「あの、すみません……このゲーム売りたいんですけど」

場所は変わって、ここは優太たちの住む町のゲームショップ、『PURPLE BREEZE(パープル・ブリーズ)』
そこにお客が1人。

「あ、はい。 えっと……あれ?」

手渡されたゲームは新品同様の綺麗さ。
だが問題が1つ……買取価格表に載っていなかったのだ。

「すみません、価格表に載っていないものは買い取れないことになってまして……」
「あ、そしたらそちらで処分してもらえませんか?」

実際そういうお客がいる。
いらないものをお金に変えられたらという気持ちで売りにくるのだ。
駄目でもともと、な考えなので、売れなければ売れないで処分を頼むのだ。

「はい、わかりました」

こうしてそのゲームはその女性店員の手元に渡ったのだった……。



SUNNY-MOON

第5話 Truth



 「というわけで、手元にきたんだけど……どんなゲームなの?」

翌日……先程の女性店員、日高 水羽(ひだか みはね)は、友人の椎名 由依子(しいな ゆいこ)の家にいた。
水羽は身長166cmと高く、髪は腰までと長い。
現在19歳、大学1年生。
赤みがかったその髪は、彼女の外見によりインパクトをつける。
辺りの雰囲気を変える程に凛とした顔つき……可愛い、よりも綺麗なタイプで同じ大学の男女を問わず人気がある。
スタイルもよく、彼女に会うためにお店にくるお客もいるほどだ。
対して由依子は身長153cmと小柄。
にもかかわらず(?)スタイル抜群で男子からの人気は高い。
また、優雅な雰囲気、物腰の柔らかさ、人当たりのよさ、と、同性から見ても話しやすいらしく、水羽同様人気は高い。
髪はショートカット。
顔に幼さが残るが、整っており、いつも背の高い水羽と一緒にいることもあってか、余計に可愛らしく見える。

「えっと……ごめんなさい、見たことないですわ」

まるでどこかのご令嬢のような言い回し。
だがそれが普通なのだ。

「恭ちゃんなら知ってるかな?」

恭ちゃん……椎名 恭平(しいな きょうへい)、由依子の兄である。
眼鏡をかけており、背は180cmと大柄、身体は細いがしっかりしていて、弱そうには見えない。
由依子の兄だけあってか、優雅な雰囲気、物腰の柔らかさ、人当たりのよさ……この辺りはずば抜けている。
密かに水羽の想い人とだったりするのだが……?

「でしたら、お部屋のほうにいってみましょう」

こうして2人は恭平の部屋に行く。





 コンコン

「兄様〜?」
「由依子? いいよ、入っても」
「失礼しますわ」

ガチャ

恭平の部屋は綺麗に片付いていた。
普段からそういう性格なのだろう。

「どうしたん……? あ、水羽ちゃん、来てたんだ」
「うん。 ちょっと、気になるものがあって……」

そう言って、水羽はソフトを渡した……。





 「“SUNNY-MOON”? あぁ、前代未聞の開始数分で何も出来なくなるゲームだね」

「へ……?」

恭平の言葉の意味がよくわからない。

「僕もプレイしたことはないけど、なんでも致命的なバグがあって、ゲームを始めて数分で何も出来なくなる……ゲームとして破綻してるゲーム、らしいよ」

それを聞いて水羽は肩を落とす。

「お客さんにもらったのいいけど、売り物にならないよ……」
「だよね……雑誌で紹介されたり、説明書を見る分には面白そうなんだけどね……」
「そう言えば話は変わりますけど……」

このゲームの話はここでおしまい。
2人は由依子の話に耳を傾けた。

「数日前から、この町の春原優太っていう人が行方不明なんですって」

町の中で広まり始めた噂。
それはなんてことのない話のはずだった。

「えっ? そう言えば昔、女の子が行方不明になったよね……結局見つかってないの?」
「そうみたいだね。 確か、なんとか彩……!?」

バッ!

