曲目解説 曲目解説
アントニーン・ドヴォルザーク(1841〜1904)  交響曲 第9番 ホ短調 作品95「新世界より」(1893)
    第1楽章 アダージョ 〜 アレグロ・モルト
    第2楽章 ラルゴ
    第3楽章 スケルツォ: モルト・ヴィヴァーチェ
    第4楽章 フィナーレ: アレグロ・コン・フォーコ
   以前は出版順で第5番となっていたが、現在は生前発表されなかった4曲を含め作曲順で番号が付けられ第9番となっている。クラシック愛好家ならずとも誰もが知っていて、現在でも最も頻繁に演奏される名曲中の名曲であるが、ベートーヴェンの「運命」のように、日本だけで勝手につけられた名称ではなく、ドヴォルザーク自身が題名をつけている。「新世界」とはもちろんアメリカ大陸のことで、彼は1892年51歳の時に、ニューヨーク国民音楽院の初代院長としてチェコから招かれた。彼は、ニューヨークという大都会で落ち着くことができず、しばしば田舎の開拓村を訪れ、黒人(アフリカ系)やインディアン(アメリカ先住民)の音楽、そして新しく生まれつつあった民謡(フォスターの作品等)に触れて心を強く動かされた。特に、それらの音楽に故郷のボヘミア(チェコ)と共通するもの(ペンタトニック=5音音階、主音や属音の保続音、シンコペーションなどのリズム等)を発見して感銘を受けたのだが、彼は単純にアメリカ民謡を引用することはせず、その特長を生かしたオリジナルの旋律を用い、この曲を書き上げた。そして、故郷への想いを込めた手紙と見立て、「新世界より」という題名を記したのである。
 この曲が多くの日本人に好まれている理由は、ペンタトニックが日本民謡に共通するということが大きいだろう。明治時代にアイルランド・スコットランド民謡などを取り入れて作られた唱歌や、昭和に入って作られるようになった演歌も、このような日本人に馴染みやすいペンタトニックを基本に作られたものが多い。こういったペンタトニックは、ヨーロッパの中でもアジアの血を残した民族(アイルランド、スコットランドに残るケルト人も、アジア方面から来た)の音楽に多く使われていて、アジア人である我々日本人に、しっくりくるのではないかと思う。特に、第1楽章の力強い短調の主題は、4つの音だけで(ラードミラー、ドーラファミラー)、第2楽章の有名な「家路」の長調の主題も、途中までは4つの音だけと(ミーソソーミーレドー、レーミソーミレー)、一度聴いただけでも簡単に憶えてしまう旋律である。一方、第3、第4楽章の一見粗野で舞踏的な音楽は、西欧主流の音楽に比べ、土臭い、泥臭いところもあるのだが、和太鼓の豪快なリズムにも似て、心臓の鼓動と直に共鳴するような、乗りを覚えるところがある。
 我々にしてみれば、この曲の持つ民族的なイメージは、日本人のアイデンティティーと共通する面が多い分、表現しやすいとも言えるが、もちろん異質な面も色々あって(特に付点のリズムは、モンスーン・アジア稲作文化の日本人には苦手である)、そこをどのように乗り越えて演奏するかが難しいところでもある。また、北海道農民管弦楽団としては、今回を含め11年の公演の中で、この曲を採り上げるのは3度目である。北海道という、日本の中で新しく開拓された「新世界」の大地からのメッセージとして、この曲に強い思いを込めて演奏することができれば幸いである。   

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