「貴重な自然からの贈り物を保護し、子どもたちに伝えていきたい」。一人の研究者の想いが共感を呼び、多くの人達を動かす。
北海道南西部の噴火湾に面した室蘭市。この街の太平洋側に続くイタンキ浜は、鳴り砂の浜として知られる。この鳴り砂を研究し、保護を市民活動にまで拡大させたのが、故寺地憲一氏。今も続く行政と住民の保護活動は、寺地氏の地道な活動から始まった。
寺地氏は、室蘭市内の中学校教師を務める傍ら、専門とする地質学や地方史研究に加え、模型製作や切手収集、ペン画など多彩な趣味に没頭。なかでも、製鉄所や学校、駅、観光名所、昭和初期の今は取り壊されてしまった建物などを〇・八ミリ以下の細いペンで詳細に描いたペン画は千点に及び、貴重な資料としても注目されている。
教職を退職後、科学館の指導員を務める傍ら、本来の専門である地質学の知識を生かして、ライフワークとして鳴り砂の研究を進めた。時には自分の足で現地に赴き、全国から鳴り砂のサンプルを採集した結果、イタンキ浜の砂に混じる石英は非常に良質・透明であることが判明。研究者はこの砂を「天使の涙」と名付けた。
鳴り砂は、砂の中に混じっている石英が擦れ合って、キュッ、キュッという独特の音がする。砂が鳴る条件は(1)汚れがないこと(2)程よい丸み(3)粒が揃っていることこれら3つが揃ったうえで、さらに砂が乾燥していなければならない。これらの条件が整うのは非常に難しく、例えば、海岸にゴミが増えると鳴らなくなるという。国内には三十箇所ほどの鳴り砂が確認されているが、市街地近くに鳴り砂があるのは、イタンキ浜だけといわれている。
鳴り砂の仕組みやその保護の大切さを、寺地氏は学校などを訪問し、子ども達に伝え歩いた。そうした活動がやがて、共感を感じた人たちを引きつけ、一九九七年に「室蘭イタンキ浜鳴り砂を守る会」の結成につながった。会員による清掃活動を年に十一回実施。そのうち三回は「鳴り砂観察と保全の日」として、市民も参加しての活動を行っている。
会設立当初は会員二十人で活動してきたが、現在では九十人前後にまで拡大。イタンキ浜のパトロールや清掃活動、各種講演活動といった地道な活動が実を結び、年々規模が大きくなっている。また、清掃活動も昨年は一度に百四十人も参加。なかには個人だけでなく、大学の寮生や企業単位での参加もみられた。さらに、道の条令に基づく「環境美化促進地区」にも指定された。
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