然世
ジャン=ジャック・ルソー 『人間不平等起源論』1755 
ヘンリー・デイヴィッド・ソロー『ウォールデン〜森の生活』1854、『市民的不服従』1849
ロバート・オーウェン ニューハーモニー村(アメリカ インディアナ州)1825〜1828、ロッチデール先駆者協同組合 1844〜
シャルル・フーリエ 『家庭・農業アソシアシオン論』1833 ファランジュ(協同体)
レフ・トルストイ 農奴解放(1856〜1861)→トルストイアン、白樺派、非暴力主義(ガンディーらに影響)
二宮金治郎(尊徳)〜1856 報徳思想=農村復興政策・・・勤労、分度、推譲、開墾奨励で所得増、ヒエ栽培奨励で飢饉から逃れる
マハトマ・ガンディー アーシュラマ共同農園(南アフリカ 1913〜1915)、チャルカ(糸車)とインド独立(スワラージ)運動(1915〜1948)
武者小路実篤 新しき村(宮崎県日向1918〜→埼玉県毛呂山町1939〜)白樺派
有島武郎 狩太共生農場(北海道ニセコ町1922〜)白樺派
田中正造  足尾鉱毒(栃木県谷中村)で議員辞職・天皇直訴1901 野に叫ぶ清貧、獄中で聖書に親しむ
江渡狄嶺 百姓愛道場 (東京都世田谷区1911〜)『百姓道』キリスト教アナキズム
石川三四郎 『近世土民哲学』1933、キリスト教アナキズム、農民自治会 1924〜 日本アナキスト連盟 1946〜
内村鑑三 興農学園 1929〜1943(1933〜久連国民高等学校)→基督教独立学園高校(山形県小国町)、非戦論、無教会
権藤成卿 『農村自救論』1932 農本主義
橘孝三郎 兄弟村農場(1916)、愛卿会(1919)、皇道主義、超国家主義
加藤完治 日本国民高等学校 1935〜(→日本農業実践学園)満蒙開拓青少年義勇軍
石原莞爾 満州国協和会1932 五属協和による王道楽土 国柱会(日蓮系)
賀川豊彦 『一粒の麦』1931 日本農民組合 1922〜 日本農民福音学校1927〜1942 
黒澤酉蔵 北海道製酪販売組合1925〜(→雪印)、酪農学園1933〜(北海道酪農義塾→短大1950〜、大学1960〜)
小谷純一 愛農会、愛農学園1945〜(愛農根本道場→愛農学園農業高校1963〜)無教会派キリスト教
中島 正 『自然卵養鶏法』1980、『みのむし革命〜独立農民の書』1986、『都市を滅ぼせ〜人類を救う最後の選択』1994、     『農家が教える 自給農業のはじめ方』(農文協)2007
明峰哲夫 『ぼく達は、なぜ街で耕すか〜都市と食とエコロジ−』1990、『自給自足12ヶ月』1996

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