「っと……これでラインハルトタウンともおさらば、って訳だ」

後ろに見えるラインハルトタウン。

6人はその門の前にいた。
見渡す限りの青空……絶好の冒険日和である。

「この辺りは怪物が出ますから、注意してください」
「か、怪物!?」

この言葉に驚いたのは水羽。
苦手なのだろうか。

「相手のペースに飲まれれないようにしてください」
「はい♪」
「解りましたわ」
「了解」
「……いくか」

冒険の第一歩……賽は投げられた。



SUNNY-MOON

第9話 Monster



 「さて……ユータさんの武器はその変わった剣であることはわかりましたが……皆さん、武器は持ってるんですか?」

戦うには武器が必要だ。
能力は使用するたびに精神力が削られる。
ゲームでは精神力はポイントで表され、使用するたびに減少する。
が、実際にそれを体験してみると……神経が磨り減る、といえばいいだろうか。
どんどん集中力がなくなっていくのだ。
なので武器は必須となる。
全員街でそろえたらしく、一応武器を装備していた。

「私は……」

そう言って拳を突き出すのは水羽。
手にはいわゆる“メリケンサック”に牙のような形で刃がついたものを装備している。

“バグ・ナク”……斬撃もできる上に攻撃力も上がる……一石二鳥の武器ですね。 ユイコさんは?」
「私はこれですわ」

ヒュパシィッ!

しなる長いゴムのようなものが鋭く地面を叩く。

「う……“鞭”、ですか……」
「さっすが由依子、似合ってるわよ〜♪」
「僕にも、似合ってるとしか言いようが無いな……」

小柄な普通の女の子な外見のはずなのに、なぜか鞭が板につく。
恭平も水羽も、すかさず由依子を誉める。

「……ぐすん」
「あ、え、えっと、キョウヘイさんは?」

拗ねてしまった由依子をなんとか流して、ルミナスは話を進める。

「僕は……これだよ」

右手の、親指以外の4本の指につけたリングを見せる。

“硬糸”ですか。 ずいぶんとトリッキーな武器を選びましたね」

硬糸……文字通り糸であり、ピアノ線を越えた強度の糸で作られている。
指輪についている見えづらい糸を用いて攻撃する。
それぞれ太さが違い、太いものは200Kg以上の重さのものを平気で持ち上げられる程の強度を持つ。
逆に一番細いものは、人間の肉程度ならあっさりと切り裂く程の攻撃力を持つ。
またこの世界の硬糸の特徴として、伸縮、硬度変更、操作を精神力を消費することによって行えるというものがある。
ちなみに絶縁体であり不燃性、耐熱は1200度までというとんでもない代物だ。

「あと……アヤネさんは?」
「えっと……どう言えば……っ!?」

会話はそこで中断された。
明らかに自分たちに向かって向けられた敵意。

「……来ますよ」

ガサッ

[ウガアアッ!!]

激しい雄叫びをあげて現れたのは、“タスカー”と呼ばれる種族のモンスター。
名前の通り大きい牙が特徴。
今目の前に現れたのは、“グリーンタスカー”と呼ばれるモンスターだ。
外見的には、牙の大きい毛色が緑の猪、といったところだろうか。

[グルルル……]

飢えているのか、涎を垂らしながら6人を取り囲む。

「こ、これがモンスター!?」

現実世界ではお目にかかれない、文字通りの“怪物”に、水羽も驚きを隠せない。

[ガアアッ!!]

その声とともに、グリーンタスカーは攻撃を開始した。

「!? こ、こう、か?」

シュルルル……ガキィィン!

「うわあっ!!」

狙われたのは恭平。
咄嗟に慣れないながらも硬糸で円を描くようにを動かし、強度をあげて盾を作り、攻撃を防ぐ。
だが、牙が当たるのを防いだだけで、その衝撃は恭平を吹き飛ばす。

「恭ちゃん!」
「兄様!」

ヒュッ! バシィッ!

[!? グオオオッ!!]

ダッ!

恭平を助けるべく鞭を振るう……しかしダメージは与えたものの、逆に攻撃対象を由依子に切り替えられてしまう。

「!? きゃああっ!!」
「! ユイコさん!!」

ギィン! ギィン! ギィン!

その間に滑り込んできたルミナスは、牙に斬撃を連打、グリーンタスカーを引かせていく。

「恭ちゃん! 大丈夫!?」

水羽の言葉は、耳に届いていなかった。

「真剣にやらないと……死ぬ……?」
『………』

3人はここに来て、ようやくこの冒険が易しいものではないこと。
攻撃を受ければ痛みと傷を負い、場合によっては死に至るということ。
今までいた現実世界とは違うと言うことを自覚したのだった。

[ガアアッ!!]

スッ……

しかし戦いというもの自体に慣れたものもいる。
優太がまさにそれだった。

「はあああっ……」
[オオオオッ!!]

飛びかかったグリーンタスカー……その牙がまさしく優太に届かんとするその時。

「……“飛炎(ひえん)”」

ザシュウッ!!

炎が空に向かって伸び上がる様……それを思い浮かべてしまうような技。
深く身体を沈め、抜刀、そのままの勢いで下から垂直に剣を振り上げる。

ブシャアッ……ドサッ

グリーンタスカーはその身を左右に分け、倒れた。

「やりますね……私も負けられません!」

ザシュウッ!!

大きく開いた口を真横に切り裂く。
残りは1体。
安心したそのとき……

[ガアアアッ!!]
「!?」

その先にいたのは彩音。
守ると約束したルミナスも、目の前の敵を攻撃していて手が回らない。

「! 彩音! いつも通りの装備か?」

刀を納めながら向かう優太に、彩音は

「いつも通りですから、大丈夫です」

と。
それを聞いて優太は助けに入るのを止める。

「なっ!?」

優太の動きを見て、咄嗟に動き出すルミナスだがとても間に合わない。
そして巨大な牙が彩音に向かっていく。

[ゴアアッ!!]
「残念でした♪」

ザシュッ!

その牙は彩音の届かなかった。
彩音は片膝をついてしゃがみ、片方の掌を地面に叩きつけていた。
……その先では、真下から突然伸び上がってきた刃に切り上げられ、宙を舞うグリーンタスカーの姿。

『!?』
「相変わらず、か」

ヒュッ

グリーンタスカーを手で払いのけるかのように一瞥し、背をむける。

ドォォォン!!

先ほどの刃に仕込んであった炸薬が起爆。
存在していた怪物の姿は、もうそこには無い。

「……流石は暗器使いの家系の名取り、だな」

その言葉に、呆然とする4人だった。






SoU「彩音、実は強いです」

優太「まったく、たいしたやつだ。(なでなで」

彩音「えへへ……(照」

SoU「暗器……何にしようかな〜」

優太「相変わらず好きだな、仕込み武器(苦笑」

彩音「暗器はもはやロマン、ですよ♪」


次回予告

 戦いが終わったが、思った以上に時間を取られ、結局夜になってしまう。

水羽「こ、こんなところで、しかも男の人と一緒に!?」

水羽も由依子も彩音も、慌てふためく。


第10話 Camp


恭平「え、あ、い、いや、これは、不可抗力で……」