「それにしても……彩音ちゃんすごいね〜」

戦いが終わってからの、話題は彩音のことだった。





 暗殺を生業とする者達の中では、もはや伝説とも言うべき能力を持つのが美月の家系だ。
といっても、200年ほど前からは技術のみが引き継がれ、美月家は暗殺から手を引いている。
暗殺には数多くの技術が必要だが、彩音はその中でも暗器の使用技術がずば抜けているのだ。
どこに何を仕込んでいるか、どうすれば使えるのか。
それらを瞬時に頭から引き出し、使う。
彩音の装備している暗器は20以上にもなる。
今までは重さのため、派手なアクションはできなかった。
が、能力を得た今、彩音は実質最強の暗器使いといえる力を持っていたのだ。





「そ、そんなこと、ないです……」

水羽の言葉に真っ赤になってしまう。

「いえいえ、水羽ちゃんの言うとおりですわ。先ほどの彩音ちゃん、凛々しくて格好よかったですわ」
「うんうん。本当、すごかったよ」

2人の言葉で更に真っ赤になる。

「でもまぁ……戦いがあったせいかはわからないけど、夜になっちゃったな」

空は既に暗い。
そして、その後のルミナスの言葉が場に……正確には特定の人達に不安を与える。

「仕方ありません、今日はここで泊まりましょう」
「えっ……?」
「えっ!?」
「こ、こんなところで、しかも男の人と一緒に!?」


女性陣の反応は、決して小さいものではなかった。



SUNNY-MOON

第10話 Camp



 結局野宿することに決まり、とりあえず寝られそうな広い場所を確保する。

「男の人が寝る場所は、出来るだけ遠くにして欲しいな〜」

その言葉に、ルミナスがすかさず返す。

「あ、問題無いですよ。 女性3人の寝る場所と、あとは男性2人の場所でいいので」
「2人?」
「ええ。 いつモンスターが来るか解らないですから。 一人は見張りです。 男性側で交代でやりますから、ゆっくり休んでください」

見張り番。
この存在が3人の女性をほっとさせる。

「見張りがいるなら……大丈夫かなぁ」

「一人は兄様ですし……」

「一人は優太さんですし……」

「っと。 ここなんてどうだ?」

優太が見つけた場所は、既に先人のキャンプ跡。
これを利用しない手は無い。

「場所は決まりね……あとは……お風呂って、入れないの?」
「場所が無いでしょう。 正直私も何とかしたいのですが……現状では厳しいかと」
「う……解ってはいますけど……実際にお風呂に入れないとなると、あまり気分よくないですね……」
「本当ですわ」

それを聞いて、恭平は辺りを見る。
……偶然か、キャンプ跡地がもう1つ。

「……これ、何とかできないかな」

その跡地を指して、言う。
地面が掘れれば、後は何とかなりそうだ。

「まかせてください♪」

ゴゴゴゴゴゴ……

『いっ!?』

5人絶句。
彩音が取り出したのは、なんとパイルバンカー。
一体どこにあったのかは、乙女の秘密ということで。

「これに……うんしょ」
『!?』
「あの……あれは、一体?」

ルミナスだけが何かわからず見ているが、4人はそれを知っていた。

「ルミナスさん……逃げたほうがいいですよ……」
「ここにいると、怪我をする、どころじゃないです」
「……死にます」

その言葉に、偽りは、無い。

「つけてる本人は無事だけどな……パイルバンカーの起爆剤にナパーム突っ込むの久しぶりだぞ」
「……久しぶりって、前にも?」

水羽の言葉に、返事。

「……あの時は、公園1つが使い物にならなくなった」

ズザザザザッ!!

総員退避。
そして……

ドォォォン!!

大きな爆発音。
巻き起こる土煙。
その中心に少女がいるなど、誰が考えるだろう。

「……こんな感じでどうですか〜?」
「敵に見つかるって……」

溜息をつきつつも、とりあえずあいた穴を見る。
深さは2m程度。
水の量によっては大丈夫なはずだ。

「じゃあ……“[土]土石槍(グレイヴ)”!!」

ガガガガガガッ!!

恭平の言葉で、土の地面が一瞬にして石に変わる。
これで、水を入れてもにごらない。

「“[水]水柱(ウォーターポール)”!!」

ドドドドドドッ……

そして水羽。
中に水が満たされていく……。

「で……“[極]極大爆発(エクスプロード)”!!」

ドォォォン!!

