パァァァァ……

紅美の手から放たれた光は、そのまま1枚のパネルモニターを形成していく。
そして、そこに映っているのは……。

「戦ってる、男の人が2人……?」

剣を振るい、2人の男が戦っている。
が、突風が吹くたび、片方の男は傷を負い、弾き飛ばされる。

「……リストにあるわ。 今不利なのが春原優太、間違いないわね」
『えっ!?』

冷静な紅美の言葉が、3人の心に刺さる。

「どうして、こんなことが……?」

水羽のつぶやきは、届かない……。



SUNNY-MOON

第6話 Dive



 「……ふぅ……」

ブンッ

電源を落としたようにパネルは閉じられ、紅美の目は先程までのものに戻っていた。
柔らかい空気が、場を包む。

「……それで、どうしますか?」
「?」

紅美の言葉の意味がよくわからない。

「えと……このゲームの中に春原さんがいたのは事実です。 どうやらリンクが張ってあるみたいで、どのSUNNY-MOONからも中に入ることは出来そうです……私もかなりの魔力を使いますけどね」

と、一呼吸。

「恐らくは美月さんもこの中にいるでしょう。 ……初めは私が中に入って助ける予定でいたんですが……どうやらAPが張ってあるみたいで、私に出来るのはこちら側からの入り口を開けることだけです。 ……正確には門を開くのではなく、歪んだ次元の壁に押し込む形になりますから……私が外部から引き寄せたり、内部からこじ開けたりということは出来そうにありません。 ……つまり、私はこのゲームの中への片道切符しか持っていないんです」
「AP?」

そう聞いたのは雄也。
どうやら紅美の力について、何でも知っているわけではないらしい。

“アブソリュート・プロテクト”です。 文字通りの絶対防護であらゆる魔法を遮断、妨害します。 魔力を帯びない攻撃には弱いですけどね。 ですから、これを次元の壁付近に置かれると、正直お手上げなんですよ」

つまり、文字通り次元の歪みに“押し込む”のが精一杯なわけだ。
この世界に存在する魔法使いは数名。
紅美の魔力はその中でもトップクラスだ。
恐らくこの壁を破るには、人間ならざる者の力が必要だろう。
生憎その力を頼る方法はない。

「つまり……僕たちにこの世界に行けと、言うことですか?」

恭平の言葉に雄也はうなづく。

「ゲームをクラックして、多少のサポートはしますよ。 例えば、最初から能力を持っている、とか……。 ……パソコンでのサポートも、魔力でのサポートも、僕と紅美にしか出来ません。 だから……3人に頑張って欲しいというのが本音なんです」

「それに……先程も言いましたけど、このゲーム、どのゲームからも入れるんですけど、なぜかここしか探知できなかったんです。 それも昨日になって突然反応が出て……」

昨日……水羽がこのゲームを引き取った日。

「つまり……このゲームと水羽ちゃんが出会ったのにも、何か意味がある、そういう事ですか?」
「……私はそう思っています」

その言葉を聞いて、恭平は悩んでしまう。
うまくいって2人を助け出せたら、これほどいいことはない。
しかし、下手をすれば死んでしまう。
外からのサポートも多分には期待できない。
全ては自分たちの実力がものを言う世界。

(そんなところに、由依子と水羽ちゃんを連れて……なんて出来ないよな……。)

由依子もまた、同様に悩んでいた。
恐らく雄也に出来るのは、多少の変化。
この中に潜む“何か”はそれをも妨害するかもしれない。
やはり、期待できるのは自分の腕だけ。
由依子は外見、実力ともに普通の女の子だ。

(兄様にも、水羽ちゃんにも、迷惑をかけてしまいますわ……。)

が……そんな中、水羽だけは違っていた。

「私……決めたわ」
『えっ?』

4人が水羽を見る。
水羽の決意、それは……

「私、中に入る。 ……知っちゃったんだもん、どうしようもないじゃない」

意外に熱い水羽の一面を、由依子も恭平もよく知っていた。
そして、考えが行き詰まっていた2人の返事は、もう決まっていた。

「……そうですわね。 行きましょう、水羽ちゃん」
「僕も行くよ。 3人寄ればなんとやら、頑張れるはずだしね」

3人の決意に、紅美も、雄也も、嬉しそうに微笑む。

「それじゃ……そうだね、3人には能力を選んでもらいます。 セーブデータからのロード機能は無事だったんで、ここのキャラに手を加えれば、能力も使えるはずです」

そして、30分後……。





 「……準備はいい?」

再び変化、紅魅が言う。
3人は動きやすい服に身を包み、準備は万全だ。

「いつでもいいわよ」
「大丈夫ですわ」
「僕も、問題ない」
「……それでは……あなた方にも、朱い翼の天使の加護が、あらんことを……」

カッ!!


激しい光に3人は包まれ、そして戦いの舞台へ……。






SoU「説明くさい文だなぁ。(苦笑」

水羽「APなんてオリジナルの設定よね」

SoU「魔法以外の概念があるからこそ存在できるものだ。 魔法しかないのにこんなものがあったら世界が破綻する」

由依子「これで、私たちの冒険が始まるのですね」

恭平「能力か……結局誰が何を覚えたかは内緒なんだね」

SoU「そのほうが面白いでしょ? 次回はようやく優太たちの物語も進むよ。 では〜っ♪」


次回予告

 能力の存在は、俺にとって厄介なものだった。
攻撃が届かない。
相手の攻撃は見えない。
どんどん追い詰められていく自分。

優太「くそっ……せめて、一瞬でも隙があれば……」

これまでか、とあきらめかけた時、再び奇跡は起こる。
救世主は、意外にも外からやってきた。

王に会い、話をつける……その思いが道を作り出す。


第7話 Company


由依子「チェックメイト、ですわ」