その名前を思い出した瞬間、恭平が説明書に見入った。

「? 兄様? 一体……」
「……ねぇ」

恭平の声が震えている。
が、2人はそれに気づかない。

「……いなくなったのって、“優太”と“彩音”だよね。……このゲームの主人公とヒロイン……」
「えっ……!?」

説明書には、何でもないことのように、“優太”と“彩音”の名前があった。

「これは……一体……」
「まさか、これになぞらえた事件……?」

3人の運命が、変わろうとしていた。



 「あの力は……何……?」

椎名家の前に立つ、1人の少女。
紺のワンピースに身を包んでいる。
遠くからは平々凡々な少女にしか見えないのだが、なかなかどうして。
顔が見える位置まで近づくと、それが間違いだとわかる。
文学少女、のイメージに取られやすい眼鏡だが、彼女の場合はファッションとして機能している。
優しい温和な雰囲気は周りのものを和ませる。
一緒にいると暖かい気分になれる、そんな少女だ。

「ここ、なんだ。……僕もいっしょに来てよかったのかな?」

その隣にいる男性……正直言って10人すれ違って9人は振り返る……下手をすると10人全員が振り返るかもしれない……そんな外見をしている。
奇抜なのではない、純粋に格好いいのだ。
着ている服はスーツ……仕事帰りか何かなのだろうか。
万年主席、運動神経抜群、人当たりもよく、その外見はまさしく完成された、という言葉がふさわしいほどに格好いい。
背は171cmと平均的だが、彼はそんな武器など必要としない。
彼を言葉で表すなら、まさしく“完璧”。
そしてその完璧な彼は隣の少女の未来の旦那様だったりする。

「はい。 どうやらゲームソフトから流れてきてるみたいなんですよ、この力。 ですから、中を調べたりするには……」
「なるほどね。 それじゃ、いこうか」

雄也はコンピュータ関係に詳しいのだ。
そして、ためらいなくチャイムを押した。

ピンポーン……ガチャ

しばらくして出てきた恭平の前には、見たことのない2人組。

「あの……突然申し訳ありません、私、赤坂 紅美(あかさか くみ)といいます」
「僕は双水 雄也(ふたみ ゆうや)です。 いきなりすみません。 ちょっとお話があるのですが……そちらの持っているゲームのことで」

2人は頭を下げた。



 「えっと……それで、用件というのは?」

恭平の部屋。
そこに先程の2名も加わり、5名が座っていた。

「……単刀直入に言わせてもらいます。 そのゲーム、調べさせてもらえませんか?」
「!? やっぱり……これ、事件と何か関係が?」

別に言う必要もないのだが、思わず水羽の口から漏れてしまった言葉。

「なんとなく気づいていたみたいですね」

そう言って、雄也はゲームソフトを自前のノートパソコンに繋ぐ。

「……っと……? 私の力だけじゃ、入り込めない……? すごい力……」

どうやら紅美には特殊な力があるらしいが……ゲームソフトの中を覗き見ることは出来ないらしい。

「しょうがないですね……」

そう言うと、目を閉じ、精神を落ち着かせる。
……再び眼をあけたとき、その目つきは妖しく変わっていた。

「……いくわよ」

パァァァ……

激しい力のこもった光がゲームソフトを包む。

「……っと、ここのプログラム、か? 2バイトだけ多いなんて、普通気づかないって」

本当にほんの少しだけ違うプログラム……それを雄也は見逃さなかった。

「3人とも……」
『?』

紅美……いや、紅美だった少女、紅魅(くみ)は言った。

「これが……真実よ」






SoU「どうも、SoUです。 世界は変わるわキャラは増えるわ……大忙しw」

水羽「今回出てきたのって、私たちも含めて……」

SoU「紫崎夜羽さんのところのオリジナルキャラだ。 水羽は昔某TCGとKanonのSSを書いてた時にいただいたオリジナルキャラだな」

由依子「紅美さんが変わっちゃいましたけど、あれは……」

SoU「それは夜羽さんのオリジナル小説、“My fairytale 〜勇気をくれた幻〜”を参照して頂戴。
    あと、キャラの関係をもっと深く知りたいという方は、一緒に同じく夜羽さんの“Lovers again”を見てね。 では〜っ♪」


次回予告

 紅美と雄也が見せてくれたもの……それは実際にはとても考えられないこと。

水羽「どうして、こんなことが……?」

構築された不思議な世界……紅美の力では、介入し、中に誰かを送り込むことは出来ても、中から人を連れ戻すことは出来ないという。
2人の生きた人間が中にいるという事実……外からの助けでは戻れないという事実……その2つが、3人を葛藤させる。


第6話 Dive


水羽「私……決めたわ」