優太に加減された炎の弾が水を程よく温める。
湯加減はばっちりのようだ。

「っと……僕達は向こうに行こうか」
「そうですね」
「そうしないと殺される」





 そう言うわけで、ご入浴。

「あったまるね〜♪」
「そうですわね♪」
「ふぅ……♪」

お風呂に入ってご満悦の女性陣。
優太は見張り。
ルミナスと恭平は……





 「まずはこの攻撃をさばいてみてください」
「解りました。 基本は円、でしたよね?」

恭平の特訓らしい。
硬糸はかなり難しく、奥の深い武器だ。
優太の持つ刀と同様、使い手によってはそれ以上の、攻守兼用の武器である。
この武器でまず覚えなければいけないのは、防御。
なにしろこれ以外での防御方法は、恭平には存在しない。
ならばまずはそれを覚えさせようと考えたのだ。

「はあああっ!!」
「こうだっ!!」

シュルルル……

この間と同様の円を描き、そして……

ギィン!

「うわあっ!」

やはり弾き飛ばされる。
硬糸はきちんと、綺麗な円を描いていた。
その円の真中に攻撃が触れ、そして弾き飛ばされた。

「キョウヘイさん、ただの円ではなく、円錐を思い浮かべてください。 所詮は糸、力を拡散させなければ受けきれません」

恭平は立ち上がり、特訓を続ける。





 「……はぁ……」

彩音が溜息をつく。
疲れているのだろうか。

「彩音、どうしたの?」
「……はぁ……水羽さん、羨ましいです……」
「ぅ……私もそれは思いますわ……」

彩音の眼の先を見て、納得。
視線は水羽の胸へ注がれていた。

「えっ?」

当の本人は気づいていないが、正直水羽のスタイルは特筆物だ。
彩音、由依子も決してスタイルは悪いほうではないのだが……。

「85cmですものね……かないませんわ」
「!? う、羨ましいって胸の話!?」

ようやく気づいた水羽。
顔を真っ赤にして反論する。

「85……はぁ……。 ……あ、そういえば……水羽さん?」
「ん?」

街を出るときに買ったヨーグルトドリンク(のようなもの)を飲みながら、返事。

「恭平さんって、水羽さんの彼氏さんなんですか?」
「ぶっ!?」

思いきり、吹き出す。
隣で由依子は声を殺して笑っている。

「ち、違うわよっ!」
「でも、想い人でしょう?」
「由依子っ!」

どうやら水羽はツッコミ役らしい。

「……でも、大変そうですね。 多分、優太さんと同じ……周りの人のそういう気持ちには、すごく鈍くありません?」
「う……確かに」
「……自分の気持ちを隠してごまかしてる人が、何を言いますか」
「ぅ……い、言えるわけないでしょ!?」
「………練習……」
「そうですわね。 ここで練習してみてはどうでしょう?」
「い、いいわよ、別に……」

どうやら拗ねてしまったらしい……大人なのやら、子供なのやら。

「はぁ……恭平さんみたいな人ですし……この世界の女の人も、きっと好きになる人がいると思いますよ?」
「へ?」
「そうですわね……最悪、全てが終わった後もこっちに残る、なんてことになったりして……」
「!?」

180cmという長身、細身で、優しい顔つき、性格……嫌われる部分などない。
それは水羽もわかっていることだった。
2人の、水羽を追いこむための作戦なのだが、水羽はもう、それに気づけないほどに動揺していた。

「………わかったわよ………わ、私……」
『……』

目を爛々とさせ、続きを待つ2人。
やはり女の子か、こういう話は大好きである。

「その……恭ちゃんの、ことが……」
「わくわく……♪」
「どきどきですわ……♪」

そして、運命の言葉……

「す……」

ドォォォン!

……突如大きな音を立てて降ってきた物体。
水羽の告白練習はそれによって遮られた。

「!? な、なに!?」
「何ですの!?」
「きゃあっ!?」

3人が慌てて立ち上がり、砂煙の中を覗き込むと……

「うぅ……」

そこに居たのは……恭平だった。

「きょ、恭ちゃん!?」
「兄様!?」
「え……恭平さん!?」

その声に気づいたのか、恭平は目を開け……

「ぅ……大丈……夫………!?」

目の前には、裸の女性が3人。
……あまりの美しさに、恭平絶句。
そのまま見入ってしまう。
……そして、その隙が決定的となった。

「恭ちゃ……ん……!?」
「!?」
「ぁ……」
「え、あ、い、いや、これは、不可抗力で……」

何とか言い訳をして逃げようとする恭平だが、もう遅い。
乙女の裸を見た罪は、なによりも、重かった。

『きゃああああああああああっ!!』

バキィッ!!

…………この日、恭平の夕食はなかった。






SoU「まぁ、お約束」

優太「水羽さんに由依子さん……流石に羨ましいかな……」

彩音「む〜〜〜〜……っ!(ぎゅうううっ」(足をつねる

優太「痛い痛い!!」

SoU「さらば恭平、君のことは忘れない……」

彩音「いやらしい人、嫌いですっ!」


次回予告

 色々あってそれから2日。
ついに次なる街、ブレイバルにたどり着く。

ルミナス「ここが、勇者と呼ばれるものを育てる街、ブレイバルです」

勇者、の言葉に改めてやることの大きさを感じる。


第11話 City


優太「この……力は……?」