「だぁぁぁぁぁっ!!」

ギィィン!

少年の振り上げた刀は、相手の老人にしっかりと刀で受け止められていた。

「ふっ!」

ダンッ!

老人は、その外見からは考えつかないほどの速度で、少年の刃を滑らせるように体を移動、真後ろから上段蹴りを放つ。

クルンッ ドガッ!!

しかし甘かった。
少年はそれに対し、しゃがみながら足払いを慣行、老人に直撃させる。

「うぉ!?」

ドタッ

「はっ!!」

チャキン

そこに突きつけた刃が勝負を決めた。

「……強くなったな、優太くん」
「……なにかに打ち込んでいないと、壊れそうだっただけですよ」

優太と呼ばれる少年の言葉は、重かった。




SUNNY-MOON

第1話 Now Loading...



 彼、春原 優太(すのはら ゆうた)は、17歳、今は1人暮らしだ。
両親が爆発事故で死んでから4年…そして、彼女が行方不明になってから、1年…。



 優太の両親は昔、宇宙人にさらわれた、などという報道をされたことがある。
そのせいか周りからの迫害も多く、ついには原因不明の爆発事故により、その命を失う。



 その後、彼を支え続けたのはひとつ年下の少女、美月 彩音(みつき あやな)。
容姿は学校の中でも群を抜いていて、人気も高い。
性格もよく、料理、裁縫など、家事一般も得意。
優太自身、「俺にはもったいないなぁ」と言っていた程だ。
家が近所だったこともあってか、よく遊びに来てくれていたのだが、優太が両親を失ってからは入り浸るようになった。



 それでも、彼には意地があった。
「いつまでも、女の子に甘えているわけにはいかない」
昔、いじめを受けたときから始めた剣術にさらに力を入れ、そして……優太は彩音に告白したのだ。
「これからは、俺も彩音を守るから……だから、そばにいて欲しい」
……もともとは、断られるつもりで言った言葉。
しかし、返事は「…はい」
こうして2人は付き合うことになる。



 が、それも長くは続かない。
彩音が行方不明になったのだ。
優太が電話をした、その5分ほど後のことだった。
どこかから、誰かが侵入したわけでもない。
彩音が悲鳴をあげたわけでもない。
部屋を出た形跡もない。
ただ、彩音は忽然と姿を消したのだ。



 ……そんな優太が選んだのは、剣術だった。
大事な人を次から次へと失っていった彼には、打ち込める何かが必要だったのだろう。
そして、彼は今師範を倒し、その称号を得たのである。





 「今まで、ありがとうございました」

丁寧に頭を下げ、彼は道場を後にした。

「……はぁ……俺は、どこに向かえばいいんだ…」

打ち込んでいたものが終わりを告げた。
それは彼の生への執着心を容赦なく奪っていった。

「……父さん、母さん……彩音……」

失った、大切な人。

(死んだら、皆に会えるかな……。)

などということも考えてしまう。
目的を失った人間は、脆く、儚い。
それがたとえ剣術の師範であろうと、そう易々と変わるものではない。

「……ごめん、彩音、守れなかったな……」

いくら力を鍛えようとも、失ったものを再び取り戻すのは容易ではない。
優太も、それぐらいは知っていた。
だからこそ、剣術に打ち込み、忘れていたのだ。
……いや、忘れたふりをしていたのだ。
二度と戻らぬ太陽と月を。





 「ただいま〜」

家には誰もいない。
もはや習慣でただいまの声を上げると、優太は家に入る。

(なにか、打ち込めそうなもの……)

たとえ命を捨てたくても、それは容易ではないし、結局優太は臆病だ。
死ぬ為の道を探すぐらいなら、生きるための道を探す。

「……? そう言えば……」

ごそごそとテレビゲームが入った引き出しをあさる。
この中には、世間一般にも、優太にも、曰くつきのものが入っていた。

「このゲーム……本当にクリアできないのか?」

取り出したのは“SUNNY-MOON”というゲーム。
冒険物、いわゆるRPGで、1年前発売日にこれを買った彼だったが、途中、それも序盤で詰まってしまい、封印されていたものだ。
……ところが、詰まっていたのはなにも彼だけではなかった。
日本中で誰一人クリアできなかったのだ。
メーカーもバグだと思い、それを改善しようとしたが、なぜか何度やっても同じ場所で先に進めなくなるのだ。
やがてこのゲームはクリア不可能なゲームとしてとして名を残し、歴史の中に消えていった。
……このゲームは、彩音が行方不明になった日に購入したものだ。
そのせいもあって、これは彼の心に影を残すものだったのだ。

「…女々しい、って言われるかな、俺」

そう言いつつ、ゲームを起動する。
自分に未来を夢見させてくれる……その条件さえ満たしていれば、何でもよかった。
が、優太のこの選択が、彼に本当に未来を与えた。

ウィーーーーーーン……

いつもオープニングが流れるところで、いきなり見たことのない画面が現れた。

[あなたはSUNNY-MOONの世界を冒険するに相応しい力を得ました。 冒険に参加しますか?]

目の前には[はい・いいえ]の選択肢。
彼はいつの間にか、[はい]を選んでいた。

[この先で起こることについて、後悔しませんね?]

再び見覚えのない文字と[はい・いいえ]。
優太はかまわず[はい]にあわせてボタンを押す。

「皮肉だよな……このゲームのヒロインも、確か[彩音]だったっけ」

……しかし、もうひとつの皮肉を、彼は忘れていた。
そして、実はそれが皮肉でもなんでもない、現実だったということを。

カッ!!

「!?」

突然画面が白く輝く。
そして、心地よい感触…。

「ぁ……」

そして、優太の意識は刈り取られていった。





 このゲームの主人公の名は、[優太]。
…冒険が、始まる。






SoU「どうも、執筆者のSoUです。 今回はずっと昔から暖めていたアイデアを公開して見ました」

優太「いきなり暗いな、おい」

SoU「お、優太。 しょうがないだろ? この設定を明るく見せるやつの気が知れないぞ、俺は」

優太「だから、設定そのものは何とかならんのか!」(すぱーーん!

SoU「ぐは……(ぱたっ」

優太「はぁ……ま、しゃーない、やれるところまでやるしかないか。 てなわけで、[SUNNY-MOON]、よろしく〜!」 


次回予告

 目が覚めたとき、俺はぜんぜん知らない場所にいた。
剣、能力、陰謀、野望、希望……それらの混濁する世界に見える一筋の光。
どうやらこの道を進めるのは、俺達だけらしい。

優太「はああああああっ!!」

バキィッ!


そして、叶う彼の願い……。


第2話 Meeting Again


優太「ずっと……忘れなかった……」